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第二部 第五章 これから
閑話 公爵家の魔法の鍋⑤
しおりを挟む「ということなんです」
マリアや周囲に宥められながらことの顛末を話して聞かせると、マリアははぁっと小さく溜め息をついた。
「エリーったら、どうしていつも問題事を引っ提げてくるのかしら?」
「……私もどうしてなのか」
ちょっと気になって行動しているだけなのだが、たまに、…………正直いうとかなりの頻度で今日みたいに大事になることが多かった。
今日だって物探しをしていただけなのだけど、こうして物事が大きくなっている。
ちょっと時間帯とか調理場を荒らしてしまったこととかは後ろめたいが、鍋が勝手に騒ぎ出したことは鍋の勝手であって私のせいではない。解せない。
困ったように眉尻を下げると、怒ってるのよとマリアはぷんぷんと頬を膨らませた。
それを見て、己の行動を振り返る。
ああー、やっぱり私が発端、なのよね。反省。全部鍋のせいにしてしまえたらよかったが、怒られて当然だと気づく。
抜け出して心配させてマリアを含めみんなを起こしてしまった。
夜中ということで、余計に迷惑度がいつもより増している。そこはきちんと反省はしないといけない。
「姉様。ごめ」
「どうして誘ってくれなかったの?」
「えっ?」
「私も一緒にエリーと冒険したかった」
むぅっと拗ねたように頬を膨らますマリアに、私は呆気にとられてぽかんと口を開けた。
怒るところがやはり違う。安定のシスコン発言に、少しだけ身体の力が抜ける。
だけど、今もなお鍋の主張の音が響いており、不安は消えない。
鍋の迷惑極まりない行動の原因が私なのだとしたら、間違いなく自分が原因なのだが、一度は戻らないといけない。
みんなに迷惑をかけて悪いと思いながらも、まだ解決していない状態が気になって、会話も集中しずらく反省にも身が入らない。
心配してくれる人を目の前に反省しきれていない自分に罪悪感を覚えていたが、姉が気にしていたところがそっちだとは。
もちろん、心配もしてくれた上でだということはわかっているが、やはりマリアはマリアだ。
「えっと、一緒に姉様も戻ってくれます?」
「ほかの者がもう行っていると思うけど、鳴り止まないということは鍋はエリー待ち?」
「……多分」
私待ち? 出待ちじゃないんだからやめてほしい。
それに行ったとして鳴り止んでくれるのかわからないし、さらに問題が起こったらどうしようかと不安だ。
なにせ主張がすごい鍋なのだ。
余計にうるさくなりでもしたらお手上げだ。かといって、いまだに鳴り止まない現状では私が行かないことには始まらない。
「大丈夫よ。エリーを見初めるなんてその鍋は見込みがあるかもしれないし、私がしっかりチェックしてあげるわ」
「……よろしくおねがいします」
言い回しが気になるが、一人ではないならなんとかなるかなと、もうどうでもいいかと深く考えるのは諦めた。
私が見つかったと聞いて駆けつけてきたペイズリーやじぃや護衛とともに、マリアにぎゅっと手を繋がれながら来た道を戻る。
調理場に到着すると、問題の鍋の周りに数人の大人が囲っていた。私が近づくと、カンカンカン、カッカッカッカッと細かな音を立てる。
明らかな主張に、私はへにょりと顔を歪めた。
「エリザベスお嬢様に触れてほしいのでは?」
「えっ? 触らないといけないの?」
考えるように顎に手を当てていたじぃに話しかけられ、不安な声を出す。
「先ほどの話では、エリザベスお嬢様の魔力に反応したようですので、料理長にも確認しましたがそこは開かずの扉だったようです。なので、お嬢様に使っていただけないとまたストライキを起こすのではないでしょうか。ほかの者には触るなとばかりに嫌な気配を発していますので」
「あっ、そうなんだ」
なんで、揃いも揃って大人たちが見てるだけなんだろうとちらっと思ってた。ごめんなさい。
「じゃあ、やってみる」
「エリー、気をつけてね」
「うん」
マリアに励まされ、気をつけるってどう気をつけるんだろうと思いながら頷き、気合を入れて鍋の前に立った。
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