LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

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命は一つ!想いは無限編

226 仲間という力

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 夜のサンセット通り、道路の上では、クラースさんが腕立てと短距離走を何度も繰り返して、体を鍛えていた。私と姉さんは、その様子を道路脇に立って、見守っていた。潮の香り、明日の夜には決戦が迫る、もうこの香りを味わえないことになったら、ちょっと嫌だな。

 だから、何としてもクラースさんには、キリーと同様にLOZを引っ張ってもらわなきゃ困る。私は明日の朝、いつもクラースさんが飲んでいるココアに、ちょっとした栄養剤を溶かし入れる予定だ。それも私がブレンドした栄養剤。だってさ、彼には、アドレナリン全開で頑張ってもらわないとね。ふっふっふ……。

 あれ?私は気付いた。もしかして、あの人にちょっと影響されてない?あの人……一度研究室を共にしたこともあるし、今だって研究のアドバイスを日々貰ってるから、影響されることは当たり前かもしれないけど……ああ、姉さん。私はちょっと個性的な大人になるかもしれないや。

 その姉さんは、心配した様子で、クラースさんのことを見ている。姉さんが好きなんだから仕方ないけど、週五で泊まりに来るのは、やめてほしい。じゃあクラースさんの家に行けばと言ったら、彼はルームシェアしてるからって。

 一人暮らししたい。ユークでなんて、今は難しいかもだけど、まあ、順調に研究キャリアを積んで、特許かなんかでお金手に入れたら、タージュ博士みたいに、ちょっといい部屋に住もう。それか、お金持ちと結婚する。それがいいかな、やっぱりそれが手っ取り早いかな。

 どんな未来を夢見たって、明日LOZが勝たないと意味が無い。反逆者の肩入れをしたって処刑されちゃあ、私のグレイトフルな将来が水の泡になるんだ。それは避けたい。それを避ける為に、もういいや、私はジェーンになれるなら、なってみせる!そう、私は我が脳内に、ジェーンをいつでも召喚出来るようになっているのだ。

『気の利いた手段など、完全なる目的遂行の為に、選んではいられませんよ。』

 そうだよね、部長。分かってる、私よく分かってるからね。ふっふっふ……!

「もう!」姉さんがクラースさんに向かって叫んだ。「それぐらいにして頂戴!いくら明日が決戦だからって、あなた少し体を動かしすぎているわ!体が疲れて、筋肉痛でも起こして、万全に挑めなくなっては意味が無いじゃ無いの!」

 クラースさんは今度は、戟を取り出して、ブンブンと横に振りながら、汗を撒き散らして答えた。

「いやいや!……ふんっ!……これしきなんの!……晩に戦えるように、体を慣れさせているんだ!……ぐっ!、よし、次だ。」

 クラースさんが戟をしまって、また道路を行ったり来たり、走り始めた。仕方ない、栄養剤のパワーを追加するか、そう考えていると、LOZの訓練場の方から走ってきた、ウェア姿のゲイルとミゲルと合流した。ミゲルがクラースさんに話しかけた。

「おや!こんばんはクラースさん!それにアリスとケイトも!」

 私は二人に手を振った。姉さんも振っていた。クラースさんが立ち止まり、額の汗をTシャツの裾で拭きながら言った。

「ああ!ミゲル達か!何だ、お前らも鍛錬しているのか?」

「そうです!我々は明日、主に輸送車からの射撃ですが、少しでも体を動かして、機敏に動けるように鍛えようと思っていて!」

「そうか!」

 クラースさんが微笑むと、白い歯がチラッと輝いた。ハアハア、と息を荒らげて肩を揺らしているゲイルが、笑顔で言った。

「これでさ、もし我々が勝利したら、またサウザンドリーフに戻ることが出来るかもしれない!そう思うとよ、胸が熱いね!はは!」

 そうに決まってる!やっぱり彼らにも、私にも、サウザンドリーフの村という帰る場所が必要だ!私も笑顔になった。

「絶対に、またあの地に住めるよ!あの地の自然だって、皆のこと待ってる!」

「そうだよな!」ゲイルが私に頷いた。「だから、森が復活したら、またケイトとアリスも、ちょこちょこ遊びに来いよ!よし、やるしか無いね!俺は今から、通りの向こうまで全力で走るぜ!」

 と、ゲイルが急に走り始めると、クラースさんも「俺もだ、待て!」とゲイルを追いかけ始めて、三人で勢いよく去って行ってしまった。

「すごいなぁ……みんな、元気だね。」

 私は三人の背中を見つめながら言った。姉さんが、私の肩を抱いた。

「そうね。それに、皆がいてくれて良かったわ。皆がいなかったら、私たちはどうなっていたか。今頃、もしかしたら、どこかで彷徨っていたかも。皆がそばにいてくれたから、私は頑張れた。」

「特にクラースさんでしょ。」

「……。」

 そこで黙る?そう思って姉さんの横顔を見ると、口を尖らせていた。何だかちょっと恥ずかしくなって、私はため息をついた。

「はあ……もういいよ、別にさ。クラースさんが大事でいいじゃん。もう同じ部屋に住んでいるような感じだし。この間なんか、クラースさんが洗濯した私の靴下を、一個一個丁寧に、ピンチハンガーにつけて、ベランダで干してたんだよ~?この気持ち分かる?それもそうだけど、どうして乾燥機の使い方も知らないの?」

「そ、それはだって、彼はすごく機械音痴なのよ、分かるでしょう?……それに、しょうがないじゃ無いの。遊びに行こうにも、彼の家には二人もルームメイトがいるし、二人とも、ゴリゴリした体型の建設作業員なの。」

「なんか、むさい。」

「一度お邪魔したけれど、とても見られたわ。私がアルビノだったからじゃ無い、絶対に違う目つきでね。」

「うん、じゃあうちの方がいい。うん、そうだね。」

 納得せざるを得なかった。はあ、早く、一人前に貯金したら、どこかで部屋を借りよう。それかキリーに頼んで、実は家の裏にある、ちょっとした空いてる土地、それもキリーのらしいし、そこに小屋を建てて、それを魔改造して、そこに住もう。それがいいかも。そしたら念願の戸建て家主だ!三畳ぐらいのリビングになりそうだけど。

「まあいいけどね。」私は言った。「クラースさんは優しいし、姉さんが幸せならそれでいいよ。」

「あら、ありがとう。私の妹もなんて優しいのかしら。」

 褒められて悪い気はしない、なんてね。ふと気になって、振り返って一階の部屋の窓を見た。カーテンは閉じているけど、部屋の光が隙間から漏れている。

「今頃、キリー達は何をしているのだろう。ジェーンは、平気なのかな?」

 私が姉さんに聞くと、姉さんは海を眺めたまま答えた。

「きっと、たくさん話すことがあるのよ。特にキリーは、明日、ネビリスと直接対決する可能性が極めて高いわ。ジェーンだって、気が気では無い筈よ。私だって……彼のことが、とても心配だわ。絶対に失いたく無いって、とても怖い感情なの。」

 私は姉さんの手を取った。ひんやりしていて、しなやかで。でもこの手を握ると、いつも安心する。大丈夫だよ、と力を込めた。

「ねえねえ、クラースさんも、キリーも、私はあの二人が世界で最強だと思える。とっても強いから絶対に大丈夫だよ!それにみんなだって一緒なんだもん。絶対に、いけるって!」

「そうね、ふふ。」姉さんが私に微笑んだ。「ありがとう、アリス。」
 その後も私達は、真っ直ぐに続くサンセット通りの向こうに溶け込んでいく、三人の背中を眺めていた。
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