裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる

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VSラメル

VSラメル 3

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 サツキから遠距離用の連絡石で通信が入り、アシノは赤い石を壁にぶつけた。

「よう、どうだった?」

「それが……」

 浮かない顔をしてサツキは先程起きたことを話す。

「王は王都を守ることに必死か……、それでトチノハも、この赤い玉を持ってやがったのか」

「はい……」

 サツキは珍しく、暗い顔をし続けている。

「わかった。私達はなるべく人目につかない場所まで逃げ続けようと思う。相手はどこまでも追ってくるだろうしな」

「わかりました、アシノ先輩!! どうかご武運を……」

 話が終わり、出発の時間が来た。今の所追ってきては居ないようだが、時間の問題だろう。

 人目につかず、街や人を巻き込むことのない平原を目指して一行は馬車を走らせる。

 やがて日が暮れて、野営をした。

 空は澄み渡り、満天の星空が見える。

「ロマンチックな星空の下、焚き火を囲んで美女と飯。いやー、最高だね」

 イタヤは現状への皮肉交じりに言って軽く笑った。

「馬鹿言ってんじゃないよ」

「いいえ、イタヤさんの言う通りよ!! 気を張ってばかりじゃ疲れるわ!」

 ルーは蒸留酒を片手にくるくる回ってから空を見上げた。

 その瞬間流れ星がスッと空に線を描く。

「ほら、流れ星!! 星に願いを!!」

 ルーが指さして言うと、ムツヤはハッとする。

「ハーレムが作れますように!! ハーレムが作れますように!! ハーレムが作れますように!!」

 ムツヤは両手を合わせて祈った。アシノはムツヤを引っ叩く。この展開、前も見たなぁとモモは思う。

「ねぇ、みんなの願いって何かしら?」

 突然ルーに聞かれ、皆はうーんと考えた。

「私は、ムツヤ殿の幸せを祈っています」

「モモさん……」

 少しいい感じになった2人に酔っ払っているルーは爆弾発言をする。

「ムツヤっちと結婚じゃなくて?」

 モモは飲んでいた酒を吹き出した。

「な、なにをいってるんでしゅかルーどのぉ!?」

「そうですよルーさん。亜人の人と人間は結婚しないんですよ?」

 ムツヤに言われ、モモはスゥっと真顔になる。全員がムツヤをアホだと思った瞬間だった。

「ぼ、僕は世界中色んな場所を見てみたいです!!」

 気まずくなりかけたのでユモトが言う。

「おっ、良いねぇ。冒険者はそうでなくっちゃな」

 ハッハッハとイタヤは笑う。

「イタヤさん達は?」

 ルーが聞くとそうだなぁとイタヤは考える。

「今の所は、魔人を倒して世界平和って所かな?」

 勇者らしい答えだった。





 本当に、本当に何でも叶うなら、故郷がそのまま戻ってくる事だったが。

 死んだ人間が蘇ることも、失った場所が返ることも無い。無理な願いだ。

 それならば、今生きている人、今ある場所を守りたい。

 そう、考えていた。

 少し時間は遡り、ミシロは瓦礫に埋るラメルの元へと走っていた。

「ラメル様!!」

 叫ぶとラメルが瓦礫から飛び出る。体に傷を負っていないが、服はボロボロだ。

「キミ、カバン取られちゃったね?」

 そう言われるとミシロはビクッとする。ラメルは魔法で服を修繕しながらこちらへコツコツと歩いてきた。

「まぁいいや、それが目的だし」

 叱るでもなくラメルは言う。

「えっ、どういう事ですか?」

「また開くようになったら奪えば良いだけだもん」

 あっけらかんとラメルが言い、怒られなくて内心ミシロはホッとしていた。

「そんな事より疲れちゃった。お城で休憩しよ?」

「えっ、あ、はい!!」

 崩れかけた城に2人は帰っていく。


 あっという間に3日が過ぎた。ムツヤ達は何もない平原に陣取る。

「あっ、カバンが開きまじだ!!」

「やっとか……」

 ムツヤが言うとアシノが歩み寄ってきた。

「奴は魅了の魔法を持っています。そこでこれを皆さんに配ります」

「これは……」

 イタヤ達は手にとって訝しげな顔をするが、アシノがふざけている訳では無いだろう。

「もう一つ、ムツヤ!! 例のぶつけるとモンスターが消滅する玉を出せ」

「わがりまじだ!!」

 取り出されたのは手のひら大の緑色のガラス玉だ。

「これを持てるだけ持ちましょう」

 その時、地平線の彼方から何かが飛んでくるのをムツヤは千里眼で見つけた。

「来まず!!」

「よし…… 全員ハリセンは持ったな!! 行くぞォ!!」

 武器とハリセンを装備して皆は魔人を待ち構える。

 ラメルはミシロを抱きかかえて飛行していた。

 あまりの速さにミシロはギュッと目を瞑り、必死にラメルに抱きついている。

 ムツヤ達の前まで来ると、スピードを落としてふわりと着地した。


 開幕、ラメルは魅了の魔法を使った。ムツヤとサワ以外は強力なそれに掛かり、こちらに武器を向ける。

 ムツヤは圧倒的な速さで皆の頭をハリセンで叩いて回った。

「っつ、しまった。操られたか……、サンキュームツヤくん」

 イタヤは軽く言ったが、一瞬でも操られた自分の未熟さを恥じる。

「ダーリン、今からでも私の仲間になるつもりはない?」

「絶対に断る!!」

「そう……、じゃあ」

「死んじゃえ」

 ラメルが拳を振りかざしながら飛んできた。カウンターに緑の玉を投げつけるが、いとも簡単にかわされてしまう。緑色の玉は地面に落ちると煙となって消えた。

 ムツヤは魔剣ムゲンジゴクを取り出して、そのの拳を受け止める。辺りに金属同士が激しくぶつかりあったような音が響き、業火が吹き出た。

 目にも留まらぬ一進一退の攻防を繰り広げながら、ムツヤはスキを見て緑色の玉を投げつける。

「あっはははは!! 何をしようとしてるか知らないけど無駄だよぉ!?」

 ラメルはバサッと飛んでそれを避ける。その背後からイタヤが迫り、聖剣ロネーゼでラメルを斬りつけようとしたが。

「見えてるよ、おじさん」

 くるりと反転したラメルが打ち出した無数の光の玉を数発被弾してしまう。

「っぐ、結構痛いじゃないかお嬢ちゃん」

 当たり前だ。一般人であれば粉々になっているような威力だ。空高く舞い上がったラメルをウリハとサワが地上から雷を打ち出して捕捉する。

「無駄だって言ってんじゃん」

 少しも動じず、その身で雷を受けるも、傷一つ負っていない。スゥーッと地上に降りて来て余裕そうな笑みを浮かべた。

「今よ、皆離れて!!」

 ルーの言葉と同時に前線のメンバーはラメルから離れた。ずらりと精霊がラメルを取り囲む。

「こんなの無駄だって分からないの?」

 そう、ラメルの言う通りだった。本来であれば魔人相手に焼け石に水程度なのだが……。

 精霊たちは体から緑色の玉を取り出した。そして一斉に投げる。

「小賢しいよ!!」

 ラメルは飛び上がり、無詠唱で風魔法を出すと、緑色の玉を吹き飛ばした。だが、その一瞬のスキをムツヤは待っていた。

 音もなく、ムツヤはラメルを斜めに切りつけた。傷口からは血の代わりに業火が吹き出る。


(イラスト:大江うさぎ先生)

「ラメル様!!」

 それを遠くから見てみたミシロは思わず叫ぶ。

 ラメルは傷を庇うでもなく、ムツヤの方を振り返って。

 カバンを掴んだ。

「離せぇ!!」

 ムツヤがトドメとばかりにラメルの首に魔剣ムゲンジゴクを突き刺す。痛みを感じているのか、感じていないのかは知らないが、依然としてラメルはカバンを握ってブツブツ何かを言っている。

 それが不気味に感じて叫びながらムツヤはラメルを剣で突き刺す。そんな時だった。

「これで私の目的は果たされた。私の魔力、ありったけ全部使うわ」

 そう言った瞬間。

 カバンの口が開いて、中から裏の道具が空へ次々と飛び出した。慌ててムツヤはカバンの口を閉じようとするが、ムツヤの馬鹿力でもそれは叶わない。

 何十、何百といった裏の道具が空に浮かび上がり、北へ南へ、東へ西へ飛び散ってしまう。

「なっ」

 アシノは目を見開いてそれを眺めることしか出来なかった。仲間達も同じだ。

 ラメルはガクリと崩れ落ちて地面へ落ちる。

「とんでもない事してくれたな、クソッ!!」

 アシノは横たわる魔人を見て言う。ムツヤは魔人にまだ息があることを知っていたので、まずはトドメを入れようとした。

「待って!!! ダメェ!!!!」

 走ってこちらに近づこうとするミシロ。しかし、ウリハに捕まってしまった。

「あんた、相手は魔人だよ? 騙されてるんだ!!」

「違う!! ラメル様は違う!!」

 念のため一発ハリセンでミシロを叩く。だが、まだラメルに向かって叫び続けるので、魅了の魔法では無いのだろう。

 その瞬間、ラメルが起き上がってウリハの元まで一瞬で移動した。ムツヤもその後をピッタリと追い、ミシロの前でラメルの胸を突き刺した。

「あああああああ!!! ラメル様ああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ウリハが剣を構えたので、ミシロは解放されていた。ぐったりと倒れるラメルの元へ走ると……。

「ミシロ、私の全てをあげるわ」

 最後の力を振り絞ってラメルはミシロを抱きしめた。ミシロはわんわん泣いていたが、ラメルが透明に消滅するのと同じくして、茶色の長い髪色が青みがかった銀色へと変わっていく。

「何だかわからんが、その子を魔人から引き離せ!!」

 イタヤが言ってから走り出す。近くに居たムツヤも距離を詰めるが。

 ミシロは、なんと空を飛んだ。背中から生えた黒き翼を羽ばたかせ、遠い空へと消えていってしまう。

 魔人ラメルのと戦いは終わったが、様々な大きな問題をまた残してしまうのだった。



「っく、ムツヤ!! 赤い石を出してギルスに連絡を取るぞ!!」

「わがりまじだ!」

 ムツヤは近くの岩に赤い石を叩きつける。すると映った向こう側のギルスも大慌てしていた。

「ムツヤくんか!! 何だこの探知盤の反応は!? 異常が起きたのか!?」

「いや、異常じゃないよ。魔人がムツヤのカバンを開けて、裏の道具を飛び散らせた」

 アシノが言うと、ギルスは目を見開く。

「そんな……」

 ユモトが操作する探知盤でも、もう追えない範囲に飛んでいった道具も多い。

「くそっ、何が目的なんだ!!」

 イタヤがイラつくと、ムツヤが思い出して言った。

「そういえば……、魔人は世界をメチャクチャにしようって言ってまじだ……」

「目的のためならば命も要らないってか、魔人らしいな」

 アシノが腕を組みながらムツヤの言葉に納得をする。

「これは……、もう国に隠し通せないかもしれないね」

 ギルスの言葉に皆が黙ってしまった。裏の道具を手にした国が起こすのは争いだろう。

「急いで王都に向かう。その最中で何か良い言い訳を考える」

 そんな事を言うアシノを心配そうにルーが見上げた。それに気付いてアシノは言葉を、自分自身にも言い聞かせるように言った。

「大丈夫だ、大丈夫」

 戦火が迫るのを何としても阻止しなければならない。アシノは必死に頭を働かせる。
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