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第二部 第二章 学園七不思議
ざわつくそうです③
しおりを挟む「俺もエリーと呼んでもいいか?」
「えっ?」
「それと俺のことは、サミュエルと呼べ。敬称はいらない」
この体勢で言うことがそれ?
私はふるふると小さく首を振った。いまだに顎を掴まれたままなので、大きなアクションがとれない。
「王族の方に、それは無理です」
「ルイのことはそう呼んでいるのに?」
「それは付き合いが長いからと、ルイがそう言うので」
身分を知らない時期があったこと。知った後でも、可愛くおねだりされ、こちらも負い目があったので逆らえなかった。
あの時のルイの可愛さは殺人級だった。そんな可愛い友人に逆らえるすべを当時の私は持ち得ていない。
だから、それとこれはまた違うだろうと告げると、納得できないとばかりにサミュエルはしみじみ呟いた。
しみじみ、なんだかしみじみ胸に沁みてくる。これは距離が近いせいか。
「俺たちも一年は一緒にいる。人によって贔屓はよくないと思うが?」
「贔屓ってほどのことでもないと思いますが」
「贔屓じゃなければ差別だろ? 俺もルイと同じ王族でありながら友人だと思っているんだが? 王子も友人もルイとは同じ条件だ。なら同じように接してほしい」
瞳の赤が増し、獲物を狩るかのように私を捉えてくる。
「なんか、強引ですね」
「……ああ、そうかもな。それくらいしないとエリーは聞かないだろう?」
意地悪そうにサミュエルがにやっと笑い、豪胆に認める。
しかも、しゃべるたびにかかる吐息。なぜこのような体勢で話す必要があるのか。
「なあ。そろそろ俺もルイと同じ位置に置いてもいい頃だろ? それとも俺のことが嫌いか?」
「嫌いじゃありません」
「なら、いいだろ? 女子でこんなに話せるのはエリザ、……エリーだけだし、エリーだってもう俺には慣れただろ? 来年になったら本格的に実地演習も入る。信頼関係を深めるためにも良いと思わないか?」
確かに、このままいくと王子たちと組まされることは増えそうだ。
彼らとの魔力の相性も良く、互いに邪魔をせず力を使えるのはとても貴重だ。
「そうですね」
「なら。決まりだ。これからよろしくな」
決まったようだ。
丸め込まれてしまったけれど、本人が望んでいるのならそれでいいとしよう。
「よろしくお願いします」
「何かあったら頼れよ。ユーグやルイが頼りにならないと言っているわけではないが、力は一番俺が強い。そして頼れと俺が言っていたことはしっかり覚えておけ」
「はい。ありがとうございます」
矢継ぎ早に告げられ、私はその勢いに圧倒されながらこくりと頷いた。
口元が緩んでいくのを止められなかった。
嬉しい。そんな感情が胸を支配する。
結局、サミュエルは『頼ってほしい』と言いたかったようだ。
していることを『やめろ』ではなくて、やる前提で何かあれば頼っていい。何かを知らなくてもそれでいいと言われ、随分と信用されていることを教えられる。
ルイもそうであったが、いろいろ察しながらも深く聞かないでいてくれるようだ。
ユーグと私のコンビは不自然であるとともに、それだけで彼らには思うことがあるようだ。それで今回のこの話なのだろう。
王族だけど、気取ってなくて頼りになって、こうして心を砕いてくれる友人を持てたことが本当に嬉しくて、もう一度言いたくなって口を開く。
「サミュエル。本当にありがとう」
思えば、転生を繰り返したこれまでの生で、ルイを含めここまで親しくしてきた学友はいなかった。
運命に抗おうと必死で、気持ちを砕く友人関係を学園内で築いてこなかった。
だから、嬉しい。
心がほこほことする。
「お、おう。何かあれば必ず教えろよ。ルイにも言ってないんだろ?」
「ええ。はっきりすればお話しします。その時にサミュエルの力を貸してほしければお願いしますね」
私がにっこり笑って彼が望む言葉を口にすると、ぱちくりと目を大きく見開き続いてくしゃりとサミュエルは笑みを浮かべた。
「ああ」
サミュエルは納得したのか笑みを深くすると、やっと顎から手を離した。
通常通りの距離で視線を合わせ、そこで互いに我に返る。
「ちょっと、やっぱり近すぎましたね。そろそろ帰りましょうか」
「……そうだな」
美しい夕日を背に私たちは寮へと戻った。
その夜、私は超がつくほど機嫌がよかった。心強い味方が増え満足だ。
「いい人たちばかり……」
王子ってだけで苦手意識を持っていたのが、かなり昔のことのようだ。
「キラキラはいいキラキラ~。ネバネバはネバネバ~。サラサラは、サッラサラ~。はいよっ!! よいせぇ~!!」
気分のまま歌を歌い、慣れた手つきで葉をこして意気揚々と新薬開発に勤しんだ。
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