無垢な精霊が媚薬キャンディで発情して、冒険者パーティに診察と称して弄ばれる話

ナナナ

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サルディア王国の南部に広がるその森は、古くから『魔の森』と呼ばれていた。
国境に近いなだらかな丘陵地帯を越えた先、地図には一応の輪郭だけが描かれているが、内部の詳細を正確に知る者はいない。踏み入った者の多くが、戻らないからだ。

森には、魔力を帯びた動植物が数多く生息している。
夜になると淡く発光する花、血の匂いに反応して葉を閉じる蔓草、意思を持つかのように群れで移動する魔法動物。どれも王都では高値で取引される稀少な存在だった。
そのため、密猟者が森に足を踏み入れることもある。だが、彼らの多くは途中で姿を消す。魔物に襲われたのか、道に迷ったのか、それとも森そのものに呑まれたのか――理由を知る者はいない。

そもそも、魔の森は人に優しくない。
魔力の濃度が高く、長く滞在すれば身体に不調をきたす。方向感覚は狂い、瘴気に当たれば命を落とすこともある。王国でも正式に危険区域とされ、冒険者であっても十分な準備なしに近づくことは禁じられていた。

それでも、森の奥深くには――
人の知らない静かな場所が、確かに存在している。



 

「うぅ……熱い……なんか、体が変だ……」

リュミエルはひとり、窓際に寄せられたベッドの上で毛布にくるまって蹲っていた。
開け放たれた小さな窓からは、夜の森の気配がゆるやかに流れ込んでくる。月明かりを受けた木々の影が揺れ、遠くで魔法動物の鳴き声がひとつ、低く響いた。

ここは魔の森の、さらに奥。
人の足音が途絶えて久しい、森がもっとも深く静まる場所だ。瘴気はこのあたりでは不思議と穏やかで、代わりに澄んだ魔力が空気のように満ちている。
人の身には少し馴染みにくいらしいが、精霊としてこの森に生きるリュミエルにとっては、昔から変わらない空気だった。

この小さな家も、リュミエルがひとりで暮らすには十分すぎるほどだ。
森の魔力に育てられた木を削り、必要な分だけを形にした簡素な造り。薬草を干す棚や、浄化に使う水晶が並ぶ部屋は、長いあいだ手入れされてきた痕跡を残している。

リュミエルは、そうしてこの場所で静かに暮らしてきた。
森に生きるものを癒し、傷ついた魔法動物を助け、瘴気が強まればそれを鎮める。それが彼にとっては特別なことではなく、ごく自然な営みだった。

けれど今夜は、その“いつも”が崩れている。

毛布の中で身じろぎすると、胸の奥に溜まった熱がはっきりと意識された。
指先で頬に触れると、驚くほど熱い。汗で額に張りついた髪が、指に絡む。

息を整えようとして、ふと視界の端に窓硝子が映った。
月明かりを反射したそこに、ぼんやりと自分の姿が浮かぶ。

亜麻色の髪が頬に落ち、熱を帯びたせいか、いつもより幼く見える顔。
伏せた拍子に揺れたグリーンの瞳が、落ち着きなく瞬いた。

「……どうしよう……僕……病気なのかな……」

小さく呟き、リュミエルは毛布を握りしめる。

胸の奥から、不安がじわじわと押し寄せてきた。
リュミエルは長いあいだ、この場所で、たったひとりの魔の森の精霊として暮らしてきた。森の植物や魔法動物たちは、確かに身近な存在だ。だが、同じ姿で、同じ言葉で、思いを通わせられる相手はいなかった。

だから、こういうときは、どうしようもなく怖くなる。
この熱に理由があっても、なくても――誰にも気づかれないまま、世界から自分という存在が消えてしまうのではないか。そんな考えが、頭を離れなかった。

けれど、今は違う。

数日前、リュミエルは“拾い物”をしたのだ。

ギシッ、と部屋の外の廊下で床が軋む音がする。
続いて、ギィ……と、扉が開く気配。

リュミエルは毛布の中から、ひょこりと頭を出した。

「リュミエル、どうかしたか? 唸り声が聞こえた気がしたが」

低く、落ち着いた声。

「……カイネ……」

リュミエルは弱々しく、その名を呼ぶ。

戸口に立っていたのは、赤い髪と赤い瞳を持つ男だった。
少し吊り上がった目元は鋭いが、今はどこか心配そうに細められている。まくり上げたシャツの袖からは、鍛えられた腕の筋肉が覗いていた。

カイネは、数日前、瘴気にあてられて魔の森で倒れていた冒険者のひとりだ。
あのときは意識も朦朧としていて、立つことさえできなかった。リュミエルは必死に浄化の力を使い、何度も何度も魔力を流し込んだ。

今ではすっかり体力を取り戻し、もうじき旅に戻れるだろう――そう思っていた。
だからこそ、今夜もまだカイネがこの家にいてくれることが、胸に沁みるほどありがたかった。

「カイネ……僕、死んでしまうかも……体が、熱くて……変なんだ……」

縋るように言うと、カイネは一歩近づいてきた。

「熱い? どんなふうに?」

「胸の奥の動悸が、おさまらなくて……お腹の奥が、むずむずしてる。体も熱いし、頭も、ぼーっとして……」

言葉にしながら、リュミエルは小さく息を吐いた。
毛布や衣服が肌に触れるたび、過剰な感覚が走る。そのことまでは伝えられず、縋るように、ベッドのそばに立つカイネの手を掴む。

ギシッ、とベッドが軋む音がして、カイネがシーツの上に腰を下ろした。
見下ろされる形になり、視線が近づく。

「そうかそうか。いい具合に、効いてきてんな」

「効いて……きてる?」

「リュミエル。俺があげたキャンディ、いくつ食べたんだ」

「キャンディ……?」

記憶を辿る。
王都の食べ物だと言って、カイネにもらったものだ。テーブルの上には、小さな瓶に入った、色とりどりのキャンディが置かれている。

「せっかくカイネがくれたから……大事に、ひとつだけ食べたよ。甘くて、とっても美味しかった」

「ははっ。ひとつで、これか」

「……んん?」

言葉の意味が、よくわからない。
ただ、熱くて、苦しくて、心細くて――リュミエルはカイネの手を引き寄せ、頬を擦り寄せた。

「苦しいよ、カイネ……」

「かわいそうに。辛そうだな」

そう言って、カイネは指先でリュミエルの前髪をそっと分ける。

「アルヴィスなら……僕が、なんの病気にかかったかわかるかなぁ」

「……さあな」

「アルヴィスは、どこ……?」

「あいつは、今、周辺の見回りに行ってるよ」

アルヴィスとはカイネとともに、リュミエルが助けたもうひとりの冒険者だ。
ふたりはパーティを組み、王命を受けて旅をしている途中だったらしい。


「よし、リュミエル。俺が、なんの病気か確認してやる」

「できるの……?」

「ああ、できるさ」

そう言って、カイネはもそりと毛布をめくり、リュミエルの隣に横になる。
距離が縮まった途端、胸を締めつけていた不安が、すっと薄れていくのが分かった。

布越しに触れ合う体温が、かすかに皮膚を刺激する。
その感覚に一瞬びくりとするものの、それ以上に心細さを埋めたくて、リュミエルは思わずカイネにしがみついた。

「……カイネ……」

「大丈夫だ。ほら、落ち着け――まずは、熱がどれくらいかだな」

するり、とカイネの手が背中へ回る。
寝巻きのシャツの裾が持ち上げられ、指先が背中のくぼみをなぞった。

「んっ……!」

思わず、体が跳ねる。
皮膚が過敏になっているのか、触れられた場所がくすぐったくて、ぞわりとした感覚が走った。

「ああ……熱いな」

そう言いながら、カイネの手のひらが、確かめるように背中を撫でていく。

「カ、カイネ……くすぐった……っ」

「んー? でもほら、触って確かめねぇと、わかんないだろ?」

「う、うん……」

カイネの言う通りだ。
調べてくれているのだから、くすぐったいくらい我慢しないといけない。
そう思うのに、変な感覚が込み上げてきて、つい小さな声が喉の奥に引っかかる。
お腹の奥の熱も、さっきよりはっきりしてきた。

「リュミエル、ほら顔こっち向けろ」

カイネの胸元に伏せていた顔を上げる。
距離が一気に縮まり、何が起きたのか理解する前に、視界が揺れた。ふっとカイネの唇がリュミエルの唇に重ねられたのだ。
 
「カイネ?!」
 
口を開くと、ぬるりと舌が口内に入り込んでくる。
 
「んっ――カイネ、な、なんでっ――」
 
「こら、ちゃんと舌出せって、どれくらい熱いから調べるって言っただろ」
 
「口の中も?」
 
「当たり前だ。そうしないと正しい診察はできない。王都では常識だぞ」
 
そうなんだ。
 
言われるまま、リュミエルはチロリと舌を出した。
カイネはその先端にに自分の舌を絡めて、続けて口内に入り込んでくる。
 
――ちゅ、ぢゅるっ、と水音が鳴った。
 
「んっ――んんっ――」
 
カイネの診察に慣れなくて、口の端から唾液がこぼれてしまう。

「んっ、んにゅっ、カイネ、んっ――」

何だろうこれ。体の表面だけじゃなくて、口の中まで酷く敏感になっている。カイネの舌が動くたびに、ゾワゾワとした感覚が背中に走る。

腰に回されたカイネの手に、ぐっと力が入る。
引き寄せられて、体が密着した。
多分、カイネは意識していないのだろうけれど、その手のひらががっしりと尻を掴んでいて、ひどく気恥ずかしい。

「ああ、リュミエル。ここは、どうしたんだ?」

そう言いながら、カイネがリュミエルはの股に太腿を割り込ませてくる。
ここという位置で、その動きがリュミエルの中心を掠めた。

「あっ……」

思わず、声が上擦る。

「腫れてるんじゃないか? ん?」

「あ、ち、違うよ……そこは……っ」

再び擦られて、体が勝手に反応してしまう。
熱のせいで、そこが硬くなっていることには気づいていた。さらに、くすぐったいところを触られ、口の中まで“診察”されたせいで、どうしても我慢がきかなかったのだ。

恥ずかしくて、言い訳を探す。
けれど、うまく言葉が浮かばない。

腰を引こうとした瞬間、尻を掴んだカイネの手のひらが、逃がすまいとでもいうように、しっかりと体を押さえ込んだ。

「違うかどうかは、お前が判断することじゃないだろ。腫れてたら大変だから……ほら、見せてみろって」

「あっ、やっ、カイネ――っ!」

カイネの手が、リュミエルの下半身の衣服へ伸びてくる。
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