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第二部 第一章 新たな始まり
実みたいなモノ①
しおりを挟む私はコロン、コロンと机の上にそれらを転がしたあと、小瓶や袋と順番に並べていった。
「これは何ですか?」
机の上に視線を投じたユーグが、あからさまに眉をしかめる。ぐっと寄せた眉間は痕がつかないかと心配になるほどだ。
私は説明すべく再び視線を下ろし、ころころと指で転がして遊ぶ。
「この一年間でこの学園内で見つけた実みたいなモノです。どれだけ調べてもこれが何なのかはわかりません」
始めに転がしたモノは、先ほど告げたように学園で定期的に見つける実みたいなモノ。
そして机に並べられた小瓶や袋の中身は、正体を知るためにそれらをすりつぶしたり、煮たりしたモノだ。
「それはどういう意味ですか?」
この説明だけでは意味がわからなかったのだろう。
急に始まった私の実転がしを訝しがるユーグに、私はどう伝えようかと考えがまとまらないまま口を開いた。
「そうですね。意味があるのかないのか、それをはっきりさせたいと思いまして」
「曖昧な答えですが、少し理解しました。これが何であるか明確な答えを知りたいと。あなたは草花の知識に自信があり、その上でお手上げだとおっしゃっているのですね?」
「ええ」
「確かにご令嬢にしては詳しいとは思いますが、かといってこの場に出される意図がわかりません」
一学生である私が断定して調べるほどでもないと言いたいのだろう。
ユーグの不審がる気持ちと呆れもわかる。
私も最初はこの実みたいなモノのことを全く気にしていなかった。なんなら目新しいモノをゲットできたことに喜んでいた。
それが一個や二個ならまだいいのだが、実際定期的に発見しているのだ。その上で結局何かわからないとなれば気になる。
それを知るには、自分だけではどうにもできないと思いこの機会に話を持ちかけた。
それでも急すぎることと、自分への信頼のなさで話が進みそうにない。
やはり、まずは自分への信頼、今は草花の知識について信頼を得ることが手っ取り早いようだ。
「その辺は後ほど。そのことも含め週末にあるところに行く予定なのですが、その時ご都合がよろしければノッジ様も一緒に行かれますか?」
行動をともにと言っていたので、知ってもらういい機会にもなるだろう。
用事も済むし相手の意向も汲める。説明よりも実際見てもらうほうが納得してもらえるはずだ。
「それでいろいろわかるとでも?」
「はい。私の行動を知りたいのですよね? あと草花、特に薬学の知識の正誤性もそこで理解していただけるかと思います」
百聞は一見に如かず。ユーグのようなタイプと自分たちの関係性を考えると一番それが有効的だろう。
「わかりました。でしたら、あなたがその方面に長けていると仮定して話を続けましょう」
「それでいいです。先ほどの話に説明を加えると、この一年でそれを見つけた数は十六個です。ノッジ様にこのお話をしたのは、これは 『実』に似せた何かの可能性もあると思ったからです。偽造した可能性が少しでもあるならば、報告しておくほうが良いと思いました」
そう。ここは王立学園。この学園に通う者はいずれこの国の中枢を担う者たちばかり。
いわば国の宝が集まっており、しかも、現在三王子が通う魔法学園。セキュリティも万全なはずであるし、不審なものが混ざってはならない場所である。
そんな聖域たる場所に、このような不確定なものがいくつも発見されていること事態おかしい。
ユーグもわからないのなら尚更、精査する必要があるだろう。
王家に近いユーグがこれの存在を知っているのならそれで良かったが、知らないとなれば問題が生じる可能性も大いにある。
今後何もなければいい。でも、きっと何も起こらないということはないと思っている。
中途半端に知るゲームの知識。『イベント目白押し』って言葉は私にとって無視できないものだ。
──ホント、中途半端よね。
ある意味ひどくない? ひどいよね?
何が起こるかわからないのに、ゲームをする側にとっては刺激的なイベントが待っていると知っているのだ。
友人の興奮具合を間近で見ていて、しょぼい事件ということはないだろう。
それが今回のことに関係するかわからないけれど、不安要素を取り除くことは私にとって大事なことであった。
――ああ、ホント、こちとら当事者なんですけど?
王子たちのそばにいる限り、巻き込まれない可能性はゼロとはいかない。
だから、これも早めのフラグ対策の一環になる。
大事になる前に手折ってしまえば、こちらにくる被害は少ないはずであるし、何より王子たちが大変な目に遭う可能性を放置できるほど私は図太くない。
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