【完結】死の運命を変えたい吸血鬼令嬢は、幸せな結末をあきらめない

夏芽みかん

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【2】パーティーでの騒動

37.≪霧の館≫へようこそ

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 屋敷への途中で、こちらに向かって飛んでくるアーノルドと合流した。
 彼はボロボロの私の格好を見て、一瞬ショックで集中力を失ったのか下へ落下した。――ああ、本当に毎回ごめんなさい。

「お嬢様、それは、」
 
 再浮上してきた彼は、唖然としたように口を開いた。私はリアーナの身体を渡す。

「西の辺境伯のところのリアーナよ。動けなくしてるから《壺》に入れてくれる?会話は難しいと思うけど。エリオットと、女の子――ルシアは?」

「屋敷にいます。ルシアというお嬢様は、意識が戻っておりませんが、容体に問題はありません」

「そう。良かったわ」

 私たちは屋敷に戻った。取り急ぎ、正気を失っているリアーナを保護するために、≪壺≫を準備する。≪壺≫は水晶の様な透明感のある鉱石を掘り出した大きな壺で、無効化した吸血鬼を捕まえておくために使用するものだ。昔から人間が吸血鬼狩りを行うときに使用していたもので、お父様――グレッグ――は人間だった時は、吸血鬼のハンターをしていたので、こういう道具が館にはいろいろとある。
 
 体力が回復すると、霧化して逃げてしまうことがあるので、すき間のないその≪壺≫に入れて、水で濡らした布を挟んで蓋をする。空気がなくなっても死なないので、そのあたりは問題ない。アーノルドが≪壺≫を持ってきたので、その中にリアーナの体と頭を入れて蓋をした。

「カミラ――捕まえたのか?」

 エリオットがばたばたと走ってきて、≪壺≫と私を見比べる。

「アーティが調度来てくれて……何とかね。ルシアは?」

「血を少し吸われたからかショックからかはわからないけど、まだ寝てるよ。コーデリアが見てくれてる。リアーナは、会話できそうか」

「完全に正気を失ってるわ。いったん動けない量、彼女から血を飲んだけど、血が濁ってる――、気持ち悪いわ。たぶん、誰かに、血を入れられて操られてる」

 私は地面に座り込んだ。吸血鬼は自分の血を他の生物に入れることで、自分の≪血族≫として、操作が可能だ。他の生物には、吸血鬼も入る。元々≪聖血≫の持ち主だったカミラは、他の吸血鬼からの操作への耐性がかなりある方だ。そのカミラが吸血してこれだけ気持ち悪くなっているのだから、直接血を入れられたリアーナはかなりきつかっただろう。リアーナに与えられた血は、他者への攻撃性で満たされていた。それは、それを与えた誰かの精神状態をそのまま表している。

「他に、リアーナを操作したヤツがいるってことか」

「たぶん」

「――ひどいことするな。こんなになるなんて」

 半透明の石からは、壺のなかにいるリアーナの姿が透けて見えた。意識を取り戻したのだろうか、牙を剥いて吠えるような仕草を見せている。

「会話は無理そうだな」

「そうね……」

 私は彼女の通常の姿を思い出していた。吸血鬼狩りから逃げて、アラスティシアにやってきた彼女。黒髪をきっちり結い上げた、堅い印象の凛とした女性だった。

リアーナはルシアの住む西の地方を管轄する、辺境伯の屋敷で≪恋人≫と一緒に静かに暮らしていたはずなのに。彼女がどうして。――そもそも、舞踏会に来ていたの?

 そのとき、玄関の扉が開いて、ばたばたとアーロンが駆け込んできた。その後ろからはお父様。グローリアは一緒にいない。王宮に置いてきたようだ。

「遅くなってすまない。アーロンが取り乱していて」

「ルシアは!? 兄さん!!」

「大丈夫だよ。こっちだ」

 エリオットがアーロンの手を引いて立ち去った。私はお父様を見つめる。

「リアーナが正気を失っているみたいなの。彼女、パーティーに来ていた?」

「ああ……、エリオットと同じ、新しい≪恋人≫を捜しに、いい機会だからと、忍んで1人で来ていたんだ。グローリアと踊った後、彼女は私たちに挨拶に来て、話をした」

「話をした? その時はどんな様子だったの?」

「直接顔を合わせるのは数年ぶりだったが――、変わらない様子だったと思う」

「どんな話を?」

「辺境伯領付近にハンターの気配があるので、居住地を変えたいという話をしていた。まさか、こんなことになるとは」

「お父様と話した後、彼女はどこへ?」

「私たちは、談話室で話をして、それから彼女はホールに行くと言ったよ」

「……しばらくホールにいたけど、見なかったわ。人は多かったけど、いればわかるとは思うんだけれど」

 私は記憶をたどった。エリオットやアーティと話し込んでいたから、全体を見ていたわけじゃないけど、それでもリアーナはホールにいなかったと思う。私たち以外の吸血鬼がいれば、「あれ?」って思うと思うのよね。――腑に落ちない。

「お父様たちと話してから、ホールに行く間にああなったっていうこと?」

「わからない。けれど、どこかのタイミングで、リアーナは誰か他の吸血鬼に襲われたんだと思う」

「なんで、ルシアを狙ったのかしら」

「彼女は≪聖血≫の持ち主なんだろう。私たちだったら誰でも、欲しいと思う。とりあえず、カミラ、お前は着替えてきなさい」

 お父様に言われて自分がひどい恰好だということを再認識して、着替えた。
 エリオットがルシアが目を覚ましたと呼びに来た。

「アーロン、エリオット、カミラさん」

 私たちにベッドを取り囲まれたルシアは、怯えた様な様子で周りを見回した。

「≪霧の館≫へようこそ、ルシア」

 エリオットが、彼女を安心させるように、柔らかな笑顔で言った。
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