詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
163 / 185
第二部 第五章 これから

推測②

しおりを挟む
 
「私には転生の記憶があるの……」

 私はそう切り出し、繰り返す転生の話をした。
 シモンに問われた時は話すことでどんな影響を及ぼすかわからなかったので濁したけれど、昨夜で覚悟が決まった。

 考えたところで向こうからやってくるなら、気持ちの赴くまま周囲とともに楽しく頑張っていきたい。
 そして、話すならまず長く友人でいてくれた、待っていてくれたルイに。

 どれも十七歳を超えられず、最初は十六歳も超えられなかったこと。
 それにはマリアが関わっているらしいけど、直接の原因ではなくて毎回試行錯誤中であること。
 十七歳の壁と思われる女性とは、大きな接触は今のところしていないということ。

 ルイは静かに聞き私が語り終えてもしばらく考えるように黙っていた。
 しばらくするとたくさん話して少し興奮状態にある私をなだめるように、温かく同情に満ちた声音が降りてきた。

「……繰り返す転生、か。エリー、大変だったね」
「そう、だね」

 まず労わられ、よしよしと包み込むように軽く身体を揺すられ、私は目頭が熱くなった。
 信じてもらえないかもと考えていたことなんて杞憂だとばかりに受け入れられ、ぶわっと気持ちが高揚する。心が喜びと安堵で満ち震えた。
 赤ん坊をあやすようにゆらゆらと身体を揺すられて、落ち着いてきた頃にルイが話を続けた。

「何度も同じ時を戻ってもいつも進み方は違い、僕たちとも今回が初めてってことで合ってる?」

 落ち着くのに必要な時間と、過去に引きずられすぎない絶妙な優しい間に、私たちが培ってきた確かなもの・・を感じる。

「家族や使用人は当然一緒だけど、私が何をするかで出会う人は違ってきていたから、ルイたちのこともよく知らなかった」
「それはそれですごいね」

 呆れを含む声に、自分でも把握コントロールできないすべての力が抜ける気がした。
 余計なことを考えるのを放棄し、話したいように口を開く。

「だけど、最後はいつも一緒。衝撃はあるけど痛みを覚えていないのは救いと言えば救いなのだろうけど、何度も転生ってお得というよりはもう罰ゲームみたい」
「確かに人によってはやり直しはありがたいことかもしれないね」
「どうしてそう・・なのかはまだわからないし、マリア姉様のあの愛情をうまく受け止められたら十六歳は超えられるとはいえ毎回奮闘したわ。避けすぎたらさらに愛情深くなったし、受け取り過ぎてもこっちが身動きできなくなるし」

 振り返れば、試行錯誤の長い道のりだ。
 思い出して遠い目をしていると、ルイがとすっと顎を頭に置いてきた。

「僕自身が経験したわけではないし不思議ではあるけれど、ずっとエリーを見てきたこととマリア嬢の態度で妙に納得している自分がいるよ」
「本当?」

 背後にいるルイを見上げると視線が絡み、思わず微笑むとルイも柔らかく笑う。
 なんの淀みもなくルイが自分の話を聞いてくれていることが嬉しかった。

「うん。エリーがこんな嘘ついても仕方がないしね。僕は信じるよ。そうなるとこれからが問題になるんだね?」
「今まで十七歳は越えたことがないから」
「余生がどうとか言ってたのもそこに繋がってるんだね。ところで、この話を聞いてもどうして公の場を避けようとしてたのかわからないんだけど。僕たち王族も避けられてたよね?」
「それは、……私なりの理由と、さっきの話とは別に不確かだけど心配していることがあって」

 ある程度呪縛のルールがわかってからは、マリアやソフィアの周囲のごたごたに巻き込まれないようにひっそり行動をしていたことを話す。
 そしてこれは最後まで迷ったけれど、乙女ゲームの説明は難しいので日本人であった時の記憶のことは伏せることにした。

「今世で頭を打った時に王国に関わる事件で私は無関係でいられないお告げのようなものが降ってきて、転生を繰り返しているし無視できない情報のような気がして」
「確かに、エリーにとって繰り返す頭を打つという行為の時に思い出すものは気になるね」

 私の頭打ちが説得力を持たせたようで、ルイが納得してくれた。
 助かるけれど、ちょっと複雑だ。

「マリア姉様はある程度は仕方がないとして、もう一人の彼女と、誰がどこまで関わってくるのかはわかないからその周囲の目立つような男の人たちには関わらないほうがいいと考えていて。王子殿下はその筆頭だし、国なんてものに関わるのも不安で」
「…………なるほど」
「ごめんね。ルイが王族だとわかる前の話だから。それで、昨夜のことも含めて王国に関わる事件は本当にあるかもしれないと思って」

 昨夜から考えていたのだけど、今までの転生ではヒロインやヒーローっぽい人たちに関わることを極力避けていたから、自分のステージが解放されていなかったのではないか。
 これは小説の読みすぎであくまで想像なのだが、そういう展開というか設定? というのもありえなくはない。

 だけど、今回の私はルイに出会っている。その前にシモンにも出会っていて、乙女ゲームのヒーローが誰かは知らないけれど王子が入っていないことはないだろう。
 あくまで推測の域だけど、エリザベスがすべての王子に関わると物語が進むのではないだろうか。

 クリアできない二人の主人公たちに付き合わされて、むしろクリアできないように設定されていて転生を繰り返していた。
 友人がエリザベスと関わることでどうたらこうたらと言っていたから、避けるよりは積極的に関係を築くのが正解だったのかもしれない。

 そう考えると辻褄が合う。あくまで設定としてだけど。
 愛情深いマリアとうまく関係を築けたから、十六歳の呪縛からは解放された。ソフィアとのことはよくわからないけれど、彼女を避けるのではなく知る必要があるのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...