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番外編 SS(ショートストーリー)

SS-2 目銅佐オーナーはモフりたい

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<三人称視点>

「えりとさん」
「どうした」

 銀座、とある高級マンション最上階にて。

 おでこが広く見える黒髪ショートカットに、キリっとした目付き、一見怖そうに見える目銅佐めどうさオーナーはその面持ちのまま口にした。

「足りなくないですか」
「……」

 オーナーの言葉に対して、えりとはふと窓に視線を移す。

 映るのは絶景と言うにふさわしい東京の夜景。
 ダンジョン関連でさらに発展し、もはや眠ることはないきらびやかな都心だ。
 それを見れば、誰もが「何が足りないのか」とツッコむほどの勝ち組具合だろう。
 
 しかし、えりとは同意するようにうなずく。

「ああ、足りないかもな」
「ですよね」

 同時にふうと一息。
 次に発するのはまったく同じ言葉だった。

「「モフモフが!」」







「で、わしに連絡を寄こしたと」

 そうつぶやいたのは、里長さん。
 フェンリルの長であり、「フェンリルとスライムの里」をまとめる者だ。

「そうだ」
「そうです」

 里長さんの目の前には、オーナー・えりとの目銅佐夫妻。
 オーナーの休日に合わせ、今日は朝から里を訪れていたのだ。
 
「何か良いアイデアはないか」
「そうじゃのう……」

 えりとが相談していたのは「モフモフの充足」。
 
 社長界隈という広い世界の中でも、随一と言える程にモフモフが大好きな目銅佐オーナー。
 よくやすひろの家や世界樹には遊びに来る彼女だが、結婚してから三年、実はまだ自身のペットを飼っていなかったのだ。

「妻がどうしてもと言うので」
「えりとさんもでしょー」

 そんな日々についに我慢の限界が来たようだ。
 その上、モフモフ好きを大っぴらにしたオーナー、現在は多くのペット・魔物事業を手掛けており、仕事でそれらと触れ合う機会は多い。

 なのに……なのに自分はペット飼っていない!

 そのことに耐えられなくなってしまった様子。

「私、もう発作が抑えられなくて」
「それは重症じゃ。即刻いやされる必要があろう」
「ですよね……」

 里長さんは深刻そうに頷いた。
 この場にツッコミは不在である。

「じゃが、人間界にはペットショップなる店があるじゃろうに」
「それはなんか違くて……」
「まあ、やすひろや桜井さんの種族を見てたらな」
「なるほどのう」

 里長さんもオーナーの言葉は理解できる。
 普通のペットでは満足できない、というわけではないが、もっとこう「ガツンとくるものがほしい」という気持ちなのだろう。

 そんなところに、

「あ!」
「ん?」

 コロコロ、コロコロと転がってくる小さな魔物。
 
 白と黒のモフモフの体毛。
 賢い様子はまるでなく、体をでんぐり返しさせながら移動している魔物が現れる。

 数千もの魔物データが全て頭に入っているえりとは、瞬時に魔物を言い当てた。

「あいつは『コロコロパンダ』か」
「コロコロパンダ……?」
「ああ」

 それでも、オーナーには図鑑を開いてデータを見せてあげる優男えりと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コロコロパンダ
希少度:EX(絶滅ぜつめつ危惧きぐしゅ
戦闘力:E

どこかの秘境の中に住むと言われるパンダ型魔物。
絶滅危惧種認定されており、とても貴重。
動物のパンダよりも少し小さく、主に野菜を食す。
コロコロと転がるのが好き。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 それを見たオーナー、顔をあわあわさせる。

「なんですかこの可愛い生き物は!」
「一応魔物だが……まあ、無害に等しいな」
「まって~!」
「って、聞いちゃいねえ」

 引き続きコロコロと転がるコロコロパンダ。
 オーナーは急いで追いかけて行った。

 それを見ながら、えりとは呟く。

また・・紛れ込んだのか」

 この里は「えりとの演算」と「里長さんの入口を繋げる力」によって、どこへでも里の入口を設定することが出来る。
 これは、ほとんどファンタジー世界の転移魔法のようなもの。

 だが、入口を繋ぐということは繋いだ場所から入ってくることもできる。
 今回のように違う場所から魔物が紛れ込むことがあるのだ。

「じゃが、今回はみなスルーしたのじゃろう」
「みたいだな」

 外から魔物が紛れ込めば、里に危険が及ぶ可能性もある。
 そうなれば必然的にフェンリル・スライム達が追い出そうとするわけだが、コロコロパンダはあまりに無害のためスルーされたようだ。

 えりとは里長さんに続ける。

「長さん、次の入口はいつ繋げられる?」
「今日の夕方頃かのう」
「……了解」

 里長さんの「入口を繋ぐ」能力は無限ではない。
 相応のエネルギーを使用するため、再度入口を変更する際には一日ほど時間を要する。

「めどさんには悪いが、これは返してやらねえと」
「そうじゃな」

 今までも何度かあった魔物の紛れ込み。
 だがその都度つど、魔物は元の場所に返してきたのだ。
 これは里の管理者「やすひろ」の意思。

 勝手に紛れ込んで勝手に殺されるのは可哀そう。
 紛れ込んだら元の場所に返してあげよう。
 泥棒みたいだから乱獲するのもダメ。

 やすひろがそう言ったことから、これは今も徹底されている。

「オーナー殿には先に伝えておくかの?」
「……いや」

 えりとはコロコロパンダとたわむれるオーナーの方を向いた。

「もう少しだけ遊ばせてやってくれ」




「こっちですよ~」
「コロロッ!」

 目銅佐夫妻が里を訪れて一時間ほど。
 オーナーはずっとコロコロパンダと戯れ続ける。

「えらいですね~『コロちゃん』!」
「コロッ!」

 早速「コロちゃん」という名前まで付けたよう。

「これ食べますか?」
「コロ~」

 ニコニコのオーナーが差し出したのは人参にんじん
 『王種野菜』の畑から獲れるものだ。
 野菜を主に食すというコロコロパンダのコロちゃんは喜んでかぶりつく。

「可愛いですね~!」
「コロォッ!」

 コロちゃんもすっかりオーナーに懐いたようだ。
 そうして、オーナーは草原に寝そべるえりとの方を向いた。

「えりとさーん、私達もお昼にしましょう~」

 えりともむくりと起き上がり、オーナーの方に歩いてくる。

「おー、俺のこと忘れてなかったのか」
「忘れませんよ。えりとさんは大切な人ですから」
「……そうかい」

 その言葉に、ぷいっと目をらすえりと。
 鈍感オブ鈍感のやすひろならば首を傾げるだけだが、オーナーはそうはいかない。

「あら、照れちゃいました?」
「……そんなわけねえだろ」
「ふふふっ」

 二人の間になごやかな雰囲気が流れる。
 えりとはふと心の中で思う。
 
(最近は仕事もさらに忙しそうだったからな)

 オーナーがここまで笑顔になるのも久しぶりだ。
 我慢が爆発したのも多忙だったためだろう。

「こんな感じでいいだろ」
「はい! 食事の方も準備できました!」

 ブルーシートを広げ、三人団欒だんらんでお昼をとる。
 多忙を極めるオーナーにとっては久しぶりのちゃんとしたお昼だろう。

「はいコロちゃん、あ~ん」
「コ~ロ」

 コロちゃんはあーんで与えられたキャベツをむしゃむしゃと食べる。
 まるですでに家族のようだ。

「じゃあえりとさんも。あ~ん」
「は?」
「あ~ん」
「……むぐ」

 一度拒否するが、二度目には降参するえりと。
 この夫妻、オーナーの方が「攻め」である。

「じゃあ私にもください!」
「……冗談だろ?」
「食べたいなー」
「くっ」

 口を「あー」と開けるオーナー。
 えりとはまたも屈した。

「ほらよ。……あ、あーん」
「んー! 美味しいです!」
「……変わらねえだろ」

 そんなこんな言いつつも、和やかなお昼を過ごした三人だった。




 三人でお昼を過ごした後、オーナーとコロちゃんはお昼寝。
 それを横目に光の速さでPCをカタカタさせていたえりとだったが、二人が起きると夕方まで一緒に遊んでくれたようだ。

 なんだかんだ「できる夫」である。
 だが、そんな時間がずっと続くわけではない。

 日も暮れてきた頃、えりとは言いづらそうに口を開いた。 

「……めどさん」
「なんですか? えりとさん」

 コロちゃんと戯れながら、オーナーは振り返る。

「時間だ」
「!」

 賢いオーナーならば、それだけで何を言いたいかが分かるだろう。
 コロちゃんをモフったまま立ち上がった。

「そうですよね」
「……」
「この子にも家族がいますもんね」
「……ああ」

 オーナーは必死に寂しい顔を隠す。
 だが、えりと相手に隠し通せるものではない。

(こうなっちまうか……)

 こうなるぐらいなら、出会った時に無理してでも止めておくべきだった。
 後悔してしまうえりと。

「行こ、コロちゃん」
「コロッ?」

 何が何だか分からないコロちゃん。
 オーナーは手を繋いで里長さんに向き直る。

「入口を繋げるぞ、えりと殿」
「……ああ」

 オーナーとコロちゃんがお昼寝している時に、えりとはあらゆるデータを用いてコロコロパンダの生息地を特定していた。
 “秘境”など、えりとの前では無意味も無意味だ。

 すでに座標も伝えられている里長さんは、すぐに入口をそこへ繋げる。

「繋いだぞ」
「助かる」

 若干下がる視線のまま、えりとはオーナーの方を向いた。

「連れて行こう」
「はい」

 オーナーも子どもではない。
 無理に笑顔を作って、コロちゃんと入口をくぐった。

 しかし。

「……!」
「えりとさん、これは……!」

 目の前に広がったのは、“荒れた大地”。
 秘境と言うには、あまりにすさんだ場所であった。

「……これは仕方ねえな」
「えっ?」

 えりとはざっと周辺を観察し、何があったかを考察する。

「探索者の跡だ」

 おそらく探索者によって秘境ごと狩られたのだろう。
 
 この世界は弱肉強食。
 探索者は魔物を狩って生活をしている。
 狩る側もいれば狩られる側もいるのだ。
 どちらが悪ということはない。

「そんな……」
「これに関しては何も言いようがねえな」

 相棒のやすひろも、普段は魔物を狩っている。
 ダンジョンという世界ではごく普通に起こり得ることだ。
 それはオーナーも理解できる。

 そんな中、

「コロ……」

 コロちゃんはオーナーにしがみついた。

「コロっ」
「コロちゃん……!」

 えりとは察する。

「めどさんに付いて行きたいのかもしれねえな」
「そうなの?」
「コロぉ」

 コロちゃんは頬を擦り付けるように頷く。

 ここまでくればオーナーも察する。
 コロちゃんはおそらくここから逃げて来て、里に迷い込んだのだろうと。

「……そっか」

 すでにオーナーの心は決まっていた。
 その強い目をキリっとえりとに向ける。

「えりとさん」
「なんだ」

 すでに言いたいことは理解しているだろう。
 それでも、あえてえりとは言葉を待つ。

「コロちゃんは私が飼います!」
「……」
「たとえルール違反だとしても!」
「……ふっ」

 えりとはオーナーに背を向けた。
 そのままわざとらしく口を開く。

「そういえば、ちょうど絶滅危惧種の調査をしようと思ってたんだよなあ」
「え?」
「良い機会だし、うちで面倒見るかあ」
「えりとさん……!」

 オーナーの顔がぱあっと晴れ、コロちゃんをがしっと抱き上げる。

「良いって! これからは一緒だって!」
「コロー!」
「ふっ。めでたい奴らだ」

 背中越しにチラッとその光景を見るえりと。
 そこにぼそっと話しかけるのは、里長さんだ。
 
「お主もすみに置けぬのう。えりと殿」
「……何言ってんだか」

 こうして、目銅佐夫妻は絶滅危惧種『コロコロパンダ』のコロちゃんを飼い始めた。







 数ヶ月後。

「見てください、えりとさん!」
「おーまじか」

 目銅佐夫妻の自宅。
 ペット専用に作ったスペースで声を上げる。

「わああ……!」

 オーナーが目をキラキラさせて眺めるのは、二匹・・のコロコロパンダ。
 
「頑張ったねコロちゃん! えらいぞ~!」
「コロ~」
 
 若干弱々しく返事をするコロちゃん。
 その隣には、さらに小さなコロコロパンダ。

「ころ……?」

 たった今・・・・、コロちゃんが産んだ新たなコロコロパンダ。
 コロちゃんの子どもだ。

「可愛い~!」
「ころっ!」

 二匹のコロコロパンダとたわむれるオーナー。
 それを眺めながら、えりとは口を開く。

「まさかスライムと交配するなんてな」

 秘境はなくなってしまい、一匹となったコロコロパンダ。
 種の繁栄はんえいは難しいかと思われたが、里で仲良くなったスライムとの間で子を宿したのだ。

「でも、えりとさんでも知らない事あるんですね」
「そんなもんまだまだあるだろうよ」
「ちょっと意外です」
「ふっ。だからこそ研究はやめられねえんだよ」
「へえ……」

 口角を上げて少し上を見上げるえりと。
 それをぼーっと眺めるオーナー。

 少し間が空いたところに、

「ころ……ころ、ころ~!」

 子どもコロコロパンダが泣き出す。

「わっ!」
「コロッ!」

 コロちゃんとオーナーはあわてて子をあやす。
 
「これから忙しくなりそう……!」

 その言葉の割には嬉しそうなオーナー。
 コロちゃんをお世話をする者をすでに付けているが、できるだけ自分で面倒を見たいと思っているのだ。

 その光景に、

「ふふふっ」
「……かわいいじゃねえかよ」

 えりとは小声でぼそっとつぶやく。

「え、なんですか?」
「……! な、なんでもねえよ!」
「そうです?」

 えりとにとぼけたふりで聞き返すオーナー。

(聞こえてますよーだ)

 だが、実はしっかりと耳に入っていた。

「ふふふっ」

 密かに頬を赤くするオーナー。
 その顔はとても幸せそうだ。
 
 こうして、スライムとの交配という新たな魔物の可能性を見出した目銅佐夫妻。
 コロコロパンダを家族として迎え入れると同時に、また違った絶滅危惧種の保護・種の繁栄にも力を尽くすようになったであった。



───────────────────────
今回は目銅佐オーナーとペットについてでした!
そろそろ主人公を出さないと怒られそうなので、やすひろのSSも出したいですね笑。

また、いつまで続くかは未定ですが、SSは毎週月曜の20時を目安に更新していこうと思います。
お付き合いくださるとすごく嬉しいです!
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