詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

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第二部 第二章 学園七不思議

七不思議ではないんですけど④

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「そんなに有名なんだねぇ。知らなかったな~」
「女子寮のある一部だけで噂になっている話ですからね。友人の友人にそういえばと話すくらいの話ですが、意外と知っている人がいるのかもしれません」

 受け入れられる、というパターンもあるようだ。
 語られるにも、内容や語る人や伝える人の心情によって伝わり方も変わる。

「面白いですね」
「そうだねぇ。噂って面白いよねぇ」

 感嘆の声を上げると、それを聞いて同意したニコラが笑みを深くし、サラが嬉しそうに話しかけてくる。

「そういえば、エリザベス様は聞かれたことはありませんか? 私の友人の部屋はエリザベス様とさほど離れておりませんのでもしかしたらと」
「そうなんですか? いえ。私は聞いたことはありません」
「そうですか。彼女はエリザベス様の部屋がある周辺で聞いた人が多いとのことでしたので、もしかしたらエリザベス様もお聞きになったことがあるのではと思ったのですが」

 どこか残念そうにポツンと呟いたサラの、こげ茶色の髪が肩下でふわふわと揺れる。
 くりくりとした瞳はこの話題を広げたかったと言っていた。

 それはこの手の話が好きだからか、私に関わる話を共有したかったからか。そのどちらもだろう。
 控えめでありながら、サラの私へと向ける好意はいつもまっすぐだ。

 お茶に誘えば、ほんのりと頬を染めて喜ぶし、話しかければ花が舞い散らんがごとく嬉しそうに顔を綻ばせる。
 控えめながらわかりやすい好意を見せられて、私だって嬉しい。それが可愛らしいと思う。

 今はそのことよりも、ゆっくりと浸透してきた言葉の内容に冷や汗ものであった。
 もしかしたらという可能性を捨てきれず、くりっくりの茶の瞳を見つめるがきょとんと返ってくるだけで、可能性はあくまで可能性としかわからなかった。

 私の部屋の周囲で聞こえる音。
 朝、昼、夜、規則性はない。そして、私は聞いていないが、周囲の部屋ではちらほら聞こえているらしい。

 ──まさか、ね。

 うん。まさかだ。

「まあ。そんな不気味な音を聞いていて楽しめる人は稀だと思いますわ。エリザベス様が聞いてなくてよかったじゃないですか」
「そうですね。すみませんでした」

 怖がりのドリアーヌからすれば、音が聞こえるという時点で無理なのだろう。
 しゅんと肩を落とすサラに、私は内心の焦りを隠しなだめるように言い添える。

「気にしないで、サラ。どちらかというと聞いてみたいなとは思いますけど、ドリアーヌ様は心配してくださったのですものね。ありがとうございます」
「そうですか。私はこの手の話がやはり苦手でして。女子寮の話は身近でしょう? なので想像してしまうので、話を聞いてぞっとしました。もしその周囲でエリザベス様だけ聞かれてなかったりしても、それはそれでいろいろ考えてしまって……」

 ドリアーヌの最後の言葉に私は顎を引いた。

 ──わぁ、私もぞっとした! したんですけど。

 と、激しく心の中で突っ込んだ。チョー、コワッ。
 すっかり他人事だと思って聞いて答えていたことに。自分の間抜けさと、勝手に語られる話に。

 自分だけ聞こえないという言葉から、なんとなく思い至ってしまった。
 もしかしてその音、自分が元凶ではないかと一度思うとそれ意外に考えられなくなってきた。
 本当、怖っ。なんか、よくわからないけど軽く鳥肌が立つ。

 自分だけ聞いてない。
 いや、この場合は自分が聞きすぎて耳慣れしすぎて疑問に思わなかっただけだ。

 つまり、音の元凶は、朝、昼、夜、関係なく気分が乗ったときに作る薬草をすりつぶす音。
 そして、リズムが変わるのも、また気分によって動かす手の速さが違うからだろうし、歌を歌いながらすることもある。

 考れば考えるほど自分が作り出す音ではないかっ!?

 ──ああ~、七不思議が作られていく過程を見た上に、自分が元ってありえない!

 これは絶対黙っておこう。
 ルイあたりにこの噂がいけばバレる可能性はあるが、あくまで女子寮の噂ってことで王子たちの耳にいちいち入ることではないだろう。

「七不思議もそうだけど、噂って面白いよねぇ。葉っぱレディもその音も俺が男だから知るの遅かっただけで、もっといろいろありそうだよねぇ?」

 ニコラが面白そうに唇を緩め、肘をつき期待を込めた眼差しを私に向けた。
 私は目を細め、にぃっこりと笑みを浮かべる。
 知らぬ存ぜぬを突き通すからには、これしかない。

「噂はあくまで噂ですよ」
「うん。そうだねぇ。……でも、その中の真実を見つけるのって面白いと思うけどねぇ」

 口端をちょこっと持ち上げ優雅に微笑むニコラの言葉は、移り変わる女性陣たちの話に掻き消えた。


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