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恐怖を乗り越えろ!激流編
86 要塞化……?
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あれから一週間が過ぎ、ヴィノクールを取り戻す準備が整ってきた。私の怪我はキュアクリームと、ジェーンの謎の手厚い看病で、順調に回復していった。ジェーンはというと、毎日クラースさんとリンに戦い方を指南してもらっているらしい。
スコピオ博士は何やら発明をしているが、本人がどうしても私に内緒にしたいみたいで詳細は教えて貰えていない。何度聞いても濁すような発言しかしないから、もう聞くのは諦めた。
私は毎日、左手だけでも何とか戦えるようにと、ツルハシを使って素振りや、立ち回りの練習をした。両手で体のバランスが取れない分、飛んで避けた際に、重心が不安定になりやすい。それも何度も練習して、体のバランスを取ることに慣れようとした。
朝から晩まで鍛錬をしていると、たまにジェーンとクラースさんと出くわすこともあった。その時には、一緒に筋トレをしたり、ジェーンにクラースさんとの稽古を見せた。
そして昨夜、私が呼んだ援軍の準備が出来たと連絡が来た。私とジェーン、スコピオ博士、タール、ジェームスさんと、グレン研究所で話し合いをした結果、戦いは早いほうがいいと言うことになり、明日、行うことになった。
今、私とジェーンの部屋には、ソーライ研究所から来てくれたケイト先生もいる。先生はベッドに座り、私の背中の怪我にキュアクリームを塗りながら聞いた。
「いよいよ明日になったわね。あなた、もうこれ以上は傷を作らないでちょうだい。本当に、もう持たないわよ。」
「分かりました、善処します……。ケイト先生、遠路遥々来てくれて嬉しいけれど、もうこの怪我ってキュアクリーム一択なの?」
「ふふ、何かしらね、これは。本当によく効くわ。ヴィノのヘンリー医師も言っていた通りよ。」
「そ、そうなんだ。ホームセンターすごい。」
そして私は、机に向かって作業に集中しているジェーンの背中を見た。ケイト先生がここに来てくれたのは、ユークアイランドで経費を落として買って来てくれた、私の義手であるツールアームを買って届ける為だった。
クラースさんが、特にクラースさんが、もう役目は終了したからユークに帰れとケイト先生に言ったが、何を言っているのよ私だって残るわと、帰らずに残ってくれて、こうして手当をしてくれている。
この義手は脳内の信号を受け取ると、その信号に沿った動きをしてくれるもので、一種の魔工学を利用したロボットらしい。先日、実際にツールアームをつけてみた。
しかし日常生活は、それで何も問題は無いが、ドリルやハンマーなど、少し重たいものを持っただけてで、私の肩からすっぽ抜けてしまう。それが問題だった。戦の場ともあれば、人を運ぶことだってある。出来れば、それに耐えられるほどのアームであってほしい。
言葉にしない私の思いを汲み取ってくれたのか、ジェーンがツールアームを改良すると言ってくれた。ここ数日間、彼は鍛錬以外、ずっとツールアームの改造に時間を費やしている。なのに食事の時間になればそれを辞めて、もう大丈夫なのに私にお給仕をしてくれる。スプーンでアーンをしてくれるのだ……もう大丈夫なのに。
そういう日々を過ごしていると、前からも少しだけ、そう思っていたが、今となってはジェーンは本当に掛け替えのない、家族以上の存在になっていった。
いつか帰るという事実は、私のため息の元だけれど、彼にはイオリさんもカタリーナさんも妹さんも居る。過去の世界も色々あるだろうけど、帰った方が彼の為なのだ。
彼の背中は細くて大きい。金色の髪が、ほんの少しだけ癖のある毛先が、いつも綺麗だ。それを分かっていていいのは、奥さんだけなのだ。私が黙っていると、ケイト先生がポツリとジェーンに話し掛けた。
「どうかしらジェーン、改造は出来そう?」
「ええ、」作業をしながら彼が答えた。「あともう少しで完成しますよ。お待ちください。」
ジェーンはスコピオ博士に借りた道具箱から、小型の電動ドライバーを取り出して、ギューンと音を立てながら、また先程とは違う作業をし始めた。背中にケイト先生の細い指で、すっとクリームを塗られた感覚がした。私はケイト先生に聞いた。
「アリスは元気?」
「それがね」ケイト先生が、ため息交じりに答えた。「元気は元気なのだけれど、前にも言った通り、あなたが重傷だと聞いた時は、酷く動揺していたわ。でも、昨日一緒にビデオ通話したじゃない?その後で、あなたも思ったよりも元気だし、今回のヴィノクールのことを聞いて、アリスも皆の力になりたいと言っていたわ。」
「へえ、そうなんですね。」
「ここからなのよ……はあ。」
ここから?一体何があったというのか、私はちょっと振り向きつつ聞いた。
「でもね、何故かあの子、これからキリーの存在が、帝国に知られたらどうしようって考えたみたいで、それでキリーがソーライ研究所のボスだってことがバレた時の為に、研究所の守りを強化するって言い出したのよ。」
「え、本当に?」
「ええ。今研究所に残っているタージュ博士とラブ博士、それからロケイン、キハシ君と協力して、ソーライ研究所を要塞化することに精を出しているわ……。アリスの言ったことに、何故か博士達もキハシ君達も賛同したのよ。だから今は研究所のセキリュティシステムを強化してるわ。何なのかしら、心配性なところが、きっと私に似たのね。結局アルビノに対して、ネビリスは何もして来ていないし。」
私は苦笑いになった。その研究所の改造とやら、私は許可していない……。まあ有り難いけど、アリスらしくてちょっと変わった行動を取るところが、少し愛らしいけれど。
アリスが要塞化したいって提案をした時の、ラブ博士のワクワクした表情が目に浮かんだ。ジェーンばりに感情を表に出さない彼は、帝国一といっても過言ではない程に、自警システムを愛している。
彼は元々帝国研究所で勤務していたが、どうしても監視カメラやスプリンクラーに自警システムを付けてしまうので、兵器を勝手に開発することが違法であることもあり、帝国研究所をクビになったらしい。
好きこそものの上手なれとも言うべきか、ラブ博士の自警システムは、帝国内でも名が知れてるくらいに優秀で精巧な物らしい。あのジェーンが彼をかなり評価しているので、それ程なのだろう。
身体が小柄で細く、黒い髪の毛はアシメで片方の前髪だけが長く、目つきは鋭い。以前、タージュ博士が不機嫌な猫ちゃんみたいだとラブ博士に言ったが、それを聞いた彼は、タージュ博士のことをつるっぱげと遠慮せずに言い放った。タージュ博士は泣いた。
まあ、頼もしくて、個性的な職員ばかりだ。私は微笑んで、ケイト先生に言った。
「ふふ……まあ、あのメンバーだと、研究所をかなり屈強な要塞にしてくれそうだね、はは。」
ケイト先生は私の身体に包帯を巻いてくれた。それが終わると、ポンと私の背中を軽く叩いた。
「ええ、果たして、そうまでする必要があるのか疑問だけれど、まあ、安心して帰れる場所があるって言うのは大事ね。」
「そうですね、本当に。」
確かに心強かった。私には心強い仲間が居る。私が帝国内で危険な行動をしてしまっても、逃げようとせず、寧ろ一緒に乗り越えようとしてくれる仲間が居る。それが本当に幸せだった。
スコピオ博士は何やら発明をしているが、本人がどうしても私に内緒にしたいみたいで詳細は教えて貰えていない。何度聞いても濁すような発言しかしないから、もう聞くのは諦めた。
私は毎日、左手だけでも何とか戦えるようにと、ツルハシを使って素振りや、立ち回りの練習をした。両手で体のバランスが取れない分、飛んで避けた際に、重心が不安定になりやすい。それも何度も練習して、体のバランスを取ることに慣れようとした。
朝から晩まで鍛錬をしていると、たまにジェーンとクラースさんと出くわすこともあった。その時には、一緒に筋トレをしたり、ジェーンにクラースさんとの稽古を見せた。
そして昨夜、私が呼んだ援軍の準備が出来たと連絡が来た。私とジェーン、スコピオ博士、タール、ジェームスさんと、グレン研究所で話し合いをした結果、戦いは早いほうがいいと言うことになり、明日、行うことになった。
今、私とジェーンの部屋には、ソーライ研究所から来てくれたケイト先生もいる。先生はベッドに座り、私の背中の怪我にキュアクリームを塗りながら聞いた。
「いよいよ明日になったわね。あなた、もうこれ以上は傷を作らないでちょうだい。本当に、もう持たないわよ。」
「分かりました、善処します……。ケイト先生、遠路遥々来てくれて嬉しいけれど、もうこの怪我ってキュアクリーム一択なの?」
「ふふ、何かしらね、これは。本当によく効くわ。ヴィノのヘンリー医師も言っていた通りよ。」
「そ、そうなんだ。ホームセンターすごい。」
そして私は、机に向かって作業に集中しているジェーンの背中を見た。ケイト先生がここに来てくれたのは、ユークアイランドで経費を落として買って来てくれた、私の義手であるツールアームを買って届ける為だった。
クラースさんが、特にクラースさんが、もう役目は終了したからユークに帰れとケイト先生に言ったが、何を言っているのよ私だって残るわと、帰らずに残ってくれて、こうして手当をしてくれている。
この義手は脳内の信号を受け取ると、その信号に沿った動きをしてくれるもので、一種の魔工学を利用したロボットらしい。先日、実際にツールアームをつけてみた。
しかし日常生活は、それで何も問題は無いが、ドリルやハンマーなど、少し重たいものを持っただけてで、私の肩からすっぽ抜けてしまう。それが問題だった。戦の場ともあれば、人を運ぶことだってある。出来れば、それに耐えられるほどのアームであってほしい。
言葉にしない私の思いを汲み取ってくれたのか、ジェーンがツールアームを改良すると言ってくれた。ここ数日間、彼は鍛錬以外、ずっとツールアームの改造に時間を費やしている。なのに食事の時間になればそれを辞めて、もう大丈夫なのに私にお給仕をしてくれる。スプーンでアーンをしてくれるのだ……もう大丈夫なのに。
そういう日々を過ごしていると、前からも少しだけ、そう思っていたが、今となってはジェーンは本当に掛け替えのない、家族以上の存在になっていった。
いつか帰るという事実は、私のため息の元だけれど、彼にはイオリさんもカタリーナさんも妹さんも居る。過去の世界も色々あるだろうけど、帰った方が彼の為なのだ。
彼の背中は細くて大きい。金色の髪が、ほんの少しだけ癖のある毛先が、いつも綺麗だ。それを分かっていていいのは、奥さんだけなのだ。私が黙っていると、ケイト先生がポツリとジェーンに話し掛けた。
「どうかしらジェーン、改造は出来そう?」
「ええ、」作業をしながら彼が答えた。「あともう少しで完成しますよ。お待ちください。」
ジェーンはスコピオ博士に借りた道具箱から、小型の電動ドライバーを取り出して、ギューンと音を立てながら、また先程とは違う作業をし始めた。背中にケイト先生の細い指で、すっとクリームを塗られた感覚がした。私はケイト先生に聞いた。
「アリスは元気?」
「それがね」ケイト先生が、ため息交じりに答えた。「元気は元気なのだけれど、前にも言った通り、あなたが重傷だと聞いた時は、酷く動揺していたわ。でも、昨日一緒にビデオ通話したじゃない?その後で、あなたも思ったよりも元気だし、今回のヴィノクールのことを聞いて、アリスも皆の力になりたいと言っていたわ。」
「へえ、そうなんですね。」
「ここからなのよ……はあ。」
ここから?一体何があったというのか、私はちょっと振り向きつつ聞いた。
「でもね、何故かあの子、これからキリーの存在が、帝国に知られたらどうしようって考えたみたいで、それでキリーがソーライ研究所のボスだってことがバレた時の為に、研究所の守りを強化するって言い出したのよ。」
「え、本当に?」
「ええ。今研究所に残っているタージュ博士とラブ博士、それからロケイン、キハシ君と協力して、ソーライ研究所を要塞化することに精を出しているわ……。アリスの言ったことに、何故か博士達もキハシ君達も賛同したのよ。だから今は研究所のセキリュティシステムを強化してるわ。何なのかしら、心配性なところが、きっと私に似たのね。結局アルビノに対して、ネビリスは何もして来ていないし。」
私は苦笑いになった。その研究所の改造とやら、私は許可していない……。まあ有り難いけど、アリスらしくてちょっと変わった行動を取るところが、少し愛らしいけれど。
アリスが要塞化したいって提案をした時の、ラブ博士のワクワクした表情が目に浮かんだ。ジェーンばりに感情を表に出さない彼は、帝国一といっても過言ではない程に、自警システムを愛している。
彼は元々帝国研究所で勤務していたが、どうしても監視カメラやスプリンクラーに自警システムを付けてしまうので、兵器を勝手に開発することが違法であることもあり、帝国研究所をクビになったらしい。
好きこそものの上手なれとも言うべきか、ラブ博士の自警システムは、帝国内でも名が知れてるくらいに優秀で精巧な物らしい。あのジェーンが彼をかなり評価しているので、それ程なのだろう。
身体が小柄で細く、黒い髪の毛はアシメで片方の前髪だけが長く、目つきは鋭い。以前、タージュ博士が不機嫌な猫ちゃんみたいだとラブ博士に言ったが、それを聞いた彼は、タージュ博士のことをつるっぱげと遠慮せずに言い放った。タージュ博士は泣いた。
まあ、頼もしくて、個性的な職員ばかりだ。私は微笑んで、ケイト先生に言った。
「ふふ……まあ、あのメンバーだと、研究所をかなり屈強な要塞にしてくれそうだね、はは。」
ケイト先生は私の身体に包帯を巻いてくれた。それが終わると、ポンと私の背中を軽く叩いた。
「ええ、果たして、そうまでする必要があるのか疑問だけれど、まあ、安心して帰れる場所があるって言うのは大事ね。」
「そうですね、本当に。」
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