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5.秘策の結末②
しおりを挟むふっと笑い、エルドレッドがひどく静かに誘うような声で告げる。
「リリエン。気になるところはしっかり意見を言えよ。実際の女性に話を聞けるとより参考になるからな」
つまり感想を言えと?
更にハードルが上がった要望に、内心の焦りを押し殺しにっこり微笑んだ。
「わかりました」
「それでこそリリエンだ」
何の辱めだろうかと思いながらどうにかそう答えるが、エルドレッドは冗談でもなんでもなく言っているようだ。
――それでこそって、どんな印象なのかしら?
すっきりしないが、エルドレッドの期待のこもった眼差しに晒されると、初対面ですぐに追い出されたことを思えば進歩だとその期待に応えたくなるから不思議だ。
皇子の普段冷ややかな対応が微笑に変わるだけで言うことを聞きたくなるとか、「普段の塩対応な分ずるいよね」だとリリエンはこっそり呟いた。
流し見が終わると最初のページに戻り、一つひとつ丁寧に捲られていくそれにも真面目に向き合う。
恥ずかしさが過ぎると、今度は中身が気になってきた。
「へえ」
「いろいろあるな。それを図とともに説明しているのは確かに興味深い」
「そうですね。でも、やはり人によるとは思います」
女性がきゅんとくるポイントということらしいけれど、それぞれ好みはあるなと感じた。現にリリエン自身もまあいいかもと想像できるものもあれば、これは違うだろうと思うものもあった。
そもそも、好意がある前提じゃないと萌えない。きゅんとしない。
「確かにそうだな。女性もだが、男性も性格によって攻め方は変わってくるだろう」
確かにそうだ。胸中、しみじみとその意見に頷いた。
普段、慣れないことをするとぼろが出る。演じるのが楽しいならまだしも、無理をするのは精神的にもよくないだろう。
女性側からすれば内気な男性が急にぐいぐい押してきたらそれが魅力となる場合もあるだろうし、逆に嫌だと思う場合もあるだろう。
意外とエルドレッドも真剣に見てくれているので、リリエンも熱が入ってきた。
だが、後半になってくるとその描写が更に艶めかしくなり、動揺で落ち着かなくなる。
「リリエン、どうした?」
「いや、えっと」
初心者にはハードルが高すぎる。
そわそわと視線を彷徨わせいたたまれずエルドレッドから距離を取ろうと動くと、皇子は逃げかけたリリエンの腰を掴み、乱暴なほどの勢いで引き寄せた。
「殿下……」
「リリエン。恥ずかしがることではない。そうだな。やはりこういうのは実践してみてこそだと思わないか?」
エルドレッドは思わず見蕩れるような笑みを刷いて、ぽん、とリリエンの頭を撫でた。
――頭、ぽん?
最初のほうにあったそれをさっそく実践され、リリエンは目を白黒させる。
「あっ……」
言葉にならない声を上げ、触れられた場所に手をやると、その手も掴まれて指を絡められた。
――これは三ページ目のやつ!?
大きな手に包まれ、ぴきりと絡まった。今更ながらに、爽やかな中に甘さが混じったエルドレッドの匂いを意識してしまう。
リリエンはぼっと顔を赤らめた。
「どうだ?」
「どうと言われましても」
いちいち近いです。
これも実践? それとも素?
腰に腕を回され密着している状態から顔を覗き込まれ、頬にエルドレッドの髪が触れる。
くすぐったくて、すごい速さで鳴る自分の心臓がどこどこ響いてうるさい。
「そうか。もっと試さないとわからないか」
そういうつもりの言葉じゃありませんが?
エルドレッドのほうを見ようにも近すぎて振り向けず、際どい絵が開けられたページに視線をやるしかできない。
そのほうがマシだった。
あの魅惑的な赤の双眸を見てしまったら、もしどこかに触れてしまったらと思うとどうしようもなく、リリエンはかちこちと固まる。
――あ、ダメだ。
くすり、と笑うだけで吐息がかかりぞくぞくする。
思わず身を震わせそうになったが、ここで反応すればエルドレッドの思惑通りとなりそうでぐっと堪えた。
「リリエン。何か言ってくれないと」
困っているのに、エルドレッドはさらに追い詰めてくる。
――くっ。鬼畜め。
艶っぽくも笑みを含む声音は、この状況を楽しんでいることがわかる。
普段、面倒くさがりなのに、いざ興が乗ればどこまでも楽しそうなのが悔しい。
余裕のあるエルドレッドに腹立たしくもあり、どうすることもできないもどかしさを抱えながら、リリエンはおずおずとエルドレッドのほうへと視線をやる。
「殿下、そんなつもりではなかったんです!」
「ほぉ? なら、どんなつもりだ?」
「純粋に殿下に女性に興味を持っていただこうと」
実践するつもりなんて微塵もなかったですけど?
そういうつもりで贈ったのではないのですけど?
「ああ。そうだろうな。でも、リリエンが始めたのだから最後まで責任は取らないとな」
エルドレッドは眩しそうに目を細めると、さらにリリエンを引き寄せ極上の笑みを浮かべた。
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