LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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誰も止められない愛情狂編

211 ゴーストの弱点

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「ああ、じゃあ私もウォッフォンを確認するよ。あそこに座ろうか。」

 私は近くのベンチに座った。すぐにウォッフォンを確認したが、クラースからのメールはまだ届いていなかった。おばか、幾ら何でも遅すぎます!やることを無くした私は、キルディアの方を向いた。するとキルディアは、私に背を向けて、どうやらメールを返している様子だった。

「キルディア、誰ですか?」

「リンだよ……なんか変なこと言ってる。あと適当に、今日の写真送ってる。」

「私の写真ですか?」

「パインちゃんの写真。パインちゃん好きらしいから送ってるよ。二人の写真は送ってない。それは私だけの写真だから。」

 その回答に、私は大変満足した。返事を終えたキルディアが、私に聞いた。

「ジェーンはどこに行きたい?付き合わせてばかりな気がしたから、今度はジェーンの行きたいところに行こう。」

「ふむ、そうですね……でしたら、」お化け屋敷はクライマックスだ。「ゴンドラに乗りましょう。あの湖に浮かぶ、ボートです。ゆっくりとした時間を、あなたと過ごしたい。」

「ああ、いいね。行こう!」

 我々は次に、ボートに乗り、このテーマパークを一周することとなった。大きめなボート、普段は十人ほどで乗るようだが、その時は空いていたので、私とキルディア、それからボート漕ぎの三人だった。

「それでは進みます。」

 オーケストラの音楽が流れている。このテーマパークの音楽を、楽団がアレンジした曲だった。月明かりの湖面を、我々がゆっくりと進んでいる。パークのイルミネーションもあり、時間が止まったような、気持ちになった。

「キルディア、綺麗ですね。」

「うん、そうだね。」

「クラースの船とも、海賊船のボートとも、また違います。」

「うん、今までで一番、綺麗だよ。隣にジェーンが居るからかな。今日がとても楽しかったからかな。でも、大変なこともあったけど。」

「……私はもうあれを気にしていません。おかげで、あなたと一緒にトイレをすることが出来ました。これから何度でも、一緒にトイレに行けます。」

 うっ、と先頭に立ってオールを動かしている男が、笑いを堪えた気がした。まさか私の発言に笑ったのか?それでよく、スタッフが出来るというものだ。

「ジェ、ジェーン……トイレはさあ、もう一人でもいいでしょう?普段は私、男性用トイレに入れないよ。」

「ああ大丈夫です。多目的トイレがあるでしょう?外出時は、まだ恐怖心がこの胸に残っていますから、そちらで共に。」

「分かったよ……出来る限りね。もう。」

 私が手を繋ごうとした時、彼女から繋がれた。不意な出来事に、私の心は一気に熱くなった。小さい手、なのに、彼女は強い。そのギャップも堪らない。もし彼女が今後、衰えたとしても、私はずっとそばにいる。今度は私が守る。戦にだって、勝利する。

「キルディア、絶対に……。」と言ったところで、ネビリスに勝ちましょう、と言えば彼女は騎士のモードに入ると考えた。今は違う。デートをしているのだ。キルディアは私を見つめている。なので、続きの言葉を放った。

「帰ったら、キスします。」

「……。」キルディアは無言で顔を逸らした。そんな反応をしてしまって。ふふ。

 ゴンドラを降りた先は、テーマパークの入り口に近かった。するとアナウンスが流れ、あと五分で閉園するとのことだった。しまった!

「もう出ようか、楽しかったね!」

「行っていないところがあります!ついてきなさい!」

 私はキルディアの手を引いて走った。幸にもそれは、入り口の近くにあった。私はその勢いのまま、そのアトラクション内に入った。キルディアが叫んだ。

「このタイミングでお化け屋敷はまずいよ!」

「いえ、いきます!私が守るのです!」

「馬鹿あああああ!」

 そのお化け屋敷は、廃ホテルがモチーフだった。入り口のスタッフに「急いでください」と、言われたこともあり私は足を早めた。所々に、ゾンビだの、幽霊だの、ロボットによるギミックが存在している。

 ロボットなのに、キルディアは一々驚き、私の腕を抱いた。

「ジェーン、歩くの早いよ。それにあの部屋の前、絶対何かある!私の勘がそう言ってる!さっきから、足音だってするし……ああ、もう早く出たい!」

「でしたら早く歩くべきです。あの部屋の前ですか。どれ、私が行って確かめましょう……」

 私はボロボロドアの前に立った。しかし何も無い。

「ほらキルディア、何もありません。」

「ちょっと離れないでよ!待って、一緒に進もう。守りの陣だ。そうだ、そうそう。」

 そう言って彼女は、私にぴったりとくっついて歩いている。私は彼女の肩に腕を回した。やっと、私が守ることが出来た。そのドアの前を通り過ぎ、あとは階段を降りて行けば、ゴールのはず。

 だが、背後で気配がしたのか、キルディアが振り返った。すると、先程のドアから、髪の長い、白い服の女性が、こちらを覗いていたのだ。更にその女性はドアから出て、ヒタヒタという足音と共に、私達のことを追跡し始めたのだ。機械はいいが、人は良くない。

 私はキルディアを置いて、階段に向かって走った。キルディアが叫びながらついて来た。

「ジェーンンンンン!ふざけるな!待てコラああああ!」

「申し訳ない!人はいけません!あなたの背後に人が居ます!」

「知ってるんじゃああああ!うああああああああ!」

 私は階段を急いで駆け下りた。キルディアも追って来ている。そして階段を降っている時に、女が階段上で笑っている声が聞こえた。それにまた、恐怖心を煽られた私は、転びそうな程に全力疾走し、階段を降りた先にある廊下の壁に、血塗られた矢印があるのを見て、その方向に曲がった。そこには大きな扉があった。

 ドンと、私の背中に何かがぶつかった。私は叫んだ。

「ああああああ!」

「私だ落ち着け!」

 べしんと肩を叩かれた。キルディアだった。すごく睨んでいる。

「……まじでジェーン、置いていくとか、やってくれるよね!」

「私はいつでもやる男です。今夜もやりますよ。」

「なんのこと言ってるのか知らないけど、兎に角、このエリアを抜ければ終わるはずだ。一気に行こう。」

「ええ、そうしましょう。互いのことは考えず、我の命だけを優先していきましょう。」

「うん……。」

 私はドアノブを回転させて、ゆっくりとドアを開けた。真っ暗な部屋で、何も見えない。ウォッフォンの光で照らすが、インジアビスのように、深い闇だった。すると突然、パッと一瞬だけ、蛍光灯がついた。

 その一瞬に、信じられない光景を見た。先程の白い女が多数、壁沿いにびっしりと立っていたのだ。更にパッと光り、白い女はこちらを指さした。

「キルディア、いけない!」

「わ、分かってる!脱出はどこだ!?あそこだ!」

 キルディアが扉を発見して、その方へ走った。だが近づくたびに、パッ、パッ、と光る頻度が増し、白い服の女たちが、私達を追いかけているのが、分かる。

「だ、だめだ!開かないよ、ジェーン!?」

 キルディアがガチャガチャとドアノブを回転させているが、開かない。こんな意地悪をして、いいと思っているのか。私は背後を振り返った。白い服の女が整列をして、こちらを指さしていた。卒倒しそうだった。

「キルディア、その扉が開かないのなら、光の大剣を出すしかありません!」

「だ、だって、壊しちゃうでしょ!」

「でも見てください、背後!」

 キルディアは振り返って絶句して、腰を抜かしたのだった。私は彼女の腕を支えた。

「ご、ごめん、私もう立てない……。」

「EXITと書いてありますし、このドアで間違いないはずです。しかし開きませんね、どうすればいいのか。鍵穴もなければ、原因は何なのでしょうか。」

 その間も電気は、点滅を繰り返し、女たちは私達を指差して止まっている。キルディアがドアに手を突きながら、どうにか立ち上がり、私の胸に飛び込んできた。

「もうダメだ、もう私は死んだ。きっとこの状態、テーマパークも予想してない状態なんだよ。だからね、この出来事は、作り物じゃなくて本物だってこと!だからこの扉が開かないの!ジェーン、あとは家まで送ってくれ。一旦、気絶しますね。」

「いえいえ、待ってくださいキルディア。どうにか……。」

 すると指を指して止まっていた女の中から、一人だけが、我々に向かって歩いて来たのだった。点滅する度に、私の元へと近づいている。キルディアが叫んだ。

「あああ!来てる!そうだ、ジェーン!今思い出したよ、士官学校でカールが言っていたんだ!」

「カールですか?誰です?」

「クラスメートだったカール!今はどこかの師団の槍兵だと思うけど。それで、幽霊はエロが苦手らしいよ!もう私は手段を選ばない!すまない、ジェーン!」

「んぶっ!」

 頭をがっしり掴まれて、キルディアにキスをされた。圧が凄い。唇が、真っ平らになりそうなほどに、強いキスだった。どんな形であれ、嬉しかったので、私はそのまま彼女をドアに押して、さらに激しくキスをした。

 幽霊に見せつけたいのか、彼女も情熱的に応じてくれる。これはいい手段を得た。それに、身体が熱くなるものだった。革靴の中が、熱い。心臓の鼓動が、加速している。できれば、舌を絡ませたい。

「キルディア、すごく、熱い。」

「うん、今だけ、だから。」

 唇と唇が絡み合う音が耳に響く、この横にベッドがあったなら、どれだけ良かったことか。いやしかし、まだクラースからの返事が無いので、詳細が不明だ……クラース、あの機械音痴め!

「あの、すみません。」

「わああああ!」

 私の耳元で、キルディアが叫んだ。私は耳を押さえた。白い女性が、話しかけて来たのだった。

「閉園時間過ぎちゃって、ロックされちゃったみたいです……それで、解除するので、どいてください。」

「あ、ああ、そうでしたか。キルディア、こちらに。」

「……。」

 キルディアは唇を噛んで、悔しそうな顔で私の背後にきた。とうとう、彼女を守ることが出来た。このアトラクション、私はとても満足した。

 施設から出ることの出来た我々は、パークを離れて、路面電車でサンセット通りまで向かい、そこからまっすぐに歩いて、家へ向かった。
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