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第23話 いばら岩の谷
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バスはその後も暫く進み、砂の風が吹き荒れ、ゴロゴロと岩が転がっている荒野と呼ばれる場所へ着いたようだ。
バスの外に出ると巻き上げられる砂埃に咳き込む生徒が後を絶たなかった。エレンやジョンもブルーローブのフードを口に当てて屈んでいる。
「す、すごいねっ」
「うん。ローブのフードでこうしないと……ヒイロその格好で行くの!?」
ジョンは私がシャツにジーンズの軽装であることに気付いて驚いて発言したのだった。確かにさっきから風で飛んできた砂や枯れ草がベシベシと腕や顔に当たって来るけど、いたって健康そのものだ。
「うん私は大丈夫。」
荒野生徒は皆ローブと防具を軽いものから重いものまでつけていた。私は一人、白と紺のチェックシャツにスカイブルーのジーンズで立っていると、私の服装に気付いた他のみんなから憐れみあの視線を集めた。だってしょうがないでしょ!防具はた・か・い!
私の姿を見たベラ先生が思案顔をした後に、
「予備のマントが車にあったはずだわ。待っていて。」
と取りに行こうとしたので、咄嗟に私はベラ先生のローブの腕の裾を掴んだ。
「これくらい大丈夫です。自分の責任ですから。」
予備のとは言ってくれたけど、それはきっと先生の私物だろう。先生のあの綺麗なマントを汚したくない。それに風と埃はすごいけどジーンズでいつも過ごしてきた私にとってこの格好の方が動きやすいし、防具はどうにかなる。
「大丈夫ですから、行きましょう。」
念を押すように私が言うとベラ先生はため息をつき頷き、そして皆に向かって大きな声で話した。
「それでは皆さん、A班から順に私の後を付いてきなさい。」
皆がグループごとに分かれて移動する準備をし始めた。
その時ベラ先生がすれ違いざまに私の耳元で、
「夜は冷え込むわ。このマントは私が羽織っていくから寝るときだけはお願いだから使ってちょうだいね。」
と囁いた。はい、と答えた。先生のいつもと違う優しい声にちょっと胸が熱くなってしまった。
……と同時に何日ここにいるのだろうと気になってしまった。夜をここで過ごすのだろうか……事前にもっとよくプリントを見ておけばよかった。
昼になり砂嵐も止み、空から猛烈な日差しが大地に降り注いでいるが、岩陰のおかげで我々の居る休憩ポイントはひんやりしていた。
そこには水が透き通っている綺麗な小さい湖があった。そこに近づいて両手ですくって皆が慣れた様子で飲み始めた。持参していたコップで飲み始める生徒もいた。
プリントの持ち物欄にはコップなど書かれてなかったけどなぁ……なら大きくコップと書いてくれればよかったのに。そう考えながら私は皆の真似をして手で掬って飲み始めた。
「使う?」
手で飲み終えると、そばにいたマリーがタオルを差し出してくれたのだ。彼女の優しい提案に少し驚きながらタオルを受け取った。タオルからバラの香りがする。
「ありがとう。ごめん。」
口を拭くのはちょっと悪いので、濡れた手だけ少し拭いた。今度からはタオルも忘れないようにしなきゃ。
マリーが辺りを見回しながら言った。
「ここからモンスターが出てくるポイントまですぐなのよ。ここで皆でテントを張って夜を明かすみたい。」
「へえ。」
ここに泊まるのかと私も周りを見渡すと、確かに岩に囲まれていて上は空洞になっているがモンスターに襲われそうな気配はなかった。
しかし、マリーも私と同じ時期に入学したのによく知っているなぁとそのことを聞くと彼女はすぐに笑顔になった。
「私、これでも同学年の中ではトップの成績よ。もう荒野のことは調べ尽くしたわ!ふふ。」
「ええ!?それはすごい!」
得意げに微笑みながら言うマリーに目を丸くした。そうなんだ!才色兼備とはこのことか!もうこれはちょっと家森先生に関して私に勝ち目はないと思った……まあ私は勉学に集中するつもりだけど。
でも先生は2度もハグしてくれた。それも私だけと言っていた。でも先生は実際にモテてるしマリーは彼の部屋にも行っているし……私だけにしかしないと言ってたけれど、きっと他の人にもしてるだろう。ああ~~こんなに考えてしまうなんておかしいよ!どうしたのかな、もう。
「ヒ、ヒイロ大丈夫?なんかすごく歯を食いしばってる表情してるけど……」
「あ?え?あ、ああ大丈夫。はは!タオルありがとうマリー」
いいえ~、と微笑みながらマリーはバッグにタオルを入れた。するとベラ先生が皆に向かって声を発した。
「今夜の宿泊ポイントはここに作ります。明日の夕方に校門に到着する予定です。怪我した生徒やそれを見かけた生徒は直ちに私に報告すること。急病の場合も同じです。それでは各班、このプリントに書かれている指定されたポイントまで行き、そこにしか生えていない薬草を採取してきてください。くれぐれもモンスターには気を付けて。何かあったらすぐに報告するように。」
そしてベラ先生は各班のリーダーに一枚ずつ紙を配った。ジョンの手元を覗くとそれは地図だった。配り終えたベラ先生がまた大きな声で言った。
「私はここで待機しています。それでは行ってきてちょうだい。」
ジョンが地図を見てため息をついた。エレンが隣から覗き込み、えーと言葉を漏らす。
「どうしたの?」
マリーがエレンに聞いた。
「私たちが指定されたポイントは荒野でも一番荒れ狂ってるいばら岩の谷みたい。」
「えっ!?そんなぁ!」
マリーがジョンから地図を奪って手に取り目を近づける。
「もうさ、早く行ってきてチャチャっと採取してさ、早く帰ってこようよ。」
ジョンは意外と冷静だった。これは頼りになる感じがする。
ベラ先生が待機している休憩ポイントを出て我々はいばら岩の谷と言われる場所に向かった。荒野を経験したことのあるジョンとマリーの予備知識のおかげで採取ポイントまではスムーズに行くことが出来た。
「しかし不気味悪いよな…。」
いばらの岩の谷はトゲトゲ状の細長い岩の集まりがずっと続いていて、たまに地面から吹き出るガスで淡い緑色の霧が発生している薄気味悪い場所だ。視界もやはり悪く少し前の方はもう何も見えない。そのとき、エレンが手を前方にかざす。
手のひらから光がぽわんと広がった。彼女は戦うときは銃を使用するけど一応そうやって光魔法を使えるのかと私は少し驚き、エレンにすごいね、と話しかけると彼女はふんわりした笑顔を私に向けてくれた。前髪についている黄色い花がエレンの明るい雰囲気に合ってて、この荒廃した雰囲気の中でちょっと癒された。
「魔術の状態で使うのはこうやって懐中電灯がわりにする時だけだけどね。」
エレンははにかみながら言った。
彼女おかげで少し視界は広がった。そしてジョンを先頭にして我々は先へ進む。マリーは採取する薬草を本を見て確認している。
「見張り草。見張っている人の姿にシルエットが似ているからそう名付けられたみたいね。」
「へぇ何の薬草なの?」
ジョンがマリーに聞くと、
「知らない。この本にはそこまでしか書いてないわ。」
とマリーがジョンを睨みながら言った。
「あ、あれかな。」
エレンが指をさした方向には、いばら岩のトゲトゲに囲まれたように草が生えているポイントがあった。
その中に何本か形がぐるぐる巻きで独特なものがあって、それはプリントに描かれている草の形と確かに一致している。多分あれで間違い無いみたい。
ジョンが恐る恐るいばら岩を潜りながら見張り草の生えている場所へ近づき、2本を一気に掴んで土から引き抜いた。
「よし……これでいいだろう。」
根っこの土を払いながらジョンはエレンが広げた革製の袋にまとめて入れた。収穫目標は2本なのでこれでミッションは達成した。あとは持ち帰るだけ。
「これで終わりなのね。場所が不気味なだけで案外あっさりと終わったわ。」
マリーが周りを見渡しながら言った。確かにそうだ。もっとモンスターに出くわして、戦闘とかするのかと思った。
「そうね。もしかしたら運がいいことに、他の班がいるところにまとまってモンスターがいるのかも。まあでも私たちはあとは無事にベラ先生が待ってるベースキャンプに帰るだけね。」
エレンがそう言って袋に紐をし終わると、ジョンのショルダーバッグに入れた。我々はもうこれで帰ることになったのだけど……マリーの言った通り、本当にあっさり終わってしまった。
手のひらから光を放つエレンとジョンの後ろでマリーと私が並んで帰路を歩き始めるとすぐに、マリーが前を歩く二人に話しかけた。
「ねえ、エレンたちはブルークラスじゃない?」
マリーの言葉にエレンとジョンは振り向いたが、ジョンは眉間にしわを寄せた。きっとブルークラスのことをバカにされると思ってるのだろう。マリーのいるレッドクラスは優秀な人ばかり集まってるから、度々「ブルークラスは」とあまり良くない感じに言われるらしい……でもさ、そんなことを言ったら私たちはどうなる。ねえ!どうなるの!だからジョン、大丈夫だよ!
「ブルークラスの担任は家森先生でしょ?」
そんなことを知らずにマリーは続けた。
「先生?そうだけど?」
予想とは違うマリーの関心にジョンの表情は普通に戻った。
「家森先生って普段どんな感じなの?有機魔法学の専攻は取ってるけれど、それでもやっぱり毎朝ブルークラスのみんな程、先生と居られないから。クラス会議の時間とか朝礼の時間とか、普段の家森先生はどう言う感じなの?」
マリーの溢れんばかりの先生への関心に、彼女の好意に気付いたのかエレンは少し笑う。ジョンはうーん、と考え込むように上を向いた。そうか、マリーはそれほど先生のことが気になっているのだ。まあ私もちょっとは気になるかもしれないけど……エレンが微笑みながら言った。
「普段ってどうだろ。普通よね?ジョン。」
「うん、別にいつもみたいに……クラス会議の時はみんなの意見を聞いて淡々とまとめて進行する感じだし、朝礼も必要なことだけ話してすぐに終わるよ?だから別に授業の時と変わらないけど。ああ、あと三者面談の時も淡々としてる。」
ジョンの話を聞いてふうん、と言った後にマリーが質問をした。
「最近特に機嫌がいいとか、そういう感じはしない?」
「機嫌ねぇ……あ!でも最近さぁ家森先生って凡ミスが多いよね?」
ジョンがエレンに同意を求めるとマリーはエレンの隣に走って近づき、肩と肩をくっつけながら興味津々に聞いた。
「凡ミスってどのようなことかしら?」
「ええ。ちょっと細かい事かもしれないけど、チョークを割って落としたりプリントを配りすぎたり。前までは細かいところまでスマートに完璧にこなしてきたのに何かあったのかなってたまにクラスの子と話すときあるよ。スマートだし、イケメンだし、だからきっとファンの子も多いんだろうけど。」
エレンから発せられたイケメンという言葉でジョンの眉間にシワが生まれた。それに気付いたのかエレンはジョンにこれは皆の意見だからと呟いた。
「そうなの……家森先生疲れているのかしら。それとも何か考え事してるのかしら」
そう呟いたマリーがじっと足元を見つめながら考え始めた。確かに疲れてるのかもしれない、でももしかしたらそれくらい何かに心奪われてるのかもしれない。
PCのドラマチャンネルで見たもん。きっと、誰かが気になっててぼーっとして凡ミスしちゃってるんだ。だとしたら……やっぱマリーなのかも。でもまだ決まったわけじゃないからね!大丈夫、大丈夫、って違う!何故自分を励ましはじめているんだ……勉学に集中しないと……。
そして前方に別れ道が見えてきた所でエレンがポケットから地図を出して進路を確認している間に、3人並んで前を歩いているジョンが私の方を振り向いた。
「ヒイロ大丈夫?さっきから静かだけど。」
「うん、大丈夫。家森先生の話もちゃんと聞いてたよ。」
私がそう言うとみんな笑ってくれた。
その後エレンがこっちだよと道を指差してまた進み始め、私たちも続いた。すぐにジョンの方から別の話題を出してきたので私たちはその話をしながら、いばらの岩の谷を抜けて行ったのだった。
バスの外に出ると巻き上げられる砂埃に咳き込む生徒が後を絶たなかった。エレンやジョンもブルーローブのフードを口に当てて屈んでいる。
「す、すごいねっ」
「うん。ローブのフードでこうしないと……ヒイロその格好で行くの!?」
ジョンは私がシャツにジーンズの軽装であることに気付いて驚いて発言したのだった。確かにさっきから風で飛んできた砂や枯れ草がベシベシと腕や顔に当たって来るけど、いたって健康そのものだ。
「うん私は大丈夫。」
荒野生徒は皆ローブと防具を軽いものから重いものまでつけていた。私は一人、白と紺のチェックシャツにスカイブルーのジーンズで立っていると、私の服装に気付いた他のみんなから憐れみあの視線を集めた。だってしょうがないでしょ!防具はた・か・い!
私の姿を見たベラ先生が思案顔をした後に、
「予備のマントが車にあったはずだわ。待っていて。」
と取りに行こうとしたので、咄嗟に私はベラ先生のローブの腕の裾を掴んだ。
「これくらい大丈夫です。自分の責任ですから。」
予備のとは言ってくれたけど、それはきっと先生の私物だろう。先生のあの綺麗なマントを汚したくない。それに風と埃はすごいけどジーンズでいつも過ごしてきた私にとってこの格好の方が動きやすいし、防具はどうにかなる。
「大丈夫ですから、行きましょう。」
念を押すように私が言うとベラ先生はため息をつき頷き、そして皆に向かって大きな声で話した。
「それでは皆さん、A班から順に私の後を付いてきなさい。」
皆がグループごとに分かれて移動する準備をし始めた。
その時ベラ先生がすれ違いざまに私の耳元で、
「夜は冷え込むわ。このマントは私が羽織っていくから寝るときだけはお願いだから使ってちょうだいね。」
と囁いた。はい、と答えた。先生のいつもと違う優しい声にちょっと胸が熱くなってしまった。
……と同時に何日ここにいるのだろうと気になってしまった。夜をここで過ごすのだろうか……事前にもっとよくプリントを見ておけばよかった。
昼になり砂嵐も止み、空から猛烈な日差しが大地に降り注いでいるが、岩陰のおかげで我々の居る休憩ポイントはひんやりしていた。
そこには水が透き通っている綺麗な小さい湖があった。そこに近づいて両手ですくって皆が慣れた様子で飲み始めた。持参していたコップで飲み始める生徒もいた。
プリントの持ち物欄にはコップなど書かれてなかったけどなぁ……なら大きくコップと書いてくれればよかったのに。そう考えながら私は皆の真似をして手で掬って飲み始めた。
「使う?」
手で飲み終えると、そばにいたマリーがタオルを差し出してくれたのだ。彼女の優しい提案に少し驚きながらタオルを受け取った。タオルからバラの香りがする。
「ありがとう。ごめん。」
口を拭くのはちょっと悪いので、濡れた手だけ少し拭いた。今度からはタオルも忘れないようにしなきゃ。
マリーが辺りを見回しながら言った。
「ここからモンスターが出てくるポイントまですぐなのよ。ここで皆でテントを張って夜を明かすみたい。」
「へえ。」
ここに泊まるのかと私も周りを見渡すと、確かに岩に囲まれていて上は空洞になっているがモンスターに襲われそうな気配はなかった。
しかし、マリーも私と同じ時期に入学したのによく知っているなぁとそのことを聞くと彼女はすぐに笑顔になった。
「私、これでも同学年の中ではトップの成績よ。もう荒野のことは調べ尽くしたわ!ふふ。」
「ええ!?それはすごい!」
得意げに微笑みながら言うマリーに目を丸くした。そうなんだ!才色兼備とはこのことか!もうこれはちょっと家森先生に関して私に勝ち目はないと思った……まあ私は勉学に集中するつもりだけど。
でも先生は2度もハグしてくれた。それも私だけと言っていた。でも先生は実際にモテてるしマリーは彼の部屋にも行っているし……私だけにしかしないと言ってたけれど、きっと他の人にもしてるだろう。ああ~~こんなに考えてしまうなんておかしいよ!どうしたのかな、もう。
「ヒ、ヒイロ大丈夫?なんかすごく歯を食いしばってる表情してるけど……」
「あ?え?あ、ああ大丈夫。はは!タオルありがとうマリー」
いいえ~、と微笑みながらマリーはバッグにタオルを入れた。するとベラ先生が皆に向かって声を発した。
「今夜の宿泊ポイントはここに作ります。明日の夕方に校門に到着する予定です。怪我した生徒やそれを見かけた生徒は直ちに私に報告すること。急病の場合も同じです。それでは各班、このプリントに書かれている指定されたポイントまで行き、そこにしか生えていない薬草を採取してきてください。くれぐれもモンスターには気を付けて。何かあったらすぐに報告するように。」
そしてベラ先生は各班のリーダーに一枚ずつ紙を配った。ジョンの手元を覗くとそれは地図だった。配り終えたベラ先生がまた大きな声で言った。
「私はここで待機しています。それでは行ってきてちょうだい。」
ジョンが地図を見てため息をついた。エレンが隣から覗き込み、えーと言葉を漏らす。
「どうしたの?」
マリーがエレンに聞いた。
「私たちが指定されたポイントは荒野でも一番荒れ狂ってるいばら岩の谷みたい。」
「えっ!?そんなぁ!」
マリーがジョンから地図を奪って手に取り目を近づける。
「もうさ、早く行ってきてチャチャっと採取してさ、早く帰ってこようよ。」
ジョンは意外と冷静だった。これは頼りになる感じがする。
ベラ先生が待機している休憩ポイントを出て我々はいばら岩の谷と言われる場所に向かった。荒野を経験したことのあるジョンとマリーの予備知識のおかげで採取ポイントまではスムーズに行くことが出来た。
「しかし不気味悪いよな…。」
いばらの岩の谷はトゲトゲ状の細長い岩の集まりがずっと続いていて、たまに地面から吹き出るガスで淡い緑色の霧が発生している薄気味悪い場所だ。視界もやはり悪く少し前の方はもう何も見えない。そのとき、エレンが手を前方にかざす。
手のひらから光がぽわんと広がった。彼女は戦うときは銃を使用するけど一応そうやって光魔法を使えるのかと私は少し驚き、エレンにすごいね、と話しかけると彼女はふんわりした笑顔を私に向けてくれた。前髪についている黄色い花がエレンの明るい雰囲気に合ってて、この荒廃した雰囲気の中でちょっと癒された。
「魔術の状態で使うのはこうやって懐中電灯がわりにする時だけだけどね。」
エレンははにかみながら言った。
彼女おかげで少し視界は広がった。そしてジョンを先頭にして我々は先へ進む。マリーは採取する薬草を本を見て確認している。
「見張り草。見張っている人の姿にシルエットが似ているからそう名付けられたみたいね。」
「へぇ何の薬草なの?」
ジョンがマリーに聞くと、
「知らない。この本にはそこまでしか書いてないわ。」
とマリーがジョンを睨みながら言った。
「あ、あれかな。」
エレンが指をさした方向には、いばら岩のトゲトゲに囲まれたように草が生えているポイントがあった。
その中に何本か形がぐるぐる巻きで独特なものがあって、それはプリントに描かれている草の形と確かに一致している。多分あれで間違い無いみたい。
ジョンが恐る恐るいばら岩を潜りながら見張り草の生えている場所へ近づき、2本を一気に掴んで土から引き抜いた。
「よし……これでいいだろう。」
根っこの土を払いながらジョンはエレンが広げた革製の袋にまとめて入れた。収穫目標は2本なのでこれでミッションは達成した。あとは持ち帰るだけ。
「これで終わりなのね。場所が不気味なだけで案外あっさりと終わったわ。」
マリーが周りを見渡しながら言った。確かにそうだ。もっとモンスターに出くわして、戦闘とかするのかと思った。
「そうね。もしかしたら運がいいことに、他の班がいるところにまとまってモンスターがいるのかも。まあでも私たちはあとは無事にベラ先生が待ってるベースキャンプに帰るだけね。」
エレンがそう言って袋に紐をし終わると、ジョンのショルダーバッグに入れた。我々はもうこれで帰ることになったのだけど……マリーの言った通り、本当にあっさり終わってしまった。
手のひらから光を放つエレンとジョンの後ろでマリーと私が並んで帰路を歩き始めるとすぐに、マリーが前を歩く二人に話しかけた。
「ねえ、エレンたちはブルークラスじゃない?」
マリーの言葉にエレンとジョンは振り向いたが、ジョンは眉間にしわを寄せた。きっとブルークラスのことをバカにされると思ってるのだろう。マリーのいるレッドクラスは優秀な人ばかり集まってるから、度々「ブルークラスは」とあまり良くない感じに言われるらしい……でもさ、そんなことを言ったら私たちはどうなる。ねえ!どうなるの!だからジョン、大丈夫だよ!
「ブルークラスの担任は家森先生でしょ?」
そんなことを知らずにマリーは続けた。
「先生?そうだけど?」
予想とは違うマリーの関心にジョンの表情は普通に戻った。
「家森先生って普段どんな感じなの?有機魔法学の専攻は取ってるけれど、それでもやっぱり毎朝ブルークラスのみんな程、先生と居られないから。クラス会議の時間とか朝礼の時間とか、普段の家森先生はどう言う感じなの?」
マリーの溢れんばかりの先生への関心に、彼女の好意に気付いたのかエレンは少し笑う。ジョンはうーん、と考え込むように上を向いた。そうか、マリーはそれほど先生のことが気になっているのだ。まあ私もちょっとは気になるかもしれないけど……エレンが微笑みながら言った。
「普段ってどうだろ。普通よね?ジョン。」
「うん、別にいつもみたいに……クラス会議の時はみんなの意見を聞いて淡々とまとめて進行する感じだし、朝礼も必要なことだけ話してすぐに終わるよ?だから別に授業の時と変わらないけど。ああ、あと三者面談の時も淡々としてる。」
ジョンの話を聞いてふうん、と言った後にマリーが質問をした。
「最近特に機嫌がいいとか、そういう感じはしない?」
「機嫌ねぇ……あ!でも最近さぁ家森先生って凡ミスが多いよね?」
ジョンがエレンに同意を求めるとマリーはエレンの隣に走って近づき、肩と肩をくっつけながら興味津々に聞いた。
「凡ミスってどのようなことかしら?」
「ええ。ちょっと細かい事かもしれないけど、チョークを割って落としたりプリントを配りすぎたり。前までは細かいところまでスマートに完璧にこなしてきたのに何かあったのかなってたまにクラスの子と話すときあるよ。スマートだし、イケメンだし、だからきっとファンの子も多いんだろうけど。」
エレンから発せられたイケメンという言葉でジョンの眉間にシワが生まれた。それに気付いたのかエレンはジョンにこれは皆の意見だからと呟いた。
「そうなの……家森先生疲れているのかしら。それとも何か考え事してるのかしら」
そう呟いたマリーがじっと足元を見つめながら考え始めた。確かに疲れてるのかもしれない、でももしかしたらそれくらい何かに心奪われてるのかもしれない。
PCのドラマチャンネルで見たもん。きっと、誰かが気になっててぼーっとして凡ミスしちゃってるんだ。だとしたら……やっぱマリーなのかも。でもまだ決まったわけじゃないからね!大丈夫、大丈夫、って違う!何故自分を励ましはじめているんだ……勉学に集中しないと……。
そして前方に別れ道が見えてきた所でエレンがポケットから地図を出して進路を確認している間に、3人並んで前を歩いているジョンが私の方を振り向いた。
「ヒイロ大丈夫?さっきから静かだけど。」
「うん、大丈夫。家森先生の話もちゃんと聞いてたよ。」
私がそう言うとみんな笑ってくれた。
その後エレンがこっちだよと道を指差してまた進み始め、私たちも続いた。すぐにジョンの方から別の話題を出してきたので私たちはその話をしながら、いばらの岩の谷を抜けて行ったのだった。
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