醒めない夢の中で

こひなた ひまり

文字の大きさ
2 / 6

2

しおりを挟む


「夢の中?」


「そ、夢の中。二回も言わせないで頂戴。」


少女はそれだけ言うと、また目線を下げ本を読み始めた。


「夢……そうか、夢なのか……。はは……だよな、でなきゃありえない。そうだよな……」


夢ならば、醒めれば全て元どおりなんだ。

ホッとすると、足の力が抜け、思わず俺はその場に座り込んだ。

そしてちらりと本を読んでいる少女に再び目を向ける。

……まさか俺は心の奥底で知らぬうちにこんな感じの少女に出会いたい等の願望を抱いたりしてたのか?

夢にまで見るって……うーん、……相当ヤバくね?

銀髪少女とかそーゆー系の少女が出てくるアニメやらラノベやらを見たことない、と言ったら嘘になるけど……いや、まさか……


「……貴方、本当に煩いわねぇ。思ったことをいちいち口にしないで頂戴」


「え……あ、……ごめん」


いつのまにか考えていたことを口に出していたみたいだ。

少女がジト目でこっちを見てきている。


「貴方が現世うつしよで何を考えてるかなんて私には知ったこっちゃないけれど。大丈夫よ、多分私は貴方の想像上の人物ではないから」


「うつしよ……?てか、想像上の人物じゃないって?」


本当に全部聞かれていて正直穴があったら入りたいぐらいだったが、とりあえず聞いてみる。

大丈夫、これは夢なんだ。

少々恥をかいても俺の脳内の出来事なんだ、……多分。

読書を妨げてまた怒られるかもしれないと思ったが、少女は本にしおりを挟み丁寧に説明してくれた。


現世うつしよはね、貴方が普段生活を営んでる場所のことよ。私達はその世界をそう呼ぶの。」


「達……?」


「いーい?ここは夢の中って言ったでしょう?現世は貴方達、人間の住処すみかで、夢は私達、夢魔むまの住処なの。理解出来るかしら?」


「いや、全く」


ハァ、とまた溜息をする音が響く。


「私はね、貴方の作り出した架空の人物ではなくて、夢魔、という種族の一人なの」


「……はぁ」


「まだ理解できないのね。……バカなのかしら?」


「いや、急に夢魔とかよく分からない単語を出されて理解できる方がおかしいだろ!」


というか、それだけでバカ呼ばわりするな!


「ふぅん……最近の人間はアニメとかラノベとかいう、非日常な物語を好むと聞いていたからこういうのはすぐ理解できるものだと思っていたわ」


「それは偏見だろ……」


「あら、そうなのね、悪かったわ。それは知らなかったわ。良い情報をありがとう」


俺の不満気な呟きを聞いて少女は素直に考えを正し、ついでに傍らに置いてあった手帳にメモをし始めた。


「え、えぇ……?あ、いや……うん」


メモを取り終わったらしく、また少女が向き直る。


「何?……メモを取ったらおかしいのかしら?続けるわよ。……私達夢魔はね、それぞれ 縄張りテリトリーを持ってるの。で、貴方達は寝ている間にそこに訪れる事があるワケ」


成る程。

少しだけ分かってきた気がする。


「つまり俺は今お前の縄張りテリトリーにいるわけだな?」


「そ。この屋敷全体が私の縄張りテリトリーよ。他の夢魔が入ってくると煩いからいつもこの部屋の扉は隠してるわ。」


「へぇ……どうりで出入り口が見当たらないわけだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...