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第二部 第五章 これから
閑話 公爵家の魔法の鍋②
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この日、皆が寝静まった夜中、私はそろりそろりと廊下を歩いていた。
夜間警備の者をうまく避けて目的地に到着すると、左右を確認しささっと身体を滑り込ませた。
静かにドアを閉め、ようやく部屋から持ってきたライトをつける。
くふくふと笑いが止められない。
現在両親は王都の屋敷に数日泊りがけで行っているので、もし見つかっても特大な雷を落とす者は不在。絶好の行動日和。
「えへへへへっ」
日中、あれこれと自由に行動しているが、基本良い子の私は就寝時間を守り規則正しく過ごしていたので、夜の行動は背徳感も伴ってテンションが高かった。
それでいて、誰の目にも見咎められずここまでたどり着いたことで達成感もあり妙に興奮する。
これからのことを思うと、いつもはぐっすり夢の中にいる時間なのに目がぎらぎらしてちっとも眠くない。
宝探しのようなドキドキした気持ちが次から次へと溢れ出し、頬が勝手に緩むことを止められない。
「よぉーし。どこにあるのかなぁ?」
やる気満々袖をまくり上げ、手当たり次第扉を開けていく。
ひとまず何がどこにあるか把握してからじゃないと、とてもじゃないが永遠に時間がかかりそうだ。
「ここからに決めたっ」
独り言を言ってしまうのは、ちょっぴり心細かいからだ。静まり返った暗い夜中に、ぽとっ、ぽとっ、と水音が響く。なにより、力もない自分一人っきり。
いくら楽しみだったとしても、実際夜中に子供一人は心もとない。しかも曰くつきの物を探すのだから、ドキドキの中には不安も混じっている。
カチャッ カチャッ
なるべく音を立てずにと捜査したいが、目的のものはどうしても重なって置いてあるのでぶつかる音がする。
「大人目線でよく使うものじゃなくて、子供目線で探すってありだと思うんだよねー」
私、冴えてる~と自画自賛。
これがバレたら母の眉間が寄り怒られること必須だが、やらない後悔よりもやった後悔のほうがいい。
たとえ見つからなくても、探さないほうが後悔する。自分で探してなかったと納得しなければ諦めがつかない。
それだけ、私にとっては魅力的なものだった。
よいせっと大きな鍋や可愛らしい大きさの鍋を並べていく。大中小、特大、取っ手の位置と、用途によって使い分けるため様々な鍋がしまってあった。
十個ほど並べたところで腕を組み、じぃっと見比べていく。気分はお宝鑑定士。
「ううーん」
ふむふむと一つひとつ手にとって、鍋の底から裏側までしっかり見てみるがあまりピンとこない。
いつ寝室の不在を気づかれるかわからないため、あまり時間もかけていられない。
とにかく目に付いたものを出してしまおうと、調理台のところはもちろんのこと、乗りきらなかった物は椅子の上に置いていった。
気づけば鍋祭り。見るからにお高そうな金ぴかの鍋まで出てきて、ここまで並ぶとお店屋さんみたいだ。
「ああー、見つからない!」
想像はしていたが、今まで見つからなかったものがそんな簡単に見つかるわけがなかった。
さすがに疲れたと、鍋を置いてあった椅子の上に鍋を退けて座る。
足をぶらぶらさせて、ぐるりと部屋を見回し溜め息一つ。
「古い魔道具ってロマンだと思ったんだけどなー」
ぶらんぶらんと前後に足を動かしながら、諦めるべきかもう少し頑張るべきかと、うむむーと身体を反らせて天井を見上げた時だった。
「んっ? んんーーー????」
見上げながら、天井の左右に視線を走らせもう一度そこを確認する。
──なんとなく、丸く色が違う?
そこから下に目線を下げると、火を使う日本でいうところのコンロみたいな場所があってその下には収納棚。
ちょっとした違和感だ。そこでよく鍋を使うからそこだけ変色した可能性のほうが高いけれど、妙に引っかかった。
私はとんっと椅子から降りて、その下へと移動した。
扉を開ける穴に指をかけてぐいっと引っ張るが、ぴくりとともせずに手がつるりと外れてしまう。
さっきも一度試したところだ。まるで接着剤がついているかのように固すぎて開けるのを断念したが、こうなってくるとなおさら気になった。
「開けられない扉とか余計に怪しい。本当にここに閉まってあるとしたら、ストライキしたまま拗ねてドアも開かないようにしてるとか? 魔道具にかけられた魔法でそこまで干渉できるものなの?」
魔法は奥深く、しかもストライキするような鍋。
人と同じように気分があって、魔道具に備わっている魔力で物理的に影響を与える可能性もあるのは無視しないほうがいいだろう。
「ええっと、あとは何を言ってたっけ? あっ、波長が合う者を待っているという話だった。波長、波長、……魔力?」
じっ、と収納棚を見つめる。
「まっ、いっか。とりあえず流してみたら。どうせ私の力では普通に開けられないし」
そろそろ戻らないといけないし、無理だったらまた日を空けて対策を練って挑戦すればいいだけだ。
ということで、魔法。何がいいかなぁ。
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