27 / 51
白銀と元婚約者
24.金のなる実
しおりを挟むケビンたちが帰る前日。話し合いや開発区域の案内を終え、この日は私たちだけで景色がいい場所へとピクニックに出かけることになった。
今日は彼の従者、私にはインドラとベアティ、そしてお試しということでシリルもそばに控えている。結局、彼の熱意に負け、必ずインドラたちの話を聞くことを約束し同行を許可した。
街を見てもらったら次は森だと、私は予め決めていた果樹園へと案内する。
見晴らしのいい場所を抜ける前にある果樹園の木々は、いくつもの青い実をつけている。
「ケビン様。見てください」
「すごいですね。たくさん実がなっている」
「はい。今年は実のつきがよいので、収穫が期待できでそうなんです。嬉しいことなのでケビン様にも見ていただけたらと思って」
私はここに来る際は土壌に回復魔法をかけ、状態をチェックしてきた。
そのおかげか、秋の収穫がとても楽しみな成長を見せている。
人が急激に増え始め、今はよくても来たる冬に向けて食糧問題は必ずくる。そのためにできることをしておきたいと動いた成果が見え始め、私の気分はよい。
笑みを浮かべケビンを見ると彼はぼうっと私を見ていたが、私がどうしたのかと首を傾げるとはっとして照れたように頬をかいた。
「それは、嬉しいな。教えてくれてありがとう」
「いえ。私が自慢したかっただけなので」
「それでもだよ。収穫が楽しみだね」
「はい。これからも精一杯お世話します!」
土壌に回復魔法をかけているのを知っているのは、家族とインドラとベアティだけである。
回復魔法といっても様々で、この場合浄化魔法も混ざっており、私の回復魔法が状況に応じて勝手に効率化してくれる。聖女スキルの万能さよ。
今はまだ能力の把握中なので公表はしていないが、簡単な回復魔法を使える程度は屋敷の者は知っている。
ただし、それが生き物以外にも使えるとは知らない。
万能であることを知られるのは現段階でリスクのほうが多いため、軽度の傷や状態の回復が使えるくらいなら問題ないだろうとのことになった。
ベアティにすでに行使したこともあり知っている人物もいるので、下手に隠すよりはいいだろうと家族会議をした結果そうなった。
――隠そうとすると、そういった匂いを嗅ぎつける人もいるし……
私はケビンが来るとわかってから計画していたことを実行に移すべく、先に進み一本の木に視線をやる。
「ですが、あの木だけなかなか実をつけなくて心配しているんです」
「葉の状態はほかよりも大きいし状態はよさそうだけど。何だろうなぁ。心配だね」
「ここに来ては様子を見ているのですが」
「きっとその思いは伝わるよ」
これで下地はできた。
死に戻り前、あの木から採れる実は後にとても価値の高いものであることを今から数年後に私が見つけたのだが、手柄や利益、何もかもマリアンヌに奪われてしまった。
あの時はあれよあれよとマリアンヌの聖女という立場、彼女の実家の力で奪われていったが、今度は奪われるつもりはない。
すべてこの地に還元すべく、打てる手は打っておくつもりだ。
あの木からなるのはかなり貴重な物となるため、大金が動く。『金のなる実』と呼ばれていた。
そのため、貴重な物を隠していたとの難癖つけられる可能性がある。
この木を立派に育てて、私は完全にこの地のものであると宣伝するつもりだ。
そのため、あくまで普通に育てて名産にしたよという過程を知る人がいれば保険になると思い、どうせ会うことになるのならケビンに見せてしまう計画を立てた。
死に戻り前に裏切ったのだから、これくらい利用するくらいはいいだろう。
やっぱりケビンを前にすると、死に戻り前のことを考えることが増える。
彼自身に対しては距離を置くと決めているのでもういいのだが、どうしてもマリアンヌの存在を意識してしまう。
それらの感情を出さないよう、私は決意を胸にさらに笑みを深めた。
「ええ。この辺境の地が少しでも潤うように頑張りたいです」
「そうか。そこまで考えて……」
そこでケビンが深く沈んだような声を出した。
「どうされたのですか?」
「家を継ぐわけではないのに、エレナ嬢はよく考えていると思って」
「ここが好きだからです。だから、守りたい。いずれ、この地から出ていくとしても家族がいる限り、私の拠り所であるのは変わらないですから」
だから、二度と奪われるつもりはない。
「僕はまだ領地のことを知ることで精いっぱいだ。エレナ嬢は随分雰囲気が変わったね」
「そうですか?」
「ええ。とてもしっかりしたのと、以前より笑うようになった」
一度目はどうだったかはあまり思い出せないが、人生も二度目なので余裕があるからだろう。
「一度倒れてからここが好きなのだと再認識したので、そのせいかもしれません」
「僕もエレナ嬢みたいに帰ったら頑張るよ」
「ええ。頑張ってください。ケビン様ならきっと盛り上げることができます」
隣の領地が安定していることは、私たち子爵領にとってありがたい。
心からそう告げると、ケビンが感銘を受けたと熱がこもった視線を向けた。
「エレナ嬢、君と出会えて、領が隣で僕は幸運だよ」
子供の時はとても素直だ。もしくは、人生二度目だからこのように思うのだろうか。
冷静にケビンを観察したその瞬間、温かな日差しを一瞬で冷やすような寒気を背後から感じ、私はぶるりと身体を震わせた。
313
あなたにおすすめの小説
国王一家は堅実です
satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。
その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。
国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。
外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。
国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。
BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。
後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。
新しい兄は最悪だった。
事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。
それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか?
本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
私の妹…ではなく弟がいいんですか?!
しがついつか
恋愛
スアマシティで一番の大富豪であるマックス・ローズクラウンには娘が2人と息子が1人いる。
長女のラランナ・ローズクラウンは、ある日婚約者のロミオ・シーサイドから婚約解消についての相談を受けた。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる