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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
第109話(ライガ視点)
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ノアの発言に、周囲からは嘲笑の笑い声が起こった。
「この『兎』、魔法使いに飼われる『冒険者』になるんだとよ! だったらここで殺っとかねぇとな!」
ノアに殴り飛ばされた15・6くらいの年のガキの獣人を、そいつと同じグループっぽい男が受け止めて、壇上に投げ返した。そのガキは、口から血を吐き出してふらりと立ち上がると、再びノアに向かって身構えた。
俺は周囲でノア相手の喧嘩の順番待ちをしている獣人を見回した。
どいつも10代中ごろくらいまでのガキばっかりだ。
そう、これは――、通過儀礼だ。
『兎』と称して連れてきた素人を、新人のガキどもが殺せるか殺せないかを見物する、悪趣味な見世物。
それを通して、こいつらの上役は、ガキが使い物になるかどうかを判断する。
ここで怖気づくようでは、下働きの捨て駒として使い捨てられるだけだ。だから、今ノアに向かっているやつは、もう一回けしかけられた。ここでまたやられれば、こいつは捨て駒確定。逆に相手を倒すような『兎』は、『獣』として自分たちの身内に引き入れるんだろう。
――ノアの相手も必死だ。今後の自分のチーム内での生き死にがかかってるんだから。
俺は階段をゆっくり下るナターシャの方を見た。
――ここは任せとくべきか。ノアが危なくなるようならナターシャがすぐに止めに入るだろうが――
「何回来ようが同じだっつーんだ!」
ノアは震えて丸くなったもう一人の『兎』役を背中にかばったまま低く身構えると、相手のパンチをかわし、横から再び場外へとそいつを殴り飛ばした。周囲からどよめきが起こる。飛ばされたそいつは階段に頭をぶつけて、そのまま転げ落ちた。
「――次は俺だ」
次の相手がノアの前に躍り出る。ノアはそいつも、あっという間に外に蹴り出した。
――あいつ、動きが良いな。
俺は思わず唸った。半分人間のくせに動きのキレが良い。
ノアの動きに驚いているのは周りも同じだったようで、ノアが攻撃を決めるたび、歓声の野次があがった。――俺たちが出る必要がない。
そんな調子でノアが3人ほど倒したところで、ぱんぱんっと手を叩く音が響いた。
「良い戦いっぷりじゃねぇか、坊主。お前は立派な『獣』だ」
取り巻きの中から階段をゆっくり下って出てきたのは、大柄な、茶色いぼさっとした髪の――獣の耳が生えていない、人間の男だった。よく鍛えられた上半身は裸で、だぼっとしたズボンを履いている。
――人間?
俺は首を傾げる。この集会には俺たちが交ざったグループのリーダーみたいに、人間も参加はしている。だけど――人間は基本的に、闘技会自体に口出しはしてこないはずだ。ここは獣同士で争う場なんだから。
「なんだよ、次はお前がやるのか!」
ノアはそいつに向かって身構えたが、腰が引けてるのがわかった。
さっきまで相手をしていたガキどもとは相手が違う。その男には相対すると腰が引けるような凄味があった。
「おう、威勢が良くて結構――、しかし、お前の後ろにいる『兎』はだめだな」
その男は、一歩ずつノアたちに近づく。ノアは爪を光らせて、男を威嚇したが、男は歩みを止めない。男はゴミを見るような目でノアの後ろに隠れたガキを睨んだ。
「まったく、震えて、隠れてみっともない」
さっきまで囃子声を上げていた周囲はしん、と静まった。
――この雰囲気、あいつ、主催のやつじゃねぇか。
俺が視線を流すと、視界の隅でナターシャが頷いた。
「近寄るんじゃねえ!」
ノアは男に飛び掛かったが、そいつはそれをひょいっと軽く除け、ノアの後ろで震えていた、もう一人の『兎』役の子どもの頭を掴んで持ち上げた。
「――戦わないのなら、その牙も爪もいらんだろう。――俺が抜いてやろう」
男は震える子どもの口に手を伸ばした。――次の瞬間、ナターシャの姿が消えた。
「っつ!?」
男の声にならない声とともに空中に血が舞う。男の手は深く裂け、だらだらと血が流れていた。その手に捕まれていた子どもの姿はなく、ノアの姿もなくなっていた。広場の隅、テオドールとレイラがいる近くに、ナターシャがノアともう一人を片手ずつで抱えて立っていた。
「――なんだ、お前は?」
「アンタ――この会の、主催だね? アタシの子らに手ぇ出してんじゃないよ」
ナターシャは二人をテオドールの方へ押しやると、低く身構えて、そのまま男に向かって滑走した。
俺は嫌な予感がして、そちらへ走り出した。
あの男、耳が生えてないってことは――、たぶん俺と同じ獣憑き――、普段は人間で、完全獣化するタイプだ!
「ナターシャ、ちょっと、ま!」
駆けながらそこまで叫んだところで、俺の脇をナターシャの身体が飛んだ。
「て……」
「ナターシャ!」
振り返ると、テオドールが飛んできたナターシャをキャッチして、尻餅をついていた。
「――そのガキの親か。よくもまぁ、ここまで来たもんだ」
男の呆れたような声が聞こえる。
向き直ると、そいつは全身が茶色い毛に覆われた、でかい獣の姿になっていた。
茶色い毛に丸い耳。――熊憑き。
そいつは俺をじっと見て、大きい口でにっと笑った。
「よぉ――お前、さっき威勢よく暴れてた狼男――、やっぱり、ライガじゃねぇか」
「この『兎』、魔法使いに飼われる『冒険者』になるんだとよ! だったらここで殺っとかねぇとな!」
ノアに殴り飛ばされた15・6くらいの年のガキの獣人を、そいつと同じグループっぽい男が受け止めて、壇上に投げ返した。そのガキは、口から血を吐き出してふらりと立ち上がると、再びノアに向かって身構えた。
俺は周囲でノア相手の喧嘩の順番待ちをしている獣人を見回した。
どいつも10代中ごろくらいまでのガキばっかりだ。
そう、これは――、通過儀礼だ。
『兎』と称して連れてきた素人を、新人のガキどもが殺せるか殺せないかを見物する、悪趣味な見世物。
それを通して、こいつらの上役は、ガキが使い物になるかどうかを判断する。
ここで怖気づくようでは、下働きの捨て駒として使い捨てられるだけだ。だから、今ノアに向かっているやつは、もう一回けしかけられた。ここでまたやられれば、こいつは捨て駒確定。逆に相手を倒すような『兎』は、『獣』として自分たちの身内に引き入れるんだろう。
――ノアの相手も必死だ。今後の自分のチーム内での生き死にがかかってるんだから。
俺は階段をゆっくり下るナターシャの方を見た。
――ここは任せとくべきか。ノアが危なくなるようならナターシャがすぐに止めに入るだろうが――
「何回来ようが同じだっつーんだ!」
ノアは震えて丸くなったもう一人の『兎』役を背中にかばったまま低く身構えると、相手のパンチをかわし、横から再び場外へとそいつを殴り飛ばした。周囲からどよめきが起こる。飛ばされたそいつは階段に頭をぶつけて、そのまま転げ落ちた。
「――次は俺だ」
次の相手がノアの前に躍り出る。ノアはそいつも、あっという間に外に蹴り出した。
――あいつ、動きが良いな。
俺は思わず唸った。半分人間のくせに動きのキレが良い。
ノアの動きに驚いているのは周りも同じだったようで、ノアが攻撃を決めるたび、歓声の野次があがった。――俺たちが出る必要がない。
そんな調子でノアが3人ほど倒したところで、ぱんぱんっと手を叩く音が響いた。
「良い戦いっぷりじゃねぇか、坊主。お前は立派な『獣』だ」
取り巻きの中から階段をゆっくり下って出てきたのは、大柄な、茶色いぼさっとした髪の――獣の耳が生えていない、人間の男だった。よく鍛えられた上半身は裸で、だぼっとしたズボンを履いている。
――人間?
俺は首を傾げる。この集会には俺たちが交ざったグループのリーダーみたいに、人間も参加はしている。だけど――人間は基本的に、闘技会自体に口出しはしてこないはずだ。ここは獣同士で争う場なんだから。
「なんだよ、次はお前がやるのか!」
ノアはそいつに向かって身構えたが、腰が引けてるのがわかった。
さっきまで相手をしていたガキどもとは相手が違う。その男には相対すると腰が引けるような凄味があった。
「おう、威勢が良くて結構――、しかし、お前の後ろにいる『兎』はだめだな」
その男は、一歩ずつノアたちに近づく。ノアは爪を光らせて、男を威嚇したが、男は歩みを止めない。男はゴミを見るような目でノアの後ろに隠れたガキを睨んだ。
「まったく、震えて、隠れてみっともない」
さっきまで囃子声を上げていた周囲はしん、と静まった。
――この雰囲気、あいつ、主催のやつじゃねぇか。
俺が視線を流すと、視界の隅でナターシャが頷いた。
「近寄るんじゃねえ!」
ノアは男に飛び掛かったが、そいつはそれをひょいっと軽く除け、ノアの後ろで震えていた、もう一人の『兎』役の子どもの頭を掴んで持ち上げた。
「――戦わないのなら、その牙も爪もいらんだろう。――俺が抜いてやろう」
男は震える子どもの口に手を伸ばした。――次の瞬間、ナターシャの姿が消えた。
「っつ!?」
男の声にならない声とともに空中に血が舞う。男の手は深く裂け、だらだらと血が流れていた。その手に捕まれていた子どもの姿はなく、ノアの姿もなくなっていた。広場の隅、テオドールとレイラがいる近くに、ナターシャがノアともう一人を片手ずつで抱えて立っていた。
「――なんだ、お前は?」
「アンタ――この会の、主催だね? アタシの子らに手ぇ出してんじゃないよ」
ナターシャは二人をテオドールの方へ押しやると、低く身構えて、そのまま男に向かって滑走した。
俺は嫌な予感がして、そちらへ走り出した。
あの男、耳が生えてないってことは――、たぶん俺と同じ獣憑き――、普段は人間で、完全獣化するタイプだ!
「ナターシャ、ちょっと、ま!」
駆けながらそこまで叫んだところで、俺の脇をナターシャの身体が飛んだ。
「て……」
「ナターシャ!」
振り返ると、テオドールが飛んできたナターシャをキャッチして、尻餅をついていた。
「――そのガキの親か。よくもまぁ、ここまで来たもんだ」
男の呆れたような声が聞こえる。
向き直ると、そいつは全身が茶色い毛に覆われた、でかい獣の姿になっていた。
茶色い毛に丸い耳。――熊憑き。
そいつは俺をじっと見て、大きい口でにっと笑った。
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