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衝撃のDNA元秘書編
141 いかがわしい動画
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ジェーンは動揺しているのか、悲しいのか、今にも泣きそうで、目が充血していた。こちらも辛いが、私は彼の両肩をグッと押して、彼が離れるように仕向けた。
「離れて!」
「いけません!」
ジェーンが私の両手首を掴んで押さえ込み、また互いの胴がくっつくまで倒れ込んできてしまった。私は抵抗した。
「やめてよ、ジェーン、な、何してんの、襲ってんの!?」
「人聞きの悪い!あなたが抵抗するから、私はこうしているだけです。襲うなど誰が一体……。」
襲ってるでしょうが、あんたが……。抵抗し続けていると、ジェーンが今度は、私の首筋に唇を付けたので、私は驚いて、彼の耳をかじって抵抗した。
「ぐっ!」彼がそう叫んで頭を仰け反らせ、私を睨んだ。「耳を噛むとは、よろしいでしょう、ならば私も!」
するとジェーンが勢いよく口全体を使い、ガブリと私の首を噛んできたのだ。痛い!私はちょっと耳を噛んだだけなのに!
私が痛いと叫ぶと、彼はすぐにやめてくれた。そして、それで治るとでも思ったのか、彼は噛んだ場所に何度もキスをし始めた。まあ、確かにそうされると、じんじんするけど柔らかくて、ちょっと気が紛れて痛みが和らぐ。
「ご、ごめんなさい、キルディア、酔いもあり、手加減が……。」
「いやこっちこそ、耳噛んでごめんなさい……。」
こんな夜更けに噛み合って喧嘩して何やってんだか。リンの家の近くの野良猫じゃあるまいし。
首の痛みが引いてきても、まだジェーンはその箇所に何度もキスをし続けている。何だかずっとそれをされていると、変な気分になりそうで、「もういいから」と言うと、彼がゆっくりと身体を起こして、離れてくれた。
そして私の手を引いて、私を座らせた。すぐに座ったまま彼にハグされた。何だかぼーっとした。ハグが終わると、少し落ち着いた様子の彼が、もう一度私に質問した。
「どうして、私から離れると決めたのですか?」
もうジェーンに噛まれるのは嫌だ。本当のことを話せば納得するのかな。納得してカタリーナさんと子孫を繁栄させようと思ってくれるのかな。とにかくもう噛まれるのは嫌だ。痛いのもそうだが、そのあと何度もキスされるのは、たまらなく恥ずかしいし、何か変にたまらなくなる。もうなんだか色々と諦めて、私は口を開いた。
「……アイリーンさんは、ジェーンの子孫らしいですよ。」
「は?」
呆気に取られたジェーンは、乱れた髪を手で直しながら今の言葉の意味を考え始めた。一人で何度か頷いて、今度は引きつり笑いをし、私を見た。
「なるほど、それであなたは、私がカタリーナと子孫を残さないといけないという考えに至りましたか。」
「そうよ。アイリーンさんは、これは繊細な問題だからシードロヴァ博士には言うべきじゃないって言ってたけど……。で、でもどうなの?だってそうでしょ?帰った後にカタリーナさんと子どもを作れば、それはそうなるし、それを帝国研究所の遺伝子研究チームが、科学的に証明してるんだよ?」
「有り得ない。」
「え?」
急に真剣な顔になったジェーンは、ウォッフォンですぐに何かを調べ始めた。やっぱり思い当たるところがあったのかな。私はもういいかなと、彼をおいて部屋を出て行こうとしたが、すぐに腕を掴まれてベッドに座らされた。仕方ない、暇なので先程の動画の続きを見た。
「……ふむ、なるほど。結論から言います。」
少しして、ジェーンがウォッフォンを閉じた。私はウォッフォンの画面をそのままに、ジェーンを見た。彼は言った。
「アイリーンの話したことは、全て嘘です。」
「はああ!?」
ちゅ、ちゅ、と私の画面から音が漏れているのを聞いたジェーンが、素早く私のウォッフォンを叩いて消した。
え?え?嘘?どのあたりが?あ、全てか。すべて!?
「そ、それは本当?」
「はい。以前、私が遺伝子研究チームに依頼されて、サンプルを提出した研究のレポートを今、拝見しました。実を申せば、私は自分の正体が発覚するのを恐れて、別の部下のサンプルを自分の物と偽り、提出していたのです。」
「えええええええ!?んえええええ!?」
もしかしたら二階にまで聞こえていたかもしれない。私の叫びが。
「その部下は勿論この世界の人間ですし、アイリーンよりも年下で、先祖である訳が無い。更に今、確認したところ、それに加え、彼らは親戚でも何でもありませんでした。兎に角、私と彼女は、全然かすりもしない、ただの他人です。アイリーンの発言もあります、彼女は何故か私を愛しているようですから、あのような嘘をつけば、あなたが簡単に距離を置くと思ったのでしょうね。全く、鵜呑みにするあなたもあなたです。証拠を出せと言えば、その場で解決出来たものを。根拠を掲示せずに、何が科学的ですか。」
「ああ~そうなのね~~」
良かった……良かった!?何が良かったんだ?しかし、私は頭を抱えた。アイリーンさんよ、なんて巧妙な嘘をつくんだ……おかげでこちらは、夜中に噛み合いの大げんかをしてしまったじゃないか。ジェーンが私に聞いた。
「と言うことを踏まえ、実際は、ラブ博士のことは、どうお想いなのでしょうか?」
「だって、リンに紹介してるからねぇ……私が好きになる訳にはいかないでしょう。」
「ふふ、確かにそうですね。それでは何故、あのような卑猥な動画を?」
「だ、だって」私は顔が熱くなるのを感じた。「ジェーンが子孫を残すって、そう言う行為をするってことでしょ?だから知っておきたかった。どんなことするのかなって。そりゃ子どもが出来る仕組みはわかってるよ?でも実際の雰囲気は知らないから、どうやるのかなって。ジェーンは何でも知ってるから、そう言う……なんて言うんだろう。営みのこと、詳しく知ってるんでしょ?」
「ぶっ……」彼は苦い顔をした。ああ、そう言う顔もするようになったんだ。だんだん私に似て来ちゃって、何だか微笑ましいと思っていると、照れた表情のジェーンが私の肩をぺしんと叩いた。
「私も仕組みは勿論存じ上げております。もし私が詳しいのなら、挨拶のハグで戸惑う事も無かったとは考えませんか?……ですがあなたの方が知識があるのはどうも頂けない。先程、観ていた動画のページを教えてください。」
「え?観るの?」
「はい。同じものを観ます。あなたも、何か新しいものを見たら私に報告するように。我々は親友です、卑猥な動画の紹介ぐらいしますよ。」
そのセリフ……何度も聞いたことがあるが、それで私は些か騙されている気もする。しかし別に拒否する理由も無いので、私は先程見た動画と、今の動画のURLをジェーンに送った。
「じゃあ、もう明日も早いから寝るね。おやすみ。」
「まだです。」ジェーンは動画を見ながら、私にこんな発言をした。
「喧嘩をしましたから、仲直りのハグをしましょう。私がこれを見た後で。」
「あ、ああ。じゃあ、別の部屋でそれが終わるの待ってる。じゃあね。」
と、言って先に寝てしまえばいいのだ。寝ている人間を起こすような鬼畜では無いだろう。私はジェーンの寝室から出ると、すぐに洗面所に向かい、歯磨きを手っ取り早く終えて、ついでに水道の水をガブガブ飲み、カーテンの部屋に戻ると、部屋着に着替えて布団に入った。
あとは目を閉じるだけだ。おやすみジェーン、明日の会議はいいものになるといいね……。キラリと何かが光った。それはジェーンが新しくくれたアームのラインの光だった。これの動力源は何だろう。それに、手の感触は無いけれど、本当に私の手のようだ。指先も人のそれに近い。
布団をぎゅっと抱きしめた。もうだめだ、寝よう。目を閉じた時に、寝室の扉が開いた音がした。しかし足音は洗面所に消えて行った。あれ?こっちに来なかった。暫くして、足音が帰ってくると、それはそのまま寝室に消えた。
……あろ?
じゃあ寝るか。そう思った時に、ウォッフォンがブーと鳴った。画面を開くと、それはジェーンからのメッセージだった。な、何だろう。開けると、『寝てはいないでしょう?今から行きます。』と言う文章だった。
私はすぐに寝たフリをした。扉が開いた音がして、ジェーンがカーテンの部屋に入って来たが、私は寝たふりを続行した。しかし薄目を開けてジェーンを見た。彼は私の体を押して壁際にずらすと、私の隣に、私に背を向けて寝転んだ。いつもの部屋着のスタイルに、髪は解かれて長髪だった。
「……妙な、ものでしたよ、あの動画は。人はああやって、愛情を表現するのですね。私は到底、あのような真似が出来るか不明です。しかし勉強にはなりました。また、新しいものを観た際は、教えてください。」
「分かりました。」
私が声を発しても、意外にジェーンは何も反応しなかった。まあ起きてるの知ってるもんね……。
「私はアイリーンに怒りを覚えています。」
「どうして?」
「折角あなたがワンピースを着ていたのに、それを十分に堪能出来なかった。彼女には、私の方から叱責しておきます。今回の件は、到底許されるべきことではないと。」
「あ、ああ……お願いします。」
嘘をついたからなのか、いつもと違う服装を堪能出来なかったからなのか、何れにせよアイリーンさんはジェーンに怒られる。それが私に回ってこないといいな、はは……。だけどちょっとだけ、私ももう少しワイルドジェーンを見ていたかった。それでネクタイと取る仕草をしてほしかった。と考えた時だった。
「キルディア、私には、すぐに帰って欲しいですか?」
突然聞かれた質問、少し驚いたが、私は正直に答えた。
「安全を優先するならば、帰って欲しい。気持ちを優先するならば……。」
今夜は飲み過ぎた。それに、色々ありすぎて疲れた。理由をつけて、私はジェーンの背中に抱きついた。一瞬彼がビクッとした。それでも構わずにくっついて、私はちょっと下にずれた。
彼のTシャツを思いっきりめくった。月明かりにほんのりと、ジェーンの白い肌が露わになった。ちょっと後悔した。私の心が爆発しそうになった。
「キルディア、な、何を……。」
彼の背中が大きく動いている。私は、迷いながら、彼の背中におでこを当てて、ジェーンのお腹に手を回して抱きしめた。彼の肌が熱い。あの動画のように、少しだけ、肌と肌で触れ合ってみたかった。とても熱い。
「一緒に居たいのは、ジェーンと同じだよ。」
はっ、とジェーンが一度息を吐いた。何だか泣いてる?そんな突発的な吐息だった。するとお腹に回した私の腕を、ジェーンが両手で包むように抱きしめてくれた。
「私は今、とても緊張しています……。」彼のとても震える声だった。
「うん。」
「あなたの気持ち、聞かせてくれて、ありがとうございます。」
「うん。」
「……私の背中は、気持ちいいですか?」
「うん。」
私はおでこではなく、今度は頬を付けた。足と足が重なるようにくっ付いて、そのまま目を閉じてから、ジェーンに言った。
「時空間歪曲機を作ってるって、思っちゃってて、ごめんね。」
「いえ、私の方こそ、感情的になりすぎました。それに私はまだ作りませんよ。あなたがネビリスを倒すのを見届けなくてはならない。」
「ふふ。でも彼も少しはいいところあるよ。」
「そうだとしても、彼は欲深い人間です。それを邪魔したあなたは確実に恨まれています。私は状況が落ち着くまで、ここに居ます。帰る必要性もあるので、悩ましいところですが。」
「何も気にせず、ジェーンは帰って。皆が待ってる。」
「……それは、時間をください。私こそ、私こそ……兎に角、あなたの方から来てくれるのは貴重です。もう少し強く、私を抱きしめてください。」
「ふふ、分かった。」
ぎゅうと抱きしめると、ジェーンも私の腕を包みながら撫でてくれた。彼の心臓の鼓動が聞こえる。速いのか遅いのか分からないけど、どくどくいっている。
興奮と安心感を同時に抱いているようで、何だか変な気持ちだったが、信じられないことに、この体勢のまま、我々は眠ってしまったのだった。
「離れて!」
「いけません!」
ジェーンが私の両手首を掴んで押さえ込み、また互いの胴がくっつくまで倒れ込んできてしまった。私は抵抗した。
「やめてよ、ジェーン、な、何してんの、襲ってんの!?」
「人聞きの悪い!あなたが抵抗するから、私はこうしているだけです。襲うなど誰が一体……。」
襲ってるでしょうが、あんたが……。抵抗し続けていると、ジェーンが今度は、私の首筋に唇を付けたので、私は驚いて、彼の耳をかじって抵抗した。
「ぐっ!」彼がそう叫んで頭を仰け反らせ、私を睨んだ。「耳を噛むとは、よろしいでしょう、ならば私も!」
するとジェーンが勢いよく口全体を使い、ガブリと私の首を噛んできたのだ。痛い!私はちょっと耳を噛んだだけなのに!
私が痛いと叫ぶと、彼はすぐにやめてくれた。そして、それで治るとでも思ったのか、彼は噛んだ場所に何度もキスをし始めた。まあ、確かにそうされると、じんじんするけど柔らかくて、ちょっと気が紛れて痛みが和らぐ。
「ご、ごめんなさい、キルディア、酔いもあり、手加減が……。」
「いやこっちこそ、耳噛んでごめんなさい……。」
こんな夜更けに噛み合って喧嘩して何やってんだか。リンの家の近くの野良猫じゃあるまいし。
首の痛みが引いてきても、まだジェーンはその箇所に何度もキスをし続けている。何だかずっとそれをされていると、変な気分になりそうで、「もういいから」と言うと、彼がゆっくりと身体を起こして、離れてくれた。
そして私の手を引いて、私を座らせた。すぐに座ったまま彼にハグされた。何だかぼーっとした。ハグが終わると、少し落ち着いた様子の彼が、もう一度私に質問した。
「どうして、私から離れると決めたのですか?」
もうジェーンに噛まれるのは嫌だ。本当のことを話せば納得するのかな。納得してカタリーナさんと子孫を繁栄させようと思ってくれるのかな。とにかくもう噛まれるのは嫌だ。痛いのもそうだが、そのあと何度もキスされるのは、たまらなく恥ずかしいし、何か変にたまらなくなる。もうなんだか色々と諦めて、私は口を開いた。
「……アイリーンさんは、ジェーンの子孫らしいですよ。」
「は?」
呆気に取られたジェーンは、乱れた髪を手で直しながら今の言葉の意味を考え始めた。一人で何度か頷いて、今度は引きつり笑いをし、私を見た。
「なるほど、それであなたは、私がカタリーナと子孫を残さないといけないという考えに至りましたか。」
「そうよ。アイリーンさんは、これは繊細な問題だからシードロヴァ博士には言うべきじゃないって言ってたけど……。で、でもどうなの?だってそうでしょ?帰った後にカタリーナさんと子どもを作れば、それはそうなるし、それを帝国研究所の遺伝子研究チームが、科学的に証明してるんだよ?」
「有り得ない。」
「え?」
急に真剣な顔になったジェーンは、ウォッフォンですぐに何かを調べ始めた。やっぱり思い当たるところがあったのかな。私はもういいかなと、彼をおいて部屋を出て行こうとしたが、すぐに腕を掴まれてベッドに座らされた。仕方ない、暇なので先程の動画の続きを見た。
「……ふむ、なるほど。結論から言います。」
少しして、ジェーンがウォッフォンを閉じた。私はウォッフォンの画面をそのままに、ジェーンを見た。彼は言った。
「アイリーンの話したことは、全て嘘です。」
「はああ!?」
ちゅ、ちゅ、と私の画面から音が漏れているのを聞いたジェーンが、素早く私のウォッフォンを叩いて消した。
え?え?嘘?どのあたりが?あ、全てか。すべて!?
「そ、それは本当?」
「はい。以前、私が遺伝子研究チームに依頼されて、サンプルを提出した研究のレポートを今、拝見しました。実を申せば、私は自分の正体が発覚するのを恐れて、別の部下のサンプルを自分の物と偽り、提出していたのです。」
「えええええええ!?んえええええ!?」
もしかしたら二階にまで聞こえていたかもしれない。私の叫びが。
「その部下は勿論この世界の人間ですし、アイリーンよりも年下で、先祖である訳が無い。更に今、確認したところ、それに加え、彼らは親戚でも何でもありませんでした。兎に角、私と彼女は、全然かすりもしない、ただの他人です。アイリーンの発言もあります、彼女は何故か私を愛しているようですから、あのような嘘をつけば、あなたが簡単に距離を置くと思ったのでしょうね。全く、鵜呑みにするあなたもあなたです。証拠を出せと言えば、その場で解決出来たものを。根拠を掲示せずに、何が科学的ですか。」
「ああ~そうなのね~~」
良かった……良かった!?何が良かったんだ?しかし、私は頭を抱えた。アイリーンさんよ、なんて巧妙な嘘をつくんだ……おかげでこちらは、夜中に噛み合いの大げんかをしてしまったじゃないか。ジェーンが私に聞いた。
「と言うことを踏まえ、実際は、ラブ博士のことは、どうお想いなのでしょうか?」
「だって、リンに紹介してるからねぇ……私が好きになる訳にはいかないでしょう。」
「ふふ、確かにそうですね。それでは何故、あのような卑猥な動画を?」
「だ、だって」私は顔が熱くなるのを感じた。「ジェーンが子孫を残すって、そう言う行為をするってことでしょ?だから知っておきたかった。どんなことするのかなって。そりゃ子どもが出来る仕組みはわかってるよ?でも実際の雰囲気は知らないから、どうやるのかなって。ジェーンは何でも知ってるから、そう言う……なんて言うんだろう。営みのこと、詳しく知ってるんでしょ?」
「ぶっ……」彼は苦い顔をした。ああ、そう言う顔もするようになったんだ。だんだん私に似て来ちゃって、何だか微笑ましいと思っていると、照れた表情のジェーンが私の肩をぺしんと叩いた。
「私も仕組みは勿論存じ上げております。もし私が詳しいのなら、挨拶のハグで戸惑う事も無かったとは考えませんか?……ですがあなたの方が知識があるのはどうも頂けない。先程、観ていた動画のページを教えてください。」
「え?観るの?」
「はい。同じものを観ます。あなたも、何か新しいものを見たら私に報告するように。我々は親友です、卑猥な動画の紹介ぐらいしますよ。」
そのセリフ……何度も聞いたことがあるが、それで私は些か騙されている気もする。しかし別に拒否する理由も無いので、私は先程見た動画と、今の動画のURLをジェーンに送った。
「じゃあ、もう明日も早いから寝るね。おやすみ。」
「まだです。」ジェーンは動画を見ながら、私にこんな発言をした。
「喧嘩をしましたから、仲直りのハグをしましょう。私がこれを見た後で。」
「あ、ああ。じゃあ、別の部屋でそれが終わるの待ってる。じゃあね。」
と、言って先に寝てしまえばいいのだ。寝ている人間を起こすような鬼畜では無いだろう。私はジェーンの寝室から出ると、すぐに洗面所に向かい、歯磨きを手っ取り早く終えて、ついでに水道の水をガブガブ飲み、カーテンの部屋に戻ると、部屋着に着替えて布団に入った。
あとは目を閉じるだけだ。おやすみジェーン、明日の会議はいいものになるといいね……。キラリと何かが光った。それはジェーンが新しくくれたアームのラインの光だった。これの動力源は何だろう。それに、手の感触は無いけれど、本当に私の手のようだ。指先も人のそれに近い。
布団をぎゅっと抱きしめた。もうだめだ、寝よう。目を閉じた時に、寝室の扉が開いた音がした。しかし足音は洗面所に消えて行った。あれ?こっちに来なかった。暫くして、足音が帰ってくると、それはそのまま寝室に消えた。
……あろ?
じゃあ寝るか。そう思った時に、ウォッフォンがブーと鳴った。画面を開くと、それはジェーンからのメッセージだった。な、何だろう。開けると、『寝てはいないでしょう?今から行きます。』と言う文章だった。
私はすぐに寝たフリをした。扉が開いた音がして、ジェーンがカーテンの部屋に入って来たが、私は寝たふりを続行した。しかし薄目を開けてジェーンを見た。彼は私の体を押して壁際にずらすと、私の隣に、私に背を向けて寝転んだ。いつもの部屋着のスタイルに、髪は解かれて長髪だった。
「……妙な、ものでしたよ、あの動画は。人はああやって、愛情を表現するのですね。私は到底、あのような真似が出来るか不明です。しかし勉強にはなりました。また、新しいものを観た際は、教えてください。」
「分かりました。」
私が声を発しても、意外にジェーンは何も反応しなかった。まあ起きてるの知ってるもんね……。
「私はアイリーンに怒りを覚えています。」
「どうして?」
「折角あなたがワンピースを着ていたのに、それを十分に堪能出来なかった。彼女には、私の方から叱責しておきます。今回の件は、到底許されるべきことではないと。」
「あ、ああ……お願いします。」
嘘をついたからなのか、いつもと違う服装を堪能出来なかったからなのか、何れにせよアイリーンさんはジェーンに怒られる。それが私に回ってこないといいな、はは……。だけどちょっとだけ、私ももう少しワイルドジェーンを見ていたかった。それでネクタイと取る仕草をしてほしかった。と考えた時だった。
「キルディア、私には、すぐに帰って欲しいですか?」
突然聞かれた質問、少し驚いたが、私は正直に答えた。
「安全を優先するならば、帰って欲しい。気持ちを優先するならば……。」
今夜は飲み過ぎた。それに、色々ありすぎて疲れた。理由をつけて、私はジェーンの背中に抱きついた。一瞬彼がビクッとした。それでも構わずにくっついて、私はちょっと下にずれた。
彼のTシャツを思いっきりめくった。月明かりにほんのりと、ジェーンの白い肌が露わになった。ちょっと後悔した。私の心が爆発しそうになった。
「キルディア、な、何を……。」
彼の背中が大きく動いている。私は、迷いながら、彼の背中におでこを当てて、ジェーンのお腹に手を回して抱きしめた。彼の肌が熱い。あの動画のように、少しだけ、肌と肌で触れ合ってみたかった。とても熱い。
「一緒に居たいのは、ジェーンと同じだよ。」
はっ、とジェーンが一度息を吐いた。何だか泣いてる?そんな突発的な吐息だった。するとお腹に回した私の腕を、ジェーンが両手で包むように抱きしめてくれた。
「私は今、とても緊張しています……。」彼のとても震える声だった。
「うん。」
「あなたの気持ち、聞かせてくれて、ありがとうございます。」
「うん。」
「……私の背中は、気持ちいいですか?」
「うん。」
私はおでこではなく、今度は頬を付けた。足と足が重なるようにくっ付いて、そのまま目を閉じてから、ジェーンに言った。
「時空間歪曲機を作ってるって、思っちゃってて、ごめんね。」
「いえ、私の方こそ、感情的になりすぎました。それに私はまだ作りませんよ。あなたがネビリスを倒すのを見届けなくてはならない。」
「ふふ。でも彼も少しはいいところあるよ。」
「そうだとしても、彼は欲深い人間です。それを邪魔したあなたは確実に恨まれています。私は状況が落ち着くまで、ここに居ます。帰る必要性もあるので、悩ましいところですが。」
「何も気にせず、ジェーンは帰って。皆が待ってる。」
「……それは、時間をください。私こそ、私こそ……兎に角、あなたの方から来てくれるのは貴重です。もう少し強く、私を抱きしめてください。」
「ふふ、分かった。」
ぎゅうと抱きしめると、ジェーンも私の腕を包みながら撫でてくれた。彼の心臓の鼓動が聞こえる。速いのか遅いのか分からないけど、どくどくいっている。
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