LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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全員集合!レジスタンス編

127 草むらのイケメン

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 人生で初めて、本格的に戦場に来た……と言っても、まだあまり実感は無いけれど。新光騎士団の防具に、身を包むのも初めてだ。ああ、本当に本当に本当は、僕の研究室でガーデニングボットの研究をしていたかった。

 帝国の為に拘束されているとはいえ、時間を無駄にしているように感じる。ガーデニングボットだって、完成すれば城下の農家さんたちが喜んでくれるのだ。

 しかし、陛下には逆らえない。だったら仕方あるまい。サボるわけでは無いけれど、ここに居たって、ボットの設計図くらいなら頭の中で書けると思いながら、僕は椅子に深く座って、宙を見つめて、思案していた。

 目の前の簡易的な机の上にはPCが置いてあり、それには現在の僕の兵が、何処に居るのか表示されている。今、光の神殿の門の前にいる僕達は、門の周辺を守っている古代兵器とぶつかっている。それだって、皆戦い慣れてるから僕が何を言わなくても、勝手に勝つだろう。

 さて、僕がガーデニングボットについて考え始めたその時に、ウォッフォンに着信が来た。見れば、僕の補佐官からのものだった。僕は出た。

『チェイス様、古代兵器ですが、今日は順調に殲滅せんめつが出来ています。昨日まで戦闘をしていたレジスタンスは、どうやら連合と合流しているからか、まだここには来ていません。それで順調に任務遂行出来ます。もう少しで、光の神殿内部に侵入できるかと。』

 本来は超貴重な古代兵器なんだよね。ああ、帝国中の学者が僕を睨むだろう。僕だってそうはしたくないけど、これを命じているのはネビリス皇帝であって、彼の命令に逆らうものは、命の保証が無い。

「うん、そうか。レジスタンスが居ないうちに出来るだけのことをやっておこう。引き続き殲滅を宜しくね。」

『承知……え?なんだ?……』

 補佐官に誰かが話し掛けている。その詳細は聞こえないので、僕はウォッフォンのスピーカーの音を少し上げた。それでもごにょごにょと聞こえなかったが、補佐官が言ってくれた。

『今入った情報によると、我々の後方の部隊が、レジスタンスとの戦闘を開始しました。中には連合の人間も含まれます。』

「そっか、僕達の隊の、真後ろから来たんだ。それはレジスタンス皆かな?」

『正確な人数ははっきりとはしませんが、昨日よりも少し人数が減っているようです。しかし隊を率いているのは昨日と同様、オーウェン元第三師団長で間違いありません。油断ならないかと。』

 あーあ、設計図の続きを考えたかったが、その時間はもう無くなったようだ。僕は口を尖らせて考えながら、言った。

「うん、確かに兵が割かれているなら、敵の残りの人間が他の場所から、ここに攻めてくることも考えられるだろう。光の神殿の門には古代兵器が居るけど、跡地からその門への通路を囲むように僕達は陣取っている。彼らもこの神殿の中に用があるとすれば、僕たちは邪魔だ。だから彼らは僕達をここから動かしたいと考えるはず……だけど、横からの通路もあるのに、彼らは敢えて後方から来たのか。」

 僕はPCの地図を指差しで確認しながら、補佐に言った。

「彼らの目論んでいるその作戦に、乗ってあげるのもいいかもしれないな。きっと彼らは僕達の隊を動かした隙に、ここに陣取りたいはずだ。あの発明品もあるし、ここは一つ、彼らの目論見通りに、動いてあげようか。ねえ、君。」

『はい、なんでしょう?』

「今戦ってる後方のレジスタンスと、ある程度がっつり戦ってくれるかい?きっと少し経ったら、そのオーウェン隊は後退するはずだ。そうしたら軽く彼らを追って欲しい。僕は最低限の兵を連れて、門の横にある茂みに隠れて待っている。言ってる意味、分かるかな?」

『は、はあ……。』補佐官は何故か震えた声で承諾した。『我らとしては、そのレジスタンスの隊と戦いながらも、程よい距離を保てばよろしいのですな?』

「そうそう、時が来たら連絡して君達のことを呼ぶよ。そしたら僕のところまで戻ってきてほしい。あとは勝手に、彼らは窮地に陥る。」

『承知致しました。』

 通信が切れた。僕はため息をついた。あーあ、こんなことをする為に、今まで勉強をしてきたのだろうか。研究でさえ、毎日続けているとつまらないと挫折しそうになったことがある。でも今の状況になって、本当にやりたいことが出来ない人生が、こんなにもつまらないものだと、思いもしなかった。

 ジェーンは、何を糧に戦っているのだろうか。そう思った時にウォッフォンが鳴った。陛下からだった。

「はい、チェイスです。」

『チェイス、戦況はどうだ?』

 ウォッフォンから威厳のある低い声が聞こえた。ちょっと震える。

「本日もレジスタンスとの戦闘を開始致しました。しかし、まだ様子を見ている段階です。彼らの行動の目安は立っているので、あとは作戦通りに戦況が動けばいいのですが……。」

『そうか、分かった。お前は優れた頭脳を持っている、自信の無さを今回の勝利で克服させてやる。だが、サウザンドリーフやヴィノクールの時のように、これ以上兵達を危険な目に遭わせる訳にはいかない。光の正体を回収したら、すぐに帰還しろ。』

「承知致しました……お言葉ですが陛下、」僕は一度、唾を飲み込んだ。

「神殿内に入るのは条例違反です。それでもやはり、内部に侵攻を?」

『チェイス、俺が許可をするんだ、お前は何も心配することなどない。任務を遂行することだけを考えろ。帰ったら、その光の正体を見つめながら、さかずきを交わそうではないか。』

「はい、かしこまりました。」

 ウォッフォンの通話が切れた。はあ、ちょっと踏み込んだ意見を言うだけで、僕は気力を大量に消費する。チョコ無しではやって行けないね。僕はポケットからチョコの箱を取り出して、何個かまとめて口の中に放り込んだ。甘苦い味が、身体に染み渡った。

「さあて、彼らはどう出るかな。」

*********

 暫く歩いていると、古代兵器と新光騎士団が戦っている物音が近づいてきた。快晴の青空に、戦いの音だけが響いているのが、何とも切ない。

 少し前にはオーウェン隊が、新光騎士団の後方部隊と接触したようで、彼らを引き連れて後方に陣をずらすべく、じりじりと引き下がっている。

 身を屈ませながら、跡地の石壁の間を移動していた私の隊は、神殿の門が見えるまでに近づいてくると、一度その場にしゃがんで様子を見た。

 すると意外なことに、門の前に居座っていた新光騎士団が、オーウェンを追って行ったのか、思ったよりも早く姿を消していて、古代兵器が門の中に帰っていったのだ。私は、後ろに続く皆に言った。

「新光騎士団の本隊は、オーウェンと戦う隊に合流しに行ったのか分からないけど、古代兵器への攻撃と、光の神殿への侵攻を、一時的にやめているようだ。やること無くした古代兵器が、神殿内に帰って行ってるから、今なら、あの誰も居ない場所に、我々は陣取れる。オーウェン達が騎士団を連れてもっと後退したら、あの地を占拠しよう。」

 ジェーンがフルフェイスヘルメットのシールドをハンカチで拭きながら言った。

「そうですね、神殿門前を占拠したついでに、オーウェン隊と新光騎士団を挟み撃ちしてもいいかもしれません。しかし、読まれている可能性もあります。今の新光騎士団には立派な軍師がいますからね、ああ見えて彼は、私と同じぐらいに優秀な男ですよ。あんな色情魔でもね……兎に角、彼がこの戦いに参加していなくとも、本部から指示している可能性があります。なので、先程先手を打っておきました。」

 え?私は驚いてジェーンに聞いた。

「先手って何?」

「まあ、応急処置程度ですよ。さ、行きましょう。」

 私は皆に合図して、身を屈めながら静かに進軍を開始した。草を踏む音と、風が草花を撫でる音が響いている。こんな時でもなければ、癒されたかもしれない。

 光の神殿に向かって、跡地の左奥から進んでいくが、神殿の正門は跡地の右奥にある。その前に新光騎士団の本陣があったのだが、今となってはその姿はまるっきり無い。

 こんなにもうまいこと進むものか?チェイスの指示は無いのかな、など考えていると、あっという間に正門がすぐそこに見えてきた。我々は石壁の陰に隠れて、一度警戒をした。

 するとリンが珍しい動きをしたのだ。何かを感じ取った彼女は、ジェーンから銃剣を奪って、私の横の地面にうつ伏せになり、スコープで様子を伺い始めたのだ。なかなかやるなぁ……射撃兵の手練れのようだ。そしてリンが頷いた。

「キリー、いるよ。居るわ。あの茂みの隙間で何か光ったと思ったら、あの中に誰かいるよ。隠れてんだわ。」

 茂み?ああ、確かに門の隣は、伸びきった雑草でボーボーしている。その中に誰かがいるらしいが……私の肉眼では見えない。リンは続けた。

「スナイパーも居て、こっちの方を警戒している。でもそのスナイパーのスコープのレンズが反射して光ってるんだから、ちょっとウケる。でもまだ我々が、ここまで来てるのは分かってないみたい。あと草の奥の方にも何人か居るわ。いいなあこのスコープ、倍率高いし視界がクリア、超欲しいんだけど。もぎ取っていい?」

 ジェーンがメット越しにリンを睨んだが、私はリンに感心した。

「私の目では草しか見えない、よく分かるねリン。」

「まあね。擬態カモフラージュなんて、私の前ではただの道化よ。」

 やたらに格好いいが、あんたの本職は何なんだ……。

「じ、じゃあ敵は、あそこで潜んで我々を待っていたんだね、もしや師団長っぽい人は、あの中にいる?」

 リンは再びスコープを覗いた。

「いやぁ……?普通の射撃兵っぽいのばっかり。あ!……でも今見えた、なんか頭が良さそう。丸眼鏡の、ちょっと色白で、ゴージャスな雰囲気がチラチラ草の隙間から漏れてる人がいる。」

 ジェーンが私の隣に来て、顎に指を当てて考えながら言った。

「なるほど、チェイスが直々に参加していましたか……これはこれは、なるほど。キルディア、まだ行動しないでください。」

 私は頭を抱えた。混乱してきた。今までの戦いは、何となく陣を動かせば何とかなってきたからだ。考えをまとめたのかジェーンが、リンのことも手招いて、ここにいる兵たちに説明をした。

「私の考えでは、彼はこの作戦を見抜いたので、あのような行動に出ているのでしょう。彼は我々が、あの場所に行くのを理解している。だから、奇襲をするという行動をとりたいのです。」

 私は苦笑いした。

「そしたら、まずいよね。我々が挟まれるよ。」

 リンが我々に聞いた。

「彼ってだあれ?知り合いなの?あのイケメンと知り合い?」

 そこまでスコープで確認出来たのかよ……もうエストリーに行けばいいのに、と彼女の才能に笑いそうになった。その質問に、ジェーンがため息交じりに答えた。

「あなたが発見した丸眼鏡の彼は、私の後任で帝国研究所所長だった男です。今は元帥のようですが……まあ、彼ほどの人物なら、これくらいは簡単に見抜けるでしょう。しかし、我々の行動に対して、あのような愚策ですか、今回、私もそうですが、彼もまだ本気ではなかったようです。ふん、だが……これは面白い。」

「ねえ、本気じゃ無かったの?ジェーン。」

「ふん……。」

 私の質問は無視をして、ジェーンは思案顔で自分の世界に入ってしまった。メットの奥の顔がニヤリと笑ったり、真剣になったりと忙しい。昔と比べて、ちょっとづつ感情豊かになってきたのは良いことだが、やや間違った方向に進んでいる気もする。

 兎に角、この状況をどうにかしないと、私は改めてジェーンに聞いた。

「じゃあ、どうしようか。我々の行動が見抜かれて、チェイスはどう行動するのか……って、あそこから奇襲するんだろうけど。だからって我々はどう行動する?あの草むらを襲う?でも反撃されて、挟まれて、窮地に陥りそうだ。」

「なるほど、なるほど。私に少しだけ時間をください。」

 と、考えをまとめた様子のジェーンが、ウォッフォンで何やら操作をしながら言った。

「先程の先手に少しトッピングをします。これで、もしチェイスがあの手を出してきても、そうは問屋が卸しません。良い形で封じることが出来る。ふ、ふははは……。」

「トッピング?あの手?」分からないことだらけだが、ここはジェーンに任せることにした。「まあ良いや、分かった。」

 とは言ったものの、ジェーンは「ククク」と気味の悪い笑いを浮かべてウォッフォンで作業をしている。私はそれを見て、ちょっと怯えた。

 よく彼が研究中に漏らすサイコパスのような笑みと似ていたが、今のそれは声に出して笑う分、より不気味さが増している。妊娠している雌ライオンと同様、こういう時は関わらないのが一番だ。

 彼から静かに目を逸らした私は、リンやクラースさんと辺りを警戒しながら、その場で待機をした。

 すぐにジェーンが作業を完了させて、こう言った。

「キルディア、もうオーウェン隊に引き下がるように命令をしてください。そして跡地を中央まで迂回するように言ってください。あとは自ずと、彼らが行動出来る手筈になっています。完璧です。」

 私は頷いた。

「わ、分かった。では我々はここから、どうする?」

 ジェーンは楽しげにニヤッと微笑んだ。

「我々は全力でチェイス隊と戦います、そして逃げましょう。」
 
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