二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
39 / 105
赤と青の遊戯

35.回復ポーション

しおりを挟む
 
 茶会は絡まれて以降は、大きな問題もなく終わった。
 マリアンヌは終始ベアティとシリルを気にしているようだったけれど、二人が手を拒んだことからプライドの高いマリアンヌは自ら絡んでくることはなかった。

 最初はどうなることかと思ったが、紫の殿下とも挨拶だけでそれっきり。現在のところ、黒い靄はなしという収穫を得ることができた。
 死に戻り前は殿下の寵愛があったため、マリアンヌは聖女として崇められていった。

 だが、今はそのような噂は聞かないし、彼女と特に親しげな様子にも見えなかった。
 多少覚悟はしていたが、ベアティとシリルが私のところにいるように、王都でも少し変化があるのかもしれない。
 そんなふうに今の状況を観察していたのが数日前。

 今はざあざあと振る雨になすすべもなく、現在私は双子の兄のミイルズと小屋に避難していた。
 窓の外を眺めいっこうに止む気配のない雨に嘆息すると、私と同じように窓の外を眺めていたミイルズが眉尻を下げた。

「エレナちゃん、ごめんね」
「いえ。これは不可抗力ですから」

 そう答えながら、今頃焦っているだろう二人を思い小さく息をついた。

   ◇

 時を遡り数時間前。
 ミイルズとアベラルドの双子に興味を持たれ別荘に招待され、断ることができず私はベアティとシリルを連れて訪れることになった。

「よく来てくれたね~」
「待ってたよ」

 兄ミイルズが両手を広げ歓迎の意を表し、弟のアベラルドが小さく笑みを浮かべ私たちを出迎えた。

「先日は貴重な物をいただき、本日はお招きありがとうございます」

 手土産を渡し礼を告げると、二人はにこにこと笑みを浮かべた。

「エレナちゃんたちとゆっくり話したかったんだよね~」
「そうそう。早速会えて嬉しいよ」
「ね」
「ね」

 二人が見合うと、赤と青の髪が同時に左右に揺れる。

「そうするように仕組んだくせに」

 ぼそっとシリルが告げる。
 水晶を受け取ってしまったため、正式に招待されて断れなかった。
 あまり何も考えていなそうなのに、彼らはこうなることを予想して水晶を贈ったのではと思えるほど次々彼らの思惑通りに進んでいく。

 それが水を被った二人は面白くなく、ベアティよりはシリルのほうが彼らに対して手厳しい。
 多分だが、香水の匂いで誤魔化されたことをいまだに気にしているのだと思う。

 今回の招待も行くか行かないかで二人と揉め、時間を設けて説明し彼らも最後は頷いた。だが、気持ちは納得できていないようだ。
 王都に来てからこんなのばっかりだ。早く平和な領地に帰りたい。

「これ、ランドール領のポーション?」
「はい。この度商品化いたしましたので、市場に出る前にと思いまして」

 手渡したものを覗き込んだミイルズが驚いた声を出すと、アベラルドが取り出してまじまじと眺めた。

「効能がすごいと聞いている。そのため値段も高くて出し渋っているって話もあったけど」
「確かに効果によってとても高いものもありますが、そういうつもりはありませんでしたよ」
「わかってるよ~。献上品からの噂だからね。陛下に献上するものがそこら辺の質でいいわけないし」
「はい。高い物は本当にごくわずかしか作れず貴重なので。採れる量や製法の確立とこれまで数も絞らないと無理でしたが、ようやく商品化する体制が整いました。お渡ししたものでも十分効果はあります」

 もしかして、がめついと思われていての水かけだったのだろうか。
 説明すると双子は顔を見合わせ、ミイルズが口を開いた。

「へえ~、そういうことだったんだね。開発にエレナちゃんも関係しているよね?」
「ええ。私の回復スキルが多少影響しているとは思いますが、領地の皆が力添えしてくれたおかげです」

 ここまでくれば、スキルがそこそこのレベルであることは隠せない。
 だけど、同時にこれらの商品が隠れ蓑にもなる。

 金のなる実を一部ポーション化したのは、その効果を独り占めしていると思わせないためと私の力のカモフラージュでもあった。
 想像以上に評判がよかったのには驚いたが、それならとことんやってしまおうと量と質を向上させ、商品化プロジェクトを押し進めてきた。

「最初に違法奴隷撤廃を公言し、獣人たちの環境も整えていると聞いた時はすごいことしているなと思ってたけど、今では有能な者が集まる領地としても有名だよね」
「有能さに種族は関係ありませんから。頑張る人にはその頑張りが評価されてほしい。この商品も魔法を行使する物がいなくても少しでも多くの人が助かるようにと作りました。多くの人の手に届けばと思っています」
「確かにこれなら人々に行き渡る、か。領地発展とともによく考えられているね」

 アベラルドが顎に手を当て、再びしげしげとポーションを眺めていると、そわそわしたミイルズが言いにくそうに声を発した。

「ねえ。効果によってお願いがあるって言ったら聞いてくれる?」
「ミイルズ!」

 いつも兄の言葉を引き取り落ち着いた口調で返すアベラルドが、そこで鋭く静止の声を上げた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。 断罪もなければ、処刑もない。 血も流れず、罪状も曖昧。 ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。 婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。 彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。 一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。 「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」 その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。 だが真実は語られない。 急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。 証拠はない。 ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。 そして気づく。 自分のざまあは、罰ではない。 「中心ではなくなること」だと。 王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。 旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。 婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。 激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。 これは―― 満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ
恋愛
 母は私を「なんて彼ににているのかしら、髪と瞳の色が同じならまるで生き写しだわ」そう言って赤い長い爪で私の顔をなぞる仕種をしている。  父は私に「お前さえいなければ、私は自由でいられるのだ」そう言って詰る。  私は両親に愛されていない。生まれてきてはいけない存在なのだから。  だから、屋敷でも息をひそめる様に生きるしかなかった。  父は私が生まれると直ぐに家を出て、愛人と暮らしている。いや、彼の言い分だと愛人が本当の妻なのだと言っている。  母は父に恋人がいるのを知っていて、結婚したのだから…  父の愛人は平民だった。そして二人の間には私の一つ下の異母妹がいる。父は彼女を溺愛していた。  異母妹は平民の母親そっくりな顔立ちをしている。明るく天使の様な彼女に惹かれる男性は多い。私の婚約者もその一人だった。  母が死んで3か月後に彼らは、公爵家にやって来た。はっきり言って煩わしい事この上ない。  家族に愛されずに育った主人公が愛し愛される事に臆病で、地味な風貌に変装して、学園生活を送りながら成長していく物語です。  ※旧「先生、私を悪い女にしてください」の改訂版です。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

処理中です...