能ある鬼は角を隠す

那月

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逃した魚は大きいし美味い

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「和紗は明日、新しい鬼神になる。今のうちにゴマを擦っておくのならまだしも、武器を向けるなんてあなた方らしくありませんよ。鬼神候補にもなれないから、八つ当たりですか?」


「「なんだとっ!」」


「三童子の跡取りは、いくら才があっても三童子の上にある鬼神になることはない。僕も、そう。……和紗が怪我をして別の者が鬼神を継いだら、お2人はその鬼に従いたいと思いますか?」


 和紗は忘れていた。あまりにも情けない姿をさらしていたから、彼の姿を見るのをやめ存在をも忘れていた。


 釣竿を手に、静かに和紗の前に立つ。ゆっくりと顔を上げれば、長い前髪の奥に隠れた濃い黄色の瞳の奥に揺らめく炎が見える。


 怒っている。敦彦が。4つの銃口の前に立ち、わずかにも震えることなく背筋を伸ばし双子の男鬼と向き合っている。


「その言い方だと、まるで和紗が新しい鬼神になるのが決まっているようだなぁ?賢さの試験は通っても、女鬼の和紗が武の試験を勝ち抜けるとはだぁれも思ってないさ。初戦敗退だ、なぁっ!」


「待て右京ッ!!」


 いつも角がないことを嘆き自分に自信がなく後ろ向きでやる気のない敦彦らしくない、言葉の1つ1つに重みを感じる。


 ただならぬ気配に笑顔をひきつらせた右京――右の前髪が長い――が、何かを感じた左京――左の前髪が長い――が止めるのも間に合わず引き金を引いた。


 ババンッ!2つの銃口から放たれた弾丸に、けれど敦彦は動じない。ヒュンッ!と釣竿が振られると同時に弾丸が命中。


 ガクンッと崩れ落ちるように膝をついたのは、右京だった。


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