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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
第136話
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頭……痛い……です……。
頭に硬いもので殴られたような衝撃を感じて神殿の床に倒れ込んでから、私はぼんやりした視界の中で、ずきずきした痛みだけを感じていた。
周りの音がずっと遠くでしてるみたいに聞こえます……。
「調子に乗るな」「よくも、私の腕を」「恩知らずが」
断片的に大司教様の怒鳴り声が聞こえてきて、その度に身体の節々に衝撃が走るんだけど、頭が痛すぎてどこが痛いのかわかりません。「だって、あなたが悪いんじゃないですか」と言い返そうとするけど、言葉が喉から出て来ません。ただ「あ」とか「う」とかいう音しか出てこない……。
そうしてるうちに、どん!っていう音と一緒に振動がびりびり伝わってきて、いろんな言葉がまわりに飛び交いました。
「大司教様!」「竜が!」「どこから!」「外からです!」「レイラめ!」「お前たち!」「早く祈れ!」「大人しくさせろ!」
……みんな怒鳴ってます。
そして悲鳴が響いて――しばらくして、静かになって、歓声。でも、すぐに、またどんっていう振動。
「また竜です!!」「大司教様!!」「また来ました!!」「早く大人しくさせろ!!」「神殿が!!!!!!!」
さっきより、さらにみんな怒鳴ってます。
わあわあと白い神官服が目の前を行ったり来たりしてる映像を最後に、私の意識は暗闇に落ちて行きました……。
――レイラ――
……と思ったら、誰かがどこかで、私の名前を呼んでる……。
ずきんずきん跳ねるような頭の痛みが戻ってくると同時に――、頭のてっぺんがじんわり温かくなって、だんだんずきずきした痛みが、「ひりひり」くらいに治まっていく……。
「レイラっ、レイラ!!!」
そこで、ようやく私ははっきり音を聞き取れて、目を開けた。
「誰ですか……」
目を開けると、見慣れた青い瞳が目の前にあった。その人は半泣きで私を抱えて、頭に手のひらを押し付けていた。大きい手のひらから、毛布に包まれるようなホカホカした感覚が頭全体に広がって、頭の痛みがなくなっていく。……回復魔法を、かけてくれていますね。私は思わず目を見開く。
「ステファン?」
「――――良かった――――あああ、ライガ! 目を覚ましたよ!!」
その視線の方に首を回すと、狼姿のライガが大司教様を羽交締めにして、立ったままこちらを真剣な眼差しでじっと見ていた。私と目が合うと、ライガは安堵したように床にしゃがんだ。
「ライガも? ――――なんで、ここに――」
「――――あんな置手紙だけ置いて出てっちゃったから、ちゃんと、話をしようって、思って」
ステファンは私と視線を合わせると、ぐすっと鼻をすすった。
「こんなことになってるなんて、思わないじゃないか。……間に合って、良かったぁあああ……」
そう言って、ゆっくりと髪を撫でられて、私は感情の蓋が外れて、溜まっていたいろんな気持ちが一気にあふれ出てくるのがわかった。
「う」
安心感と痛みとその他いろいろが入り混じって、涙と鼻水と一緒に流れ出てきた。
私はステファンに抱きつくと、大声で泣き叫んだ。
「……あたま、頭痛い……っ、大司教様ががんって! 痛かったぁ……うぁぁぁ」
「……痛かったね。傷は塞いだからもう大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」
「ぁあああぁ、痛かったぁああああああ」
ステファンは「大丈夫」と繰り返しながら、ゆっくり私の頭を撫でた。
温かい大きい手が髪を梳く度、安心感が増して、ぼろぼろ涙が溢れてくる。
懐かしい、感じ。昔、誰かが私にこうしてくれた……。
――お父さん。
私はふと、その人の名前を心の中で呼んだ。
金髪の長い耳の男の人の姿が瞼に浮かぶ。
お父さん、そう、お父さんもよくこうしてくれてた。
私の髪を撫でて、「大丈夫」って。「レイラにはお父さんがついてるから」って。
私、私のお父さんは、私のことをとても大事にしてくれてた――。
そのことを思い出して、私は黙ると、ステファンから離れて、ライガに床に押さえつけられた大司教様をじっと見た。
「私の――、お父さんとお母さんは、宿屋の人じゃないです――」
大司教様は、ミアラって村の宿屋の夫婦が私を神殿に連れてきたと言ったけど、少なくとも私のお父さんは宿屋の人じゃない。
「レイラ、君のご両親は――」
ステファンが何か言いかけたその時、どしんっと大神殿が揺れた。
壁から、ひび割れた壁の隙間を突き破って、大きな羽の竜と、赤い竜、頭がたくさん生えた竜が飛び込んで来た。続いて、ばりんっとガラスが砕ける音がして、天井から――ステンドグラスを突き破って大きな羽の竜と、蛇みたいな竜が飛び込んでくる。
「飛竜、火竜、黒竜、水龍それに多頭蛇竜まで……!?」
ステファンが叫ぶ。
「一気に全部来た!!」
「こんな数に祈りなど」
「もうだめだ!」
神官たちが次々叫んでその場にへたりとしゃがみこむ。
竜はそれぞれ吠えて口を広げながらこちらに向かって突進してくる。
ぱらぱらと天井から粉みたいなのが落ちてきて、どどどどどどという音が響く。
「天井が!」
叫んだライガが大司教様を置いて、私とステファンをかばうように飛び出してきた。
「お前が! お前が! 呼んだんだ!」
大司教様が私を残った右手で指差した。
全部の光景がゆっくり、ゆっくりと動いて見える。
――私が呼んだ? 赤竜に大司教様を黙らせてって祈りの間で祈ったから――、それがキアーラ中に広がって――。
ライガが私とステファンに覆いかぶさる。
ふわふわした狼の毛並みに覆われながら私は手を胸の前で組んで、瞳をつぶった。
安心感が胸の中を満たす。
大丈夫、大丈夫。
みんな、大丈夫です。
ドォォンと、大きな音がして、瞳を開けた。神殿に飛び込んで来た5匹の竜は、眠るように大人しく、床に丸まっている。地面に伏した神官たちは何が起こったか理解できないみたいに、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
「レイラ、お前がやったのか……?」
ライガが周囲を確認しながら私たちから離れて呟いた。
「よ、良かった……です」
私は座り込むと上を見上げた。大神殿の天井はすっかり崩れていたけど、落ちてきた天井の欠片は全部外に吹き飛ばされるように落ちていて、視線の先には青空が見えた。
頭に硬いもので殴られたような衝撃を感じて神殿の床に倒れ込んでから、私はぼんやりした視界の中で、ずきずきした痛みだけを感じていた。
周りの音がずっと遠くでしてるみたいに聞こえます……。
「調子に乗るな」「よくも、私の腕を」「恩知らずが」
断片的に大司教様の怒鳴り声が聞こえてきて、その度に身体の節々に衝撃が走るんだけど、頭が痛すぎてどこが痛いのかわかりません。「だって、あなたが悪いんじゃないですか」と言い返そうとするけど、言葉が喉から出て来ません。ただ「あ」とか「う」とかいう音しか出てこない……。
そうしてるうちに、どん!っていう音と一緒に振動がびりびり伝わってきて、いろんな言葉がまわりに飛び交いました。
「大司教様!」「竜が!」「どこから!」「外からです!」「レイラめ!」「お前たち!」「早く祈れ!」「大人しくさせろ!」
……みんな怒鳴ってます。
そして悲鳴が響いて――しばらくして、静かになって、歓声。でも、すぐに、またどんっていう振動。
「また竜です!!」「大司教様!!」「また来ました!!」「早く大人しくさせろ!!」「神殿が!!!!!!!」
さっきより、さらにみんな怒鳴ってます。
わあわあと白い神官服が目の前を行ったり来たりしてる映像を最後に、私の意識は暗闇に落ちて行きました……。
――レイラ――
……と思ったら、誰かがどこかで、私の名前を呼んでる……。
ずきんずきん跳ねるような頭の痛みが戻ってくると同時に――、頭のてっぺんがじんわり温かくなって、だんだんずきずきした痛みが、「ひりひり」くらいに治まっていく……。
「レイラっ、レイラ!!!」
そこで、ようやく私ははっきり音を聞き取れて、目を開けた。
「誰ですか……」
目を開けると、見慣れた青い瞳が目の前にあった。その人は半泣きで私を抱えて、頭に手のひらを押し付けていた。大きい手のひらから、毛布に包まれるようなホカホカした感覚が頭全体に広がって、頭の痛みがなくなっていく。……回復魔法を、かけてくれていますね。私は思わず目を見開く。
「ステファン?」
「――――良かった――――あああ、ライガ! 目を覚ましたよ!!」
その視線の方に首を回すと、狼姿のライガが大司教様を羽交締めにして、立ったままこちらを真剣な眼差しでじっと見ていた。私と目が合うと、ライガは安堵したように床にしゃがんだ。
「ライガも? ――――なんで、ここに――」
「――――あんな置手紙だけ置いて出てっちゃったから、ちゃんと、話をしようって、思って」
ステファンは私と視線を合わせると、ぐすっと鼻をすすった。
「こんなことになってるなんて、思わないじゃないか。……間に合って、良かったぁあああ……」
そう言って、ゆっくりと髪を撫でられて、私は感情の蓋が外れて、溜まっていたいろんな気持ちが一気にあふれ出てくるのがわかった。
「う」
安心感と痛みとその他いろいろが入り混じって、涙と鼻水と一緒に流れ出てきた。
私はステファンに抱きつくと、大声で泣き叫んだ。
「……あたま、頭痛い……っ、大司教様ががんって! 痛かったぁ……うぁぁぁ」
「……痛かったね。傷は塞いだからもう大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」
「ぁあああぁ、痛かったぁああああああ」
ステファンは「大丈夫」と繰り返しながら、ゆっくり私の頭を撫でた。
温かい大きい手が髪を梳く度、安心感が増して、ぼろぼろ涙が溢れてくる。
懐かしい、感じ。昔、誰かが私にこうしてくれた……。
――お父さん。
私はふと、その人の名前を心の中で呼んだ。
金髪の長い耳の男の人の姿が瞼に浮かぶ。
お父さん、そう、お父さんもよくこうしてくれてた。
私の髪を撫でて、「大丈夫」って。「レイラにはお父さんがついてるから」って。
私、私のお父さんは、私のことをとても大事にしてくれてた――。
そのことを思い出して、私は黙ると、ステファンから離れて、ライガに床に押さえつけられた大司教様をじっと見た。
「私の――、お父さんとお母さんは、宿屋の人じゃないです――」
大司教様は、ミアラって村の宿屋の夫婦が私を神殿に連れてきたと言ったけど、少なくとも私のお父さんは宿屋の人じゃない。
「レイラ、君のご両親は――」
ステファンが何か言いかけたその時、どしんっと大神殿が揺れた。
壁から、ひび割れた壁の隙間を突き破って、大きな羽の竜と、赤い竜、頭がたくさん生えた竜が飛び込んで来た。続いて、ばりんっとガラスが砕ける音がして、天井から――ステンドグラスを突き破って大きな羽の竜と、蛇みたいな竜が飛び込んでくる。
「飛竜、火竜、黒竜、水龍それに多頭蛇竜まで……!?」
ステファンが叫ぶ。
「一気に全部来た!!」
「こんな数に祈りなど」
「もうだめだ!」
神官たちが次々叫んでその場にへたりとしゃがみこむ。
竜はそれぞれ吠えて口を広げながらこちらに向かって突進してくる。
ぱらぱらと天井から粉みたいなのが落ちてきて、どどどどどどという音が響く。
「天井が!」
叫んだライガが大司教様を置いて、私とステファンをかばうように飛び出してきた。
「お前が! お前が! 呼んだんだ!」
大司教様が私を残った右手で指差した。
全部の光景がゆっくり、ゆっくりと動いて見える。
――私が呼んだ? 赤竜に大司教様を黙らせてって祈りの間で祈ったから――、それがキアーラ中に広がって――。
ライガが私とステファンに覆いかぶさる。
ふわふわした狼の毛並みに覆われながら私は手を胸の前で組んで、瞳をつぶった。
安心感が胸の中を満たす。
大丈夫、大丈夫。
みんな、大丈夫です。
ドォォンと、大きな音がして、瞳を開けた。神殿に飛び込んで来た5匹の竜は、眠るように大人しく、床に丸まっている。地面に伏した神官たちは何が起こったか理解できないみたいに、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
「レイラ、お前がやったのか……?」
ライガが周囲を確認しながら私たちから離れて呟いた。
「よ、良かった……です」
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