本田家の日常

雪桃

文字の大きさ
2 / 9

ギャルちゃんとヤンキーくん

しおりを挟む
 ああ。中等部が懐かしい。

 なんてしみじみしながら着いたのは三年四組。メールするより直談判した方が早いと思って一組ずつ周ってたけど音沙汰無しだから最後の四組にいるということだろう。そうじゃなかったらどこにいんだ。

「かーなーで」
「あれ、優ちゃん? 何でいるの?」

 丁度掃除当番だったのか一つ下の妹、かなでが箒を持ったままこちらへ近づいてきた。

 奏はおしゃれが大好きな軽いギャル。ちゃんと規定ラインは守ってるから――ピアスとかアクセサリーとか――咎められたことは一度も無い。規則には厳しいからね本田家うち

「掃除当番なの奏?」
「ううん。教室汚れてたから」
「率先してやってるの?」
「だって教室が綺麗だと皆嬉しいでしょ?」

 金髪に染めてるギャルが言うことじゃない。この子が内申めっちゃ良い理由ってこれか?

「それにしても優ちゃんいい加減一人で起きられるようになろうよ」
「あ、それ! なんで奏起こしてくれないの!? 隣の部屋なのに」
「何度も起こしたのに起きなかったの優ちゃんじゃん!」
「え、そうなの?」

 ハートとか星が散りばめられている長い爪で頬を抓られる。

「その爪で目潰しされたらひとたまりもないだろうね」
「そんなことしないよグロい。ところで何しに来たの」
「門が開くまでに時間あるから皆の顔を拝みに来た」
「それで虱潰ししてたのね」
「そういうこっとー。でも奏を最初に選んだのは他でもない」
「能力使わせる気でしょ。それ以外思い当たんないもん」

 箒を置いてきた奏は私を引き連れて中等部の五階にある音楽室まで歩いた。

「早くしないと吹奏楽が来ちゃうから手っ取り早くやるよ」
「お願い」

 さっきの私とは違って奏はピアノをセットするとその長い爪で一定音を鳴らした。

絶対音感ぜったいおんかん

 原理はよく分からないけど奏曰く今鳴らした音の反響を聞いて特定の人がどこで何をしているのか分かるらしい。声にも違いがあるんだからびっくりだよね。

「終わったよ」
「今誰調べてたの?」
「一番近い人。拓ちゃん」
「喧嘩してる?」
「終わったところみたい。さっさと行ってまたお説教しようよ」
「してもどうせまたするんだけどね~」
「ね~」

 いない兄の話をしながら奏の音を頼りに中等部と高等部を繋ぐ人気のない方の渡り廊下に向かう。

「今日は目立たないところで喧嘩したんだ拓ちゃん」
「始業式で喧嘩するのもどうかと思うんだけど」
「拓ちゃんにそれは通じないよ優ちゃん」

 中等部と高等部を繋ぐ渡り廊下は二つある。一つは部室の関係上殆どの人が行き交う廊下。もう一つは微妙な角度で一日の大半日が射すことが無い廊下。
 後者は薄気味悪くて、たとえぎゅうぎゅうに混んでいても皆は前者を使う。

 そんなところだからこそ逆に不良の喧嘩場にはもってこいなんだよね。私達の目的もそれだし。

「あ、いた」
「どこどこ」

 私は一回魔法使っちゃったし奏のも喧嘩じゃ役に立たないから万が一に備えて壁から覗くと着崩れた制服と切り傷を付けている兄のたくちゃんが同学年くらいの男の人の胸元を掴んでいた。

「終わってないじゃん!」
「あれ? バコッて音が連続しなくなったから」
「殴るのをやめたんじゃない?」
「あ、そっか」

 とりあえずこのまま放置してても被害受けてる方が可哀想だし止めに行ってやろう。

「拓ちゃんもうやめなよ。とっくに気絶してるよその人」
「……優に奏か。なんでいるんだ」
「優ちゃんの暇潰しに付き合ってる。それより拓ちゃんいい加減傷作るのやめなよ。手当てすんの誰だと思ってんの?」

 拓ちゃん喧嘩は強いのに他のことに関しては不器用さんだからね。絆創膏とかは私達の仕事。それも毎日。

「こいつらが下級生から金を巻き上げようとしたから殴ってやめただけだ」
「まあ助けたのはいいけどさ。もっとやり方が……こいつら?」
「ああ。こいつを置いて先に逃げた」
「奏。居場所特定してやろうぜ」
「おけまる」

 パーカッション――土を一定リズムで踏むだけでもピアノの代わりになるらしい奏は早速ダンスをするようにステップを踏もうとして拓ちゃんに止められていた。

「能力濫用するなよ。後が大変なんだから」
「「ぶー」」

 揃って口を尖らせる。

「ていうかそんなこと言うんだったら拓ちゃんも無闇に喧嘩すんのやめなよ。絶対最低一割程度は魔力使ってるでしょ」
「そうだそうだー」
「お前ら束になると強くなるな」

 拓ちゃんが顔に出来た傷を拭いながら呆れたように言う。だからそれ私達が処理すんだよ。

「もう。ちょっと待っててよ。教室行って絆創膏持ってくるから」
「絆創膏持ってるんだ」
「誰かが怪我した時大変でしょ?」
「だからギャルが言う言葉じゃないよねそれ」

 奏が教室に向かっている間私と拓ちゃんは完璧に伸びた男子生徒を通りかかった先生に渡しておいた。勿論拓ちゃんのことも言われたけどこれはいつもの事だから流した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...