LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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全員集合!レジスタンス編

128 燐光泰斗戦

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 その後は僕の読み通りだった。レジスタンスのオーウェン隊は、我々の後方部隊と少し戦闘を行った後に、逃げるかのように後退し始めたのだ。補佐官が僕に、確認の通信を入れた。

『チェイス様、本当に追わなくて、よろしいのでしょうか?』

「うん、完全には追わなくて良いよ。ありがとうね。でも追うフリだけはしてくれるかい?あまり素っ気なくすると、こちらの考えていることが相手に伝わってしまうからね。」

『承知致しました。』

 神殿の近くの茂みの中で待機している僕は、ウォッフォンで自分の軍の位置情報を確認した。僕らの分隊は、跡地後方に向かって、ゆっくりと動いている。レジスタンスを追っているのだろう。

 この位置測定装置、残念なことに僕の前の所長が作成したものだ。少しばかり位置はズレているものの、これが城下にある全ての位置情報の中で一番精度が高い。僕が改良しようにも、時間がかかりそうだったので、このまま使うことにした。

 もしかしたら、昨日レジスタンスと合流した中には、ジェーンが居るかもしれない。昨日までのレジスタンスの猪突猛進の動きが打って変わり、今日はどうも知恵を与えられたようなトリッキーな動きをしているし。

 そして、レジスタンスと連合が手を組んで、僕達を食い止めようとするのはきっと、神殿を大切にする為のものだろう。だが、こちらとて陛下の命令があるから、引き下がる訳にはいかない。僕は必ず任務を遂行する為に、ある装置をスタンバイした。

 きっとこの場所に、レジスタンスの本当の先鋒隊が現れるだろう。ここに来れば、オーウェン隊と共に、僕たちを挟めると思っているだろうからね。そこに僕もいると信じて。しかしそれは出来ない。

 すると、隣でしゃがんでいた兵士が、僕に聞いた。

「しかし、ここで我々は挟み撃ちをすることが出来るでしょうか?本当に彼らは門の前に陣を……?」

「大丈夫だ、神殿にはこの門からしか入れない。彼らの目的は僕たちが神殿に侵入するのを食い止めることだ。あの青い光を放つ物体に対して、彼らがどう思っているのかは知らないけど……。あのレジスタンスの動きを見ていると、どうやら彼らはオーウェン隊と一緒に、僕らを挟み撃ちにしたかったのだろう。だから彼らはきっと、挟み撃ちのできるこの場所を、確保しなくたって、取り敢えずは通ると思う。大丈夫だ。」

「な、なるほど……確かに、ん?チェイス様、これを。」

 兵士がウォッフォンの画面を見せてくれた。待機していた誰かが、彼に教えてくれた。そのニュースの画面には「光の神殿 連合レジスタンス STLYからの援軍」と書かれていた。援軍か……数は、結構な大軍だった。ああそうなんだ。

「チェイス様、レジスタンスにユークアイランドから援軍ですね。場所も程近いので、すぐに到着するでしょう。我らも、城下に援軍を要請した方が。」

「うーん確かに、この兵数を見ると、彼らが到着したら僕たちは数で負けるかもね。」

 補佐官は草が揺れないように、静かに頷いた。

「はい、先日のヴィノクールでの戦闘の際に、投降した我らの騎士達が、今はエストリーに入隊しているようです。裏切り者め、更にユークアイランドには彼らの仮の住居もあるとか。」

「ああ、聞いたよ。そっかぁ、それは大変なことだ。まあ、このニュースは無視して良いよ。」

 彼は驚いた顔を僕に向けた。周りの兵達も、声を発さないまま、驚いた顔をした。

「し、しかし……!我々も援軍を要請した方がいいのでは?城下には現在、シルヴァ様の師団が待機しております。」

 この程度のミッションで、僕が援軍を要請したら、陛下はどう思うだろうか。それはずっと考えていたことだった。きっと無能だと思うだろう。それに……。

「これはね、偽物の情報だ。前にもヴィノクールでシードロヴァがフェイクニュースを使ってきたのを知っているだろう?これで確信したよ、この場所の何処かに絶対にジェーンが居る。これは僕らを脅かす為の、ギミックに過ぎない。」

「そ、そうですか……?」

 僕はポケットからチョコの箱を取り出して、口にいくつか放り込んで、モグモグと噛みながら答えた。

「ああ、そうだ。エストリーだって投降した兵を、そのまま使う訳にもいかないでしょ。まだ前の戦いから時間はそんなに経ってないし、エストリー自体にこんな兵数は居ない。この数は嘘だ。それに記事のタイミング。きっと、レジスタンスの先鋒が動き始めているんだ。ジェーンらしいな、これは挟み撃ち出来なかった時の保険だよ。僕たちを脅しているだけさ。」

「は、はい……。」

 不安そうな表情、僕は彼の肩をポンと叩いて、頷いた。

「大丈夫だ、ここで彼らが通るのを待っていよう。あの発明品だってあるんだ。ここに彼らが来たら、僕たちと補佐官の隊で、彼らの先鋒隊を挟み撃ち出来る。あとは簡単なことだよ。」

 と、僕は彼を安心させる為に微笑んだが、何故か彼はビクッとしてしまった。どうして優しく微笑んだのに、怖がるのか、全く理解出来ない。

 だが、僕の目論見通り、少しするとその時はやって来た。後退していくオーウェン隊を追っているフリをする補佐官の隊を追うように、跡地の左奥から残りのレジスタンスの軍が、誰にも見つからないように忍び足でやって来たのだ。やっぱりね、ジェーンならもう少し、考えると思ったのに。残念だ。

「チェイス様。」

「うん、彼らは補佐官の軍を、我々の本隊だと思っているだろう。僕が合図したら、奇襲をかけるよ。」

「はっ」

 人間の集団が、草を踏む音が辺りに響いている。レジスタンスの先鋒隊を率いているのは……誰だろうか。フルフェイスのヘルメットを被った、小柄なライダースーツの女性だ。するとその人が、後ろの兵達に向かって号令をかけた。

「今から、彼らに奇襲をかける、付いて来て下さい。」

「はっ」

 なるほど……!あの声は、確かにキルディアだ。するとその後ろにピッタリとくっついて離れない、細身の人がジェーンか?いや違うな、よく見ると、その隣に居る背の高い男がジェーンの様だ。ウォッフォンを操作する姿が、帝国研究所で見かけた時の彼と背中と一致した。

 そしてキルディアにピッタリとくっついているジェーンじゃない方は、何故かその場に生えている雑草を何本かブチブチ抜いて、それを丸めて、ジェーンと思われる男の背中に向かって、思いっきり投げつけ始めたのだ。

 動物園で見たことある、猿が威嚇してフンを投げつけるのとそっくりだった……。なるほど、何があったのか知らないけど、彼も色々と、大変そうだ。そしてこの分だと、彼らは何も気付かずに、もう申し訳ないぐらいに策にはまったと考えられる。

 ……キルディアが居るのなら手加減をするべきだったかな?そんな馬鹿なことを、僕は首を振って、気を紛らした。彼女率いる先鋒隊は、草に潜む僕たちには気付かない様子で、ここを素通りしようとしている。

「チェイス様、今でしょうか?」

 隣の兵の小声が聞こえた。僕は答えた。

「まだかな。彼らが補佐官隊と戦闘を始めたら、僕たちも出て挟み撃ちしよう。そうすればオーウェン隊が慌てて、ここに来るまでには、決着つけられるだろう。」

「はっ」

 少しすると、キルディア隊とブレイブホースに乗った僕の補佐官の隊が、戦闘を開始した。跡地には剣がぶつかる音、魔術の音、銃声が広がった。

 僕はじっと様子を伺った。彼女は宙を舞うように飛び上がりながら、帝国騎士団の剣を振っている。銃弾が何発か彼女へ向かったが、光の防御壁が現れて彼女を守った。隣で魔術の構えをしていたのは、ジェーンだった。へえ、少し魔術も使えるのか……。

 他にも、戟で次々と騎士達をブレイブホースから引きずり下ろす兵や、短機関銃で適当に撃っているかと思いきや、それらが全て頭に命中している凄腕の兵もいた。それは先程、ジェーンの背中に草を投げつけていた人物だ。

「チェイス様、我々も。」

「うん、そうだね。この様子だと、僕が行かなくても倒せそうだけど。」

 そうなのだ、ヴィノクールの時といい、彼らは威勢がいいわりに、基本的には兵を確実に仕留めようとしない。そんな生温くてやっていけるのか、僕には理解出来ないけど、彼らはいつも、僕たちの兵を気絶させるだけだった。だからこそ連合は人数を増やせたのだろうが、それも今回で終わりだ。

 僕は立ち上がって、号令した。

「じゃあ、やっちゃおうか。」

「はっ!よし、我らも進むぞ!いけー!」

「おおおおお!」

 と、僕たちは草の陰から飛び出して、補佐官の隊と交戦中のキルディア隊に向かって突撃を開始した。僕はそのタイミングで、ポケットの中にあるスイッチを押した。僕の隊員全てのウォッフォンに付いているホログラムが、リアルな兵士を作り出して、実際よりも多くの兵が、そこにいるかのように見せることに成功した。

 するとキルディアが真っ先に気付いて、叫んだ。

「……後ろからも来た!いやいや、なんて数!?守りを固める、皆、私の近くに集まって!」

 キルディアの号令に兵達が従い、彼らは身を寄せ合って固まって、守りの陣を作った。なんていうか、本当にただの研究所の所長なのかな?どうして兵法に詳しい?まだ草むらの中で立っている僕は、とぼとぼと彼らの方へ向かった。

 あーあ、なんていうかちょっと、いや結構気になってた子が大変な目に遭っているのは、あまり見たくないな。でも仕方ないか、彼らも好きで帝国に反抗しているんだし。ホログラム兵士にビビっているのか、レジスタンスの兵の中には腰を抜かす人も居た。しかしその時だった。

 ホログラムが砂嵐のように掠れて、消えてしまったのだ。僕は呆気にとられた。何が起きた?手元のスイッチを見るが、まだオンのままだ。

「……なるほど、幻影だったのか。」

 戟を持った兵が、そう呟いたのが聞こえた。僕たちの兵の半数が偽物だと判明したことで、キルディア隊の兵士の士気が上がってしまった。

 更に、分隊と一緒に挟み撃ちにしているのにも関わらず、中々彼らを鎮めることが出来ない。それどころか人数の少ない僕の隊を重点的に攻撃されて、隊列が乱れてしまった。
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