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第一部 第五章 終わりの始まり
エピローグ 整う舞台①
しおりを挟む「ユーグ。そこにいるのだろう? 入ってきなさい」
王子たちが足早にその場を後にするそれに続かず、ユーグ・ノッジはまだ外で待機していた。
呼ばれて室内へと足を踏み入れ深く礼をする。
「陛下。王妃様。ご挨拶申し上げます」
「いつも堅苦しいな。ユーグ、君も私たちにとって息子と変わりないのに」
「恐れ多いお言葉です」
アッシュグレイの瞳がわずかに陰り、瞼を伏せる。
それ以上の言葉はいらないとばかりの控えめで頑ななユーグの拒絶に、ヨーセフ王は小さく苦笑した。
「……まあいい。相変わらず、学園に入ってもシモンのそばにいるそうだな? 自由にしていいと言っているだろう」
「なので、自由にしております。シモン様にもそう言われましたが、私がそうしたいのです」
控えめに苦笑しながらも、ユーグの意思を曲げない強い眼差しに王はわずかに目を細めた。
「わかった。ユーグがそれでいいならいい。シモンのそばにユーグがいることは非常に心強い。その逆もしかりだ。その上で今後、エリザベス・テレゼア令嬢の監視と護衛をしてほしい」
「監視と護衛……。そうなりますか。シモン様の優先は変わりませんが、それでいいとおっしゃっていただけるなら」
「ああ。それで構わない。あの様子だと、今後関わることになるだろうから君に異はないと思ったよ」
何もかもお見通しとばかりの言葉に、あからさまにユーグは苦笑して見せた。瞳と同じくアッシュグレイの髪がさらりと揺れる。
ユーグの苦手なものをわかっていて、そしてその天秤がシモンへと傾くこともわかりきっていてもなお、心配だと王の碧眼の瞳がユーグを見つめる。
その瞳をとても綺麗だと思うと同時に、畏怖を抱く。
恐れ多い。自分なんかに簡単に向けられていい眼差しではない。
「私があえて入るまでもなく、彼女を守ろうとする人は多そうです。それに、彼女自身も守らないといけないほど弱いとも思えませんが、陛下のお言葉とあれば尽力いたします。その監視には何かあれば動けという意図はおありですか?」
「それは君の判断に任せる。彼女、その周囲に何か変わった動きがあれば報告すること」
「わかりました」
「何も聞かないのかい?」
「聞いたとしてもすることは変わりありませんので。では、これで失礼いたします」
入ってきた時同様、ユーグは深々と頭を下げるとその場を退出した。
*
光と緑に包まれ、祝福に包まれた王国ランカスター。この国の王に引き継がれている伝承があった。
光の属性、その中でも比べるまでもなく輝く光の魔力を持つ者を伴侶または親しい友にすると繁栄するとされている。それは王位継承した際に、本人と関わる者のみに伝えられる。
緑の癒やしとは似て非なる癒やしの効力は桁違いであり、条件、物理を超えて物や他人の魔力も増力させる力があるとされていた。
光の魔法については様々なことが噂されているが、本当のところは光の者とその親き者しかわからない。
伝承は大事にされてきたが、固執する必要はないというのが王族の考えであった。
それに捉われるあまり、今あるものを失うことこそ愚行というものだ。だから、光の魔法に頼るために光の者を欲してはいけない。それも同時に伝えられていた。
現王がイレネ王妃を娶ったのは、彼女を愛したからだ。愛する者が光の者であっただけのこと。
ランカスター国の後継者選びからもわかるように、王族の考え方は実力主義。他力本願がどれほどの悲劇を生むのか近隣諸国で十分に理解している。
人に頼り、策略を廻らせ、血で争いを起こし無駄な労力を使うくらいなら、己の、国力を高める。
そうやってランカスター王族は常に最も力のある一族として君臨しているのだ。
そんな王族であるからか、必ず彼らの周囲に光属性の者が表れ、国が安定し続いているとされていた。
現在まで次代の光属性のものは現れておらず、気にはかけるが王族にとってそこまで重要な案件ではなかった。
ヨーセフ王とイレネ王妃は先ほどの王子たちの様子を思い出ししばらく彼らが去った扉を眺めていた。息子たちの成長を嬉しく思うと同時に憂う。
「陛下。彼女が真の光の保持者であった場合、闇の魔力を持った者もじきに現れる可能性が高くなります」
「……わかっている。それが理なのだろう? だが、それは天災のようなものだからな。それこそその時にならないとわからない」
「はい。わかっております」
「自分たちの時は無茶をしたが、いざ息子たちが対峙すると考えると簡単ではないな」
「ええ、そうですね。時代は必ず変わるものですから彼らの世界は彼らが作るべきです。私たちは見守ることしかできません」
「ああ。彼らの力を信じるとしよう」
「はい」
心配そうに眉を寄せるイレネ王妃の手を、ヨーセフ王は安心させるようにそっと握ったのだった。
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