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赤と青の遊戯
40.双子の謝罪
しおりを挟むベアティから滴り落ちる水で私の身体がまた濡れる。
「ベアティ。こっち見て」
再度名前を呼ぶと、いやいやと身体が浮きそうなほどぎゅっと抱きしめられた。
背が仰け反り、つま先立ちになった私の首筋にベアティが甘えるように鼻先を寄せてくる。
伝わる震えが痛々しい。
「ベアティ! 私の目を見て」
「……エレナ様」
押し付けるように吐かれた息がくすぐったく、小さく身じろぎするとそれさえも封じ込められる。
「私はここにいるよ」
どこにも行かないと身体の力を抜き、彼に全身を預ける。
するとすかさず抱き上げられ何度か深呼吸をしたベアティが、そこでようやく顔を見せた。
その顔はやけに青白く強張っており、瞳は不安でいっぱいに揺れている。
「ベアティ」
私は苦笑し、おずおずと視線を合わせたベアティの両頬をするりと撫で、そのままぎゅっと挟んだ。
美貌に磨きがかかったベアティの整った顔。ちょっとやそっと力を込めるくらいでは、その美しさが損なわれることはない。
じっとうかがい、すがるように見つめる双眸に私は苦笑した。
――こういうところは変わらないのよね……
私はこつんとおでこを当てた。
その瞬間、ベアティの表情がようやく動く。
目の前で見る見る緩んでいく姿にもう一度苦笑しながら頬を掴んでいた両手をそのまま頭にやり、濡れた髪を耳の後ろにかけた。
「私はどこにもいかない。ね、大丈夫でしょ?」
「はい」
私の触れる指先が気持ちよかったのか、もっと撫でてと頭を突き出してきた。ベアティの頭を撫でると次第に身体の緊張が解けるのがわかり安堵する。
この方法は、出会った頃から変わらないベアティの落ち着かせ方だ。
ベアティはときおり寂しさを暴走させることがある。
それはこちらが図れないタイミングも多く、そのたびに私はベアティの目を見て触れ合って落ち着かせていた。
年齢を重ねるとともにそれらは落ち着いてきてすっかり気を抜いていたが、身体は大きくなったけれどこういうところはまだ変わらないらしい。
「ずるい。僕も」
その様子を見ていたシリルがほっと息をつき、彼も頭を出してくる。
「ふふっ。シリルも心配かけてごめんね」
私はわしゃわしゃと二人が納得するまで頭を撫で続けた。
ベアティが暴走するとシリルは気を遣って一歩下がるが、落ち着いている時はシリルもかなり甘えてくるほうだ。
――今回のことで認識を改めないといけないみたい……
領地にいるときはそれぞれに役割を担っていたので生活リズムが出来上っており、彼らの態度に違和感を覚えるようなことはなかった。
だから、彼らは立派に成長し、いずれ離れていくのもタイミングの問題だろうと思っていた。
だが、この様子だと考えを改めざるを得ない。
彼らは私が思っている以上に私への気持ちが強いという事実にたじろぎと、慕ってくれていることに喜びも感じなんとも複雑だ。
マリアンヌのこともあるし、考えさせられることが多い。
「酷い雨だったね。この雨の中、捜してくれてありがとう」
「はい」
「無事、見つかってよかった」
しばらくよしよしと撫でているとようやく二人も落ち着き、満足そうに息をついた。
そこでようやく、私は双子へと視線をやった。
ミイルズが心配してアベラルドに話しかけ、それに対してアベラルドは頷き、また訊ねとコンタクトを取っていた。
たまにこちらの様子をうかがっているのも気づいていたので、私はベアティに下ろしてもらい質問する。
二人がべったりくっついたままなのはこの際スルーだ。
「それでこの状況を説明してくれますか?」
「ごめんなさい」
「ごめん」
ミイルズとアベアラルドは同じタイミングで頭を下げる。
「謝ることがあるのですね?」
「……僕たちが二人からエレナちゃんを離したのがいけなかったみたい」
ミイルズが眉尻を下げ、これまでのことを説明する。
「わざとだったんですか?」
やたらと話しかけられるなとは思っていたが、マリアンヌと話すよりはいいかとそこまで気にしていなかった。
会話から外れてもすぐにベアティたちも私のもとに来たし、そこまで問題だと感じていなかった。
ベアティとシリルに視線を移すと、冷たい双眸で双子を見ていたのでやっと事の次第を理解する。
「ごめん。そのことで彼らを怒らせてしまった」
アベラルドは終始、二人、特にベアティの様子をうかがっている。
どうやらベアティが放つ怒気に気圧されたらしいけれど、確かに冷ややかだがそこまでのものだろうか。
疑問に思いながらも二人とはゆっくり時間を設けて話せばいいと、まずは双子の目的を訊ねる。
「それで、何がしたかったのですか?」
ミイルズからも謝罪をすでに受けていたし、アベラルドも後悔しているようなので、細部までとは言わなくても今なら方針くらいは聞けるだろう。
「聞いてあげるなんてエレナ様は優しすぎる」
「そうだよ。彼らのことなんてどうでもいいんじゃない? あんなやり方しかできない人たちを気にするだけ無駄だよ」
ベアティに苦言を呈され、シリルが反対する。
くりっとした瞳を持つシリルは穏やかな印象を与えるが、わりと辛辣だ。
「そういうつもりじゃないわ。ただ、こんなふうに巻き込まれたなら聞く権利はあると思ったの」
学園で彼らとまた一緒になる。
今後、下手に巻き込まれるつもりはないため、彼らがここでどう返すかでこちらの方針を決めるつもりだ。
だから、優しさではないのだけどなと二人を見返すと、二人は盛大に舌打ち双子を睨みつけた。
いつもよりガラの悪い二人に私は苦笑し、双子はどう出るのだろうかと彼らを見つめた。
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