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魚は釣れても角は釣れない
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しおりを挟む「僕の気持ちなんてわかる?なら教えてよ。どうして僕には角がないんだ?皆、生まれて数日後には、遅くても1年以内には生えてくるのに。僕は……18になっても何もない。これじゃあ鬼じゃなくて、人間だよ」
長い紺色の前髪を掻き上げれば、滴がポタポタとこぼれ落ちる。水も滴るイイ男かと、ツッコミを入れるほどの余裕なんてない。
露わになった額には、本来あるはずのものがない。和紗や敦彦の父親、他の皆には当たり前にあるもの。
角だ。本数や大きさは違えど、この世界に生きる鬼には必ず角が生えている。そう、彼らは鬼だ。そして、この世界に人間はいない。
絶滅した。人間は、この世界にあってはならない種族だから。鬼は、人間を忌み嫌っている。
だからこそ、角がなく人間のような敦彦は周りから“異端児”と呼ばれ迫害を受けている。爪はしっかり長く鋭くなるのに、角だけが生えてこないのだ。
和紗は額に手を持って行く。女性の角は控えめで短い、髪が多いと隠れてしまうほど。和紗もまた、額に2本生えている白い角は短く普段は前髪で隠れている。
「も、もうすぐ生えてくるわよ。お父様みたいな太くて長い立派な角が」
「そう願って、願い続けて10年以上過ぎた。もう、僕には耐えられない。どうして僕なんだ?普通の、ただの鬼の子供だったらよかったのに。三童子の1人である父上の息子だなんて。生まれ直したいよ」
ずっと我慢し続けた。敦彦はただの異端児ではない。駿河恒彦、鬼達をまとめる3人の内の1人である誇り高き鬼の一人息子。
和紗が言う「お父様」はもちろん敦彦が言う「父上」のことではあるが、2人は兄妹ではない。苗字が違う和紗は、養子だ。本当の両親はいない。
だから、ギュッと固く握りしめた拳を振り上げた。すみれ色の瞳いっぱいに涙を溜めて、敦彦に殴りかかる。
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