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第二部 第五章 これから
ルイの本音③
しおりを挟む「私はルイたちが駆けつけてきてくれた時、本当にほっとした。助けがくることは信じていたけれど、今回の相手はあまりにも未知だったから……」
その時の自分の気持ちは伝えなければと言葉を重ねていたが、ルイのつらそうな表情に私は言葉を切った。
「……今回のことでエリーがいない世界なんて考えられないと心底思い知った。出会ってからずっと放っておけなくて、一時も目を離したくないくらいエリーのことが気になるんだ」
「それは何するかわからないから?」
「それもある」
まっすぐ向けられる熱量に耐えきれなくて少し冗談を言うと、こくりと力強く頷かれた。
ルイが普段からどう思っているのかよーくわかったが、茶化す雰囲気でもないので神妙にルイの言葉を待つ。
「僕はエリーの心も身体も守りたい。そのために、どうか僕に君の大事な秘密を教えて。一緒に考えさせて」
改めて告げられた言葉に、ルイの意気込みを感じる。
「ルイ……」
「エリー、こっち見て」
いまだに額を合わせ視線は絡んだままで、吐息は話すたびに互いに触れる。
それなのにさらに見ろと告げるルイ。今日のルイはとことんいつもと違う。
でも、それはルイが本音を教えてくれているようで、さらに心に近づこうとする行為のように思えて、私はこんな時に不謹慎だけど嬉しくなってふにゃりと頬を緩めた。
「エリーったら。その顔反則」
「えっ?」
ふっとルイは目を細めると、腰に回していた腕を私の両頬へと移動させた。逃げる気はないが、逃げられないように固定される。
さっきと角度も近さも変わらないのに、自由を奪われると全神経が目の前のルイへと向かう。
どくん、と鼓動が鳴る。
頬が熱くなる。
──なんで、そんな顔で……。
私を見ているのか。
まだ、私は何も話していないのに、愛おしさを隠しもしない。まるで姉と同じようにその瞳は私だけを映していた。
「エリーを守るよ。ずっと好きだったんだ。まだ言わないでおこうと思ったけれど、エリーは言わないと気づきもしないからね。僕の気持ちがエリーを留めておくことの一つになるのなら、喜んで告げるよ」
「…………」
突然の告白に驚きで目を見開くと、私の反応を予期していたルイは穏やかに笑う。
ここで、私の大好きな笑顔。
「マリア嬢がどうしてあれだけ頻繁に騒ぐのか、ひっきりなしに愛を叫ぶのかと疑問に思っていたけれど、今回のことで少しばかりだけど彼女の気持ちがわかったよ。何よりもエリーが大事だから、伝えないとわからないから、何度でも告げるんだ。二番煎じだけれど、僕も知ってほしい。エリーが好き」
ふふっと、吹っ切れたように告げられ、すりっと長い指で頬を撫でられる。
知っている顔なのに、笑顔なのに、本音をぶつけたルイは清々しく切り替え余裕さえ見せる。全てを包み込むように微笑む男の顔に当てられて、異様に顔が熱くなった。
何か言わなければとはくはくと口を開閉させると、それさえも楽しむかのように頬を撫でられたまま見つめられる。
こくり、と喉を鳴らして、とても大事な気持ちをもらったのだと必死で受け止め考えて、私はやっとのことで気持ちをまとめあげた。
「……その、気持ちは嬉しいけれど、正直恋だとかわからないの。恋愛を意識する余裕がないというか」
「わかってる。もしかして、そういうのもエリーの秘密に繋がってる?」
あたふたとする私に反して、私のことを長年見ていたルイは落ち着いたものだ。
「……そうだと思う」
「急かすつもりはないよ。知っていてほしいだけ。忘れないでいてくれるなら、当分は今まで通りでいいと思ってるから」
「ルイ……」
ルイの瞳が、私の憂いだけを拾おうと覗き込んでくる。
「そんな顔しないで」
「ごめんなさい」
「だから、気にしないで。勝手に気持ちを告げたのは僕だからね。まずはエリーが危ない目に遭わないための話をしたい。エリーが関係ないと考えていても、関係することだってあるかもしれない。その可能性を考えるだけで苦しくなるよ」
自分の気持ちは二の次で、結局は私のために行動しようとするルイの姿に、気持ちを受け止めきれないのに、返せないのに、ひどく切なくなった。
だけど、どうしても気持ちが『恋愛』に向かない。
関係を大事にしたい。好きという気持ちはある。
それは両親や姉にだって、ペイズリーやライル、学園でできた友人、王子たちにだってある。それぞれ向けるものの種類が違うことだってわかっている。
でも、わかっているだけ。
やっぱり、転生を繰り返すことをどうにかしないとその先を考えられないのだろう。
十七歳を迎えたことのない私は、その先の、未来のビジョンがちっとも浮かばない。不器用な自分は、あっちもこっちもと気持ちを振り分けられないのだ。
申し訳ない気持ちはあるものの、こんな中途半端な自分には何も返せない。
私は結局ルイの言葉に甘えた。
「ありがとう。その、今すぐ気持ちに応えられなくて本当にごめんなさい。それでもルイにはこれからもそばにいてほしいと思ってる。話を聞いてくれますか?」
大事だからこそ、今までそばにいてくれたルイには聞いてほしい。知ってほしい。
そんな思いを込めた私の気持ちを正確に汲み取ってくれたルイは、ゆるりと微笑んだ。
ふっと目を細める仕草はいつものように穏やかで、それでいて今まで見せなかった男性的な色香が滲む。
私は圧倒された。
何せ、いまだに密着しながなのでもろに食らってしまった。
──これのどこが今まで通り!?!?
隠さなくなったルイは言葉通り私に急かすつもりはないだろうが、出したからにはこれからも隠すつもりはなさそうだ。
先行きが不安だ。やっぱり王子スペックすごすぎない?
大事な話をする前にルイの色香に惑わされないようにと、当初の決意とは若干違う気合を私は入れたのだった。
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