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最終話 可愛いと言ってあなたは笑った
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見事に歌姫に復帰した翌日、ルイスも同じ薬で目が戻った。
彼は少ししたら画家としての修行をするために家を出るのだという。
そんな弟の旅たちを寂しそうにして研究室の机に突っ伏しているのは、歌姫エリーヌの夫アンリであった──
「アンリ様、もういつまでそうしているつもりですか?」
「だって、ルイスが……ルイスが……」
「もう、自由にしてあげたいといったのはアンリ様ではないですか」
「でも……」
子供のように口をとがらせて、机の上に指文字で意味のない図形を書いて拗ねている。
こうなればもうしばらくは無理だなと思ったエリーヌは、伸びをしながらわざとらしく願望を言ってみた。
「私も舞台修行に出ようかしら」
「え……?」
「やはり歌が好きですし、各地を回ってみたいというのが夢でしたから」
「だめ!! だめだめだめ!!!」
そう言いながらアンリはエリーヌをすっぽりと自分の腕の中に閉じ込めて逃げられないようにしてしまう。
「アンリ様?」
「絶対逃がさない」
「ん……!」
そう言うと強引に壁にエリーヌの身体を押し当てて唇を奪う。
何度も角度を変えて重なるそれに、エリーヌは呼吸を乱される。
しかし、今日ばかりは不満を言わねばとエリーヌは強い力で押し返した。
「──っ! エリーヌ?」
「アンリ様は本当に私のことが好きなのですか?」
「へ?」
「だって、その……好きとか、愛してるとか、そういうこと、きちんと言われてないです。やっぱり私たちは政略結婚の関係で、私はお飾りの妻でしょうか?」
俯いて少し涙目になりながら訴える彼女に、アンリは思わず否定する。
「違う! その、えっと……」
「ふふ、冗談です。意地悪いってみたかっただけです。あ、私、お茶会の時間がありますから、もういきますね」
そう言って彼の腕をするりと抜けたその時、腕をぐっと掴まれた。
その腕を優しく引いてエリーヌを自分のほうへと向かせると、彼女の頬に手を当てて囁く。
「好きだよ」
「──っ!」
「大好き。すごい、もう止まらないんだ。エリーヌのこと、可愛くて可愛くて、大事にしたくて。嫌われたくなくて」
「アンリ様……」
「お飾りなんてさせない。俺はエリーヌだけ。エリーヌも俺だけを見て」
そういってエリーヌの答えを待つ。
少しだけ不安そうにしている彼を、愛しいと思った。
(ああ、なんて可愛い人で、素敵な人なんだろう)
「アンリ様」
「ん?」
名を呼ぶと同時に伸ばされた手は、彼の衿元を掴んで引き寄せた。
まるでハプニングのようにちゅっと唇が触れ合うと、彼女は微笑む。
「だーいすきです! アンリ様! あなたのもの、私がいただきます!」
そうしてもう一度唇が重なった。
その日、蕾をつけていた花がようやく花を咲かせた。
決して大きくはないが、純白で美しいその花は、二人の想いが通じた証のようだった──
****************
応援ありがとうございました!
「小説家になろう」にておまけSSを掲載しました。
彼は少ししたら画家としての修行をするために家を出るのだという。
そんな弟の旅たちを寂しそうにして研究室の机に突っ伏しているのは、歌姫エリーヌの夫アンリであった──
「アンリ様、もういつまでそうしているつもりですか?」
「だって、ルイスが……ルイスが……」
「もう、自由にしてあげたいといったのはアンリ様ではないですか」
「でも……」
子供のように口をとがらせて、机の上に指文字で意味のない図形を書いて拗ねている。
こうなればもうしばらくは無理だなと思ったエリーヌは、伸びをしながらわざとらしく願望を言ってみた。
「私も舞台修行に出ようかしら」
「え……?」
「やはり歌が好きですし、各地を回ってみたいというのが夢でしたから」
「だめ!! だめだめだめ!!!」
そう言いながらアンリはエリーヌをすっぽりと自分の腕の中に閉じ込めて逃げられないようにしてしまう。
「アンリ様?」
「絶対逃がさない」
「ん……!」
そう言うと強引に壁にエリーヌの身体を押し当てて唇を奪う。
何度も角度を変えて重なるそれに、エリーヌは呼吸を乱される。
しかし、今日ばかりは不満を言わねばとエリーヌは強い力で押し返した。
「──っ! エリーヌ?」
「アンリ様は本当に私のことが好きなのですか?」
「へ?」
「だって、その……好きとか、愛してるとか、そういうこと、きちんと言われてないです。やっぱり私たちは政略結婚の関係で、私はお飾りの妻でしょうか?」
俯いて少し涙目になりながら訴える彼女に、アンリは思わず否定する。
「違う! その、えっと……」
「ふふ、冗談です。意地悪いってみたかっただけです。あ、私、お茶会の時間がありますから、もういきますね」
そう言って彼の腕をするりと抜けたその時、腕をぐっと掴まれた。
その腕を優しく引いてエリーヌを自分のほうへと向かせると、彼女の頬に手を当てて囁く。
「好きだよ」
「──っ!」
「大好き。すごい、もう止まらないんだ。エリーヌのこと、可愛くて可愛くて、大事にしたくて。嫌われたくなくて」
「アンリ様……」
「お飾りなんてさせない。俺はエリーヌだけ。エリーヌも俺だけを見て」
そういってエリーヌの答えを待つ。
少しだけ不安そうにしている彼を、愛しいと思った。
(ああ、なんて可愛い人で、素敵な人なんだろう)
「アンリ様」
「ん?」
名を呼ぶと同時に伸ばされた手は、彼の衿元を掴んで引き寄せた。
まるでハプニングのようにちゅっと唇が触れ合うと、彼女は微笑む。
「だーいすきです! アンリ様! あなたのもの、私がいただきます!」
そうしてもう一度唇が重なった。
その日、蕾をつけていた花がようやく花を咲かせた。
決して大きくはないが、純白で美しいその花は、二人の想いが通じた証のようだった──
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応援ありがとうございました!
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