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赤と青の遊戯
33.お詫び
しおりを挟む「エレナ様、本当に行くのですか?」
「第三王子殿下の茶会だもの。さすがに避けられないわ」
「またあの双子に会うんですよ」
やめないかと提案してくるベアティに答えると、シリルが嫌そうに顔をしかめる。
二人は双子が嫌で仕方がないらしい。
理不尽に水をかけ、言いたいことを言って去っていく自由な貴族の子息。
関わってもいいことはないので気持ちはわかるが、事あるごとにその話をしては茶会の参加をやめさせようとしてくるので困る。
「双子に会いに行くわけじゃないのよ。第三王子殿下のお茶会は避けて通れない行事だもの。学園に入学するなら身分関係なくとのことだから二人も参加できるし、友達できるかもしれないよ?」
「俺はエレナ様がいればいい」
「僕もだよ」
憮然と告げられ、私は苦笑した。
私があまり領外に出ない弊害なのかもしれない。王都で多くのものに触れれば、また考えも変わるだろう。
ここは慌てず、今の気持ち、私たちの関係を大事に接するしかない。
「私も二人がいるのは心強いわ。今回のことは必要なことだから、こればかりは二人の話を聞けない。それに二人が守ってくれるのでしょ?」
本当はこれを言いたくなかったのだけど、このままだと話が進まない。
私もできることなら、茶会の主である紫の第三王子殿下、赤と青の双子、そしてマリアンヌがいる場に行きたくない。
とうとうマリアンヌ本人とその取り巻きだった五人が揃うのだ。緊張しないわけがない。
だけど、避けて通れないことだとわかっているので、ここは踏ん張りどころだ。
「なら、その日は必ず一緒にいてくれる? 約束?」
口をきゅっと引き結び、お願いとばかりに熱心にひたと私を見つめてくる。
その瞳に縋るように見つめられると私は断れない。
「そうね。できる限り一緒にいましょう」
それに双子は絡む気満々だったし、マリアンヌにちょっかいをかけられる可能性も高い。そばにいるほうが、互いに守れることもあるはずだ。
何より、ベアティが納得し安心するならそれがいい。
「必ず、敵から守ります」
「好ましいと思える言動ではなかったけれど、必ず敵対するとは限らないからほどほどにしてね」
双子の背後にはマリアンヌ。できるだけもめごとを起こさず、距離を取っておきたい。
「彼らだけではありません」
「そう? いろんな人がいるからね。二人は格好いいから目立つだろうし、性別問わず注意は必要かも」
特にマリアンヌ。
彼女に目を付けられたら大変そうだけれど、先に双子と接触したおかげで今のマリアンヌをしっかり見極めようという気持ちは強くなった。
方針を決めるには、まず相手のことをよく知らなければならない。
「俺たちは誰が寄ってきても変わらない。問題はエレナ様のほうだ」
「私? 私も変わらないよ」
守りたいもののために動く。それがすべてだ。
自分の自由や大事なものを守ることを邪魔する相手はいらない。
にこっと笑うと、ベアティがどこか諦めたように溜め息をついた。
シリルが意気込むように声を上げる。
「僕も大丈夫。重要人物の匂いは誤魔化しが利かないよう確実に覚えるよ」
「頼りにしているわ」
あの時、香水のせいですぐに判断できなかったことをいまだにシリルは悔やんでいた。
普段から調整しているものを当日は全開にするつもりのようで、疲れないか心配だけれど、それでシリルが納得するのなら任せる。
大きく頷くと、シリルが獣耳をぴくぴくと動かした。
「くだらない男は近寄らせもしないから安心してね」
誘われるように手を差し出すと、シリルはしっぽを振った。
耳としっぽをしまえるようになったシリルだが、私たちだけのときはその姿を見せてくれる。触れるとふわっと返ってくるその肌触りに、私は微笑んだ。
そんなやり取りを経て、やってきた茶会当日。
ベアティに貰ったイヤリングとシリルに貰ったネックレスを着けて会場入りした私たちは、さっそく赤と青の双子に捕まった。
「エレナちゃん。待ってたよ~。その衣装とても似合ってて可愛いね~」
「相変わらず鉄壁のガードだね」
間延びした語尾は赤髪の兄ミイルズで、淡々と話すのが青髪の弟アベラルド。
瓜二つの顔が私たちの前に来ると挨拶もそこそこに、ずずいっと近づいてきて遠慮なく私の手に何かを握らせた。
「これ、この間のお詫び~」
「受け取ってね」
渡されたのは水晶だ。サンドフォード伯爵領の水晶は質がよく高値で取引される。
それが何かわかった時には手を離されたため、落としては大変だと思わずぎゅっと握ってしまったが、いたずらで水をかけたお詫びとするにはあまりにも高価な品物だ。
「こんな高価な物、困ります」
戸惑い慌てて返そうとするが、双子は両手を上げて首を振り、受け取ろうとしない。
確かに迷惑をかけられたし、その後の反応も反省も感じられなかったので、彼らの言動に怒ってはいたがこれでは押し売りだ。
受け取ってしまったらそのことを許すことになるし、こんな高級品を受け取ってしまったら借りができたような形になってしまう。
「僕たちも反省しているんだ~」
「二人がかばってくれたけど、エレナちゃんにかかってたら男として最低だなとは思って」
「いえ。普通に水をかける時点で最低ですから」
当たり前のことを告げると、双子は顔を見合わせに大きく頷いた。
それからにこにこと私たちに詰め寄り、兄ミイルズが口を開きかけたその時だった。
「ミイルズにアベラルド! お二人ともこのようなところにいましたの?」
忘れもしない声に、私は瞬時に戦うための笑顔の仮面を張り付けた。
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