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第3話 妖魔専門護衛隊の一人として
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「春の麗香式」がおこなわれた翌日も、私は鍛錬を積む。
「相変わらず早いな」
「伊織様、おはようございます」
稽古槍を振る手を止めて、あくびをしながら縁側に来た伊織様に頭を下げる。
「今日は槍の鍛錬か」
「はい、様々なものに触れて妖魔との戦闘に生かしたくて」
「いいと思うぞ。まあ、俺の槍技には到底及ばないけどな」
「いつか超えて見せます、絶対に」
無理無理、と手をひらひらとさせながら伊織様は去っていく。
そうして稽古を始めようとした時、何かを思い出したようで、ぴたりと立ち止まった。
「そうだ、今夜は遅くまで警備だからあまり稽古しすぎて疲れるなよ?」
「もちろんです」
「ならよし」
伊織様は満足そうに頷くと、食堂の方に向かわれた。
今日の夜は『守護王』である零様の生誕の宴が開かれる。
主に一般護衛兵が警備につくが、一部私が所属している妖魔専門護衛隊の者も参加することになっていた。
私は一心不乱に槍を振る。
そうして右手をあげて、今度は目の前にある塀の傷を狙って突く練習を始めた。
狙った先にある傷に向かって突いていると、その傷を作ってしまった時のことが頭をよぎる。
こうして槍の練習をしていたある日のこと──。
汗で手が滑り、誤って手元から槍が飛んで行ってしまったことがあった。
その槍は真っすぐ塀に向かい、なんと一点の傷を作ってしまったのだ。
傷を見た伊織様にはもちろん、事の顛末を聞いた零様にも叱られてしまい、私は一週間稽古禁止の処分を受けた。
ひたすら一週間木刀すら持たせてもらえず、書物整理をするはめに……。
「はあ……はあ……」
そんな事を思い出しながら、額の汗をぬぐってもう一度槍を構え直す。
最初は真っすぐにすら突けなかった槍も、段々体になじんできたようで、おおよそ狙ったところを突けるようになった。
「あっ!」
そんなことを考えていると、足元にあった小石でバランスを崩してしまう。
天を仰ぎながら後ろへ倒れていく最中で、私の体は誰かの腕によって支えられる。
私は振り返った。
「零様……!」
「お前はやはり危なっかしい」
私はすぐさま体を起こして勢いよく頭を下げた。
「申し訳ございませんっ! それから、お、おはようございます!」
しばらく頭を下げていると、鼻で笑われる。
「お前は相変わらず生真面目だな」
「いえ、そんなことは……」
安っぽい否定の言葉しか思い浮かばなくて、俯く。
そうしていると、ふと地面の影が動いた。
零様の足が近づいて来ると、声をかけられた。
「槍はやめろ」
「え……?」
「お前は伊織にはなれない。あいつを見るのはやめろ」
──どうしてそんなことを言うのだろうか。
零様を見上げると、彼は真っすぐに私を見ていた。
「──っ! なぜでしょうか……?」
その問いには答えず、もう一度彼は私に冷たい声を放つ。
「伊織には注意しろ」
「え……?」
何一つ言われたことを理解できずに、私は戸惑うばかり。
動揺をしていた私を一瞥すると、背を向けて戻られていく。
彼が廊下の角を曲がって姿が見えなくなるまで、じっとその姿を追ってしまっていた。
『伊織にはなれない』
伊織様は、妖魔専門護衛隊に入りたいと言った私を快く受け入れて、闘い方を一から教えてくださった人。
部隊の隊長でありながら、自ら私に稽古をつけてくださる。
優しくて、強くて、護衛隊の長である零様にも信頼されている人。
そうして考えていた時に、先程のもう一つの言葉が思い出された。
『伊織には注意しろ』
あれはどういう意味なのだろうか。
何を注意する?
私は零様の意図がわからずに、稽古もそこらで考え込んでしまった。
そうしていよいよ零様の生誕の宴が始まる。
あんなに長くて苦しい夜になるなんて、この時の私は想像もしていなかった──。
「相変わらず早いな」
「伊織様、おはようございます」
稽古槍を振る手を止めて、あくびをしながら縁側に来た伊織様に頭を下げる。
「今日は槍の鍛錬か」
「はい、様々なものに触れて妖魔との戦闘に生かしたくて」
「いいと思うぞ。まあ、俺の槍技には到底及ばないけどな」
「いつか超えて見せます、絶対に」
無理無理、と手をひらひらとさせながら伊織様は去っていく。
そうして稽古を始めようとした時、何かを思い出したようで、ぴたりと立ち止まった。
「そうだ、今夜は遅くまで警備だからあまり稽古しすぎて疲れるなよ?」
「もちろんです」
「ならよし」
伊織様は満足そうに頷くと、食堂の方に向かわれた。
今日の夜は『守護王』である零様の生誕の宴が開かれる。
主に一般護衛兵が警備につくが、一部私が所属している妖魔専門護衛隊の者も参加することになっていた。
私は一心不乱に槍を振る。
そうして右手をあげて、今度は目の前にある塀の傷を狙って突く練習を始めた。
狙った先にある傷に向かって突いていると、その傷を作ってしまった時のことが頭をよぎる。
こうして槍の練習をしていたある日のこと──。
汗で手が滑り、誤って手元から槍が飛んで行ってしまったことがあった。
その槍は真っすぐ塀に向かい、なんと一点の傷を作ってしまったのだ。
傷を見た伊織様にはもちろん、事の顛末を聞いた零様にも叱られてしまい、私は一週間稽古禁止の処分を受けた。
ひたすら一週間木刀すら持たせてもらえず、書物整理をするはめに……。
「はあ……はあ……」
そんな事を思い出しながら、額の汗をぬぐってもう一度槍を構え直す。
最初は真っすぐにすら突けなかった槍も、段々体になじんできたようで、おおよそ狙ったところを突けるようになった。
「あっ!」
そんなことを考えていると、足元にあった小石でバランスを崩してしまう。
天を仰ぎながら後ろへ倒れていく最中で、私の体は誰かの腕によって支えられる。
私は振り返った。
「零様……!」
「お前はやはり危なっかしい」
私はすぐさま体を起こして勢いよく頭を下げた。
「申し訳ございませんっ! それから、お、おはようございます!」
しばらく頭を下げていると、鼻で笑われる。
「お前は相変わらず生真面目だな」
「いえ、そんなことは……」
安っぽい否定の言葉しか思い浮かばなくて、俯く。
そうしていると、ふと地面の影が動いた。
零様の足が近づいて来ると、声をかけられた。
「槍はやめろ」
「え……?」
「お前は伊織にはなれない。あいつを見るのはやめろ」
──どうしてそんなことを言うのだろうか。
零様を見上げると、彼は真っすぐに私を見ていた。
「──っ! なぜでしょうか……?」
その問いには答えず、もう一度彼は私に冷たい声を放つ。
「伊織には注意しろ」
「え……?」
何一つ言われたことを理解できずに、私は戸惑うばかり。
動揺をしていた私を一瞥すると、背を向けて戻られていく。
彼が廊下の角を曲がって姿が見えなくなるまで、じっとその姿を追ってしまっていた。
『伊織にはなれない』
伊織様は、妖魔専門護衛隊に入りたいと言った私を快く受け入れて、闘い方を一から教えてくださった人。
部隊の隊長でありながら、自ら私に稽古をつけてくださる。
優しくて、強くて、護衛隊の長である零様にも信頼されている人。
そうして考えていた時に、先程のもう一つの言葉が思い出された。
『伊織には注意しろ』
あれはどういう意味なのだろうか。
何を注意する?
私は零様の意図がわからずに、稽古もそこらで考え込んでしまった。
そうしていよいよ零様の生誕の宴が始まる。
あんなに長くて苦しい夜になるなんて、この時の私は想像もしていなかった──。
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