人が怪物化する世界だとしても、この少女だけは守りたい

ソエイム・チョーク

文字の大きさ
28 / 30
05 最終決戦

27 終局

しおりを挟む
『あははははは、馬鹿め。隠した手札はそれで終わりだな』

 エルミーヌは高笑いしていた。
 ミーナには理解できない。

 さっき、ミーナのすぐ下にある球体が爆発した。悲鳴も演技とは思えなかった。
 エルミーヌは確実に追い詰められている。
 なのに、なぜ笑っていられるのか。
 攻撃手段を奪われ、フーベルトの乗ったCCKは上ってきている。
 なぜそんな余裕を持っていられるのか。

『確かに痛かったわね。けど、死ぬほどじゃない』

「……」

『この島のCCKがどんな武装を用意できるか、ちゃんと調べてある。遠距離武装では火力が足りなくて私に勝てないと思った。だから近距離武装で決着をつけようとしている! 手口がバレバレなのよ!』

「だから何? フーベルトが上ってきたら、あなたはおしまいよ」

『そう思わせるのが私の策だとしたら?』

「え?」

 背筋が冷える。
 そうだ、エルミーヌは隠した手札と言った。逆に、エルミーヌにも隠している手札がもあるのか。

『ずっと同じ高さで浮いているのも、最初に最大威力でビームを撃ったのもブラフ! こっちだって近距離戦闘の一つや二つ、できるわよ!』

「そんな、ズルい……」

『ズルくない! 手札を温存する余裕を与える方が悪い! そこから見ていろ! 必殺の間合いに自分から入ってきた愚か者を、おまえの目の前で引き裂いてやる!』

 今やるしかない。ミーナは決断した。
 ミーナは頭の上で脈打つ内臓に右手を当て、意識を集中する。

『え? おまえ何を……ちょっと待って! もうそれは使えないはずでしょ?』

 目を閉じ、祈るような気持ちで全身を流れているダイルの残滓をかき集める。
 物理法則を超えた力が右手に集まっていく。
 代わりに、消化液から身を守っていた奇跡が使えなくなったのか、泥に浸かった足腰が焼けるような痛みを発し始めた。

「くぅっ」

 あと一息、気力を振り絞る。
 心臓が割れるような痛みが走った。このまま死ぬかもしれない。
 それでもいい。
 奇跡の発動にさえ成功すれば……。

「……ぅぅ」

『おい、やめろ。おまえ死ぬぞ。本当にやめ』

 ミーナは賭けに勝った。光の粒子が舞い散る。
 生み出された光の矢が、ゼロ距離で天使の内臓に突き刺ささり、破裂させた。

『ぐぎゃああああああああああああああああああああっ!』

 ヘドロのような黒い液体が降り注ぐ。

〇〇〇

 振動が大気を揺らす。
 セベクノート体は狂ったように回転し始めた。

「こいつっ? 何考えてるんだ……」

 フーベルトはCCKの鞭のようなコードを振って投げた。セベクノートの首らしき部分に巻き付く。
 それが苦痛を与えたのか、さらにセベクノートは暴れる。
 だがフーベルトのCCKを引き剥がすほどではない。

 フーベルトは、ヒートブレードで球体に穴を開ける。
 穴から黒い液体がこぼれ出してきた。
 何か所にも穴を開けていく。

 ある程度液体が流れ落ちた後で、一か所に大きめの穴を開ける。
 人、のような物が顔を出した。ミーナだ。全身がヘドロのような物で汚されている。

「わっ、なんですか、ここ!」

 落ちそうになるミーナを、CCKの前側のハッチを開けて、コクピットの中に引っ張り込む。

「ひどい目にあいました……」

「ミーナ! ……本当にひどいな」

「ごめんなさい」

「気にするな。もう少し我慢していてくれ」

 ハッチを閉める。狭い空間で抱き合うような格好になってしまう。
 この体制だと、あまり無理な戦いを続けることはできない。

「もう、下に降りないと……」

「いや、こいつを俺の手で倒さないと爆撃機が来る。ここで終わらせよう」

 鞭のようなコードを引っ張って、CCKはセベクノートの肩に乗る。

「弱点は、ここだ!」

 フーベルトは断言した。

 シスター・エルミーヌが人間形態とセベクノート体を自由に行き来できるのは不自然だと思っていた。
 もしかすると、これは搭乗型なのかもしれない。
 つまり、CCKと同じようなロボット。
 どこかにコクピットがある。
 七つの球体のどれかに、エルミーヌが隠れている。

 普通に考えれば、わざわざ背中に隠したパーツが一番怪しい。
 フーベルトは、その球体に爆砕ハンマーを叩きつけた。

 使い捨ての近接兵器だ。
 棒の先端に大型の指向性爆薬を取り付けた物。
 厚さ五メートルのコンクリート壁でも貫通して穴を開ける。
 直径五メートルの中空の球体には、十分過ぎる貫通力だった。

 今度は悲鳴はなかった。
 ただ、セベクノートの動きが止まり、バランスを崩したかと思うと、墜落した。

〇〇〇

 基地の指令室で、歓声が上がった。

「セベクノート体、墜落! 制御システムを失った模様」

「……まさか本当に勝てるとはな」

 プロトが呆然と呟く。
 フランツは、疲れたように部下に指示を出す。

「爆撃機は帰投させろ。だが、セベクノート体がまだ動く可能性がある。念のためにCCK部隊で囲め。それと、憲兵隊を一つ送って、あのバカどもを全員拘束しろ」

 そして、プロトの方を睨む。

「何か言うことは?」

「ないな……」

「さっき、誰と連絡を取っていた?」

「言う必要はない」

 フランツは、しばらくの間、目を閉じ何かを考えていた。
 プロトに対して自分が使える権限を探しているのか。
 あるいは、何か効果のありそうな嫌味を考えているのか。

 そして、ようやく気付いたのか、言う。

「ヨランドはどこにいる?」

「……負傷したので、休暇申請を提出すると言っていたな」

「ふん。いい気なもんだ。こっちはしばらく徹夜になるというのに……」

〇〇〇

 CCKはもう動かなかった。 
 地面に落ちた衝撃で、どこかが壊れたのかもしれない。

 フーベルトはCCKを降りて、ミーナと共に洗浄車両へと向かう。
 二人とも、泥だらけだった。

 シューマッハが洗浄車両のことを言い出した時は何かと思ったが、結果的に、いい選択だった。
 車両の後ろ側から乗り込む。

「ほら、先に体を洗うんだ……」

 フーベルトが促すと、ミーナはボロ布のようになっていた服を脱いで裸になった。
 恥ずかしがりもしない。

「おまえ、俺も一応男なんだが……」

「だ、だって一度見せてますし、別にいいかなって」

「ま、まあな……」

 ミーナはシャワーを通ってすりガラスの向こうへ行く。

「フーベルトさんも、汚れちゃいましたね。こっち来てくださいよ」

「ああ」

 フーベルトも服を脱ぎ、シャワーを通る。
 さすがにいけないことをしているような気分になってきた。
 それでも、行くしかない。
 ミーナは頭から被るようなタオル地の服を着て待っていた。

「ほら、これを着るみたいですよ」

 フーベルトにも簡易服を差し出してくる。
 受け取って羽織る。
 ミーナは不安そうに下を見ていた。

「私、これから、どうなるんでしょうか?」

「体の中のダイル要素を全て吸い出されたなら、人間に戻れるかもしれない……」

「その後でも奇跡を発動できました。たぶん、無理ですよ」

「そうか」

「私もいずれ、シスターみたいになっちゃうんですね……」

 ミーナは悲しそうな顔で笑い、抱き着いてきた。

「……」

「フーベルトさん。私、もう少しの間、あなたと一緒にいたいです」

「ミーナ。俺は……」

 フーベルトはミーナの背中に手をまわしそうになる自分を、必死で抑えた。
 そして肩に手をのせる。

「悪いが、そういうわけにはいかないんだ……」

「どういう意味ですか?」

「やらかしたことが、ちょっと大きすぎるからな。幸せな逃亡生活を許してもらえる状況でもない」

「やっぱり、そうなっちゃいましたか……」

 ミーナはわかっていた、と言いたげに頷く。

「だったら、私はせめて……」

「はいはーい、ちょっとそれ、後にしてもらっていいですかー? 私もシャワー浴びたいんで、男はどっか行っててくれると嬉しいんですけどぉ?」

 シューマッハが向こう側から、すりガラスをガンガンと蹴飛ばしてる。

「悪かったな。すぐ行くよ」

「あ、私も……」

「ちょっとエディーと内々の打ち合わせがあるんだ。ここで待っていてくれ」

 フーベルトはミーナを残して運転席の方に行く。
 待っていたエディーは、複雑な表情だった。
 いろいろなことに納得がいっていないのだろう。

 フーベルトは、何事もないように聞く。

「なあ、この後の予定は?」

「あいつら曰く、基地に連行されるそうだ。たぶん尋問だろうな」

「巻き込んで悪かったよ」

「覚悟の上だよ。それに……友達らしいことができて良かったよ」

「ありがとう」

 礼を言うと、エディーはため息をつく。

「なあ。おまえ、いいのか?」

「何が?」

 フーベルトはとぼけた。
 もちろん、エディーが何を言いたいのかは、わかっていた。

「命を賭けて助けておいて、こんなんでお別れでいいのかよ?」

「……学生に手を出すわけにはいかないだろ」

「まあ、そうなんだが。俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、だな」

「でも、一番いい道がこれだ。違うか?」

「うむ」

「そもそもミーナはミーナだ。妹じゃない。全然関係ない別人だよ」

「そうだな……」

 二人は黙って、朝焼けに染まる空を見上げた。

 この後のことはヨランドが手配してくれている。
 何も知らないのはミーナだけだ。そして永久に知ることはないだろう。

 一分ほど後、モルガナが運転席に来た。
 シャワーを浴びたのか、簡易服を羽織っている。

「ミーナは麻酔薬で眠らせたよ。それで、この後どうするんだ?」

「出頭する。というか、たぶんもう来た」

 集まってくるCCKと憲兵たち。
 フーベルトたちは、特に逃げも隠れもせず、それが近づいてくるのを待った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...