【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん

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4.元聖女を追い出した元王子が謝罪に来ました。

第79話

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「――その手もあったか」

 床に手をついたままのエイダン様が小さな声で呟いた。エイダン様は勢いよく起き上がると、大司教様に訴えるように言った。

「大司教――、しばらく冒険者ギルドの力を借りたらどうだ。とにかく、地方の被害をひとまず治めねば――」

 大司教様はエイダン様を睨むと怒鳴りつけた。

「――魔法使いの犬どもの力など不要だ!」

「随分な言い草だな」

 ナターシャさんは苦笑して耳を掻く。
 
「いえ――、キアーラは光の女神様の下にある国です。他者の干渉は受けません。その子が戻らないなら、仕方ないですね。我々で魔物を抑えるしかない。――どれくらいの被害が出るやら。苦しむのは貧しい民ですよ、レイラ」

 大司教様は表情を正すと、笑みを浮かべて私たちを見回して、最後に私に視点を合わせた。
 うぅ……、そんな言い方されても……。
 黙り込む私を見て満足そうに笑ってから、大司教様はナターシャさんたちにまた視線を戻す。

「それより――、あなた方はレイラをこの街に置いておいてよろしいのですか? この子は――魔族ですよ」

 ちょっと――。私はぱっと顔を上げる。
 ……今、はっきり言いましたよね? 大司教様。
 ――私――やっぱり魔族確定なんですね。
 そして、今までずっと黙ってたのに、どうしてそれを、この場で言うんですか……!

「――そ、そうな……」

 驚いたようなホッブズさんの口を、ナターシャさんが抑える。

「魔力量からして――そうなのかとは思ってたよ」

「――わかっていて、この子を戻らせないんですか? レイラを置いておくと、後々おかしなことになりますよ」

「おかしなこと?」
 
 ナターシャさんは不快そうに顔を歪ませた。

「今までは大神殿で欲を捨てさせ祈りに集中させていたから、何も問題が起きなかったのです。魔族は食欲・所有欲・破壊欲――欲にまみれ、その欲を満たすために他者を傷つけることを厭わない種族でしょう。そんな子が外に出て自分の欲求に目覚めたらどうなりますか? 美味しいものが食べたい、可愛い服が着たい――でしたっけね、レイラ」

 大司教様は私に視線を向ける。

「なるほど、最初はそんな小さな欲かもしれない。しかし、欲求というのはだんだんと大きくなるものです」

「何が言いたいんですか……? ――私は、今――十分すぎるくらい満足してます。一緒にご飯食べてくれる人はいるし、お仕事したらありがとうって言われて嬉しいし……」

 ステファンがぽんぽんと後ろから私の頭を叩いて、大司教様を睨んだ。

「――大体、あなたはレイラをどこから連れて来たんですか? 魔族は大昔にいなくなったと言われているのに。それに彼女の耳は――? もともと長かったはずでは?」

 私は思わず自分の耳を押さえた。魔族かもとは、ステファンから聞いたけど――、私の耳ってもともと長かったの……!? 

「魔族――といってもその子の両親は普通の人間でした。先祖のどこかに魔族がいたのか、はたまた狼憑きのように突然何かに憑かれたのか、それはわかりませんが」

 大司教様は大げさに肩を持ち上げてため息をついた。

「とにかく、魔族の特徴を持った子どもが生まれてしまったと、彼らは嘆きました。人間の子どもに見えるように、長い耳は切り落としたものの、機嫌が悪くなると瞳を赤くし睨んでくる、周囲の物を燃やしたり魔法のような力を使って気に入らないものを壊す――と気味悪がって光神教の大本山だいほんざんであるキアーラの大神殿へわざわざ他国から縋るように訪ねて来たのです」

「――両親はどこの国の人間ですか?」

 ステファンはさらに聞いた。

「素性は言いたくないと言っていましたね。こんな子を産んでしまって周囲に知られたら暮らしていけないので国を出てきた――と、殺してしまおうにも呪われてしまいそうで怖くてできない――と涙ながらに語っていましたよ。その場で取り乱した母親はこの子の首を絞めようとしました」

 私は思わず自分の首を押さえた。
 ――育てられなくなって神殿に置いて行ったとは聞いてたけど、そこまでの話ははじめて聞く。

「神官である私としては、たとえ魔族の子どもだろうと無垢な赤子の命を奪わせるわけにはいかなかった。必死で止めましたよ。そして言ったのです。『この子は光の女神様の加護のもと、私が育てます』と。――するとどうですか、毎日女神様の教えを説いたら、そんな呪われた子が聖なる祈りに反応する女神像を光らせ、祈りの力を見せたのです」
 
 ――『呪われた』とか――嫌な言葉ばっかり言いますね。

「だから私はこの子に、聖女の役割を与えてやりました。大神殿に引き取られたことを感謝して、キアーラのために祈りなさいと教えてね。しかし、この子はだんだんと欲を出してきて、しまいには『戻りたくない』と。自分がどれだけ神殿に恩があるかも知らずに――」

 大司教様は私をチラリと見て、「はぁ」と大げさなため息をついた。

「まぁ、この子が戻らないと言うのであれば、無理やり連れて帰ることはできませんね――、それこそどんな恐ろしいことをされるか――。我々は早急にキアーラに戻らねばなりませんから、もう発つ準備をしなくては。ホッブズ辺境伯、突然のご訪問、ご迷惑をおかけしました。ご対応頂き感謝いたします」

「――あ、ああ」

「――こちらは、アンタたちに協力を申し出たんですよ」
 
 困ってる様子のホッブズさんの横からナターシャさんが大司教様に近づいた。

「それを受けないなら――2回も申し出てやる義理はないからね。――アンタたちのところの民は、可哀想だ。それから」

 ナターシャさんは言いながら大司教様の肩を掴んだ。

「育てた子が元気で楽しく過ごしていればそれで十分じゃないのか、親っていうのは。恩だとかなんとか――、子どもにそんなことを求めるんじゃないよ。何が欲だ。もっといろんなことしたいっていうのは成長の証だろ? 喜ぶべきことじゃないか」

 その手をはじいて、大司教様は笑みを浮かべた。

「――逆に言いますよ。大神殿はこの子をいつでも受け入れます。あなた方がレイラが手に負えないと思ったのなら、いつでもね」


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