29 / 32
故郷帰還編
第29話 母娘の時間と桜(1)
しおりを挟む
まきちゃんと遊んだ2日後に、お母さんとのんびりテレビを見ていると、ある誘いの声が聞こえてくる。
「友里恵、お花見でもしない?」
お母さんからの提案はわりと珍しくて、私は思わず顔をあげた。
「うん、いいけど」
「そう、よかった。じゃあ、今から準備をして行こうか」
「え! 今から?」
お昼ご飯を食べてまったりしていたところで、なんなら学校がないことをいいことに昼寝でもしてしまおうかと思うくらいまどろんでいた。
そんな私とは反対にさっと立ち上がってキッチンに準備をしにいく。
水だしされた美味しいコーヒーを冷蔵庫から出すと、薄まらないように水筒に一つだけ氷を入れる。
カランと甲高い音を響かせて水筒と、ピクニックの時に使っていたコップを二つ棚の奥から出してきた。
私も手伝おうと席を立ったのだが、お母さんに制止される。
「あんたは天気大丈夫かテレビで見てて~」
「う、うん……」
今時天気はネットで見れば数秒で終わるし、それにお母さんもいつもネットで見てる。
きっと私に気を遣ってゆっくりしていていい、ということなんだと思うけど、なんとなく違和感を覚えた。
現代に戻ってきてからお母さんの優しさをすごく感じていた。
最初はああ、懐かしい、お母さんの優しさが沁みるな、なんて呑気に思っていたけど、よくよく考えるとなんだかその優しさが私の知っている昔よりも過剰に思えた。
どうしてそんな風に感じたのか、優しさが過剰なのか。
ぼうっと考えながらテレビに映る小さい天気予報に目を移す。
「晴れだってさ」
「そう、よかった。あ、お母さん着替えて来るわ!」
「あ、じゃあ、私も!」
そう言ってお互いの部屋に着替えに向かった──
河川敷の桜をお母さんといつも見に行っていたため、今日もてっきりそこだろうと思っていたが、そうじゃなかった。
神社の近くの裏道を抜けた先の丘に、ポツンと一つだけ桜の木があった。
今年は寒いからまだどこもあまり開花していないとテレビで流れていたのを思い出したが、そこの桜はもう咲き始めている。
「お母さん、ここ……」
「ふふ、お母さんの秘密の場所」
そういってシートをひくと、隣においでというように手招きする。
私はその誘いに導かれながら腰を下ろした。
持ってきたリュックを木の幹にもたれかからせると、その中から水筒とお饅頭を取り出す。
お重に詰められたお饅頭は何種類かあるのか、白いのや緑のがあった。
焼いてあるのか表面が少しきつね色になっているものもある。
「どうぞ」
「ありがとう」
私は緑のお饅頭をとると、口に運ぶ。
「──っ? よもぎ?」
「そう、香りいいでしょ?」
「うん、あんまり昔は好きじゃなかったけど、今は好きかも」
「あんた最近はよくよもぎ餅食べてたからね」
あ……そういえばそうだったかも。
なんだか昔はこのクセが嫌だったけど、今はこのちょっとほろ苦い感じが好き。
中から白あんが出てきて、その甘さが口いっぱいに広がっていく。
甘さで占拠された瞬間、横からコーヒーを差し出される。
「今思ったけど、コーヒーなんだったらお茶じゃないの?」
「え~だってお母さんコーヒー飲みたい気分だったから~」
そんな茶目っ気たっぷりに返してくるお母さんは、ああ、いつものお母さんだな、なんて思う。
ありがたくもらったコーヒーを飲むと、私仕様にちょっとだけシロップが入っているのがわかる。
お母さんはもっと甘いのが好きだから、私に合わせてくれたのね。
「綺麗ね」
「うん、静かだし。久々かも、お花見なんて。……3年ぶりくらいじゃない?」
「もっとよ。あんたいっつも高校の時はまきちゃんと遊んでばっかりだったもん」
「そっか……」
確かに言われれば毎日学校で会っているのに、春休みも土日もいつもまきちゃんと遊んでた。
一昨日も遊んだばかりだし、やっぱり気が合う友達と遊ぶのは楽しい。
「こんな町が見晴らせる丘で桜って、意外と名所になりそうなのに」
「そうね……」
少しだけ曇った表情でお母さんはずーっと向こうの方を見ていた。
そうしてじっと景色と心地よさに浸っていたら、お母さんが口を開く。
「思い出すわね」
「え?」
「昔のこと」
「なに? お母さんの学生の時とか!?」
私はあんまり聞いたことがないお母さんの昔話に興味津々でつい身を乗り出してしまう。
そうやって見たお母さんの表情はなんだか悲しそう。
微笑んではいるけど、なんか懐かしそうな、でも複雑そうな表情をしている。
「お母さん?」
私は思わず声をかけると、ちらりとこちらを見て私に尋ねて来る。
「クリシュト国のみなさんは元気だった?」
「──っ!!!?」
絶対に現代で聞くことがないと思っていた言葉を聞いて私は思わずびくりと肩を揺らした。
なんで……お母さんが、クリシュト国を……。
私、何か向こうの世界のこと話したっけ?
あれ? 何も話してないはず……あれ……。
お母さんは私の戸惑いを見て、ごめんごめんと笑って謝った。
「サクラを思い出すわね」
それが、この現代にある桜じゃないと確信した──
******************************
【ちょっと一言コーナー】
お母さんとお花見からの、というお話でした!
コーヒー好きなのは私がそうだからです!
【次回予告】
母親の口から異世界の話が出たことに驚きを隠せない友里恵。
そうすると、彼女はゆっくりと自分の過去を話し始めた──
次回、『母娘の時間と桜(2)』。
「友里恵、お花見でもしない?」
お母さんからの提案はわりと珍しくて、私は思わず顔をあげた。
「うん、いいけど」
「そう、よかった。じゃあ、今から準備をして行こうか」
「え! 今から?」
お昼ご飯を食べてまったりしていたところで、なんなら学校がないことをいいことに昼寝でもしてしまおうかと思うくらいまどろんでいた。
そんな私とは反対にさっと立ち上がってキッチンに準備をしにいく。
水だしされた美味しいコーヒーを冷蔵庫から出すと、薄まらないように水筒に一つだけ氷を入れる。
カランと甲高い音を響かせて水筒と、ピクニックの時に使っていたコップを二つ棚の奥から出してきた。
私も手伝おうと席を立ったのだが、お母さんに制止される。
「あんたは天気大丈夫かテレビで見てて~」
「う、うん……」
今時天気はネットで見れば数秒で終わるし、それにお母さんもいつもネットで見てる。
きっと私に気を遣ってゆっくりしていていい、ということなんだと思うけど、なんとなく違和感を覚えた。
現代に戻ってきてからお母さんの優しさをすごく感じていた。
最初はああ、懐かしい、お母さんの優しさが沁みるな、なんて呑気に思っていたけど、よくよく考えるとなんだかその優しさが私の知っている昔よりも過剰に思えた。
どうしてそんな風に感じたのか、優しさが過剰なのか。
ぼうっと考えながらテレビに映る小さい天気予報に目を移す。
「晴れだってさ」
「そう、よかった。あ、お母さん着替えて来るわ!」
「あ、じゃあ、私も!」
そう言ってお互いの部屋に着替えに向かった──
河川敷の桜をお母さんといつも見に行っていたため、今日もてっきりそこだろうと思っていたが、そうじゃなかった。
神社の近くの裏道を抜けた先の丘に、ポツンと一つだけ桜の木があった。
今年は寒いからまだどこもあまり開花していないとテレビで流れていたのを思い出したが、そこの桜はもう咲き始めている。
「お母さん、ここ……」
「ふふ、お母さんの秘密の場所」
そういってシートをひくと、隣においでというように手招きする。
私はその誘いに導かれながら腰を下ろした。
持ってきたリュックを木の幹にもたれかからせると、その中から水筒とお饅頭を取り出す。
お重に詰められたお饅頭は何種類かあるのか、白いのや緑のがあった。
焼いてあるのか表面が少しきつね色になっているものもある。
「どうぞ」
「ありがとう」
私は緑のお饅頭をとると、口に運ぶ。
「──っ? よもぎ?」
「そう、香りいいでしょ?」
「うん、あんまり昔は好きじゃなかったけど、今は好きかも」
「あんた最近はよくよもぎ餅食べてたからね」
あ……そういえばそうだったかも。
なんだか昔はこのクセが嫌だったけど、今はこのちょっとほろ苦い感じが好き。
中から白あんが出てきて、その甘さが口いっぱいに広がっていく。
甘さで占拠された瞬間、横からコーヒーを差し出される。
「今思ったけど、コーヒーなんだったらお茶じゃないの?」
「え~だってお母さんコーヒー飲みたい気分だったから~」
そんな茶目っ気たっぷりに返してくるお母さんは、ああ、いつものお母さんだな、なんて思う。
ありがたくもらったコーヒーを飲むと、私仕様にちょっとだけシロップが入っているのがわかる。
お母さんはもっと甘いのが好きだから、私に合わせてくれたのね。
「綺麗ね」
「うん、静かだし。久々かも、お花見なんて。……3年ぶりくらいじゃない?」
「もっとよ。あんたいっつも高校の時はまきちゃんと遊んでばっかりだったもん」
「そっか……」
確かに言われれば毎日学校で会っているのに、春休みも土日もいつもまきちゃんと遊んでた。
一昨日も遊んだばかりだし、やっぱり気が合う友達と遊ぶのは楽しい。
「こんな町が見晴らせる丘で桜って、意外と名所になりそうなのに」
「そうね……」
少しだけ曇った表情でお母さんはずーっと向こうの方を見ていた。
そうしてじっと景色と心地よさに浸っていたら、お母さんが口を開く。
「思い出すわね」
「え?」
「昔のこと」
「なに? お母さんの学生の時とか!?」
私はあんまり聞いたことがないお母さんの昔話に興味津々でつい身を乗り出してしまう。
そうやって見たお母さんの表情はなんだか悲しそう。
微笑んではいるけど、なんか懐かしそうな、でも複雑そうな表情をしている。
「お母さん?」
私は思わず声をかけると、ちらりとこちらを見て私に尋ねて来る。
「クリシュト国のみなさんは元気だった?」
「──っ!!!?」
絶対に現代で聞くことがないと思っていた言葉を聞いて私は思わずびくりと肩を揺らした。
なんで……お母さんが、クリシュト国を……。
私、何か向こうの世界のこと話したっけ?
あれ? 何も話してないはず……あれ……。
お母さんは私の戸惑いを見て、ごめんごめんと笑って謝った。
「サクラを思い出すわね」
それが、この現代にある桜じゃないと確信した──
******************************
【ちょっと一言コーナー】
お母さんとお花見からの、というお話でした!
コーヒー好きなのは私がそうだからです!
【次回予告】
母親の口から異世界の話が出たことに驚きを隠せない友里恵。
そうすると、彼女はゆっくりと自分の過去を話し始めた──
次回、『母娘の時間と桜(2)』。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
さよなら王子、古い聖女は去るものなのです
唯崎りいち
恋愛
元聖女の私は、自分が無能だと思い、有能な新しい聖女に任せるために王都を去ることを選んだ。しかし幼なじみの王子は、私を追いかけてくる。王子の真剣な想いと、自分の無自覚な力が国や人々に影響を与えていることに気づき、私は王都へ戻る決意をする。こうして二人は互いの気持ちを確かめ合い、結ばれる――自己評価の低い少女が本当の価値と愛に気づく、ハッピーラブファンタジー。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる