【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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試みと自覚

お迎えでした

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「さて、話も終わったしそろそろ帰ろうか」
「えっ?」

 先ほどの魅力的な笑みの衝撃から回復していないなか話が切り替わり、私は何度か瞬きを繰り返した。

「俺がここにいるのはどうしてという話だったが、なかなかティアが帰ってこないから迎えに来た。伯爵には連れ帰ることは話してある」
「迎えですか?」
「そうだ。本来ならここで一泊くらいゆっくりしたいが俺も公務があるし、ティアもそろそろ授業に出たほうがいいだろう?」
「それはそうなんですけど」

 正論ではあるのだけれど、王子がお迎え?

「ある程度の工程や方向性が見えているのならこの地でする必要もないし、あとはほかの者に任せることもできるだろう。ティアの本分は学業だ。できることをしたのなら、あとは信頼して下のものに託すというのも上に立つ者には必要だ」
「はい」

 おお。やっぱりこういうところは俺様だ。
 王子の中で決定されていることを、淡々と理由とともに言われ丸め込まれ、私は頷く意外の選択肢は残されていなかった。

 家の事情で学校を休めるといっても、その間は授業が進んでいるので進捗具合は気になっていたし、試作も形は見えているので任せるべきという王子の意見にも賛成だ。
 わかるのだけど、お野菜ズとともにする作業は楽しすぎて、もうちょっとばかりまだ居たいと思ってしまう。
 最後の望みをかけて隊長を見ると、隊長ふりふりと手を振られた。

「そんなっ!? 隊長ぉ~」

 情けない声を出し隊長にすがると、目の前にいるアンドリューから怒気が伝わる。
 あれ? さっきまで機嫌良かったのにと、王子に視線をやりひゅっと私は息を呑んだ。
 完璧な笑顔を浮かべてずいっと近づいてきて、そっとささやくように告げる。

「ティアは隊長に甘えすぎだ。俺と話しているのだから俺に甘えろ」
「そんな理不尽な」
「どこが理不尽? 恋人が目の前にいるのにほかのものに甘えるほうがおかしいだろう」

 相手はカブですけどね? と思わず突っ込みそうになったが、それを言ったらさらに大変そうだったので賢明にも口をつぐむ。
 その間も、アンドリューから放たれるきらきらが止まるところを知らず振りまいてくる。

「で、殿下?」
「名前」
「アンディ……」

 さすがに学んだ。こういうときは、素直に従うほうがいいと。

「のんびり王都に帰るのもいいかと思っていたが、趣向を変えざるを得ないな」
「えっ?」
「さあ、行こうか」

 もう一度隊長~とすがるように視線を向けると、隊長もだが周囲のお野菜たちも任せとけと手を上げ、ふりふりと手を振ってお見送りしてくれる。
 ちょっと、そこは私の味方では?

 そう思って隊長を見るが、とてとてとさらに近づいてきて、目の前で諦めろとばかりに両手で手を振られる。
 ふりふり~、ふりふり~、とまるで応援しているかのごとく手を振られ、すっごく盛大なお見送りに私はかっと目を見開いた。

「そんな~。隊長~!!」

 お野菜ズは私の気持ちを尊重して動いてくれている。
 確かにアンドリューに連れられることは嫌がってはいないし帰ることも納得はしているが、もうちょっと寂しいとかないのかなって思ってしまう。

 私は寂しいのに~。
 もうちょっと一緒にいたいのにと手を伸ばすと、棒読みの笑い声がその行動を制止した。

「ティアは煽るのがうまいな。よっぽど虐めてほしいと見える」
「あっ、ああぁぁ~」

 アンドリューのその言葉に、私は遠い目をして思わず呻いた。
 駄目だ。これは駄目なやつだ。

「ティア」
「えっと、挽回の余地は?」
「ないよ」

 無情だ。そのにぃっこり笑顔、本気のやつだ。

「ああぁぁぁ~」
「はいはい。とにかく帰る。そして、俺を満足させてくれ」

 こうなったアンドリューは止められない。
 諦め抵抗することもやめた私をひょいっと抱えると、それはそれは地に這うような重甘ったるい色気とともに、ぴたっと貼り付けた微笑でこめかみにキスをされる。

「隊長。そういうことでティアは連れ帰る。あとは大丈夫か?」

 うんうん、と頷く隊長。
 私が王子にキスされていても、隊長たちはまったく気にしない。
 初めは照れていた野菜たちも今では普通に見ているし、自分たちはこういうものと慣れたみたいだ。それって、良いのか悪いのか。

「ほら、ティアも挨拶」
「うう~。たくさん協力してくれてありがとう。引き続きよろしくね。何かあればジョンたちを通して連絡するから。みんな、またね」

 ぐっと手を上げるもの、両手を振るもの。

 ――ううっ、可愛いのに寂しい~。

 外に出てからはほかのお野菜たち、シュクリュに見送られる。
 領民たちには「王太子殿下と相変わらず仲がとても良いんですねー」とにこにこと嬉しそうに見送られながら、私は伯爵領をあとにすることになった。


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