LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
142 / 253
衝撃のDNA元秘書編

142 リンの朝

しおりを挟む
 一欠片も夢を見ずに寝ていたらしい。そもそも、昨日の合コンを行なったバーからどうやって帰って来たのか、意識が全く無かったので覚えてない。

 私は自分の重い体を起こした。うわ……寝室が脱ぎっぱなしの服や、鞄から溢れてる小物で、ベッドがぐちゃぐちゃになっている。覚えてない、本当に覚えてない。

 そして私は自分のベッドで、自分の隣で眠っているラブ博士を見た。布団をめくる。大丈夫、彼はちゃんと服を着ている。ふぅ~危ない……いや、いやいやいや!?

「あああああ?」

 私はベッドから転げ落ちて、フローリングの上で、生まれたての小鹿のようにもがいた。どうして?どうして私のベッドにラブ博士がいるんだ?リン落ち着け、まだクロだと確定していない!彼は服を着ているのだ、私だって……と思って自分を見たが、そこに服と言うものは無かった。

「ああ!?服着てない……おおおお!」

 小声で慌てながら、私はウォークインクローゼットに突っ込んで行った。もうどれでもいい、オフィス用のシャツなら何でもいい。私は勢いよく着替えると、寝室に戻った。やはりと言うべきか、まだ居る。それもそうだ、彼はそこで寝ているのだから……消えてたらそっちの方が怖い。

 じっと見ていたら、私の視線が強すぎたのか、博士が呻きながら目を覚ました。

「……あ。」

 私は口をあんぐりと開けたまま、ラブ博士を見つめる。全然覚えていないが、やはりいけないことをしたのだろうか。そうでないと普通お泊まりなんかしないよね……博士は寝起きだからか、いつもよりも眼光鋭くなっている。そしてその顔のまま、私の方を向いた。

「リン……お前さあ。」

「え?起き抜けに何ですか?私悪いことしましたか?きっとそうですよね、私が悪いことしたんですよね?」

「落ち着けよ、」と上半身を起こした博士は、手で顔を何度か撫でた後に、言った。「合コン向いていないよ。酔ってベロベロになって、帰れそうに無かったからここまで送ったら、いきなり家の中に連れ込まれて……。」

「ごごごめんなさい~!」

 私は膝から崩れ落ち、天に向かって合掌した。どうやらやってしまったようだ。そうなんでしょう博士?ああ、社会人になってからこう言う事は避けたかったのに……よりにもよって、職場の人間とワンナイト!これからどんな顔してラブ博士と職場で会えばいいんだ……。

「お助けあれ~!」

「いや、俺が助けて欲しいくらいだ……。」

 私は天に向かって合掌をしたまま、何度も博士に向かって頭を下げた。すると博士は私に更なるを尋問を行った。

「聞けよ、それで家に押し込まれて、お前は俺に何をしたと思う?」

「分かりません!感謝とか?」

「ああそうなんだ。ここまで送ってくれてありがとうございますって丁寧に……ってそんな訳あるか!何が感謝だ!感謝する奴が俺を家に押し込むのか!?少しは考えろよ!」

 そのノリツッコミを笑っていいのだろうか。いや、彼は今かなり恐ろしい目つきをしている。下手に動けば、こちらの人生が終幕を迎えるだろう。私はラブ博士に向かって合掌して、彼に聞いた。

「何をしたのか分かりませんって!早く、答えを教えてください!そして私に懺悔をさせてください何卒~!」

 ラブ博士はゴミを見るような目で私を見て、ため息をついた。

「……踊り始めた。」

「え?」

「変な踊り、それも全裸で。」

「え?」

「……良く分からない、見た事のない、変な踊りをし始めたと言っている。」

「はい?」

 ラブ博士はベッドから降りて、物分かりの悪い私の頭に向かって、毛布を投げてきた。意外と重くて転んでしまった。

「だから!変な踊りをし始めたんだ!チャラララ~と歌いながら服を脱いで、それからウォッフォンでEDMを流し、そのテンポに合わせて草むしりの様な動きをし始めた!誰がそんな姿を見たいと思うんだ!?あ!?」

 私が毛布からやっとの事で抜け出すと、博士が今度は、ベッドの上に落ちていた私が昨日着ていた赤いワンピースを、私に向かって投げてきた。ラブ博士って結構Sなんだ、知ってたけど。

「あれは他の男の前でもやっている事なのか?あんな事してたら、誰もお前と付き合おうなんぞ思わないだろ。どの物好きがあの踊りで魅了されるんだ……?それに夜中ずっと野良猫がマオマオ叫んでうるさかった。」

 あれれ?でも、でもでも。手櫛で髪を整えている博士に、私は聞いた。

「野良猫は、ここは一階なんで、いつも五月蝿いんですけど……でも博士、それだけですか?我々は何もしてないって事?」

「それだけとはなんだ!」ラブ博士は私を睨んだ。「俺は立派な被害者だぞ!訴えてもいいくらいだ。お前を家まで送ったから、帰ろうとすれば、大声でやめて~殺さないで~って叫び出して……近所の連中に誤解されるだろうが!ここから俺の家は意外と近いんだ!家族ぐるみで知ってる奴らばっかりなんだぞ!」

 と、博士はベシッと私の頭を叩いた。

「え?博士ここから家近いの?ってか家族ぐるみってどう言う事?実家住まい?」

「はあ!」と、博士はまたため息をついた。「独り暮らしだが、実家がとても近い。最近はユークに空き部屋が少なくて場所を選んでいられなかった。弟や妹はまだ実家で暮らしてる。……それはいい、兎に角この近所は俺を知ってる奴も多いって事だ!お前はどうなんだ!?ここで一人暮らしか!?」

「そうですよ?やっぱり一人暮らししないと、友達とか家に呼べないじゃないですか。実家はポレポレ通りに近い所の、アパートなんですけど、ワンルームなんです。狭いでしょ?お兄ちゃん二人居るけど、彼らは結婚して帝都に行っちゃった。この辺に暮らすんだったら一部屋もらおうと思ってたのに、帝都行くんですもん。仕方ないから、ここ借りましたよ。このマンション新築だから、毎月、給料の半分持ってかれます、私は総務ですからね。博士とは違う給料だし。」

「そりゃ大変なこったな……。」

「博士の家の間取りは、どんな感じですか?ここより広い?もし狭いんだったら、空き部屋あるんでルームシェアしてもいいですよ!?」

 そうだ、それがいい!キリーとジェーンだってここよりも狭いのに、二人はルームシェアしてる!私は結構名案だと思ったが、博士は違ったのか、また私の頭を叩いた。

「いてっ」

「お前は一体何を考えているんだ……空き部屋あるからいっか、ってノリでルームシェアなんか出来ないだろうが!」

「ええ?でもそんなノリでジェーディアはルームシェアしてますよ?まあいいですよ、分かりましたよ、じゃあ博士、それはいいからもっと叩いてください!」

「ああ!?気持ち悪いなお前、兎に角、もう合コンはやめろ……これ以上、俺のような犠牲者を増やすな。」

「ああ~待って!」

 ラブ博士は玄関に向かって歩き始めた。待てよ待て待て~!この魔宮に足を踏み入れると言うことはどう言うことなのか、身をもって知らしめなければならないのだ……逃すものか、逃すものか!私はラブ博士の前に立ちはだかって、通せんぼした。博士はジト目で私を見た。

「……お前、何の真似だ。」

「ラブ博士、一緒に朝ごはん食べましょ?今日のメニューはスクランブルエッグたっぷりのバニラビーンズフレンチトースト~目玉焼きを添えて~です。ラブ博士の為なら頑張って作りますから、一緒に食べましょうよ!折角なので!」

 案の定、ラブ博士は私の頭を軽くベシッと叩いてくれた。あまり痛くないので、ちょっと気持ちいい。もうここまできたら、もっと叩かれたい!しかし博士は怒鳴った。

「一緒に食う訳ないだろうが!それに一回の食事で、どれだけ卵を食わせる気だ!せめて目玉焼きを添えるな!俺は一度家に帰ってから研究所に行くから、時間が無いんだ。じゃあな。」

「ああ~ん、待ってあなた~!」

「気持ち悪い声出すな」

「ああ~」

 私のお色気ボイスも虚しく、ラブ博士はリビングの床に落ちている黒いトートバッグを肩に掛けて、廊下を歩いて玄関に向かった。私は彼の後をピッタリと歩いて付いて行った。本当に帰るのかな?ちょっと寂しいよ!

「博士、目玉焼きは添えないから、一緒にご飯食べましょ?研究所までのタクシー代出すから。」

 ラブ博士は玄関で靴を履きながら答えた。

「タクシー代もバカにならないだろうが。俺は帰る。いいか、絶対に追ってくるなよ。」

「追いませんよ、幾ら何でも。」

「……ふん。」

 靴を履いた博士が、立ち上がって振り返った。私と同じぐらいの身長だから、今は段差があって、私の方が背が高くなってる。

「もう少し前に来い。」

「ん?はいはい。」

 私は一歩前に向かった。何かお金でもくれるのかな。そう思っていると、ラブ博士が突然、私の頭を撫でてくれたのだ。そして、少し照れた顔をして、こう言った。

「まあ、またな。」

「……。」

 はあはあははははあはははあハアハアハアハアハアハアハア!!

「それってまた来てくれるってことですか!・それって今度は一緒に朝食取ってくれるってことですか!?じゃあ今夜はまたお泊まりするのは如何ですか!?たこ焼きパーティしましょ!タコ美味しいでしょ!?」

「落ち着け、うるさ……」

「ハアハア!もっと撫でてください!もっと抱いてください!うおおおおおお!レーガン様ぁぁぁぁぁ!」

 ああ、愛しさが止まらないんですもの!勢いよく博士に抱きつこうとしたら逃げられて、素早く玄関を閉められて、勢いよくおでこを玄関の扉にぶつけてしまった。

 ……でも分かった気がする。確かに、私はラブ博士みたいな人がいいかもしれない。そう考えると、キリーも中々やるなと思った。流石人の上に立って来た男……じゃなくて、女だ。適材適所を見極める力があるのだろう。ああ、そうか、私はラブ博士のような人がね……くくっ。

「ふふっヒェヒェヒェ……」

 おっと、幸せの笑いがこぼれてしまった。人は愛情を感じると狂うものだ。ジェーンでさえ、最近は特に狂ってるものね。テントで見た彼がキリーに対してやったウィンクは、頑張ってる感があって中々趣があった。普段あまり笑ったり泣いたりしない人が、いきなり顔半分だけを動かすなんて至難な技に挑戦するから、あんな、変な、痙攣ウィンク……ぷぷっ。

 ああ、さっきから何だろう、この高揚感は。私は寝室に戻って、乱れた布団をかけ直し始めた。するとふわっと、ついさっきまでここに居たラブ博士の香水の匂いがした。無意識に私は動きを止めてしまった。その時に、ラブ博士のことを好きになりかけていることを理解した。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...