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第53話 それぞれの道

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「小梢がいないって、どういう事だよ?」

「あ~あ、せっかく盛り上がってたのに、しらけちゃった」

陽菜は、起き上がると衣服の乱れを直して、そこで大きく息をした。

「大丈夫か? 陽菜」

「ちょっと、トイレ貸して。その後に話すから」

暫くして、陽菜は戻ってきたが、腰をモジモジとして落ち着かない様子だ。

「本当に大丈夫か?」

「う、うん……、キスされただけなのに、下着が……、汚れちゃった」

あまりにもあからさまな言葉に、僕までも顔が赤くなる。

「そ、それは、すまなかった……」

陽菜は僕に抱きついてきて甘えたので、僕も優しく抱きしめた。

「ね、高校を卒業したら、最後までしてね」

三年後、陽菜がまだ僕を好きだとは思えないが、いちおう確認する。

「もし、僕にカノジョができていたら、どうするんだよ」

「え? そんなの、別れてもらうよ」

「なんで、そうなるんだよ?」

「だって、ワタシ以上に可愛い女の子なんて、小梢さん以外にいないでしょ?」

「随分な自信だが、小梢には負けを認めるのか」

「う~ん、まあ、あと三年もすればワタシの勝ちだろうけど、敵前逃亡した人とは争えないしね 笑」

たいした自信家だが、たしかに、これから先、陽菜はもっともっと可愛く、綺麗になっていくだろうと僕は思った。

「でもさ、そのアイリって子も図々しい。ワタシが追い出してやるんだから」
これは……、絶対に愛莉と陽菜を遭遇させてはいけないと、僕の中で重要課題が出来上がる。

それよりも、今は小梢の情報が気になった。


「で、そろそろ、教えてくれないか、ビッグニュースとやらを。なんで小梢がいないんだ?」

「小梢さんね、地元の国立大学へ編入したんだって」

「え!?」

「だから、もう東京には居ないよ」


小梢が故郷へ帰った……。

もともと、小梢は僕を探すために東京の大学に進学したのだ。
そして、そ彼女の目的は達成できたのだから、東京に居る意味がなくなったのだろう。

でも……、これで、完全に小梢との接点は無くなってしまった。

最後に彼女を見かけたのはいつだったろう?

遠くから盗み見するだけでも、僕は彼女が元気でいるのだと安堵したのだが、それさえもできなくなるのかと思うと、途端に寂しさがこみ上げてきた。


「圭、大丈夫?」

「ん、ああ……」

「小梢さんってさ、何処か影があったじゃない?」

「そう言われてみれば、そうだな……」
 
僕は、小梢が時折見せる寂しげな目を思い出した。そして、その原因を知っているからこそ、胸が苦しくなる。


「でも、先月会った時、なんとなく晴れ晴れとした感じだったよ。
『東京でやりたかった事は出来たし、自分の目標もできたから』ってさ、何かを見つけたんだろうね」


小梢も自分の目標を見つけた。
安堵するとともに、僕一人取り残された気がした……。


「今日、泊まっていこうかな~」

「だ・め・だ」


「ちぇッ」


(僕に……、何か『やりたいこと』は、見つかるのだろうか?)


僕の中に、微かな焦りが生じた。




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