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【5】聖女 勇者と再会する

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 扉を閉めて二人がその向こうで話し始める。

「乱暴されたような形跡は無いね。痣もこぶも切り傷もない」
「良かった~……!
 となると何かショックな物を見たとか……?」
「今は詮索してもしゃーないさね」

 向こうも聞かせるつもりはないのだろうし、わたしも聞こうとは思わないのだが、いかんせんこの部屋の壁は薄くてわたしは地獄耳なのだった。

「ただ着ている物がね。あれは確かに時代遅れだが質の良いもんだよ」

 ……じだいおくれ……。

「それこそあたしの親かばーちゃんの世代のもんだろうね。状態も良いし、どっかの好事家がアンティークとしてコレクションしてたのかも知れない」
「……ってことは、」
「金持ちか貴族のお嬢ちゃんが家出してきたのかねぇ。実家の蔵にあった冒険者っぽい服を着てさ。旅の途中で金だけ盗まれたのかも知れないよ」
「えぇ!? じゃあ、王都グラン・ディディエの冒険者協会に連絡取るべき!?」
「いやぁ、待ちな待ちな。それは本人がもう少し落ち着いてから決めよう。少なくともちっちゃなガキじゃないんだ。もう十六だろ?」
「まだ十六よ!」
「独り立ちしても良い歳さ。
 それに、金持ちや貴族の中にもとんでも無いヤツがいるからね。怪物みたいな親からやっとの思いで逃げてきたんだとしたら、どうするんだい」
「……そ、それもそうね……」
「ま、あたしらは今のあの子を適度にフォローしてやりゃあいいさ。ジェイドに聞いたが、ハンターとしての素質も中々ありそうだよ」

 足音と共に二人の声が遠のいていく。
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