LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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恐怖を乗り越えろ!激流編

87 リンの通常日誌

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 明日はヴィノクール奪還作戦を遂行する日だ。私、リンはクラースさんの寝息を聞きながら、この日誌を書いている。もしかしたら最後の日誌になるかも知れない。まあ今回は前回とは違って、私は後方支援だが、戦いとは何が起こるか、常に先が見えないものなのだ。

 明日の作戦はそう、一言で言うならば、ダイナミックだ。私はボスに何度も念を押すように、誰にも作戦を話さないように言われたこともあり、奇跡的に誰にも話すことなく、数日間を過ごすことが出来た。だが、キリーに関して、ちょっと気になることがある。

 ジェーンをメインに、作戦会議を立てている時の出来事であった。援軍をどのように配置するか、ヴィノクールにどう近づくのかを、皆で話し合って考えている時に、何故かキリーがそわそわしていたのだ。

 言いたいことがあるような、でも話せないような。私以外の皆は、あまり彼女の様子に気付いてはいないようだった。しかし、あれは何かを隠していたに違いない。

 そうか、そうだったのか。あの時のジェーンはいつもとは違って、ベストは無く、シャツにネクタイ姿だった。だから彼がホワイトボードでキュッキュキュッキュ綺麗な文字を書く姿に、見惚れていたに違いない。だからソワソワしていたんだ。その筋が最もだと結論に落ち着いた私は、日誌をの続きを書くことにする。

 そう、驚くべきはジェーンである。彼はゲームを始めた頃に比べると、目まぐるしい成長を遂げ、これは一昨日にも書いたけれど、その時点で例のFPSにおいて、頂点のランクへと辿り着いたのだ。

 私と彼が組めば敵なしの状況に、少々飽きが生じた私は、今度は対人から対ゾンビへとゲームを移行し、ジェーンにも買わせた。人間に比べてゾンビは数量で襲ってくる上に、特殊攻撃を行うものもいる。

 同じFPSとはいえ、戦い方を変えなければ、すぐに自分も生きる屍と化してしまう。私もジェーンも何度となく、ゾンビどもの餌食となった。だが次第に慣れてくると、最高難易度でもクリア出来るようになったのだ。

 ここで問題なのは、彼が過去の世界から来た人間だと言うことだ。残念なことに、彼は過去の世界への帰還を望んでいる。しかし、彼がもし帰ってしまったら、私は一体誰と、このゾンビ溢れる世界から脱出すればいいのだろうか。

 キリー?いや彼女は近接攻撃で突っ込む癖があるから、あまりタッグを組みたくない。クラースさんはゲーム自体やってくれないだろう。やはり私にはジェーンが必要だ。何としても、ジェーンには残ってもらわなければならない。

「クックック……。」

 おっと、私の笑いが、この暗い室内に漏れてしまった。そうだ、何としてもジェーンはこの世界に残るべきなのだ。そこで、私には名案がある。この世界に未練が生まれれば、ジェーンは帰らなくなるかもしれない。今の状況では過去に奥さんがいるのもあって

「クラースさん。」

「……ん。」

「クラースさんってば。」

「……ううん、何だ、どうした?まだ夜中じゃないか、うるさいな。」

「ジェーンって子どもいたっけ?」

「確か、いないと言っていたような……ぐー」

 幸いと言っていいのか、彼には子どもがいない。それに話を聞く限り、それは政略結婚だという。どんな事情かは知らないが、彼にも幸せになる権利がある。その権利を大事にしながら、私の望みを叶える。

 そんな作戦は、もうあれ一つしかない。そう!私は彼とキリーの架け橋になるのだ。そして貴重なゲーム友達の、永遠の帰還を防ぐのだ!明日には大事な戦がある。しかし!私にとって、これも重要な戦なのだ!

 ゲーム友達を保護して、ついでにキハシ君から賭け金を得る。そして新しいゲームを買うのだ。その為には、キリーになるべく綺麗な状態でいてもらわないとならない。

 昨日も彼女とアマンダとエミリーさんと、皆で浴場に行ったが、キリーの体はアマンダの言った通り、ボロボロくまちゃんそのものだ。片腕が無いのは仕方ないにせよ、あの傷跡だらけの前身、あれではジェーンが発情しないかもしれない。しかもやたら筋肉質だ。

 しかし私は先程、ユークアイランド中のエステ店を調べて、一つ良さげなエステ店があったので、今度キリーに紹介しようと思う。何なら一緒に行ってもいい。そして魅力的な体になって、ジェーンを何としてもこの

「リン……それはいつ終わるんだ、明日は大事なんだぞ。」

「ちょっと待って!」

 何としてもこの世界に留まらせるのだ。それが私の使命なのだ、リンよ。ジェーンにはこの世界に来て、私と出会ったことが運の尽きだと、過去の世界に帰ることを諦めてもらわねばならぬ。この戦、何としても勝たねばならん!

「はい、いいよ。おやすみクラースさん。」

「ああ、おやすみ……。」

 私は布団に入った。だけど、緊張からか興奮からか、どっちにしても眠れない。クラースさんはもう寝息を立てている。

 もう彼とは一週間以上、同じ部屋にいるが、こうまで何とも思わない男は初めてだ。何でだろう、いつもどっしりと構えてて、ピンチの時は的確な助言くれて、頼り甲斐のあるナイスガイだけど、やっぱり恋愛対象としては見れない、何かがあるのだ。

 ああ、眠れない。クラースさんはもう、いびきをかき始めている。流石に戦い慣れしてる人は、こんな夜も気にせず眠れるんだからすごいな。ああ、眠れない。クラースさんは寝ているのに……ああ、私は眠れない……。

「リン」

「クラースさんは寝ているのに……」

「リン」

「クラースさんは「リン」

 ゆらゆらと揺れているのは海のクラゲか?いや違う、海の中のお城に招待されたのは現実では無かった。先程からユラユラ揺れていたのはクラゲではなく、私の体だった。私は起きた。

「え?何?クラゲは?」

「クラゲ?何寝ぼけたことを言ってるんだ、もう朝だ。起きろ。前から思っていたんだが、何で毎日俺が起こさなきゃならないんだ、全く。」

 うっそ……いつ寝たんだろう。あれだけ眠れないと思っていたのに、あまつさえ、海のお城にご招待されている夢を見ていたなんて、我ながらのんきな性格すぎやしないだろうか。

 確かに、クラースさんの背後の窓からは、朝日の光が降り注いでいた。クラースさんは窓の外を眺めながら、毎朝起きたら必ずやる、コキコキ音の鳴る背伸びをして言った。

「おはよう、今日はいい天気だ。頑張るぞ。」

「おはようございます。頑張りましょう。」

 そして、いよいよこの朝を迎えてしまった。
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