詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第一章 新たな始まり

話し合い始まります②

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 一時間前、私の行動に肝を冷やすのは不愉快だから徹底的に暴くと言われたばかりで、暴くとは大袈裟だと思いながらも周囲からはこそこそしているように見えるのかもしれないと気づかされた言葉でもあった。
 何度も転生を重ねて培ってきたもの、魔力増幅のことといい、一つひとつが悪いものではないし、努力してきた結果であるが、時として目立つ。
 小出しにして目立たないように動いているだけで、私にやましいことはない。

 だから、聞かれたことには包み隠さず話すし、必要ならば行動をともにしてもいい。
 それがユーグにとって楽しいかどうかは別だが、ついてきたいなら別に構わない。

 自分が思っている以上に、人には不可思議な行動をしているように見えているのか、認識の差というのを感じる。
 もしくは、身分ゆえにそれらは異質なものとして映っている可能性もある。

 私と長い付き合いのあるルイにも、たまに呆れたような諦めたような生ぬるい眼差しを向けられることはいまだにある。
 なので、心当たりが全くないわけではないのだけど、いかんせん自分のこととなると冷静に判断はできない。

 あれこれこの一年で向けられる視線や声を吟味し客観的に考えてはみるけれど、結局のところどれが正解なのかわからなかった。
 うーむと考える私の様子を見ていたユーグがどう思ったのか、沈黙ののち射抜くように目を細めた。

「……とりあえず、先ほどはどこで何をしていたのでしょうか?」
「あれは薬草取りも兼ねて散策をしておりました。私の趣味をノッジ様も知っておられるでしょう?」

 以前、薬草を探しに散策している姿を見られたことがある。しかも、その時は初めて見つけた薬草にすごく興奮していた。
 この世界にしかなく、図鑑でしか見たことのない薬草だ。

 あまりに嬉しすぎて『うっひょ~』と叫び、ぴょんぴょんと跳ねていたため、ユーグに居場所がバレてしまった。
 茂み越しに視線が合ったあの時のユーグの白い目は、今でも忘れられない。

 その時に見つけた薬草の名は、『アンミツ草』。
 美味しそうな名前だが、その花から採れる蜜はどんな怪我でも治してしまう。

 葉は浅い切り傷くらいなら絆創膏のようにペタッと貼っていたら数時間で治り、根っこは鎮静剤の役割を果たす。
 蜜一滴につき、効果は千切れた指はたちまち元通りと図鑑に書いてあった。描写はどうかと思うが、それだけすごいということなのだろう。

 なんて万能な薬草なのかと、なかば伝説ものだと思っていた薬草にまさかこんなところで出会えると誰が想像できようか。
 癒やしの魔力が『アンミツ草』に付与されており、地面から摘み取ってもその効果は使いきるまで持続するというもの。
 なので、それらの成分を調べるために蜜を一滴と、少しずつ花、葉、茎、根を切り取り、あとはそれらが必要な場所へと送っておいたのはその後の話。

 とにかく、その時はとても興奮しており、そんな趣味満開な自分をがっちり見られてしまった。
 だったら仕方がないと開き直り、趣味と実益を兼ねていること、その上でこの薬草との出会いはすごいことだと熱弁しておいた。
 ちょっとした実演と功能も証明してみせたので、私がそれなりに薬草の取り扱いができることをユーグは知っている。

 ちゃんと実益を兼ねているこの趣味に関しては、迷惑よりは役に立っていることなので問題ないはずだ。
 ストレス発散にももってこいで、良いことだらけの趣味は知られて恥ずかしがるようなことではない。

「それはわかっております。薬草のことになると、エリザベス嬢は見境がなくなりますからね。ええ、それはもう十分理解していますよ。私が気になったのは本日どこかに隠れるように動いていたこと、物がいっぱいの袋の中に何か見慣れないものがあったことです。まさか以前のようにスカートの下にも仕込んでいたんじゃないでしょうね?」
「えっ?」

 まさかの指摘に目を見張り、何でわかったのだろうかという顔をしたのをユーグに見られてしまった。しまったと思ってももう遅い。
 げんなりだと柳眉をひそめたユーグが確信を持って尋ねてくる。

「仕込んでいたんですか?」
「……ナイフとか? 常備薬とか? それくらいです」
「本当ですか?」

 嘘だろうとばかりに睨まれて、この人どれだけ把握しているんだと不安になる。
 下手な嘘は後で自分の首を絞めかねないので、私はごにょごにょと小さな声で認めた。

「持ちきれない薬草とかもくくりつけてました」
「はぁぁー。なんでスカートの下なんかに」

 心底呆れましたよとばかりに溜め息をつかれ、肩身が狭くなりながらもしかしたら共感してもらえるかもしれないと淡い期待を込めて告げてみる。

「レディのスカートの下はいろいろ隠すのにモッテコイなんですよ!」
「そういう話をしているんじゃありません。以前、殿下たちの目の前でスカートをめくろうとしたことをお忘れですか?」
「あれは、だって、緊急事態でしたから……」

 そう緊急事態だったのだ。

「いち早く気づいたルイ殿下が止めてくださったから良かったものの、はしたない行為ですよ」
「……すみません」

 あの後のルイの静かな怒りの説教を受けた。サミュエルの時もそうだったけれど、肌を見せることへのルイの怒りは相当のものだ。
 しかも、二度目とあって、お説教は長めだったしかなり本気で怒っていたので身に染みた。

 あの時のことを思い出しふっと遠い目をしていると、ユーグは淡々と先を促す。

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