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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
第133話(ステファン視点)
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翌日――、僕はぼんやりとした白い光を瞼に感じて目を覚ました。
ぼんやりと目を開けると、まだ日の登りきらない薄暗い教会の中で女神像が光っている。
そして、その足元にはその光を反射させるかのような、白い神官服を着た、この村の神官のジェイコブさんが祈っていた。一瞬時間の感覚がわからなくなる。――この人、昨日の夜更けも祈っていたよな――、今は朝か? 祭壇近くの椅子から身を起こして目をこする。
「起こしてしまいましたかな、申し訳ありません」
僕に気付いた神官は振り返ると詫びた。
「いえ……、おはようございます。——早起き、ですね」
「神官ですからね」
ジェイコブさんは疲れた表情で微笑んだ。
「眠ってらっしゃいますか? 昨夜もお祈りをされていたような気がするのですが」
「眠っていますよ。ありがとうございます。——では、私はまた祈りに戻りますね」
ジェイコブさんはそう言ってまた祭壇に向かってしまった。
——大司教とは随分違うんだな。
僕は大司教の俗っぽい顔を思い浮かべて、ため息を吐いた。
それから伸びをすると、あたりを見回した。ライガもエイダンも、ナターシャさんや兵士たちも教会の椅子の上でそれぞれ横になったまま寝ている。僕は立ち上がると、教会の外の広場に向かった。――竜の様子を見たかったからだ。
「いやぁ、大人しく眠っているよ」
広場には先客がいた。サミュエルさんが嬉々としてとぐろを巻くように眠る黄色い竜の周りをうろうろしている。
「こんなに人の命令を聞くように育てられるなんてなぁ。今までの、魔術師ギルドの育て方で育てた竜は、主人以外の人間が寝ているところに近づこうものなら、襲い掛かってくるもんなのに……」
サミュエルさんは竜の背中をよしよしと撫でる。
大きないびきをかいて寝ているそいつは、ぴくりともしない。
僕もざらざらとした竜の鱗を触ってみた。
――竜の討伐には何度か参加したこともあるけど、普通は討伐対象である竜に、こんな風に触れるなんて信じられないな。
こうやって触れると、寝息を立てる竜に愛嬌を感じる。
「昨日は痛い思いをさせて、悪かったね……」
治療したとはいえ、かわいそうなことをしてしまった。
その他のみんなも続々と起きてきたので、教会の竈を借りて朝食の支度をする。
もてなしはエイダンが断ったけど、ジェイコブさんが教会の食料を分けてくれたので、それなりにしっかりした食事が作れた。
「こちらが竜の食事です」
僕らが食事を終えたころ、エイダンの元護衛兵だというグレッグが、肉やら芋やら食べ物をたくさん包んだ袋を持ってやってきた。
「こんなに食うのか……」
ライガが感心したような、驚いたような声を上げた。
確かにこんなにたくさん食べ物が必要なんじゃ、村に置いておくのは大変だろうなあ。
苦笑している僕の腕を、少し興奮したような様子のリルが引っ張った。
「見て、ステファン、この子、手から食事を食べるのよ」
サミュエルさんが手から直接、竜に食事をさせている。
魔法使いたちは「いやぁ、すごいなぁ」と呟きながらわいわいと竜を取り囲んでいた。
――魔法使いって――研究熱心というか、なんというか。
呆れたような気持ちになりつつも、自分も食べさせてみたいと思って、一歩竜に近づいたその瞬間――、
ガァァァアアアアアア
今まで大人しく、手から与えられていた食事をむしゃむしゃ食べていた竜が突然咆哮を上げた。ぶんっと身体を揺らし、近くにいたサミュエルさんを振り飛ばす。
「っと」
飛んできたサミュエルさんをライガがキャッチする。
「ライガ、助かったよ……」
サミュエルさんは、驚いたように竜を見つめた。
「どうしたんだ、急に!」
首輪から広場の杭に繋がる鎖を外そうと、黄色い竜は後ろ足で立ち上がって、身体をゆすった。茶色く穏やかだったその目は、赤く爛々と輝いている。
――あの時、ベルリクを我を忘れて一心不乱に殴打していたライガと同じ瞳だ。
はっとする僕の耳に、教会の中からの叫び声が届いた。
「女神様の像が……! 赤く……!」
ジェイコブの叫び声だった。振り返ると、教会の中で祭壇に置かれた女神像の白い足元が薄く赤く光っていた。
『大神殿の祈りは、国中の教会に拡散されるように設計されていますから』
昨日の彼の言葉を思い出して、僕は目を見開いた。
――レイラ?
大神殿で、レイラがあの、普通の祈りと正反対の効果の――、対象を興奮させ、戦いに駆り立てるような、あの祈りのようなものをしたんじゃ?
竜は、大きな羽を広げ、ばたばたと羽ばたこうとしていた。
杭は半分ほど地面から出ていて、今にも抜けそうだ。
僕らに攻撃する意思はないらしい。ただがむしゃらにどこかに向かおうとしている。
――どこに?
「ライガ、竜に捕まれ!」
僕はライガに声をかけると、腕に力を込めてエイダンの腕を引っ張った。
「この竜、たぶん、レイラの祈りに反応してる! お前ならわかるだろ! ベルリクとお前が闘技会で殴り合ってた時みたいなやつ!!」
ライガは僕の言葉に息を呑んだ。
それから、獣化すると、宙に浮きかけている竜の背中に飛び乗って、首輪に捕まった。僕もエイダンを引っ張ってそれに続く。
「ステファン! 何をするんだ! 痛いだろう!」
手足をばたばたするエイダンのを竜の背に引きずり上げる。
「この竜、たぶん王都の大神殿に向かおうとしている! お前がいた方が良い!」
杭が引っこ抜けて、竜の身体が宙に浮いた。
「先に、王宮の方に行ってます!」
サミュエルさんたちにそう叫んだ時には、竜は空に羽ばたいていた。
ぼんやりと目を開けると、まだ日の登りきらない薄暗い教会の中で女神像が光っている。
そして、その足元にはその光を反射させるかのような、白い神官服を着た、この村の神官のジェイコブさんが祈っていた。一瞬時間の感覚がわからなくなる。――この人、昨日の夜更けも祈っていたよな――、今は朝か? 祭壇近くの椅子から身を起こして目をこする。
「起こしてしまいましたかな、申し訳ありません」
僕に気付いた神官は振り返ると詫びた。
「いえ……、おはようございます。——早起き、ですね」
「神官ですからね」
ジェイコブさんは疲れた表情で微笑んだ。
「眠ってらっしゃいますか? 昨夜もお祈りをされていたような気がするのですが」
「眠っていますよ。ありがとうございます。——では、私はまた祈りに戻りますね」
ジェイコブさんはそう言ってまた祭壇に向かってしまった。
——大司教とは随分違うんだな。
僕は大司教の俗っぽい顔を思い浮かべて、ため息を吐いた。
それから伸びをすると、あたりを見回した。ライガもエイダンも、ナターシャさんや兵士たちも教会の椅子の上でそれぞれ横になったまま寝ている。僕は立ち上がると、教会の外の広場に向かった。――竜の様子を見たかったからだ。
「いやぁ、大人しく眠っているよ」
広場には先客がいた。サミュエルさんが嬉々としてとぐろを巻くように眠る黄色い竜の周りをうろうろしている。
「こんなに人の命令を聞くように育てられるなんてなぁ。今までの、魔術師ギルドの育て方で育てた竜は、主人以外の人間が寝ているところに近づこうものなら、襲い掛かってくるもんなのに……」
サミュエルさんは竜の背中をよしよしと撫でる。
大きないびきをかいて寝ているそいつは、ぴくりともしない。
僕もざらざらとした竜の鱗を触ってみた。
――竜の討伐には何度か参加したこともあるけど、普通は討伐対象である竜に、こんな風に触れるなんて信じられないな。
こうやって触れると、寝息を立てる竜に愛嬌を感じる。
「昨日は痛い思いをさせて、悪かったね……」
治療したとはいえ、かわいそうなことをしてしまった。
その他のみんなも続々と起きてきたので、教会の竈を借りて朝食の支度をする。
もてなしはエイダンが断ったけど、ジェイコブさんが教会の食料を分けてくれたので、それなりにしっかりした食事が作れた。
「こちらが竜の食事です」
僕らが食事を終えたころ、エイダンの元護衛兵だというグレッグが、肉やら芋やら食べ物をたくさん包んだ袋を持ってやってきた。
「こんなに食うのか……」
ライガが感心したような、驚いたような声を上げた。
確かにこんなにたくさん食べ物が必要なんじゃ、村に置いておくのは大変だろうなあ。
苦笑している僕の腕を、少し興奮したような様子のリルが引っ張った。
「見て、ステファン、この子、手から食事を食べるのよ」
サミュエルさんが手から直接、竜に食事をさせている。
魔法使いたちは「いやぁ、すごいなぁ」と呟きながらわいわいと竜を取り囲んでいた。
――魔法使いって――研究熱心というか、なんというか。
呆れたような気持ちになりつつも、自分も食べさせてみたいと思って、一歩竜に近づいたその瞬間――、
ガァァァアアアアアア
今まで大人しく、手から与えられていた食事をむしゃむしゃ食べていた竜が突然咆哮を上げた。ぶんっと身体を揺らし、近くにいたサミュエルさんを振り飛ばす。
「っと」
飛んできたサミュエルさんをライガがキャッチする。
「ライガ、助かったよ……」
サミュエルさんは、驚いたように竜を見つめた。
「どうしたんだ、急に!」
首輪から広場の杭に繋がる鎖を外そうと、黄色い竜は後ろ足で立ち上がって、身体をゆすった。茶色く穏やかだったその目は、赤く爛々と輝いている。
――あの時、ベルリクを我を忘れて一心不乱に殴打していたライガと同じ瞳だ。
はっとする僕の耳に、教会の中からの叫び声が届いた。
「女神様の像が……! 赤く……!」
ジェイコブの叫び声だった。振り返ると、教会の中で祭壇に置かれた女神像の白い足元が薄く赤く光っていた。
『大神殿の祈りは、国中の教会に拡散されるように設計されていますから』
昨日の彼の言葉を思い出して、僕は目を見開いた。
――レイラ?
大神殿で、レイラがあの、普通の祈りと正反対の効果の――、対象を興奮させ、戦いに駆り立てるような、あの祈りのようなものをしたんじゃ?
竜は、大きな羽を広げ、ばたばたと羽ばたこうとしていた。
杭は半分ほど地面から出ていて、今にも抜けそうだ。
僕らに攻撃する意思はないらしい。ただがむしゃらにどこかに向かおうとしている。
――どこに?
「ライガ、竜に捕まれ!」
僕はライガに声をかけると、腕に力を込めてエイダンの腕を引っ張った。
「この竜、たぶん、レイラの祈りに反応してる! お前ならわかるだろ! ベルリクとお前が闘技会で殴り合ってた時みたいなやつ!!」
ライガは僕の言葉に息を呑んだ。
それから、獣化すると、宙に浮きかけている竜の背中に飛び乗って、首輪に捕まった。僕もエイダンを引っ張ってそれに続く。
「ステファン! 何をするんだ! 痛いだろう!」
手足をばたばたするエイダンのを竜の背に引きずり上げる。
「この竜、たぶん王都の大神殿に向かおうとしている! お前がいた方が良い!」
杭が引っこ抜けて、竜の身体が宙に浮いた。
「先に、王宮の方に行ってます!」
サミュエルさんたちにそう叫んだ時には、竜は空に羽ばたいていた。
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