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不調と新たな問題
不調①
しおりを挟む学園の授業、くすくす、くすくすとあちこちで嘲るような笑い声が聞こえる。
「なんでしょうね。ここからでは何も変わったように見えませんが」
「ええ。何も変わりませんね」
「魔法の発動も見られませんし、本当に取り組んだのかしら?」
自分に向けられている外野の声は届いてはいるのだけれど、私はそれどころではなかった。
ガァーーーーンと頭を打たれたような衝撃からいまだに立ち直れず、自分の手元を見る。
何度見ても変わらぬそれに、心からの叫びが意図せず絞り出た。
「そんなっ」
「ロードウェスターさんは不調のようだね」
「すみません」
魔法実演担当のジョンソン先生の呆れたような声に、落ち込んだまましゅんと項垂れる。
休み明け、いろいろやる気に満ち溢れていたのだけれど、休んでいた分も取り戻そうと意気込むのが空回りするかのようにさっそく出鼻をくじかれた。
「ずいぶん休暇を楽しんできたようですね」
「そういうわけでは」
「なら、あなたの手元にあるものはなんでしょうね? それが結果なのでは?」
「それは……」
鷹のように鋭い視線で睨まれながらのその言葉の裏には、それでも王太子殿下の婚約者ですかと言われているようだ。
もともとこの先生は厳しいことで有名だ。
融通が効かず頑固。冗談も通じないし不真面目な相手をとことん嫌う。
実技は万が一魔法が暴発してはいけないので、常に授業はぴりぴりしている。
私の魔法は土系に特化していて派手さもなく、定番魔法の展開ではなく己の得意な魔法の独創性を開花させようという今回のような授業では不利だ。
地位も魔法も成績も悪いわけではないけれど、殿下の婚約者として考えるとパッとしない私の存在が気に食わないのだろう。
「ここは遊ぶ場所ではありません」
「わかっております」
気概が伝わりにくいのは大変不利である。そして、急遽長期休みを取ったあとというのもタイミングが悪かった。
「なら、いつまでも一年目と変わらない成果でどうするのでしょう? ほかの者はそれぞれ成長を感じられるのに、あなたから一切そういったものが感じられません」
「…………」
言葉が出なかった。言える言葉を持っていなかった。
私ができることは、真摯に授業を受けていますと態度で訴えるのみ。
自分の特殊能力である『願い』のことは極秘であるし、手の内を見せないように加減していることが、できない生徒、やる気のない生徒として映ってしまうのかもしれない。
努力もしないで大した実力もないのに殿下に囲われている、といった噂があることも知っている。あとは、義兄のオズワルドのコネだとかも。
伯爵領が発展していても、この学園では私が重要なファクターであり貢献者であることは、ほとんどの南部の者たちにとって信じられるものではなく半信半疑である。
大々的に己の成果を広めたいとは思わないけれど、己の評価を下げることは自分に力を貸してくれている人たちの評価を下げることにもなるので、こういうときは歯がゆかった。
「はぁ。王族が認めたという魔法がこのようなレベルとは情けない」
「申し訳ありません」
今回のこれに関しては自分に非がないと言い切れないので、反発するよりも先に落ち込んだ。
結果がすべてとまでは言わないけれど、どれだけ努力しても結びつかなければ評価に繋がらない。
ましてや、休み明けのこの結果はシビアに胸に刺さる。
休んで遊んでいたのではないかとばかりの視線に、遊んでいたわけではないがお野菜ズに癒されていた日々を思うとぐうの音も出ない。
それにこの魔法に関しては実際に練習らしいことを今までしたこともなく大体が思い描く通りに使えていたので、このたびのことは衝撃だった。
本気で落ち込む私に、ジョンソン先生がはぁと溜め息をつくとさっと視線を外した。
「進捗は人それぞれとはいえ、現状を重く受け止めるように。認められたければ、卒業までには結果をどうにかすることです。次、グレゴリーくん」
「はい」
落ちこぼれにばかり構っていられないとばかりにふんと鼻をならし、何事もなかったかのように授業の続きを進め出す。
私はその場で一度頭を下げると、席に着くため静かに移動した。
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