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試みと自覚
甘えられる相手②
しおりを挟む「ティアの行動でたくさんの者が救われた。それにできる力があるのに動かない者もいる。その者が必ずしも動かなければならないとは言わないが、それでも自分のためだけでなく他人を思って動けることは誇っていい」
「……ありがとうございます」
凛とした声で諭されて、言葉の意味を噛みしめるよう沈黙し私は頷いた。
何かを成し遂げるのに、たくさんの人を巻き込んだ今は動機なんて瑣末なものなのかもしれない。
喜んでくれる人がいる、己の力が役に立っていることには自信を持たないと、賛同しついてきてくれている人々や野菜たちに申し訳ないと思った。
調理場では私の指示通り焼き具合を見てくれているお野菜たち、散らかった小麦粉をせっせと片付けているもの、横では隊長がうんうんと頷き、副隊長はせっせとデータをまとめてくれている。
そんなお野菜ズの様子に、不意に心が震えた。
目を閉じ、深く息を吸い込んだ。静かに目を開くと、アンドリューはゆっくりと頷いた。
「それでいい。それでこの伯爵領のように笑顔になる者が増えるのだから、ティアは思うことを自由にやっていったらいい。野菜たちもそれを望んでるだろう」
「はい」
アンドリューの指が私の髪に絡まる。そのまま、こめかみ、頬へと滑らせ優しく撫でていく。
私はされるがままじっとした。優しい手つきと、愛おしげに細められる瞳に見つめられ、思わずすりっと頬を擦り付けてしまう。
「あっ」
慌てて離れようとしたけれど、そのまま両頬を挟まれ逃げられなくなった。
「せっかく甘えてきたのに俺が逃がすと思うか?」
「……思わないです」
すでに捕まってしまっているし、こうやって捕まえてくれるのにも安心している自分もいる。
「だな。ティアが甘えてくれると俺は嬉しい」
「嬉しい?」
弾む声にそこまで喜んでもらえるようなものではないと首を傾げると、アンドリューは親指をするりと動かし頬を撫でてくる。
「ああ。安心できる場所だと認識している証拠だろ? 恋人に自然と甘えられるのは男冥利に尽きる。あと、甘えられてるのに、こっちが甘えた気分にもなるな」
「そうなんですか?」
「俺の素を見ても遠ざかるどころか懐いてくれると、こっちも気負わずいれる。これも甘えているということなのだろう。それと、貢献しているティアが落ち込んでいたら俺もつらいから、そう落ち込んでくれるなよ」
軽口のようにぽつりと告げられ、私は目を丸くした。真面目な顔でこちらを見つめる相手をしげしげと見つめ返し、ああ、と気づく。
アンドリューも王族としてこの件で頭を悩ませており、もしかしたら一番心を痛めているかもしれないと思うと、自分が落ち込んでいる場合ではないとコツンと額を合わせた。
「アンディ……」
「ティアの能力は願いに直結している。ティアの心が、今の伯爵領、そして北部の発展に繋がっている。ティアの願いがたくさんの者の笑顔を増やしている。俺も、伯爵も、野菜たちも、ティアが元気でいてくれることがなによりだ」
己の悔しさを隠すように微笑みながらの励ましに、私はアンドリューのそれには気づかないふりをすることにした。
王子であるアンドリューの言葉は重くのしかかり、それでいてとても優しい。
少し落ち込みかけたけれど、自分には、アンドリューを始め、野菜たちなど強力な助っ人がたくさんいる。
それが誇らしく、そんな彼らに応えていきたいと改めて強く思った。
「はい。自分にできることを少しずつやっていこうと思います」
「くれぐれもそうしてくれ」
意思を込めて王子の言葉に力強く頷いたが、んっと首を傾げる。
「くれぐれもと言われるようなことは何もないかと」
「もう忘れてるのか? 今は見慣れた光景とはいえ、そもそも野菜自身が歩くなんてことは初めてなんだ。今回だってこんなに長く帰省して帰ってこないと思えば、試作品。それ自体が悪いことではないが、すぐに根詰める必要もなかったはずだしな」
「……そうですね。これからは気をつけます」
アンドリューの言葉を噛みしめるように頷くと、それはもう万人を魅了するような美麗な笑顔にトドメを刺され、私はうぐっと胸を詰まらせ顔を熱くした。
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