詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
157 / 185
第二部 第五章 これから

ルイの本音③

しおりを挟む
 
「私はルイたちが駆けつけてきてくれた時、本当にほっとした。助けがくることは信じていたけれど、今回の相手はあまりにも未知だったから……」

 その時の自分の気持ちは伝えなければと言葉を重ねていたが、ルイのつらそうな表情に私は言葉を切った。

「……今回のことでエリーがいない世界なんて考えられないと心底思い知った。出会ってからずっと放っておけなくて、一時も目を離したくないくらいエリーのことが気になるんだ」
「それは何するかわからないから?」
「それもある」

 まっすぐ向けられる熱量に耐えきれなくて少し冗談を言うと、こくりと力強く頷かれた。
 ルイが普段からどう思っているのかよーくわかったが、茶化す雰囲気でもないので神妙にルイの言葉を待つ。

「僕はエリーの心も身体も守りたい。そのために、どうか僕に君の大事な秘密を教えて。一緒に考えさせて」

 改めて告げられた言葉に、ルイの意気込みを感じる。

「ルイ……」
「エリー、こっち見て」

 いまだに額を合わせ視線は絡んだままで、吐息は話すたびに互いに触れる。
 それなのにさらに見ろと告げるルイ。今日のルイはとことんいつもと違う。
 でも、それはルイが本音を教えてくれているようで、さらに心に近づこうとする行為のように思えて、私はこんな時に不謹慎だけど嬉しくなってふにゃりと頬を緩めた。

「エリーったら。その顔反則」
「えっ?」

 ふっとルイは目を細めると、腰に回していた腕を私の両頬へと移動させた。逃げる気はないが、逃げられないように固定される。
 さっきと角度も近さも変わらないのに、自由を奪われると全神経が目の前のルイへと向かう。

 どくん、と鼓動が鳴る。
 頬が熱くなる。

 ──なんで、そんな顔で……。

 私を見ているのか。
 まだ、私は何も話していないのに、愛おしさを隠しもしない。まるで姉と同じようにその瞳は私だけを映していた。

「エリーを守るよ。ずっと好きだったんだ。まだ言わないでおこうと思ったけれど、エリーは言わないと気づきもしないからね。僕の気持ちがエリーを留めておくことの一つになるのなら、喜んで告げるよ」
「…………」

 突然の告白に驚きで目を見開くと、私の反応を予期していたルイは穏やかに笑う。
 ここで、私の大好きな笑顔。

「マリア嬢がどうしてあれだけ頻繁に騒ぐのか、ひっきりなしに愛を叫ぶのかと疑問に思っていたけれど、今回のことで少しばかりだけど彼女の気持ちがわかったよ。何よりもエリーが大事だから、伝えないとわからないから、何度でも告げるんだ。二番煎じだけれど、僕も知ってほしい。エリーが好き」

 ふふっと、吹っ切れたように告げられ、すりっと長い指で頬を撫でられる。
 知っている顔なのに、笑顔なのに、本音をぶつけたルイは清々しく切り替え余裕さえ見せる。全てを包み込むように微笑む男の顔に当てられて、異様に顔が熱くなった。

 何か言わなければとはくはくと口を開閉させると、それさえも楽しむかのように頬を撫でられたまま見つめられる。
 こくり、と喉を鳴らして、とても大事な気持ちをもらったのだと必死で受け止め考えて、私はやっとのことで気持ちをまとめあげた。

「……その、気持ちは嬉しいけれど、正直恋だとかわからないの。恋愛を意識する余裕がないというか」
「わかってる。もしかして、そういうのもエリーの秘密に繋がってる?」

 あたふたとする私に反して、私のことを長年見ていたルイは落ち着いたものだ。

「……そうだと思う」
「急かすつもりはないよ。知っていてほしいだけ。忘れないでいてくれるなら、当分は今まで通りでいいと思ってるから」
「ルイ……」

 ルイの瞳が、私の憂いだけを拾おうと覗き込んでくる。

「そんな顔しないで」
「ごめんなさい」
「だから、気にしないで。勝手に気持ちを告げたのは僕だからね。まずはエリーが危ない目に遭わないための話をしたい。エリーが関係ないと考えていても、関係することだってあるかもしれない。その可能性を考えるだけで苦しくなるよ」

 自分の気持ちは二の次で、結局は私のために行動しようとするルイの姿に、気持ちを受け止めきれないのに、返せないのに、ひどく切なくなった。
 だけど、どうしても気持ちが『恋愛』に向かない。

 関係を大事にしたい。好きという気持ちはある。
 それは両親や姉にだって、ペイズリーやライル、学園でできた友人、王子たちにだってある。それぞれ向けるものの種類が違うことだってわかっている。
 でも、わかっているだけ。

 やっぱり、転生を繰り返すことをどうにかしないとその先を考えられないのだろう。
 十七歳を迎えたことのない私は、その先の、未来のビジョンがちっとも浮かばない。不器用な自分は、あっちもこっちもと気持ちを振り分けられないのだ。

 申し訳ない気持ちはあるものの、こんな中途半端な自分には何も返せない。
 私は結局ルイの言葉に甘えた。

「ありがとう。その、今すぐ気持ちに応えられなくて本当にごめんなさい。それでもルイにはこれからもそばにいてほしいと思ってる。話を聞いてくれますか?」

 大事だからこそ、今までそばにいてくれたルイには聞いてほしい。知ってほしい。
 そんな思いを込めた私の気持ちを正確に汲み取ってくれたルイは、ゆるりと微笑んだ。
 ふっと目を細める仕草はいつものように穏やかで、それでいて今まで見せなかった男性的な色香が滲む。

 私は圧倒された。
 何せ、いまだに密着しながなのでもろに食らってしまった。

 ──これのどこが今まで通り!?!?

 隠さなくなったルイは言葉通り私に急かすつもりはないだろうが、出したからにはこれからも隠すつもりはなさそうだ。

 先行きが不安だ。やっぱり王子スペックすごすぎない?
 大事な話をする前にルイの色香に惑わされないようにと、当初の決意とは若干違う気合を私は入れたのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...