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7.元聖女は辺境の地を訪れました。
第172話(ステファン視点)
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鬼とは、前に戦ったことがあった。
マルコフ王国に落ち着く少し前、ライガといろんな土地をふらふらしていた時に、冒険者ギルドで鬼退治の仕事を受けたことがある。
その時は、別の冒険者も加わった4人のパーティーで、いろいろと武器も準備して行ったし、鬼っていっても正直こんなもんかって思った記憶があった。
――だけど、辺境地の鬼は、あの鬼とは別物だ。
いきなり襲いかかかってきた鬼の剣を受けながら、僕はそう強く思った。
蛇のような深緑の鱗に覆われた人型の姿は一緒だ。
だけど、大きさがあのときの鬼より二回りは大きい。
そして、力が強い。
身体強化の魔法を全集中で腕に集中させても、ぎりぎりと押し負けてしまって、後ろに身体が押される。
辺境地は精霊の力が強い。辺境地の草原で育った家畜は、身体が大きくなり、味も美味しくなる。魔物も同じように、他の地域より大きいのが多い気はしてたけど……力もこんなに違うのか。
いったん剣を弾いて、横に飛びながらそんなことを考える。ちらっと横を見ると、レイラやライガたちの方に、もう一匹の鬼が近づいているのが見えた。
舌打ちをして、自分の相手を見据える。
こっちは僕一人で何とかしないとな……。
目が合うと、鬼は何かわからない『言葉』で雄たけびを上げた。
こいつ、さっきからやっぱり僕に向かって何か言っているよな……。
鬼の言葉は理解できないけど、それは、何か凄まじい怒りに満ちた怨嗟の声だっていうのはわかった。
何を言ってるんだ……?
鬼が振り下ろした剣を自分の剣で受け止めながら考えるけど、押してくる力が強すぎて他の事を考える余力はなかった。
「馬鹿力だなぁっ」
受け止めるのを止め、身体を下に落として相手の内側に入り込み、鬼の腕を剣で突き刺した。
ぎっと変な呻き声を上げて、鬼は剣を地面に落とす。それを足で遠くへ蹴飛ばして、突き刺した剣を抜こうとしたけど……、
「抜けない……!」
力を入れられた鬼の腕から、突き刺した刃が抜けなかった。
一瞬気が緩んだ瞬間、鬼は片腕で僕の首を掴んだ。
視界が暗転した瞬間……ごきり、と嫌な音がして右肩に激痛が走った。
手から剣が落ちる。全く右腕に力が入らなくなり、痛みだけが伝わって来た。
自分の腕が明後日の方向に曲げられているのを視界にとらえた瞬間、身体が地面に叩きつけられた。
ぼんやりした意識で、瀕死の自分を担いだ鬼がどこかに向かって行くのを感じた。
巣に持ち帰って食べるつもりか。それは勘弁してほしい……。
こいつら、人間をすぐに殺さず痛めつけて食べるから性質が悪いんだよなぁ。
身体は動かないものの、頭だけは回った。
――いや、父さん、“鬼殺し”ってやっぱり半端ないって……。
父さんは昔、こんな鬼を一度に数十匹1人で殺してたっていうから、半端ないと思う。
そして、その血をはっきり継いでる弟も。
あいつだったら、こいつ一匹くらい簡単に倒すだろうな……。
僕はふと、昔のことを思い出した。
あれは、ライガが家に来る少し前だから、9歳くらいのころだっけか。
婚約者だった彼女に、彼女の好きだった花が裏山に咲いているのを見つけたから見せたくて無理に山に連れて行ったら、大狼に襲われて、僕は死にかけて、その時、僕らを追いかけて山に入って来てた、弟のアイザックが大狼を一刀両断して助けてくれたんだっけか。
その時、耳に馬の蹄の音が聞こえて、真っ赤に燃える炎の太刀が視界の隅を過ぎった。
そうそう、こんな風に……って、これ。
「あ」
と声を上げた時には、僕の身体は鬼の上半身と一緒に地面にどさりと落ちていた。
半分になった鬼の身体から噴き出した生暖かい血しぶきが体中に降りかかる。
「うわぁぁぁ、ステファン、大丈夫ですか!!!」
レイラの大声にはっと意識を取り戻す。
――レイラたちも、無事で良かった。
ライガの助けを借りて、何とか身体を起こして笑う。
「……大丈夫……生きてるよ……何とか……」
「よ、良かったぁぁ」
にゅっとレイラの上から人の姿が現れた。甲冑姿の男。
……やっぱり、あいつだ。
「兄上……?」
5年ぶりに見る弟は背丈がまた随分と大きくなっていた。
当時は僕と同じぐらいの背だったのに、今は頭1つ分は軽くでかいんじゃないか。
「――アイザック、久しぶり」
苦笑しながら呼びかけると、アイザックは眉間に皺を寄せたままそこに立ち尽くした。
眉間に皺寄せると、ますます父さんにそっくりだな……。
弟は、言葉を捜すように口を何度か動かしてから、ゆっくりと言葉を発した。
「こんなところで、何をやっているんです」
――まぁ、もっともな質問だよね。
音沙汰なしで5年ぶりにこの状況だから。
「――父さんに、ちょっと、頼みたいことがあって、家に戻ろうとしてた」
「ちょっと、頼みたいこと?」
アイザックはしばらく押し黙ると、きっと僕を睨みつけて言った。
「――父上は、半年前から昏睡状態です」
「え? あの父さんが?」
耳を疑った。あの殺しても死ななさそうな父さんが昏睡状態?
「兄上が家を出て言ってから、体調を崩されて――半年前からは、寝たきりです。――母上はその治療で籠りきり、辺境地で鬼の軍勢が発生――そんな時に」
アイザックは僕を睨みつけた。
「何をしに戻ってきたんですか! 大体、鬼一匹相手にその有様――、それでもマーゼンスの息子ですか?」
僕は何も返事ができなかった。
アイザックの言葉はもっともだ。――だけど、鬼一匹にその有様って、それは、言われるときついな……。
その時、僕らの周りに馬に乗った兵士たちが集まって来た。
「団長、鬼や小鬼はもういないようですが、辺境民はどうされますか」
辺境警備の辺境騎士団だ。
――そうか、父さんが動けなくなってるってことは、アイザックが今は団長をやってるのか。
アイザックは大きく息を吐くと、兵士たちに大声で指示を出した。
「怪我人は手当してやれ! 避難を希望する者は領地内へ! ただし家畜は1家族10頭までだ」
それから、僕たちを見回した。
「そのエルフの方々は――あなたの連れですか」
兄上と呼ばないのは、兵士たちの前だからか。
僕は頷いた。
「小鬼どもを退治していただき、ありがとうございました。とりあえず、宿営地へ一緒に来ていただければと存じます」
アイザックはレイラたちにそう言って頭を下げると、僕に「話はまた後で聞きます」と言い捨てるように言って、また馬に跨った。
マルコフ王国に落ち着く少し前、ライガといろんな土地をふらふらしていた時に、冒険者ギルドで鬼退治の仕事を受けたことがある。
その時は、別の冒険者も加わった4人のパーティーで、いろいろと武器も準備して行ったし、鬼っていっても正直こんなもんかって思った記憶があった。
――だけど、辺境地の鬼は、あの鬼とは別物だ。
いきなり襲いかかかってきた鬼の剣を受けながら、僕はそう強く思った。
蛇のような深緑の鱗に覆われた人型の姿は一緒だ。
だけど、大きさがあのときの鬼より二回りは大きい。
そして、力が強い。
身体強化の魔法を全集中で腕に集中させても、ぎりぎりと押し負けてしまって、後ろに身体が押される。
辺境地は精霊の力が強い。辺境地の草原で育った家畜は、身体が大きくなり、味も美味しくなる。魔物も同じように、他の地域より大きいのが多い気はしてたけど……力もこんなに違うのか。
いったん剣を弾いて、横に飛びながらそんなことを考える。ちらっと横を見ると、レイラやライガたちの方に、もう一匹の鬼が近づいているのが見えた。
舌打ちをして、自分の相手を見据える。
こっちは僕一人で何とかしないとな……。
目が合うと、鬼は何かわからない『言葉』で雄たけびを上げた。
こいつ、さっきからやっぱり僕に向かって何か言っているよな……。
鬼の言葉は理解できないけど、それは、何か凄まじい怒りに満ちた怨嗟の声だっていうのはわかった。
何を言ってるんだ……?
鬼が振り下ろした剣を自分の剣で受け止めながら考えるけど、押してくる力が強すぎて他の事を考える余力はなかった。
「馬鹿力だなぁっ」
受け止めるのを止め、身体を下に落として相手の内側に入り込み、鬼の腕を剣で突き刺した。
ぎっと変な呻き声を上げて、鬼は剣を地面に落とす。それを足で遠くへ蹴飛ばして、突き刺した剣を抜こうとしたけど……、
「抜けない……!」
力を入れられた鬼の腕から、突き刺した刃が抜けなかった。
一瞬気が緩んだ瞬間、鬼は片腕で僕の首を掴んだ。
視界が暗転した瞬間……ごきり、と嫌な音がして右肩に激痛が走った。
手から剣が落ちる。全く右腕に力が入らなくなり、痛みだけが伝わって来た。
自分の腕が明後日の方向に曲げられているのを視界にとらえた瞬間、身体が地面に叩きつけられた。
ぼんやりした意識で、瀕死の自分を担いだ鬼がどこかに向かって行くのを感じた。
巣に持ち帰って食べるつもりか。それは勘弁してほしい……。
こいつら、人間をすぐに殺さず痛めつけて食べるから性質が悪いんだよなぁ。
身体は動かないものの、頭だけは回った。
――いや、父さん、“鬼殺し”ってやっぱり半端ないって……。
父さんは昔、こんな鬼を一度に数十匹1人で殺してたっていうから、半端ないと思う。
そして、その血をはっきり継いでる弟も。
あいつだったら、こいつ一匹くらい簡単に倒すだろうな……。
僕はふと、昔のことを思い出した。
あれは、ライガが家に来る少し前だから、9歳くらいのころだっけか。
婚約者だった彼女に、彼女の好きだった花が裏山に咲いているのを見つけたから見せたくて無理に山に連れて行ったら、大狼に襲われて、僕は死にかけて、その時、僕らを追いかけて山に入って来てた、弟のアイザックが大狼を一刀両断して助けてくれたんだっけか。
その時、耳に馬の蹄の音が聞こえて、真っ赤に燃える炎の太刀が視界の隅を過ぎった。
そうそう、こんな風に……って、これ。
「あ」
と声を上げた時には、僕の身体は鬼の上半身と一緒に地面にどさりと落ちていた。
半分になった鬼の身体から噴き出した生暖かい血しぶきが体中に降りかかる。
「うわぁぁぁ、ステファン、大丈夫ですか!!!」
レイラの大声にはっと意識を取り戻す。
――レイラたちも、無事で良かった。
ライガの助けを借りて、何とか身体を起こして笑う。
「……大丈夫……生きてるよ……何とか……」
「よ、良かったぁぁ」
にゅっとレイラの上から人の姿が現れた。甲冑姿の男。
……やっぱり、あいつだ。
「兄上……?」
5年ぶりに見る弟は背丈がまた随分と大きくなっていた。
当時は僕と同じぐらいの背だったのに、今は頭1つ分は軽くでかいんじゃないか。
「――アイザック、久しぶり」
苦笑しながら呼びかけると、アイザックは眉間に皺を寄せたままそこに立ち尽くした。
眉間に皺寄せると、ますます父さんにそっくりだな……。
弟は、言葉を捜すように口を何度か動かしてから、ゆっくりと言葉を発した。
「こんなところで、何をやっているんです」
――まぁ、もっともな質問だよね。
音沙汰なしで5年ぶりにこの状況だから。
「――父さんに、ちょっと、頼みたいことがあって、家に戻ろうとしてた」
「ちょっと、頼みたいこと?」
アイザックはしばらく押し黙ると、きっと僕を睨みつけて言った。
「――父上は、半年前から昏睡状態です」
「え? あの父さんが?」
耳を疑った。あの殺しても死ななさそうな父さんが昏睡状態?
「兄上が家を出て言ってから、体調を崩されて――半年前からは、寝たきりです。――母上はその治療で籠りきり、辺境地で鬼の軍勢が発生――そんな時に」
アイザックは僕を睨みつけた。
「何をしに戻ってきたんですか! 大体、鬼一匹相手にその有様――、それでもマーゼンスの息子ですか?」
僕は何も返事ができなかった。
アイザックの言葉はもっともだ。――だけど、鬼一匹にその有様って、それは、言われるときついな……。
その時、僕らの周りに馬に乗った兵士たちが集まって来た。
「団長、鬼や小鬼はもういないようですが、辺境民はどうされますか」
辺境警備の辺境騎士団だ。
――そうか、父さんが動けなくなってるってことは、アイザックが今は団長をやってるのか。
アイザックは大きく息を吐くと、兵士たちに大声で指示を出した。
「怪我人は手当してやれ! 避難を希望する者は領地内へ! ただし家畜は1家族10頭までだ」
それから、僕たちを見回した。
「そのエルフの方々は――あなたの連れですか」
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僕は頷いた。
「小鬼どもを退治していただき、ありがとうございました。とりあえず、宿営地へ一緒に来ていただければと存じます」
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