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19.(ライアン視点)

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 実家からの手紙――。
 内容はだいたい想像がつく。俺は内心で深くため息をついた。

「わかりました。師匠、ソフィアにローブも支給してもらって良いですか?」

 師匠は引き出しから木札を一枚取り出して俺に投げた。
 これを持って、管理室に行くとここにいる魔法使いの標準服の黒いローブがもらえる。
 ソフィアは俺が貸したズボンとシャツ姿だ。その恰好でふらふらしてたら目立つだろうし。

「行こう。ついてきてくれ」

 師匠に一礼して部屋を出た。
魔法研究所はルーべニアの郊外、山間部に立つ石造りの建物だ。昔の宮殿だった跡地を使っていて、内部は広く、国の大半の魔法使いがここに住居を持っている。俺は建物中央の管理室でローブを受け取ると、ソフィアを師匠の管理するエリアの空き室に案内した。

「ここは師匠の管理してるとこだから、好きに使っていいよ」

 魔法使いとして正式に認定を受けた者は、建物内に自分の管理する場所をもらえる。その区域が広いほど、魔法使いとしての地位があるってことだ。
 俺は認定を受けていないので、師匠の区域に仮住まいさせてもらっていることになる。

「ありがとう……」

「洗面所もついてる。水魔法を使って自由に使ってもらって構わない。……魔法陣、描いておこうか?」

 部屋を見回すソフィアにそう聞くと、「大丈夫」と首を振った。

「水を出すくらいはできるわ。火と水は基本でしょう」

 そう、山籠もりしている間に火と水の魔法についての基本的な魔法陣は教えたんだったっけ。飲み込みが早いなと感心してしまう。

「じゃあ、俺はちょっとレオのところに行ってくる。たぶん、しばらくここを離れることになると思うけど……、師匠から何か連絡が来ると思うから、それに従ってくれ」

 必要なことを伝えてから、付け加えて聞いた。

「そうだ、会いたいって言ってた人について教えてくれるか? 俺の周りで探せるか聞いてみる」

「グレゴリー=エヴァンスと、スザンナという夫婦なの。グレゴリーは料理人でスザンナはメイドをしていたわ。グレゴリーは少し魔法が使えたわ」

「わかった。あんたの屋敷の料理人だったんだよな。あんたの家は……」

 ソフィアは隣国ツェペリのどっかの貴族の娘だったよな。
 どこの家か聞いておけば調べやすい。
 ソフィアは重たそうに口を開いた。

「ローレンス……ローレンス公爵家よ」

「……そんなにいい家だったのか」

 思わず感想を漏らした。公爵家といえば、王族の親戚筋じゃないか。
 そんなとこの家の娘がどうしてあんな山の中であんなことになっていたのか。

 ソフィアは肩をすくめて「そうね」と呟いた。
 俺ははっとして、彼女の肩を叩いた。

「それだけ情報があれば見つけられると思う」

 出自をあんまりはっきり言いたくないのは俺も一緒だ。
 
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