詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第一章 新たな始まり

証明①

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 私が息を吐き出しきると、慇懃無礼に礼をして顔を上げたライルは決然とした表情で静かに語る。

「まだ正式に名乗っておりませんでした。申し遅れましたが、全商連西区支部長、ライル・オードランです」
「西区支部長?」
「はい。全商連当主よりエリザベス様のサポートを仰せつかっております。どなた様でも不利益を被ると判断した場合容赦しませんのでこれからよろしくお願いします」
「それは脅しですか?」

 改まった紹介を受けたユーグは淡々とした声だったが、ライルを見る瞳には警戒心が浮かんでいる。

「いえ。当然のことを言ったまでですよ。私たち商人にとっては商いの邪魔をされないのであれば、誰がどのように動こうが構いません。ですが、商人も人ですからね。利益を度外視しても動く時はあります。お気に入りを傷つけられると腹が立つものなんですよ」
「何が言いたいんですか?」

 そこでライルは小さく肩を竦め、にこやかな笑みを浮かべる。

「さあ? 我々が扱うものは何も物だけではない。身内とルイ様以外、ここに連れてきたことがないエリザベス様がノッジ様を連れてきた詳しい理由は存じませんが、ここまでされたことの誠意は伝わったのではないのでしょうか?」
「確かに、全商連が関わっているとなるとエリザベス嬢の実力はかなりのものですね」

 そこでちらりとユーグが私を見たので、笑みを浮かべゆっくりと頷いた。
 険はあるもののライルがどユーグに対して立場を明らかにしたということは、私のことを援護するためだ。
 何も言わずとも、そうすることが必要だと判断した上なのだろう。

 この国で商売する者は全商連の存在を避けて通れない。現在も加盟者、利用者が増え組織は大きくなる一方で全商連は場合によっては国をもまたぐ組織である。
 圧倒的な流通経路。それに加えて信頼は厚く、この国で商売するのに全商連を敵に回すと生きていけないとまで言われている。

 その反対に、対価を払うと守ってもらえる。
 ただの商売人の集まりではなく、商売するにあたり縄張り争いだとかそういったことの解決まで請け負う。
 ただし、さっきも言ったが対価が必要だ。慈善事業ではなくてあくまでそれらも商売。

 身分だけでいうと貴族のほうが上であるが、彼の、彼らの持つものを考えると十分な牽制となる。それだけの力がライルたちにはある。
 だから、私の成果の証明とともに、全商連と繋がりのある者の信頼を裏切るなと文字通り脅しでもある。

 まっすぐに相手を見据え待つユーグに、ライルが空気を変えるようににこっと笑みを浮かべる。
 ただ、その瞳は気を抜くことは許さない鋭さを持っていた。

「私たちがここに店を構えたのは我らのエリザベス様とやり取りするためです。利益というよりは、商品の受け渡しや情報交換の場として利用することが主な目的でした。バカ高い相場料と審査はとてもきつかったですが、お嬢様のためなら我々えんやこらです。しっかり今では利益も得ている。さすがリズ嬢の作る物。やっぱり女神。最近はここにいち早く商品が届くとどこかで噂を聞きつけたお客さんも来ますから、いやぁ、本当に審査通って良かったです」
「わかりました。エリザベス嬢の能力は学園に入学する前から秀でていたということですね」

 無駄に長いライルの説明。
 一言で済むのにいらない情報が多かったけれど、それらはあっさりスルーして関係性や私が証明したかった能力についてユーグは理解してくれたようだ。

 ライルのアゲアゲ褒めに苦笑しながら、私自身も説明をと口を開いた。

「お金が絡むことなので周囲にはこれらのことは相談しているので問題ありません。売り上げはテレゼア領土の発展整備へと少しながら貢献させていただいております」
「土台があると商売しやすいですし、整備のおかげで活気づいてきましたよね。我々もありがたいです。リズ嬢の非凡な頭脳と魔法から作られる薬は、安価なものから高価なものまでどれも効き目ばっちりですからね。イース商品は信頼性高く出回っております。信頼度と利益率が高いなんて素晴らしいことです。本当にリズ嬢の視野の広さと柔軟性には驚かされることばかりです」

 さっきの違和感なんてなかったかのようにライルはにっこり誇らしげに顎を上げ軽く笑い、そろちゃんを出して顔の横でかちゃかちゃと音を慣らす。
 楽しいよと効果的に表現しているつもりなのだろうけれど、それ、たまに武器になるやつだから。

「……そうですか」
「そうですよ。イース商品はリズ嬢がいる限り伸び代しかないです!」

 微妙な間はあったがユーグも納得したようだし、第一段階クリアよ、クリア。
 そう思わないと、あれこれ突っ込みどころ満載で話が進まない。
 薬学の知識を信頼してもらうには、商品化していることで実績を証明することができるためここに連れてくることが一番手っ取り早かった。

 ──これで多少なりとも見方が変わってくれるといいのだけど……。

 自己証明って結構難しいものだとしみじみと思う。
 あと、なんだっけ? 普段の行動を知りたいということだったので、それも一つ達成だ。
 薬を作ったり、売ったり、利益を領地で活用したりと、公爵家の娘として良い仕事しているはずだ。

 普段の行動を呆れられている分、真面目な一面(?)というのも見てもらえたら好感度は少しくらい上がるのではないか。
 少なくとも、今までより下がるということはないはずである。
 私的にはいろいろこれで済んだと思っているのだけど、さっきからプラス思考に持っていきたいのに冷ややかな空気を漂わせるユーグの真意がわからず、結局、眉尻を下げて愛想笑いを浮かべた。

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