【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん

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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。

第129話

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「――レイラ、食事ですよ。今日はあなたが食べたいと言っていた仔牛のステーキです」

 日が昇る前に目を覚まして、着替えて仕度を整え終わた頃、シスターが私の部屋に入ってきた。

「ありがとうございます」

 机の上にお皿がセットされいく。シスターがお皿に被せられた銀色の蓋を開けると、いい匂いが狭い部屋の中に満ちた。

 ――――大司教様に連絡をとって、キアーラに戻ってきて、ひと月ほど経つ。

 私の両親のことについて聞いて、お金や必要なものをもらったらすぐに出て行こうと思ってたんですけどね……。だけど、大司教様がキアーラに到着してから、竜でそのまま飛んで大神殿まで帰ればいいのに、ゆっくり村を通って帰るから……、嫌でも魔物に襲われてボロボロになった農家さんを見てしまって……。

 私はため息をついた。

 ……あんなのを見て、放っておくなんて無理じゃないですか……。

 農家の人たちは、途中途中滞在すると、たくさんご飯を出しておもてなしをしてくれた。
 大司教様が「聖女が戻って来たからもう大丈夫です!」とか言うものだから、泣かれたりして……。
 
 ――責任感じちゃうじゃないですか、私が出て行った後にこんなことになったなんて知ったら。

 今のところ、大司教様たちが竜を出動させて、被害はある程度抑えられてるらしいです。けど、全域を守れてるわけじゃないみたい。手の回っていない場所の魔物を駆除してる間だけっていう約束で、私はしばらく祈りの間で前みたいに祈ることに同意した。

『落ち着いたら出て行きますからね』
『滞在中は、お肉もたくさん食べたいです。温かくて美味しいものを出してください。大司教様が食べているものと同じくらい良いものを出してください』
『今までお祈りしてた分、出て行くときはお金をください』

 そう条件をつけたら、大司教様は「そんな欲深くなって、祈れるのか」と憤慨してましたけど。「これは欲じゃなくて、正当な要望です」って答えました。――私だって、いつまでも何もわからず、素直に従ってるだけの子どもじゃありませんからね。

 私はぱくぱくと温かい食事を口に運んだ。お肉は柔らかくてとても美味しい。

 大司教様、私にずっと冷たい不味いものばっかり食べさせてこんなに良いもの食べてたなんてひどいですね。

 そう思いながら、ごくっと飲み込むけれど、満足感は少なかった。

 宿屋の食堂でステファンやライガと食べたご飯の方が美味しかった気がします……。
 二人とも元気ですかね。――ナターシャさんやノアくんたちも元気でしょうか。
 マナちゃんは私のあげた服着てくれてるかな……。

 はぁとため息をついて、食後のお茶を飲んでから、「ごちそうさまです」と立ち上がった。

 ――食事の後は、『祈りの間』に移動して祈る。
 
 『祈りの間』は大聖堂にある大きな女神像の胎内に作られた、四方が白水晶の小部屋です。私は壁に彫られた小さな女神像に向かって手を組んで瞳を閉じ、祈りの言葉を呟き続けた。
 
「――やはり、前より祈りの力は弱くなっているようだが、それでも十分だよ、レイラ」

 不意に後ろから聞こえた声に振り替えると、そこには大司教様がいた。
 しばらく手が回っていなかった国の西側の魔物退治に行くって、竜に乗って出て行ったはずなんですけど、戻って来たんですね。

「――西側の魔物退治は済んだんですか?」

「ああ、これで国内は大体落ち着いた。お前のお陰で、新しい魔物の出現は大分抑えられているそうだ」

「――そうですか。それは良かったです」
 
 私は大司教様に向き直ると、睨みつけた。

「そろそろ、私の両親について本当のことを教えてもらえませんか?」

 ――魔物退治に行かないといけないから、今はそれどころじゃないとか、色々とはぐらかされてまだ一番大事な話を聞けていない。大司教様は顔をしかめてから、大きくため息をついて語り出した。

「――――お前の親は、海向こうのアスガルドという国の端、ミアラという村で宿屋を営んでいた夫婦だ」

 ――アスガルド? ミアラ?
 初めて出てきた具体的な地名に心が飛び跳ねた。

「そこに私の親がいるんですか? 私の親は普通の人間ですか?」

「――今もそこにお前の親がいるかどうかは、わからん。しかし、お前の親は普通の人間だ。――お前は狼憑きのようなもので、人間の親から突然生まれてきた魔族だ。思い悩んだお前の親は、はるばる海を渡って大神殿にお前を持ち込んだ。――後は今まで話してきたとおりだ」

 大司教様はすらすらそう言うと、ため息をついた。

「――それでも、また出て行って実の親に会いたいと思うのか? ――ここにいた方がいい暮らしができるぞ。今朝の食事も美味かっただろう。今まで、貧しい食事ばかり与えてきたのは悪かった。――欲を身に着けると、お前が手に負えなくなると思っていたのでな。――しかし、まだ魔物を抑えるのに十分な祈りはできるようだし、ここで祈りを続けて欲しい。食事はお前の食べたいものを出してやるし、小遣いもやろう。休暇の時間も作ってやる。どうだ」

 『出してやる』『作ってやる』ですか。
 大司教様はどこまで上から目線なんですか。
 私が今、大司教様のことは嫌いだし、はやく両親や自分のことを調べに行きたいけれど、農民の方たちのことを放っておくわけにもいかないから、『祈ってあげてる』っていうのをわかっていないみたいですね。 

「嫌です。落ち着いたら出て行きます」

 私ははっきりとそう言った。
 大司教様は唖然とした表情をして、深くため息を吐いた。

「――本当に我儘わがままになって。お前が祈り続けてくれるのなら、もっと良い暮らしをさせてやれるぞ。竜は順調に育っている。――国内の魔物が落ち着けば、私ももっと周辺へ光の女神様の教えを拡大できる……」

「周辺へ? 拡大?」

 ぴくっと眉を持ち上げる。

「そうだ竜の力を使えば、もっと国土を広げられる。……例えば、行商の盛んなルシドドを手に入れれば、もっとたくさん、珍しい物も手に入る」

 竜の力を使って?
 何を言っているんでしょう、この人。
 理解できずに口を開ける私を構いもせず、大司教様は面白そうに笑った。
 
「お前があのマルコフ王国の西端の街を気に入っているというのなら、あそこをキアーラの一部としてやっても良いぞ、どうだ」

「――何が『どうだ』ですか――」

 瞳の奥が燃えるのが分かった。
 竜の力で何をするつもりなんですか?
 あの街を壊す気ですか?

「ふざけた事を言わないでください」

 ばんっという音と共に、私の近くに火柱が上がって、白水晶の壁がすすで黒くなった。

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