1 / 4
〈1〉
しおりを挟む
サルディア王国の南部に広がるその森は、古くから『魔の森』と呼ばれていた。
国境に近いなだらかな丘陵地帯を越えた先、地図には一応の輪郭だけが描かれているが、内部の詳細を正確に知る者はいない。踏み入った者の多くが、戻らないからだ。
森には、魔力を帯びた動植物が数多く生息している。
夜になると淡く発光する花、血の匂いに反応して葉を閉じる蔓草、意思を持つかのように群れで移動する魔法動物。どれも王都では高値で取引される稀少な存在だった。
そのため、密猟者が森に足を踏み入れることもある。だが、彼らの多くは途中で姿を消す。魔物に襲われたのか、道に迷ったのか、それとも森そのものに呑まれたのか――理由を知る者はいない。
そもそも、魔の森は人に優しくない。
魔力の濃度が高く、長く滞在すれば身体に不調をきたす。方向感覚は狂い、瘴気に当たれば命を落とすこともある。王国でも正式に危険区域とされ、冒険者であっても十分な準備なしに近づくことは禁じられていた。
それでも、森の奥深くには――
人の知らない静かな場所が、確かに存在している。
「うぅ……熱い……なんか、体が変だ……」
リュミエルはひとり、窓際に寄せられたベッドの上で毛布にくるまって蹲っていた。
開け放たれた小さな窓からは、夜の森の気配がゆるやかに流れ込んでくる。月明かりを受けた木々の影が揺れ、遠くで魔法動物の鳴き声がひとつ、低く響いた。
ここは魔の森の、さらに奥。
人の足音が途絶えて久しい、森がもっとも深く静まる場所だ。瘴気はこのあたりでは不思議と穏やかで、代わりに澄んだ魔力が空気のように満ちている。
人の身には少し馴染みにくいらしいが、精霊としてこの森に生きるリュミエルにとっては、昔から変わらない空気だった。
この小さな家も、リュミエルがひとりで暮らすには十分すぎるほどだ。
森の魔力に育てられた木を削り、必要な分だけを形にした簡素な造り。薬草を干す棚や、浄化に使う水晶が並ぶ部屋は、長いあいだ手入れされてきた痕跡を残している。
リュミエルは、そうしてこの場所で静かに暮らしてきた。
森に生きるものを癒し、傷ついた魔法動物を助け、瘴気が強まればそれを鎮める。それが彼にとっては特別なことではなく、ごく自然な営みだった。
けれど今夜は、その“いつも”が崩れている。
毛布の中で身じろぎすると、胸の奥に溜まった熱がはっきりと意識された。
指先で頬に触れると、驚くほど熱い。汗で額に張りついた髪が、指に絡む。
息を整えようとして、ふと視界の端に窓硝子が映った。
月明かりを反射したそこに、ぼんやりと自分の姿が浮かぶ。
亜麻色の髪が頬に落ち、熱を帯びたせいか、いつもより幼く見える顔。
伏せた拍子に揺れたグリーンの瞳が、落ち着きなく瞬いた。
「……どうしよう……僕……病気なのかな……」
小さく呟き、リュミエルは毛布を握りしめる。
胸の奥から、不安がじわじわと押し寄せてきた。
リュミエルは長いあいだ、この場所で、たったひとりの魔の森の精霊として暮らしてきた。森の植物や魔法動物たちは、確かに身近な存在だ。だが、同じ姿で、同じ言葉で、思いを通わせられる相手はいなかった。
だから、こういうときは、どうしようもなく怖くなる。
この熱に理由があっても、なくても――誰にも気づかれないまま、世界から自分という存在が消えてしまうのではないか。そんな考えが、頭を離れなかった。
けれど、今は違う。
数日前、リュミエルは“拾い物”をしたのだ。
ギシッ、と部屋の外の廊下で床が軋む音がする。
続いて、ギィ……と、扉が開く気配。
リュミエルは毛布の中から、ひょこりと頭を出した。
「リュミエル、どうかしたか? 唸り声が聞こえた気がしたが」
低く、落ち着いた声。
「……カイネ……」
リュミエルは弱々しく、その名を呼ぶ。
戸口に立っていたのは、赤い髪と赤い瞳を持つ男だった。
少し吊り上がった目元は鋭いが、今はどこか心配そうに細められている。まくり上げたシャツの袖からは、鍛えられた腕の筋肉が覗いていた。
カイネは、数日前、瘴気にあてられて魔の森で倒れていた冒険者のひとりだ。
あのときは意識も朦朧としていて、立つことさえできなかった。リュミエルは必死に浄化の力を使い、何度も何度も魔力を流し込んだ。
今ではすっかり体力を取り戻し、もうじき旅に戻れるだろう――そう思っていた。
だからこそ、今夜もまだカイネがこの家にいてくれることが、胸に沁みるほどありがたかった。
「カイネ……僕、死んでしまうかも……体が、熱くて……変なんだ……」
縋るように言うと、カイネは一歩近づいてきた。
「熱い? どんなふうに?」
「胸の奥の動悸が、おさまらなくて……お腹の奥が、むずむずしてる。体も熱いし、頭も、ぼーっとして……」
言葉にしながら、リュミエルは小さく息を吐いた。
毛布や衣服が肌に触れるたび、過剰な感覚が走る。そのことまでは伝えられず、縋るように、ベッドのそばに立つカイネの手を掴む。
ギシッ、とベッドが軋む音がして、カイネがシーツの上に腰を下ろした。
見下ろされる形になり、視線が近づく。
「そうかそうか。いい具合に、効いてきてんな」
「効いて……きてる?」
「リュミエル。俺があげたキャンディ、いくつ食べたんだ」
「キャンディ……?」
記憶を辿る。
王都の食べ物だと言って、カイネにもらったものだ。テーブルの上には、小さな瓶に入った、色とりどりのキャンディが置かれている。
「せっかくカイネがくれたから……大事に、ひとつだけ食べたよ。甘くて、とっても美味しかった」
「ははっ。ひとつで、これか」
「……んん?」
言葉の意味が、よくわからない。
ただ、熱くて、苦しくて、心細くて――リュミエルはカイネの手を引き寄せ、頬を擦り寄せた。
「苦しいよ、カイネ……」
「かわいそうに。辛そうだな」
そう言って、カイネは指先でリュミエルの前髪をそっと分ける。
「アルヴィスなら……僕が、なんの病気にかかったかわかるかなぁ」
「……さあな」
「アルヴィスは、どこ……?」
「あいつは、今、周辺の見回りに行ってるよ」
アルヴィスとはカイネとともに、リュミエルが助けたもうひとりの冒険者だ。
ふたりはパーティを組み、王命を受けて旅をしている途中だったらしい。
「よし、リュミエル。俺が、なんの病気か確認してやる」
「できるの……?」
「ああ、できるさ」
そう言って、カイネはもそりと毛布をめくり、リュミエルの隣に横になる。
距離が縮まった途端、胸を締めつけていた不安が、すっと薄れていくのが分かった。
布越しに触れ合う体温が、かすかに皮膚を刺激する。
その感覚に一瞬びくりとするものの、それ以上に心細さを埋めたくて、リュミエルは思わずカイネにしがみついた。
「……カイネ……」
「大丈夫だ。ほら、落ち着け――まずは、熱がどれくらいかだな」
するり、とカイネの手が背中へ回る。
寝巻きのシャツの裾が持ち上げられ、指先が背中のくぼみをなぞった。
「んっ……!」
思わず、体が跳ねる。
皮膚が過敏になっているのか、触れられた場所がくすぐったくて、ぞわりとした感覚が走った。
「ああ……熱いな」
そう言いながら、カイネの手のひらが、確かめるように背中を撫でていく。
「カ、カイネ……くすぐった……っ」
「んー? でもほら、触って確かめねぇと、わかんないだろ?」
「う、うん……」
カイネの言う通りだ。
調べてくれているのだから、くすぐったいくらい我慢しないといけない。
そう思うのに、変な感覚が込み上げてきて、つい小さな声が喉の奥に引っかかる。
お腹の奥の熱も、さっきよりはっきりしてきた。
「リュミエル、ほら顔こっち向けろ」
カイネの胸元に伏せていた顔を上げる。
距離が一気に縮まり、何が起きたのか理解する前に、視界が揺れた。ふっとカイネの唇がリュミエルの唇に重ねられたのだ。
「カイネ?!」
口を開くと、ぬるりと舌が口内に入り込んでくる。
「んっ――カイネ、な、なんでっ――」
「こら、ちゃんと舌出せって、どれくらい熱いから調べるって言っただろ」
「口の中も?」
「当たり前だ。そうしないと正しい診察はできない。王都では常識だぞ」
そうなんだ。
言われるまま、リュミエルはチロリと舌を出した。
カイネはその先端にに自分の舌を絡めて、続けて口内に入り込んでくる。
――ちゅ、ぢゅるっ、と水音が鳴った。
「んっ――んんっ――」
カイネの診察に慣れなくて、口の端から唾液がこぼれてしまう。
「んっ、んにゅっ、カイネ、んっ――」
何だろうこれ。体の表面だけじゃなくて、口の中まで酷く敏感になっている。カイネの舌が動くたびに、ゾワゾワとした感覚が背中に走る。
腰に回されたカイネの手に、ぐっと力が入る。
引き寄せられて、体が密着した。
多分、カイネは意識していないのだろうけれど、その手のひらががっしりと尻を掴んでいて、ひどく気恥ずかしい。
「ああ、リュミエル。ここは、どうしたんだ?」
そう言いながら、カイネがリュミエルはの股に太腿を割り込ませてくる。
ここという位置で、その動きがリュミエルの中心を掠めた。
「あっ……」
思わず、声が上擦る。
「腫れてるんじゃないか? ん?」
「あ、ち、違うよ……そこは……っ」
再び擦られて、体が勝手に反応してしまう。
熱のせいで、そこが硬くなっていることには気づいていた。さらに、くすぐったいところを触られ、口の中まで“診察”されたせいで、どうしても我慢がきかなかったのだ。
恥ずかしくて、言い訳を探す。
けれど、うまく言葉が浮かばない。
腰を引こうとした瞬間、尻を掴んだカイネの手のひらが、逃がすまいとでもいうように、しっかりと体を押さえ込んだ。
「違うかどうかは、お前が判断することじゃないだろ。腫れてたら大変だから……ほら、見せてみろって」
「あっ、やっ、カイネ――っ!」
カイネの手が、リュミエルの下半身の衣服へ伸びてくる。
国境に近いなだらかな丘陵地帯を越えた先、地図には一応の輪郭だけが描かれているが、内部の詳細を正確に知る者はいない。踏み入った者の多くが、戻らないからだ。
森には、魔力を帯びた動植物が数多く生息している。
夜になると淡く発光する花、血の匂いに反応して葉を閉じる蔓草、意思を持つかのように群れで移動する魔法動物。どれも王都では高値で取引される稀少な存在だった。
そのため、密猟者が森に足を踏み入れることもある。だが、彼らの多くは途中で姿を消す。魔物に襲われたのか、道に迷ったのか、それとも森そのものに呑まれたのか――理由を知る者はいない。
そもそも、魔の森は人に優しくない。
魔力の濃度が高く、長く滞在すれば身体に不調をきたす。方向感覚は狂い、瘴気に当たれば命を落とすこともある。王国でも正式に危険区域とされ、冒険者であっても十分な準備なしに近づくことは禁じられていた。
それでも、森の奥深くには――
人の知らない静かな場所が、確かに存在している。
「うぅ……熱い……なんか、体が変だ……」
リュミエルはひとり、窓際に寄せられたベッドの上で毛布にくるまって蹲っていた。
開け放たれた小さな窓からは、夜の森の気配がゆるやかに流れ込んでくる。月明かりを受けた木々の影が揺れ、遠くで魔法動物の鳴き声がひとつ、低く響いた。
ここは魔の森の、さらに奥。
人の足音が途絶えて久しい、森がもっとも深く静まる場所だ。瘴気はこのあたりでは不思議と穏やかで、代わりに澄んだ魔力が空気のように満ちている。
人の身には少し馴染みにくいらしいが、精霊としてこの森に生きるリュミエルにとっては、昔から変わらない空気だった。
この小さな家も、リュミエルがひとりで暮らすには十分すぎるほどだ。
森の魔力に育てられた木を削り、必要な分だけを形にした簡素な造り。薬草を干す棚や、浄化に使う水晶が並ぶ部屋は、長いあいだ手入れされてきた痕跡を残している。
リュミエルは、そうしてこの場所で静かに暮らしてきた。
森に生きるものを癒し、傷ついた魔法動物を助け、瘴気が強まればそれを鎮める。それが彼にとっては特別なことではなく、ごく自然な営みだった。
けれど今夜は、その“いつも”が崩れている。
毛布の中で身じろぎすると、胸の奥に溜まった熱がはっきりと意識された。
指先で頬に触れると、驚くほど熱い。汗で額に張りついた髪が、指に絡む。
息を整えようとして、ふと視界の端に窓硝子が映った。
月明かりを反射したそこに、ぼんやりと自分の姿が浮かぶ。
亜麻色の髪が頬に落ち、熱を帯びたせいか、いつもより幼く見える顔。
伏せた拍子に揺れたグリーンの瞳が、落ち着きなく瞬いた。
「……どうしよう……僕……病気なのかな……」
小さく呟き、リュミエルは毛布を握りしめる。
胸の奥から、不安がじわじわと押し寄せてきた。
リュミエルは長いあいだ、この場所で、たったひとりの魔の森の精霊として暮らしてきた。森の植物や魔法動物たちは、確かに身近な存在だ。だが、同じ姿で、同じ言葉で、思いを通わせられる相手はいなかった。
だから、こういうときは、どうしようもなく怖くなる。
この熱に理由があっても、なくても――誰にも気づかれないまま、世界から自分という存在が消えてしまうのではないか。そんな考えが、頭を離れなかった。
けれど、今は違う。
数日前、リュミエルは“拾い物”をしたのだ。
ギシッ、と部屋の外の廊下で床が軋む音がする。
続いて、ギィ……と、扉が開く気配。
リュミエルは毛布の中から、ひょこりと頭を出した。
「リュミエル、どうかしたか? 唸り声が聞こえた気がしたが」
低く、落ち着いた声。
「……カイネ……」
リュミエルは弱々しく、その名を呼ぶ。
戸口に立っていたのは、赤い髪と赤い瞳を持つ男だった。
少し吊り上がった目元は鋭いが、今はどこか心配そうに細められている。まくり上げたシャツの袖からは、鍛えられた腕の筋肉が覗いていた。
カイネは、数日前、瘴気にあてられて魔の森で倒れていた冒険者のひとりだ。
あのときは意識も朦朧としていて、立つことさえできなかった。リュミエルは必死に浄化の力を使い、何度も何度も魔力を流し込んだ。
今ではすっかり体力を取り戻し、もうじき旅に戻れるだろう――そう思っていた。
だからこそ、今夜もまだカイネがこの家にいてくれることが、胸に沁みるほどありがたかった。
「カイネ……僕、死んでしまうかも……体が、熱くて……変なんだ……」
縋るように言うと、カイネは一歩近づいてきた。
「熱い? どんなふうに?」
「胸の奥の動悸が、おさまらなくて……お腹の奥が、むずむずしてる。体も熱いし、頭も、ぼーっとして……」
言葉にしながら、リュミエルは小さく息を吐いた。
毛布や衣服が肌に触れるたび、過剰な感覚が走る。そのことまでは伝えられず、縋るように、ベッドのそばに立つカイネの手を掴む。
ギシッ、とベッドが軋む音がして、カイネがシーツの上に腰を下ろした。
見下ろされる形になり、視線が近づく。
「そうかそうか。いい具合に、効いてきてんな」
「効いて……きてる?」
「リュミエル。俺があげたキャンディ、いくつ食べたんだ」
「キャンディ……?」
記憶を辿る。
王都の食べ物だと言って、カイネにもらったものだ。テーブルの上には、小さな瓶に入った、色とりどりのキャンディが置かれている。
「せっかくカイネがくれたから……大事に、ひとつだけ食べたよ。甘くて、とっても美味しかった」
「ははっ。ひとつで、これか」
「……んん?」
言葉の意味が、よくわからない。
ただ、熱くて、苦しくて、心細くて――リュミエルはカイネの手を引き寄せ、頬を擦り寄せた。
「苦しいよ、カイネ……」
「かわいそうに。辛そうだな」
そう言って、カイネは指先でリュミエルの前髪をそっと分ける。
「アルヴィスなら……僕が、なんの病気にかかったかわかるかなぁ」
「……さあな」
「アルヴィスは、どこ……?」
「あいつは、今、周辺の見回りに行ってるよ」
アルヴィスとはカイネとともに、リュミエルが助けたもうひとりの冒険者だ。
ふたりはパーティを組み、王命を受けて旅をしている途中だったらしい。
「よし、リュミエル。俺が、なんの病気か確認してやる」
「できるの……?」
「ああ、できるさ」
そう言って、カイネはもそりと毛布をめくり、リュミエルの隣に横になる。
距離が縮まった途端、胸を締めつけていた不安が、すっと薄れていくのが分かった。
布越しに触れ合う体温が、かすかに皮膚を刺激する。
その感覚に一瞬びくりとするものの、それ以上に心細さを埋めたくて、リュミエルは思わずカイネにしがみついた。
「……カイネ……」
「大丈夫だ。ほら、落ち着け――まずは、熱がどれくらいかだな」
するり、とカイネの手が背中へ回る。
寝巻きのシャツの裾が持ち上げられ、指先が背中のくぼみをなぞった。
「んっ……!」
思わず、体が跳ねる。
皮膚が過敏になっているのか、触れられた場所がくすぐったくて、ぞわりとした感覚が走った。
「ああ……熱いな」
そう言いながら、カイネの手のひらが、確かめるように背中を撫でていく。
「カ、カイネ……くすぐった……っ」
「んー? でもほら、触って確かめねぇと、わかんないだろ?」
「う、うん……」
カイネの言う通りだ。
調べてくれているのだから、くすぐったいくらい我慢しないといけない。
そう思うのに、変な感覚が込み上げてきて、つい小さな声が喉の奥に引っかかる。
お腹の奥の熱も、さっきよりはっきりしてきた。
「リュミエル、ほら顔こっち向けろ」
カイネの胸元に伏せていた顔を上げる。
距離が一気に縮まり、何が起きたのか理解する前に、視界が揺れた。ふっとカイネの唇がリュミエルの唇に重ねられたのだ。
「カイネ?!」
口を開くと、ぬるりと舌が口内に入り込んでくる。
「んっ――カイネ、な、なんでっ――」
「こら、ちゃんと舌出せって、どれくらい熱いから調べるって言っただろ」
「口の中も?」
「当たり前だ。そうしないと正しい診察はできない。王都では常識だぞ」
そうなんだ。
言われるまま、リュミエルはチロリと舌を出した。
カイネはその先端にに自分の舌を絡めて、続けて口内に入り込んでくる。
――ちゅ、ぢゅるっ、と水音が鳴った。
「んっ――んんっ――」
カイネの診察に慣れなくて、口の端から唾液がこぼれてしまう。
「んっ、んにゅっ、カイネ、んっ――」
何だろうこれ。体の表面だけじゃなくて、口の中まで酷く敏感になっている。カイネの舌が動くたびに、ゾワゾワとした感覚が背中に走る。
腰に回されたカイネの手に、ぐっと力が入る。
引き寄せられて、体が密着した。
多分、カイネは意識していないのだろうけれど、その手のひらががっしりと尻を掴んでいて、ひどく気恥ずかしい。
「ああ、リュミエル。ここは、どうしたんだ?」
そう言いながら、カイネがリュミエルはの股に太腿を割り込ませてくる。
ここという位置で、その動きがリュミエルの中心を掠めた。
「あっ……」
思わず、声が上擦る。
「腫れてるんじゃないか? ん?」
「あ、ち、違うよ……そこは……っ」
再び擦られて、体が勝手に反応してしまう。
熱のせいで、そこが硬くなっていることには気づいていた。さらに、くすぐったいところを触られ、口の中まで“診察”されたせいで、どうしても我慢がきかなかったのだ。
恥ずかしくて、言い訳を探す。
けれど、うまく言葉が浮かばない。
腰を引こうとした瞬間、尻を掴んだカイネの手のひらが、逃がすまいとでもいうように、しっかりと体を押さえ込んだ。
「違うかどうかは、お前が判断することじゃないだろ。腫れてたら大変だから……ほら、見せてみろって」
「あっ、やっ、カイネ――っ!」
カイネの手が、リュミエルの下半身の衣服へ伸びてくる。
28
あなたにおすすめの小説
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕
めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、
その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。
「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。
最初から、選ばされてなどいなかったことを。
αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、
彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。
「愛してるよ」
「君は、僕たちのもの」
※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる