LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
209 / 253
誰も止められない愛情狂編

209 腰にかかる細い紐

しおりを挟む
 それからお会計を終えて、寿司屋を出た私は、お手洗いに言っているジェーンを、店の前で待っていた。するとウォッフォンにメールが来ていたので、それを読んだ。

『こんばんわ。私はリンです。デートはどうですか? Rin.L.L』

 何でメールなんだろう、しかも名乗らなくても署名があるのに、忘れてるのかな。ちょっと笑いながら返事をした。

『こんばんは。お寿司は美味しかったよ。それに色々と話せて、楽しかった。今ジェーンはお手洗いに行ってる。それだけ。 K.G.K』

 すぐに返事が来た。

『この後はどこか行くの?おうちデートするなら、ちょっと紹介したいサイトがある。後でURL添付するね! Rin.L.L』

「この後かぁ……。」

 別に何も言われていないので、家に帰るのだろう。帰ってからメールを返せばいいかと思っていると、店の中が何やらワイワイ騒がしくなっている気がした。何だろう、気になってお店の中を見ると、ブースから顔を覗かせているお客さんが、奥の方をじっと見ている。私はレジの店員さんに聞いた。

「どうしたのですか?」

「あ、ああ……実は、お手洗いの方で、トラブルがあったようで、店長が対応中です。あまりに酷いようならLOZの方を呼ばないといけないと思っていましたが、どうやら騒ぎの中にLOZの方がいるようで。」

「え!?ええ!?」

 私は急いで店の奥の方まで走って行った。野次馬で群がっていて、掻き分けるようにして進んでいくと、男性トイレの前で、店長さんと思わしき人が、ワタワタしていた。私は彼を無視して、男性トイレの中に入った。すると大工さんみたいなガタイのいい男が、ジェーンの首根っこを掴んで壁に押し付けていたのだ!

 私は二人の間に割って入るように飛び込んで、その男をジェーンから引き剥がした。男はかなり興奮した様子で、今度は私の両腕を掴んできた。

「何をする姉ちゃん!俺はこの男に話があるんだ!退かねえとぶっ飛ばすぞ!」

「ええい!鎮まれよ!このギルバートに仇なすつもりか!」

 私が思いっきり叫ぶと、男は私の顔と右の義手を見て、私が誰だか分かったようで、「お、おお……。」と、勢いを萎ませた。

 ジェーンの方を見た。ジェーンは傾いた眼鏡のまま、ずれたズボンを手で押さえていた。彼の黒い下着……Tバック?なのか?後ろが見えないからなんとも言えないが、そんな感じの、とても露出の高い下着だった。それが見えていたので、皆の視線から彼のことを隠すように両手を広げて、彼の前に立った。そして、男に聞いた。

「何をした、お前、何をした!?」

「わ、わ、お、俺は、ただ……話がしたかっただけで!」

 すると私の背後にいたジェーンが、言った。

「いきなり私と同じ個室に入って来て、いきなりスラックスを脱がせるのが会話なら、この世界は終わっている筈だ。」

「ええ!?何それ!……おい貴様、正気か!」

「いやいや!」と、男は必死に弁明を開始した。頬は赤く、酒臭かった。「俺はこのお兄ちゃんが、女だと思ったんだ!だってこんなに綺麗なんだから!だ、だから、ここは男のトイレだよって、教えてやろうと思ったんだ!だって男だったら、小便ぐらい、こっちの便器でやるだろう!?なのにこいつはこの個室に入ったから、」

「だから大だったんでしょ!」

「違いますキルディア……兎に角、彼を遠ざけてください。」

 私は頷いて、男を連れ出して、エストリーに連絡した。すぐに駆けつけてくれたのは、たまたま近くを歩いていたゲイルだった。私は今にも泣きそうなジェーンの、ズレっぱなしのズボンを履かせようとした。

「ま、まだ、用を足していないのです。いきなり彼が入って来たから。」

「一緒に入って来たのか。それで何をされたの?」

 ジェーンが私に抱きついた。それで彼のズボンがすとんと落ちてしまった。

「……私は、誰にも、身体を少しだって見せたくない。好きで、この容姿をしている訳ではない。公衆トイレでは絶対に個室を選びます。過去の大学院の時に、同性のクラスメート、それも年上の彼らから、頻繁に色のある目で見られました。合宿など、行ったことはありません。同性なのに、私を裸にするような、いやらしい目つきで見られる、それが怖かった。」

「ああ、ジェーン……」美しいって、いい事ばかりじゃないんだ。美しすぎると、その分、苦労することもあるんだ。私は知らなかった。ジェーンの背中を摩った。「だから、着替えだって、皆と同じ部屋ではしないの?クラースさんが言っていたけど。」

「え、ええ。まあクラースでしたら、彼はケイト狂ですから、安心出来ますが、それでも警戒はします。私は、一人で着替えます。今回は、やはり個室を選びました。そしたらあの男が。私を女性だと思って注意をしたというのは真っ赤な嘘です。彼は言いました。抵抗するな、これからいいことを教えてやると。そして彼は私を壁に押し付けて、局部を私に擦り付けてきました。私は怖くて怯みました。ウォッフォンの緊急信号を出す間もなく、片腕を掴まれました。私のベルトを無理矢理外し、私のスラックスを下ろしたのは、彼です。残った片手で、どうにかドアのロックを外して、勢いをつけて外に出ました。幸い、クラース流の体術があった。腕を回して拘束を逃れ、外に逃げようとしましたが、追いつかれ、捕まりました。抵抗して、揉み合っているところに、別の客が我々を発見して、店長を呼びに行き、そしてあなたが駆けつけてくれた。」

「もっと早く、来ていれば良かった。罪を確定させる為に、今のことは全て、ゲイルに言うけど平気?まあ、皆には内密に、出来るだけするけれど。」

「ええ、お願いします。それと……」ギュッと、彼が力を入れた。「私から目を離さないでください。あなたがいるから、私は外に出られる。あなたが強いから、私はあなたが好きだ。ギルドで見た時に、一目惚れをした。この、守ってほしい、と言う思いが過ぎて、あなた腕を失くしたのは、私のせいですが。」

「違うって!それは仕方なかったの!私の戦いの技術が甘かったからだよ……大丈夫、ジェーン。もう一緒だよ。」

「ずっと一緒ですか?片時も離れない?」

「ずっと一緒だよ。片時も離れない。」

 ジェーンが少し離れた。至近距離で、じっと見つめて来た。

「では、約束のキスをしてください。」

「……まず、ズボンを履いてからね。それから店長さんがこっち見てるから、別の場所でね。と、兎に角、ズボン履いて!」

 トイレの入り口にいる店長さんは、急いで我々から視線を逸らした。その向こうから、ゲイルとさっきの男が言い合っている怒声が聞こえた。私はジェーンに言った。

「ゲイルの方を見てくる。ジェーン、ここは大丈夫だから、個室で用を足していいよ。」

「嫌です。」ジェーンが私の腕を掴んだ。「あなたも個室に来てください。早くしないと、ナディア川の勢いの如く、その……。」

「えっ……!?何で私も一緒に入るのさ!」

「だって、怖い……。」

 あああああ、もう……!もう仕方ない!

 私はジェーンのズボンを持ち上げて一回履かせて、それから一緒に個室に入った。ジェーンの願いで、さっきとは別の個室にした。そして私はドアの方を向いた。

「……見ても構いませんよ?」

「見ませんよ。早くしてください……。」

「急かさないでください……んっ。」

 変な声を出すな。私は雑念を晴らすために、タージュ博士の予算報告書を思い出した。今月のそれは、私への恨みを晴らすかのような、無茶ぶりな報告書だったなぁ。考え事をしていると、流す音が聞こえて、カチャカチャとベルトの音がした。

「終わった?」

「はい、終わりました。ふふ、一緒にトイレしました。」

 何だろう、彼、楽しんでないか?我々は個室を出て、ジェーンが手を洗っている時に、私はトイレから出ると、ゲイル達の姿が無かった。店長に聞くと店の外に出たと言うので、私も外に出ると、ゲイルが男に手錠をかける瞬間だった。

「やめろ!俺はほんっとうに何もしていない!」

「ジェーンの証言では、それは事実ではない。」私は言った。ゲイルが頷いた。「店にも迷惑かけてるし、暫くはエストリーに世話になるかもしれない。」

 ゲイルが言った。

「運の悪い男だ、俺らの軍師さんに手を出して、俺らのボスに見つかるなんて。まあ、俺が連れて行きますよ。後で報告お願いします。それとジェーンさんに、大変でしたね、って。」

「分かった、ありがとうございます。」

 ゲイルは男を連れて行った。二人は怒鳴り合いながら、ポレポレ通りに出て行った。すると店からジェーンが出て来て、私の腕を掴んできた。

「どうして私を店内に置いて行きますか!あの男は?」

「ゲイルが連れて行った。大丈夫だよ。ごめんね、置いて行って。も、もうずっと一緒だよ。ね?」

 私から手を繋いだ。彼は何度も頷いた。よく見ると彼の眼鏡が、指紋なのか、結構曇って汚れていた。私は彼の眼鏡を取って、彼のベストのポケットからハンカチを取って、レンズを拭いてあげた。

「……ハンカチも持っていないのですか?」

「すみませんね、持っていなくて……ほら、綺麗になった。」

 私は眼鏡を彼に掛けさせた。私がやりやすいように、彼が少し身を屈めてくれたのは、彼の優しさだと思った。ハンカチを彼のポケットに返した。

「じゃあ、もう帰ろうか。」

「いえ、これから遊園地に行きます。」

「え?」

 あんなことがあった後だし、もう一九時だし……今から?と、驚いていると、彼が腕を引っ張って歩き始めた。

「ちょ、ちょっと本当に行くの!?」

「ええ。二十一時までやっています。ユークパイナップルランドに行きましょう。」

 まじで?そこは帝都一のテーマパークである。そこに……今から行くのね。まあ、彼が行きたいのならいいか。私は笑いを漏らして、急いでそこに向かっている彼に付いて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...