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終章
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ミーナが目を覚ましたのはどこかの病室だった。
「……」
何か、頭の中に違和感があった。
見回すと、女性の看護士がベッドの隣に立っていた。
「喋れますか?」
「はい。あの……ここは?」
「病院ですよ」
看護士は、見ればわかるような事を言った。
ミーナはどこの病院なのか、と聞こうとして、やめた。
どこだとしても、大して変わらない。
それよりも、聞きたいことがあった。
「あの、あなた、なんで生きてるんですか?」
「まだ死にたくないと思っているからでしょう」
「いや、そうじゃなくて、あの……」
なぜか、あなたは撃たれて死にませんでしたか? という質問が喉元まで出かかって、ミーナは混乱した。
自分でも意味がわからなかった。
普通なら、生きている人間にそんな質問をぶつけたくなるわけがない。
看護士は微笑む。
「大丈夫ですよ。意識を失う直前に、何があったか、覚えています?」
「え、普通の一日だったと思いますけど……」
ただ授業を受けて、友人たちと会話して、それだけの日だった。
「あなたは最近、友人のリーゼルさんから、薬をわけてもらったことがありますか? それはいつの出来事ですか?」
「え……えっと、一週間ぐらい前、かな?」
「という事は、少しの間、記憶が消えているのかも知れませんね」
「え?」
「大きな事故があったんです。メガフロートの設計を見直さなければいけないような、大きな事故が……」
「事故ですか?」
「事故と言うか、災害でしょうか。とにかく、あなたは、事故で頭を打って、意識を失い、しばらく目覚めなかったんですよ」
「え? それ、嘘ですよね」
ミーナは慌てて起き上がる。
看護士はニコニコと笑った。
「本当ですよ」
「でも事故じゃなくて、ダイルが! セベクノートが!」
「それを言うのはやめましょう。病室の外では間違って口に出さないように気を付けてください。思い出して怯える人もいますから」
「え、あの、あの……」
「もう少し、休んだ方がいいですよ」
看護師は微笑み、ミーナをベッドに押し戻すと病室を出ていった。
「あ、あ、あ……」
何か大切な物を頭から抜き取られたような感覚。
「約束……約束って、なんだっけ?」
〇〇〇
フーベルトは基地の独房から出された。
常に日の光が入らない薄暗い廊下には、銀縁メガネをかけた男がつまらなそうな表情で待っていた。
「久しぶりだな」
プロトだった。
隣にはヨランドも控えている。
あれから、およそ一か月が経っていた。
フーベルトはヨランドの足を見るが、当たり前のように左右揃っている。
フーベルトは、あまり驚かなかった。
撃ち殺されても、その日の夜にはアサルトライフルを抱えて自分を追い回してきたような女だ。
足が生えてくると言うのも、冗談でなかったらしい。
「なんでここにいるんだ?」
「空港まで送るためだ。まさか歩いていくつもりか?」
プロトは面倒くさそうに言う。
「いや……」
フーベルトは、タクシーでも拾えばいいのでは、と言いそうになってから、すぐに気づく。
「まさか、俺がここから出ていくまで見張るのが仕事か? あるいは島を出た後も?」
「好きに解釈してくれ。少なくとも同じ飛行機の席はとっていない」
「そうか……エディーは?」
仕事が忙しくない限り、見送りには来てくれるものだと思ったが、姿が見えない。
プロトは答えず視線を逸らす。代わりにヨランドが教えてくれる。
「彼は……その、ここにはいませんね。たぶん、今頃は女の子たちと会っているはずです」
「そうか。あいかわらずだな……」
「それと、渡しておくものがあります」
ヨランドがビニール袋に入った何かを差し出す。
折れ曲がったスマホだった。
「俺が昔使っていた物か? わざわざ探して来たのか?」
ミーナが間違えて持って行って、セラフノート体の中に置き去りになったはずの物だ。
「偶然回収できたので……」
「なんで俺に渡すんだ? 破棄してしまえばいいのに」
フーベルトには、こんな物を渡されても、どう扱っていいのかわからなかった。
そもそも、袋から出しても安全な物なのかすら、判断できない。
「あなたは、人が死んでしまったら、その人の写真も全部燃やすタイプですか?」
「そんな事はないが……」
今のセリフは、どことなくヨランドっぽくないとフーベルトは思った。むしろプロトが言いそうだ。
そう思ってプロトの方を見ると、廊下の向こうを指さしている。
「おい。もう行くぞ。飛行機の時間に遅れたくない」
プロトに急かされ、フーベルトは廊下を歩く。
「……」
何か、頭の中に違和感があった。
見回すと、女性の看護士がベッドの隣に立っていた。
「喋れますか?」
「はい。あの……ここは?」
「病院ですよ」
看護士は、見ればわかるような事を言った。
ミーナはどこの病院なのか、と聞こうとして、やめた。
どこだとしても、大して変わらない。
それよりも、聞きたいことがあった。
「あの、あなた、なんで生きてるんですか?」
「まだ死にたくないと思っているからでしょう」
「いや、そうじゃなくて、あの……」
なぜか、あなたは撃たれて死にませんでしたか? という質問が喉元まで出かかって、ミーナは混乱した。
自分でも意味がわからなかった。
普通なら、生きている人間にそんな質問をぶつけたくなるわけがない。
看護士は微笑む。
「大丈夫ですよ。意識を失う直前に、何があったか、覚えています?」
「え、普通の一日だったと思いますけど……」
ただ授業を受けて、友人たちと会話して、それだけの日だった。
「あなたは最近、友人のリーゼルさんから、薬をわけてもらったことがありますか? それはいつの出来事ですか?」
「え……えっと、一週間ぐらい前、かな?」
「という事は、少しの間、記憶が消えているのかも知れませんね」
「え?」
「大きな事故があったんです。メガフロートの設計を見直さなければいけないような、大きな事故が……」
「事故ですか?」
「事故と言うか、災害でしょうか。とにかく、あなたは、事故で頭を打って、意識を失い、しばらく目覚めなかったんですよ」
「え? それ、嘘ですよね」
ミーナは慌てて起き上がる。
看護士はニコニコと笑った。
「本当ですよ」
「でも事故じゃなくて、ダイルが! セベクノートが!」
「それを言うのはやめましょう。病室の外では間違って口に出さないように気を付けてください。思い出して怯える人もいますから」
「え、あの、あの……」
「もう少し、休んだ方がいいですよ」
看護師は微笑み、ミーナをベッドに押し戻すと病室を出ていった。
「あ、あ、あ……」
何か大切な物を頭から抜き取られたような感覚。
「約束……約束って、なんだっけ?」
〇〇〇
フーベルトは基地の独房から出された。
常に日の光が入らない薄暗い廊下には、銀縁メガネをかけた男がつまらなそうな表情で待っていた。
「久しぶりだな」
プロトだった。
隣にはヨランドも控えている。
あれから、およそ一か月が経っていた。
フーベルトはヨランドの足を見るが、当たり前のように左右揃っている。
フーベルトは、あまり驚かなかった。
撃ち殺されても、その日の夜にはアサルトライフルを抱えて自分を追い回してきたような女だ。
足が生えてくると言うのも、冗談でなかったらしい。
「なんでここにいるんだ?」
「空港まで送るためだ。まさか歩いていくつもりか?」
プロトは面倒くさそうに言う。
「いや……」
フーベルトは、タクシーでも拾えばいいのでは、と言いそうになってから、すぐに気づく。
「まさか、俺がここから出ていくまで見張るのが仕事か? あるいは島を出た後も?」
「好きに解釈してくれ。少なくとも同じ飛行機の席はとっていない」
「そうか……エディーは?」
仕事が忙しくない限り、見送りには来てくれるものだと思ったが、姿が見えない。
プロトは答えず視線を逸らす。代わりにヨランドが教えてくれる。
「彼は……その、ここにはいませんね。たぶん、今頃は女の子たちと会っているはずです」
「そうか。あいかわらずだな……」
「それと、渡しておくものがあります」
ヨランドがビニール袋に入った何かを差し出す。
折れ曲がったスマホだった。
「俺が昔使っていた物か? わざわざ探して来たのか?」
ミーナが間違えて持って行って、セラフノート体の中に置き去りになったはずの物だ。
「偶然回収できたので……」
「なんで俺に渡すんだ? 破棄してしまえばいいのに」
フーベルトには、こんな物を渡されても、どう扱っていいのかわからなかった。
そもそも、袋から出しても安全な物なのかすら、判断できない。
「あなたは、人が死んでしまったら、その人の写真も全部燃やすタイプですか?」
「そんな事はないが……」
今のセリフは、どことなくヨランドっぽくないとフーベルトは思った。むしろプロトが言いそうだ。
そう思ってプロトの方を見ると、廊下の向こうを指さしている。
「おい。もう行くぞ。飛行機の時間に遅れたくない」
プロトに急かされ、フーベルトは廊下を歩く。
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